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業務提携交渉を開始したトヨタ自動車・豊田章男社長(左)とスズキ・鈴木修会長(右)
トヨタ、揺らぐ業界盟主の座…技術競争で「ズレ」鮮明、強烈な危機感で歴史的転換
http://biz-journal.jp/2016/10/post_16946.html
2016.10.20 文=河村靖史/ジャーナリスト Business Journal
「コネクテッドカー(インターネットに常時接続する自動車)や情報技術を中心に、技術開発競争はこれまでにないスピードで変化しており、自動運転などの先進的な将来技術を1社が個別で開発するには限界がある」(豊田章夫・トヨタ自動車社長)
トヨタ自動車とスズキは10月12日、業務提携に向けて検討を開始すると発表した。独フォルクスワーゲン(VW)との泥沼の提携解消を経て、次の後ろ盾を模索していたスズキと、「仲間づくり」によって自動車業界の先導役を担いたいトヨタとの利害が一致した。両社が提携に踏み切る背景にあるのは、自動運転車など急速な技術進展による業界を取り巻く環境変化だ。
「良品廉価な車づくりでは、いずれ行き詰まるとの危機感を持っていた。その分野で協力してもらうことが大事だと思っている」(鈴木修・スズキ会長)
スズキは長年、米ゼネラルモーターズ(GM)と提携してきたが、2008年に業績不振に陥ったGMがスズキの株式を売却して提携を解消した。その後、スズキは09年12月にVWと資本・業務提携を結んだ。
販売しているモデルの大部分が小型車で、新興市場であるインドに強いという特長を持つスズキは、業界では中規模ながら、自動車メーカーの生き残りの鍵を握る電気自動車やハイブリッド車などの環境技術、自動運転に代表される先進運転支援システム技術は出遅れている。これら多額の投資がかさむ技術について、同社を活用する考えだったスズキは、GMとの提携解消によって次の相手としてVWを選択した。しかし、これが失敗する。
VWはスズキが求める技術情報を提供しない上に、提携締結当初は「イコールパートナー」としていたスズキを子会社扱いした。これに激怒したスズキは、VWに提携解消を申し入れしたが応じられず、スズキは11年に国際仲裁裁判所に提携解消を求めて提訴した。
結局、同裁判所はスズキの主張を認め、提携解消を命じたものの、裁定まで4年の年月を要した。VWとの提携解消決定を正式発表した記者会見で、今後のアライアンスについて聞かれた鈴木会長は「自立して生きていくことを前提に考えたい」と述べていた。
しかし、自身が高齢でもあり、影響力のあるうちにスズキの将来に道筋をつけておきたかった鈴木会長は「自動車を取り巻く環境変化がめまぐるしく、技術を共有しないと生き残ることができない」と、次の提携先を頭に描いていた。
そしてGMやVWと提携していたことからもわかるように、スズキが想定する提携先は世界トップクラスであり、その意味でも次の相手はトヨタしかいない。ただ、トヨタと提携する上で最大のネックとなるのが、トヨタの子会社で、スズキのライバルであるダイハツ工業の存在だった。
■トヨタとスズキの親密な関係
これを敏感に嗅ぎ取ったのがトヨタだ。もともとトヨタの豊田章一郎名誉会長、章男社長親子と鈴木修会長は、豊田家、鈴木家がともに静岡県・遠州地方を発祥の地とするという共通点もあって親しい。業界団体である日本自動車工業会の会合終わりに、鈴木会長が豊田章男社長の肩を叩きながら「あんまり中小企業をイジメないでくださいよ」と話しかけ、同社長が笑顔で応じる間柄だ。
ダイハツとスズキの国内軽自動車シェア争いが激化した際、「スズキ叩き」を徹底して進めたトヨタ出身のダイハツの販売担当役員が社長に昇格するという話を聞きつけた鈴木会長が、豊田章一郎名誉会長に進言して阻止したとの噂もあるほどだ。
スズキが次の提携先を模索すると見たトヨタは、提携に向けた障害を取り除く動きに出る。それがダイハツの完全子会社化だ。トヨタの100%出資子会社化することによってダイハツを完全にコントロールし、提携してもトヨタグループとしてスズキに迷惑をかけないという姿勢を示した。
