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金融庁ダメ出し商品「外貨建て保険」の営業撃退トークを考える
http://diamond.jp/articles/-/103680
2016年10月5日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] ダイヤモンド・オンライン
■金融庁が問題視する
外貨建て保険はどこがダメか
外貨建ての保険は、目下、銀行などの金融機関が販売に力を入れている商品だ。一方、前々回の本連載「金融庁がダメ出しする運用商品ワースト3」(http://diamond.jp/articles/-/1022342016年9月21日掲載)でも取り上げた通り、顧客の側にとって問題の多い商品だ。
金融庁が9月に公表した「金融レポート」(平成27事務年度)では、貯蓄性保険商品について、商品特性を分析して、「比較的単純な商品を個々に提供することで、より低コストで同じ経済効果を得られる選択肢があるにもかかわらず、顧客に対し、そうした情報提供を行わないまま、商品構成が複雑な商品を提供し、高い手数料を徴収するといった行為は、顧客のニーズよりも、販売・製造者側の論理で金融サービスを提供しているのではないかとの見方が出来る。」(p67)と述べている。
この分析の意味を分かりやすく言い換えると、ポイントは2点だ。
まず、より安い手数料コストで同じ効果の商品が提供できるのだから、「外貨建て保険は、明らかに損な商品だ」というのが第1点目のポイントであり、そうであるにもかかわらず、明らかにより良い選択肢を隠して高い手数料の「外貨建て保険を売る金融機関は悪い」(「顧客のニーズよりも、販売・製造者側の論理で金融サービスを提供」するとは「悪い商売をする」の言い換えだと読んで差し支えなかろう)。
結論としては、外貨建て保険を契約しないでください、ということなのだが、多くの人にとって、その意思決定が不可能だからこそ、外貨建て保険はよく売れている。それでは、なぜそれが不可能なのかというと、金融機関のセールス担当者が繰り出す「ご提案」や「ご説明」を素人が批判し却下することが難しいからだ。
一方金融機関側では、今後、手数料開示の強化などが見込まれて売りにくくなりそうでもあり、「外貨建て保険を、今のうちにたくさん売っておきたい」と思う理由がある。
では、典型的には、外貨建て保険は、どのように売られるのだろうか。筆者の手元に、銀行の支店などでよく読まれている『近代セールス』(近代セールス社)という雑誌の10月15日号があり、たまたま「いま実践したい外貨建て保険の提案ノウハウ」という特集を組んでいる。
以下、この特集を参考に、金融庁認定済みのダメ商品がどのような着眼点で売られているのかを見てみよう。
■「近代セールス」誌特集にみる
顧客パターン別のセールストーク
はじめに断っておくが、『近代セールス』誌は、本特集で顧客を騙せとは言っていない。「『顧客本位』のビジネスモデルが求められる中」、「手数料ありきの自行庫本位の提案はNG」であると、特集の冒頭ではっきり述べている。また、特集の末尾の記事にも、「ちなみに、通貨分散が最大のニーズである場合は、欧米諸国の国債を直接買う方法や投資信託、ETFなどを買う方法など、お客様のコスト負担を大きく減らす方法があることも知っておくべきである」という文章がある。特集の内容には、最小限の倫理的ヘッジが掛かっている。
もっとも、「金融レポート」を読み、個々の商品の内容を考えると、外貨建て保険の販売は顧客の利益になる商品提供ではあり得ない。従って、「顧客本位」と「外貨建て保険販売」の矛盾を、どう理解して良心(もしあれば)の中で消化するかは、個々の銀行員に委ねられている。
さて、特集では、顧客のタイプ別に、どのように外貨建て保険を提案したらいいかを具体的な「トーク」の想定と共に取り上げている(『近代セールス』は大変親切な雑誌だ)。6つのパターンを見てみよう。見出しは、特集の記載に準じる。
(1) 加入できる保険が減ったことに不満を持つお客様
→外貨建ての魅力を伝えお客様の不満を和らげる
金利低下の影響で、円建ての年金保険や終身保険が販売停止になるなど、保険ビジネスには大きな影響が出ている。長期的には、金融機関と保険会社双方(特に後者)の経営に影響が出る可能性も小さくない。
想定トークにあるように、「マイナス金利の影響で、生命保険の販売が停止になるなんて思ってもみなかったわ」と言うお客様はいてもおかしくない。
こうした顧客には、外貨建て保険が「利率が高いこと」と、死亡保障などの保険の効用に加えて、税制面の魅力を合わせて訴えるといいと特集は述べている。
仮に将来円安になるなどで外貨建て一時払い保険を中途解約して解約返戻金が払込保険料を上回っても、その差額は一時所得扱いとなるので、50万円以内であれば課税されないことなども説明しようとある。
