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米国経済にピークアウトの兆候!年内の「利上げ」は本当にあるのか そのタイミングの読み方を考えよう
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49939
2016.10.13 安達 誠司 現代ビジネス
■FRBの心中を読み解く
9月のFOMCでは利上げは見送られた。だが、FRBは現時点で、少なくとも年内に1回は利上げしたいという意向を持ち続けているようだ。
9月FOMC終了後に発表されたFRBのボードメンバー、及び地区連銀総裁による経済予測の分布表(構成メンバー個々人の見通しの集計値、及びその分布が掲載されている)をみると、2016年末のFFレートの見通しの中心値は0.6%で、全17名中10名が年内に1回の利上げが実現する見通しだと予想していることになる。
また、3名が年末のFFレートの見通しを0.875%、1名が1.125%と回答した。この4名は、年内2回の利上げ、もしくは1回の利上げ幅を0.5%以上と予想していることになる。一方、利上げの必要がないと回答したのは3名に過ぎなかった。
今年のFOMCは残すところ、11月1-2日と12月13-14日の2回なので、FRBは、どちらか1回、もしくは2回の利上げの余地を残しているといえる。
次のFOMCまでの2週間強、市場参加者は、利上げを巡って経済指標の発表や7-9月期の企業の決算発表の結果に右往左往すると思われる。なお、大統領選のタイミングとの兼ね合いは諸説あるが、筆者にはわからない。
■利上げの意志を測る指標
もちろん、経済指標の状況をみるのは重要だが、筆者は、FRBが、ある程度、その供給量をコントロールしている「マネタリーベース」の動向に注目している。
FRBはマネタリーベースを2週間に1回の割合で発表している。直近のデータは2016年9月28日時点のものだが、その残高は3.68兆ドルと、9月14日時点の3.90兆ドルから2週間のインターバルにしては大きく減少した。2014年以降の残高では、利上げが実施された後の2016年1月6日の3.65兆ドルに次ぐ低さとなった。
振り返ってみると、FRBは2014年3月以降、マネタリーベース残高を平均的には約4兆ドル近傍で推移させてきたが、利上げ直前の2015年12月初めに、マネタリーベース残高を減少させた。そして、2015年12月15-16日のFOMCで利上げを決定した後も、マネタリーベース残高の減少をさらに加速させた。
マネタリーベース残高にそれほどの情報的な価値を見出さない市場関係者やエコノミストがほとんどであるが、筆者は、マネタリーベース残高の動きは、FRBの利上げの意志をある程度は反映している可能性が高いと考える。
スムーズに利上げを進めるためには、過去の量的緩和政策で累増したマネタリーベース残高を縮小させる必要がある。そのため、マネタリーベースの動きは、今後の利上げに対するFRBのスタンスを示す可能性が高い。
その点を考慮すると、2016年1月のマネタリーベースの減少は、2回目の利上げに向けた「地ならし」的な意味合いがあったと推測される。
だが、1月末から2月にかけて、世界的に株式市場や外為市場が混乱し、株価や為替レートのボラティリティが高まったことから1月、及び3月の利上げは見送られたと考えられる。そして、大きく減少したマネタリーベース残高も再び拡大した。
同様の状況は、6月末から7月初めにかけてもみられた。2016年6月8日時点では、3.9兆ドルの残高があったマネタリーベースが、7月6日には3.74兆ドルに減少した。このときにも、その直後に株価がやや調整色を強め、CBOEのVIX指数が上昇し、市場が不安定化したため、その後開催された7月26-27日のFOMCでの利上げは見送られた。
以上より、マネタリーベース残高の動きをみることによって、FBRが次回のFOMCにおいて利上げを検討する意志があるか否かが、ある程度は推測可能ではないかと考える。
その意味では、9月のFOMC終了後の9月28日時点でマネタリーベース残高が大きく減少したということは、少なくとも現時点では、次回(11月1-2日)のFOMCでは利上げの是非が検討される可能性が高いのではないか。
そして、次回のFOMCまでの期間で、株式市場があまり大きな混乱をみせず、VIX指数などのボラティリティ指数も低水準で安定的に推移すれば、利上げが実現する可能性が十分にあると考えたほうがよいだろう。
■マクロ経済の現状は「微妙」
ただし、次回のFOMCまでの1ヵ月弱で株式市場が大きな調整局面を迎えた場合には、FRBは再び、マネタリーベースの供給量を増やし、利上げを見送ることが想定される。
もちろん、FRBは株価をみて金融政策を決めている訳ではない。特に、金融危機対応という「非常事態」からの「出口政策」は慎重に行う必要があり、拙速な利上げはいま一つ成長率が高まらない現在の米国経済にとって致命傷となりかねない。
そうした認識はFOMCメンバー間に共有されていると思われるので、現局面での利上げ実施の是非は、米国のマクロ経済動向を精緻に観察して慎重に判断していくのは当然である。
だが、最近の米国株式市場の状況を見る限り、株価の調整は、米国の経済指標の悪化によってもたらされるケースが多いため、株価の調整は、そのまま米国経済減速のシグナルという解釈になるだろう。
その米国のマクロ経済の現況だが、「微妙」なところに位置していると思われる。
9月のISM製造業景況観指数が改善した点はポジティブサプライズであったが、9月の新車販売台数は前年比-0.5%で、8月の同-4.1%に続き、2ヵ月連続の前年割れとなった。また、8月時点の住宅関連指標は、先行指標である着工許可件数が2ヵ月連続の減少だったほか、これまで堅調であった中古住宅販売件数も2ヵ月連続で減少するなど、徐々にピークアウトの兆候が出始めている。
現在、米国経済を牽引しているのは、自動車販売を中心とする消費と住宅投資であるが、その両者は、ローンを利用することが多く、金利に敏感な側面がある。インフレ率が安定的に推移する中での利上げは、ローン金利の引き上げに波及する可能性があり、利上げが実施されれば、消費と住宅投資の減速を加速させる可能性がある。
さらにいえば、米国の利上げはドル高を誘発しかねない。ドル高の加速は米国の製造業の業況を悪化させるリスクもある。
ちなみに、10月7日に発表された9月雇用統計の結果は8月に続き、「微妙」な結果となった。非農業部門の雇用者数の増加は、雇用環境の判断基準である20万人増を下回ったが、雇用環境の悪化を示唆するような結果ではなかった。そのため、次回FOMCで利上げ判断を決定づける経済指標にはならなかったと思われる。
以上より、今後、利上げに向けて、米国市場は右往左往することが想定されるが、次の利上げによって、米国景気が減速するリスクにも注意する必要があるのではなかろうか。
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