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リターン獲得よりリスクを減らす視点が重要に
御立尚資の帰ってきた「経営レンズ箱」
リスク・アドバンテージ再考(前編)
2016年10月17日(月)
御立 尚資
(写真:beeboys - Fotolia)
硬い話になってしまうが、コンペティティブ・アドバンテージ(競争優位性)という言葉がある。経営戦略論の世界で、競争相手に比べて、より良いポジションにあることを言う。たとえば同じものを作るのにコストが低い、とか、強いブランドがあって、より高い値段で売れる、とかいった状態だ。
1980年代前半にマイケル・ポーターというハーバードの教授が理論的な枠組みを構築してから、経営戦略の基本コンセプトとして活用され続けている言葉であり、考え方である。
その後、こういった有利なポジションを作れる能力・資源に着目した学派が現れ、「ポジショニング派」に対して、「リソース派」ないし「ケイパビリティ派」と呼ばれるようになった。両者間の論争はいまでも存在しているが、実務の立場から言えば、ポジショニングとリソースはコインの裏表で、本質的には同じようなことを説いていて、両方とも「優位性」重視の学問的潮流だと思える。
「リスク中心」の新しい優位性の視点
さて、これまでのコンペティティブ・アドバンテージについての議論は、主として、より多くのキャッシュを得ることに焦点を当てていた。競争相手より低いコストで製品・サービスを提供し、同程度の値段で売ることができれば、利益、すなわち手元に残るキャッシュフローは大きくなる。ブランド力で高い値段で売ることができるのも、同様だ。
この伝統的なコンペティティブ・アドバンテージの「キャッシュフロー中心」の視点に加えて、リスクの取り方・マネージの仕方に焦点を当て、「リスク中心」の新しい優位性の視点を持とう、というのがリスク・アドバンテージという考え方だ。
ここのところ、将来の不透明さが高まり、ビジネスを取り巻くリスクは体感的に増大しつつある。イスラム国の台頭に代表される非国家組織の脅威。領土という物理的空間(たとえば、南シナ海)とネット上のサイバー空間(たとえば、ロシア発とされるサーバー攻撃による米国大統領選への介入)の両方で高まっている地政学リスク。あるいは、デジタル革命の進展によるまったく違ったルールでの競争。
こういったビジネスを取り巻く環境に鑑みて、リスク・アドバンテージというコンセプトに沿って、競争戦略を見直してみよう。こう考え、BCGのフェローとして、ここ3年、悪戦苦闘しながら、リスク関連のコンテンツを考え、構築してきた。以前にも、簡単に紹介したことがあるが、一応の集大成として、もう少し詳しく、お伝えしてみたい。
不透明な時代こそリスク・アドバンテージ
まずは、図1を見ていただきたい。横軸が、企業が取るリスクの総量。縦軸が、その結果として得られるリターンだ。企業は、研究開発、設備投資、あるいはM&Aなど、さまざまなリスクを何度も取る。このグラフは、この何度ものリスクテイクを総合してのリスク・リターンのイメージ図だ。
図1 リスク・アドバンテージのイメージ図1
当然ながら、より多くのリスクテイクをすればするほど、期待される平均リターンは高くなる。ただし、ハイリスクな投資は大きな損失につながることもある。会社の備え、すなわちバランスシートが健全で十分な余裕をもっているならば、ハイリスク・ハイリターンの投資が失敗しても耐えられるが、さもなくば、最悪の場合、倒産してしまう。このため、実際に企業活動ではいくらリターンが高いと想定されても、一定量以上のリスクを取るわけにはいかない。
図2は、伝統的なコンペティティブ・アドバンテージと、典型的なリスク・アドバンテージのあり方を示している。
図2 リスクアドバンテージのイメージ図2
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/213747/101200033/p002.jpg
伝統的なコンペティティブ・アドバンテージの視点では、同じリスク量で、競争相手を含む業界平均より大きなキャッシュフロー(=リターン)を得ることを目指す。一方、リスク・アドバンテージの視点では、同じリターンを得るのに、競争相手より少ないリスク量で済むことを目指す。したがって、グラフの上方に移動することを狙うのが、通常のコンペティティブ・アドバンテージ、左の方向に移動することを狙うのが、リスク・アドバンテージということになる。
前述したように、世の中全体が不透明・不安定な時代、すなわちリスクが高まる時代には、過去の実績をベースにした平均リスク・リターンの予想よりも、(気がつかないうちに)大きなリスクを取ることになったり、想定外の事態が発生して期待されるリターンが大きく下がったりする。たとえば、航空会社の場合なら、突然の地域紛争やエボラなどの感染症発生で、収入が激減してしまう、といった状況である。
こういう世の中の状況下では、実はリスク量をうまく減らすリスク・アドバンテージという視点が重要になってくるわけだ。
今回は、リスク・アドバンテージというコンセプトの概要とそれが重要となる背景について、書かせていただいた。次回は、その実例と構築方法について、触れてみたい。
このコラムについて
御立尚資の帰ってきた「経営レンズ箱」
コンサルタントは様々な「レンズ」を通して経営を見つめています。レンズは使い方次第で、経営の現状や課題を思いもよらない姿で浮かび上がらせてくれます。いつもは仕事の中で、レンズを覗きながら、ぶつぶつとつぶやいているだけですが、ひょっとしたら、こうしたレンズを面白がってくれる人がいるかもしれません。
【「経営レンズ箱」】2006年6月29日〜2009年7月31日まで連載
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/213747/101200033/
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