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シエナのカンポ広場(iStock)
「ドイツ銀行ショック」で考える銀行の生態
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7945
2016年10月14日 WEDGE Infinity
その昔、東京株式市場が魅力的だったころ、世界の銀行がこぞって東京で証券業をはじめようとした。欧州大陸では銀行は証券業もやれる。世界一堅固なドイツ銀行(ドイチェバンク)も、我先にと免許を求めた。名の通ったドイツ銀行に証券をつけてそれを狙ったが、銀行と社名に入った証券会社など許されないというのが御当局の判断だった。
敵も然る者で当時、伊藤銀証券という中堅の会社があったのをめざとく見つけ、今度はドイツ銀証券で申請してきたそうだ。断り切れず念願叶って、しばらくはドイツ銀証券でやっていたと記憶する。1980年代の話だ。
このドイツ銀行は、明治5年(1872年)に既に横浜に拠点をつくっていたそうで、大波小波を乗り越えて、いまだに存命であるが今回は命運尽きる可能性がある。89年には頭取が暗殺で爆死しているが、その頃から、何かを感じさせていた。
■1.4兆円の和解金
そもそも、フランス銀行とかイタリア銀行といえば、中央銀行だ。一介の市中銀行が、ドイツ銀行と名乗ること自体不思議だ。一時は、中央銀行と同程度の強靱さがあったのも事実だが。この銀行は、現在米国での住宅ローン担保ビジネスでの不正から1.4兆円もの和解金を要求されている。既に株価は年初から5割以上下落して銀行解散価値である一株あたりの帳簿上の純資産の3割となれば退場と同意語であろう。本件は経済紙や外国の新聞では旧聞だが、やっと日本でも町の話題になってきた。
銀行業はイタリアで始まった。銀行とはカウンターすなわち、バンコの上で金や書類をやりとりした。日本語のベンチは形状からして語源も一緒だろう。そんなバンコで現存する最古の銀行はモンテ・デイ・パスキ・シエナだそうだ。フィレンツェと争ったシエナも魅力的な町だ。平らではない、すり鉢状の大きな広場は一度みたら忘れられない。その町の銀行がモンテ・デイ・パスキ・シエナだ。こちらも純資産もへったくれもなく株価は年初から85%も下落している。純資産がある程度ないと銀行業が出来ない。赤字が続き、増資も出来なければ退場だ。一般企業なら、退場でも良いが、銀行だと預金者が困ってしまう。
したがって、我先に金を引き出す取り付け騒ぎが起きる。そんな場合、高金利で金を集めるか、増資をするか、または安心できる他の銀行と合併するしか方法がない。最古の記念物として国家が剥製にして保存するのか、興味は尽きない。シエナにも行きたいし、刻んだトマトをのせたステーキを食べたいが、預金があれば一応下ろしておきたいと思うのが人情だろう。
■アメリカのウエルス・ファーゴも
こんな騒ぎは、欧州だけだと思った矢先に、奇妙奇天烈な事件が米国から報道された。西部劇には駅馬車がつきものだ。中でも強盗が狙う現金輸送馬車が時々出てくる。この金融為替馬車屋が現存する。米国西海岸で堅実なビジネスをしていているウエルス・ファーゴがそれだ。盗賊団や何度もおそった金融危機にも打ち勝ち、最もしたたかな銀行という認識がされた矢先にこの騒動が起きた。
ウエルス・ファーゴは、米国の銀行株の中でも時価総額が最も大きく、堅実さで有名な投資家ウーレン・バフェットが、大量保有している銘柄でもある。そんな優等生銀行で、スタッフ5000人が一度に首になったというニュースで驚いた。理由を聞くと客に黙って口座やクレジットカードを開いたからだそうだ。CEOは、報酬の大半を返上するとしている。
世界中の金融機関でいろいろなことが起きている。その昔、80年代、若きCEOジョン・リードは、瀕死のシティー・バンクを危機から救った。しかし、その後退任の手当は300万ドルであったと記憶している。銀行業はユーティリティー(公益)だとすればそんなものであろう。
いつの間にかストックオプションが出回り、トップたちは手っ取り早く株価を上げて、キャッシュを手にすることだけに奔走するようになってしまった。商業銀行では間尺に合わず、切った張ったの投資銀行ビジネスにのめり込み、数十億円相当の年収を得ることが普通となってきた頃に金融危機が起こり、いまだに尾を引きずっている。
たとえば、50億円の年収を現金でもらえば0.5トンとなる。持って帰ってくれといわれても重すぎてタクシーにも乗らない札束で使うに使えない。米国では100年近く前に同様の経験をしているので、銀行証券分離をしていたが、いつのまにか骨抜きになったのは日本と同じだ。ウエルス・ファーゴはむしろ例外で、口座やカードを作らないと不良社員として首になるのでやむにやまれず不正に手を染めたようだ。ほかのケースは早く億万長者になるために使ったあの手この手がほころびただけだ。
日本の大手金融機関のトップは50年前、新入社員の年収の20倍程度であったようだ。現在は200倍見当と推定される。そんな金に値する重要な経営判断はしていないし、出来ないと思うが弾みがついてしまった。
株主の金で、一番リスクが高くて早く儲かることに軸足を移し、成功すれば自分のもの、失敗したら君のせいだが、最悪はタックス・ペーヤー(政府)が払ってくれる。さすがにプロで素晴らしいポジションをつくっていることになる。経営上の不正がなければしょっぴかれることもない。メルケル政府は払わないといっているが。
人類に役立つ新薬や発明品を作ったのでもなく、人々を分け隔てなく感動させたのでもないのに、なぜ何億円とか何十億円とかの年収があるのか、人類史上の短期的珍事だと願いたい。だから急いでつかみ取りしているのだろう。
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