今年8月にトヨタが計画通りダイハツを完全子会社化したことを確認した鈴木会長は、翌月の初頭、豊田章一郎名誉会長を訪問し、「トヨタと協力することはできませんか」と相談。同名誉会長は「両社が協力できないか協議だけでもしたほうがいい」と応じた。そして10月上旬、豊田章男社長は鈴木会長に「トヨタとスズキでいかなることができるか協議しませんか」と提携に前向きな発言を示し、具体的な提携協議に入ることで合意した。
■日本車のガラパゴス化
将来の環境技術や先進運転支援システム技術に危機感を持つスズキが、「あらゆる分野で研究開発をしている」(鈴木会長)トヨタという後ろ盾を求める理由は明確だが、トヨタがスズキと提携するメリットは何か。大きな理由が、「同じ志をもった仲間づくり」だ。
自動車業界は自動運転技術や環境技術が急速に進化している。自動車が常時インターネットに接続するコネクテッドカーが当たり前の時代の到来は、すぐそこに迫っている。最新情報を車内で取得したり、車車間通信・路車間通信によって交通事故を防いだり、渋滞を減らすことが可能となるコネクテッドカーは、自動車メーカーを問わず通信できなければ意味がない。このため、通信の規格などを共通化することが重要となる。
こうした規格づくりでは、欧米各社が先行する。欧米では自動車メーカーやサプライヤーが連携して共通の規格を策定、これらがグローバルでのデファクトスタンダード(事実上の標準化)となる。
トヨタが恐れるのは「日本車のガラパゴス化」で、すでに現実の問題になっている。代表的な例が、車車間・路車間通信システムでの周波数帯だ。トヨタは昨年10月、他社に先駆けて700メガヘルツ帯の車車間通信・路車間通信を実用化したが、欧米市場では5.9ギガヘルツ帯がスタンダード。このため、国内にインフラはあってもトヨタ以外で700メガヘルツ帯の車車間通信・路車間通信システムの実用化に追随した自動車メーカーは皆無だ。
環境技術でも同様だ。トヨタはハイブリッド車に注力しており、将来技術として燃料電池車を見据えるが、欧米自動車メーカーは電気自動車を将来の環境技術として有望視している。現状、燃料電池車に力を入れているのはトヨタとホンダぐらいだ。
開発が急速に進むコネクテッドカーや自動運転車では、規格の共通化が重視される。しかも、自動運転技術をめぐっては、グーグルやアップル、アマゾン、カーシェアリングサービスのウーバーなど、IT企業を中心とした異業種の参入が見込まれている。ITの世界では「勝者総取り」となるケースが多く、トヨタはデファクトスタンダードが得意なIT企業に自動車業界の主導権を奪われるのではないかとの危機感を持つ。
■提携交渉は難航する可能性も
自前主義に強いこだわりを持っていたことから、「アライアンスが苦手」(豊田章男社長)と自負するトヨタだが、IT企業の進出、コネクテッドカーや先進運転支援システム技術の急速な進化など、業界を取り巻く環境の変化に危機感を抱き、経営方針を転換せざるを得なくなっている。BMWとの燃料電池車開発での提携、マツダとの包括提携、そして今回のスズキとの業務提携の検討と、矢継ぎ早にアライアンスを拡大している。さらに「提携はオープンなスタンス」として今後もアライアンスを拡大する姿勢を示す。
ただ、「トヨタはアライアンスが苦手」(同)というだけあって、資本提携しているいすず自動車【編注:「 ず」の正式表記は踊り字】との提携事業は皆無だ。昨年包括提携で合意したマツダとも提携の目に見える効果は表れていない。今回のスズキとの提携についても記者会見で両社トップは「協議はこれから。何も決まっていない」と繰り返すばかり。具体的な協議に入るとグループで新興市場と小型車開発の根幹を担うことになるダイハツと、スズキとの役割分担の問題が浮上して交渉は難航する可能性も否定できない。
従来の規模を追求する提携から、環境技術や先進運転支援システム技術などの緩いかたちでの提携を広げることで、激変する自動車業界をどう主導していくのか。トヨタグループはこれまで以上に難しい舵取りを迫られている。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)
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