上記のほかにも、保険料控除や、相続の際の税控除など、保険には税制上のメリットがあることは事実だ。また、確かに、保険である以上、死亡保障などの保険契約が有効な場合もあるだろう。
しかし、外貨建ての利率をそのまま「期待利回りが高い」と誤解してはいけない。外国為替市場においては為替レートと金利はセットで取引されるのであり、どの通貨と金利の組み合わせが有利なのかは、結果を見るまで誰にも分からないが、基本的には日本円も含めていずれの通貨と金利のどれが有利かは五分と五分だ。
顧客の側では、「利率が高いといっても、それは、米ドルや豪ドルなど、たっぷり為替リスクのある外貨での利率だから円の利回りとは違います。それに外貨の利率を求めるなら、もっといい商品があるのではないですか?」とでも、言ってみよう。
(2) 将来の相続に備えて資産を増やして残したいお客様
→高い利率と為替差益によって運用効果が期待できる点を説明
確かに、保険は相続対策として有効な場合がある。「法定相続人の数×500万円」の相続税非課税枠があるし、保険金の場合は、遺産分割協議を経る必要がないため、亡くなってから1週間程度で保険金を受け取ることができ、遺族の生活保障に便利な面もある。
とはいえ、通常のお客様の場合、既に何らかの死亡保障のある生命保険に入っていることが多いだろう。
特集では、次のような「トーク」が想定されている。
お客様「できれば資産を増やしたうえで残せないかと思って」
担当者「それであれば、外貨建て一時払い終身保険のご利用はいかがでしょうか」
お客様「なぜその商品がいいのかな?」
担当者「外貨のほうが利率が高いため、資産を増やすことが期待できるうえ、相続対策にも活用できるからです」
お客様の立場でなら、「もう保険は入っているから相続対策に使える分は使ってしまっているし、外貨の利率を円での利率と混同させるようなセールスは感心しないね。円安になれば儲かるかもしれないけど、その場合、他の商品の方がもっと儲かるでしょう」とでも言って、担当者を追い返すのがいいだろう。
(3) 退職金定期預金が満期を迎えたお客様
→国債など安全性の高い商品を組み合わせた運用を提案
特集を読んでいて、一番はらはらしたのは、この項目だった。
退職金専用の定期預金は、利率が少々有利なので、退職金を短期間ここに置く顧客は少なくないはずだ。その定期預金が満期になる時が「危ない時」だが、銀行はそれがいつで、金額が幾らなのかを含めて、正確に知っている手強い相手だ。
退職金を運用したい顧客が、あまりリスクを取りたがらない顧客であることは、『近代セールス』も認識しているようだ。安全性の高い商品と外貨建て保険を組み合わせることを提案している。
トークの想定は以下のような感じだ。まず定期預金の満期後に担当者が問う。
担当者「満期後の使い道など、予定はございますでしょうか」
お客様「いまのところ使い道は特にないよ。当分の生活費は確保してあるからね」
担当者「それでしたら、外貨建て保険の活用をご検討になりませんか。時間を味方につけて資産を増やす戦略を取られてみてはいかがでしょう」
「時間を味方に」などというのは、セールスの役に立つ調子のいい台詞だ。しかし、同じだけ時間を掛けるなら、別の商品の方が「明らかにまし」であることは、「金融レポート」にある通りなのだが、耳触りのいい言葉に対して、退職金で本格的な資産運用にデビューするような退職者が、効果的に「それはいいけど、手段がまずい」と指摘できるとは思えない。
また、特集の記事には、「今後、米国の利上げの気運が高まれば、ドル高円安になる可能性がある点も伝えておこう」と、顧客の「儲けたい気持ち」をくすぐる方法も載っている。
この際、退職者といえどもニュースくらいは見ているということを知らせてやってはどうか。「外貨建ての保険って、手数料が高いことを金融庁が問題にしている商品ではないのですか?」と銀行員にズバリと質問してみるのはどうか。「そうではない」と言い切る度胸はない銀行員が多いだろう。
(4) 外貨預金や外貨建て投資信託を持つお客様
→「分散投資」と「死亡保障」の二つの観点からアプローチ
気の毒なことに、既に、外貨建ての投資信託を持っている顧客にも、銀行は、さらに外貨建ての保険を勧めるつもりのようだ。ここでは、「分散投資」という言葉でリスクが大きくないというイメージを刷り込みたいと考えているようだ。
この種の小悪党どもが考える「分散投資」には、「時間分散」と「資産の分散」があるのだが、より本質的な分散投資(金額当たりのリスク低減効果がある分散投資)は資産の分散の方だ。ところが例えば、USリート(米国の不動産に投資する)の投資信託を持っている顧客に、豪ドル建ての一時払い保険を勧めるような要領を勧めているのだが、米ドルと豪ドルは異なる動きをするとはいえ、円高になる時には、どちらの通貨も円に対して下落することが多い。通貨分散に大きな期待は掛けられない。
また、「時間分散」については、「保有する外貨建て商品を現状より円安時に購入している場合は、ナンピン買いの効果を見込むことができる」(注:「ナンピン買い」とは、同じ対象を安値で買って、平均買い単価を下げることを指す)と書かれているが、ナンピン買いは、同じリスクを積み上げる行為なので、リスクが集中しやすく危険なことがある行為だ。
マンガが添えられたセールストークは、「では外貨建て保険はいかがでしょうか。投信と異なる通貨なら通貨分散も行えますし、万一の備えもできます」というものだ。
「外貨建ての投信はさんざん買わされたし、万一の備えは、資産運用とは別にやる方が安上がりだよ。こんなものを勧められるなら、私が分散すべきなのは、取引先の金融機関かもしれないねえ」とでも言ってやるといいだろうか。
本当は、この担当者及び銀行と、すっかり縁を切るのが一番いいのだが、特に、高齢者にはこれができない場合が多い。
(5) 投資信託で老後資金の準備を行っているお客様
→積立不足ではないか確認し分散投資の観点から提案
投資信託の積立投資で老後に備えているお客様は、それなりに運用に対する意識やリテラシーの高い人だろう。こういう顧客に対しては、運用残高を調べて(あるいはヒアリングして)将来の備えの不足を指摘し、「外貨建て年金保険を活用することで、生命保険料控除の適用を受けて節税が図れること、利率が高く為替差益も期待できることをアピールしよう」と特集は提案する。
老後への備えなどの「不足」を指摘して、「不安」を煽り、商品を勧めるのは、この種のセールスの常道だが、ここでも、外貨建ての利率の高さを円建ての期待運用利回りと混同しがちな顧客の錯覚、保険料控除の「お得」感、さらに分散投資の合わせ技で、何とかして外貨建て保険を食い込ませようとする。
「分散投資の観点で」と担当者が声を張り上げたところで、次のように言ってみようか。「分散投資でリスクが低減といっても、外貨建て保険に追加で投資するのだから、リスクの総量は増えますよ。それに、節税効果は、確定拠出年金を増やす方がずっと大きいし」。
積立投資をするくらいの人であれば、外貨建て保険のセールスに引っ掛かることは少ないと思うが、敵はセールスのプロなので気をつけてほしい。担当者には「会わないのが一番!」である。
(6) 老後資金を準備したいが投資信託には不安があるお客様
→円建てよりも利率が高い外貨建て年金保険を提案
投資信託を怖がる顧客から、どうやって手数料を取ろうとするのか。
ここでも、特集は、「外貨建て年金保険のメリットは円建てで運用するよりも高い利率が享受できる点にある」と特集は本文でさりげなく言い切って、銀行員を励ます。外貨建ての利回りが、円ベースでもあるのではないか、という素人の錯覚をとことん利用しようとする。加えて、「保険だから(投信よりも)安心」というイメージを顧客が持っていてくれたら、しめたものだ、というセールス戦略だ。
セールストークのマンガを見ると、「でも、株とか投信は不安だよ…」というお客様が、最後のコマでは「保険か…詳しく聞かせてよ」と、保険なら安心かもしれないと身を乗り出している。
投信でも、保険でも、外貨は等しく外貨だ。加えて、保険は、おしなべて投信よりも手数料が大きい。即ち、投信と似たリスクを持ちながら、投信よりも不利なのが、概ね外貨建て保険の実像だ。
「この保険を売ると、銀行には幾ら手数料が入るのですか? 投信よりも手数料が高いって聞いているけど」と尋ねてみよう。相手が答えても、答えなくても、外貨建ての年金保険など買わない方がいいことは申すまでもない。
■顧客のためにならない商品を売る
小悪党のセールストークの特徴
さて、セールス担当者のトークの手口をご覧になって、どう思われるか。読者は、これらの全てをにっこりと笑いながらその場で跳ね返す自信を持てるだろうか。
外貨建て保険のような、本来顧客のためにならない商品のセールストークには、幾つか特徴がある。
(1) 顧客の不安との関連づけ
(2) 錯覚の最大限の利用(外貨は利回りが高いという錯覚、時間分散が有効という錯覚など)
(3) ごく一部のメリットの強調(「保険料控除」など)
(4) 耳ざわりのいい言葉の印象付け(「分散投資」など)
(5) 複数の要素の組み合わせ(死亡保障と分散投資など)
(6) 売り手側のメリット(分厚い手数料!)を話題にしない
外貨建て保険を売る、銀行員や、街の保険ショップの担当者、保険会社の手先となるファイナンシャルプランナーなどは、利害が絡まなければ、上記の諸々の仕掛けが分かり、個人の意見としては、外貨建て保険など決して他人には勧めない人たちなのだろう。
しかし、「銀行のため」だと思ったり、「営業ノルマ」があったり、「生活やビジネスのため」といった理由があると、ある者は顧客の利益に対して鈍くなることで自我を守り、ある者は組織に対する忠誠心で個人的な良心を覆い隠し、金融庁が求める「フィデューシャリー・デューティー」の精神からどんどん遠ざかって、「手数料稼ぎロボット」としての能力を磨いていくのだろう。
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