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逆切れトランプ陣営が繰り出す「3枚の大暴落カード」に気をつけろ=斎藤満
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2016年9月29日 MONEY VOICE
米大統領選の第1回テレビ討論会は、大差でクリントン候補の勝利に。しかし、トランプ陣営はあと2回の討論会で挽回を図り、市場混乱による起死回生を狙う可能性があります。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年9月28日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
大統領の椅子をあきらないトランプ「次の一手」で市場大混乱?
■起死回生のジョーカー
相場にも政治リスクが多くのしかかる季節となりました。その第1弾が、27日に行われた米大統領選挙候補者によるテレビ討論会でした。
1億人の米国人がみると言われる注目の第1回は、ヒラリー・クリントン氏が無難にこなし、CNNの世論調査では62対27の大差でクリントン候補の勝利、と評価しました。「トランプ・リスク」を意識していた市場はひとまず安心したようです。
しかし、市場における政治リスクはこれで終わったわけではありません。
まず、今回準備不足で劣勢であったトランプ陣営は、あと2回の討論会で挽回を図るでしょうし、起死回生の策を市場混乱の形で仕掛けてくる可能性があります。もっとも、何もきっかけがなければ市場を揺さぶることもできませんが、不幸にして「材料」が少なくとも3つあります。
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■第1のカード「ドイツ銀行」〜米司法当局を動かしたのは何者か?
まず第1に、ドイツ銀行の揺さぶりです。
ドイツ銀行は米司法当局から、不動産担保証券(MBS)の不正販売を問われ、140億ドル(1兆4千億円)の支払いを求められています。
この巨額な負担が同銀行の経営を圧迫しますが、ドイツのメルケル首相は同行への支援を拒否したと報じられています。このため、米国市場でも同行の株価は7%あまり低下しました。
それにとどまらず、このあおりを受けて、26日の米国ではバンカメ株が2.8%、JPモルガン株が2.2%下落するなど、銀行株全般が売られました。
ウォール街とのつながりが指摘されるクリントン候補の揺さぶりには格好の材料で、米司法当局を動かした力、メルケル首相に働きかけた勢力が取りざたされています。
ドイツ銀の株価は10.6ユーロ台まで下げ、過去最安値となっています。当事者は否定していますが、同行には資本増強が必要との見方が出始めています。
欧州を揺さぶり、金融界に打撃を与えることは、トランプ陣営にはうまみがあります。
■第2のカード「中国ショック」〜市場混乱の裏にちらつく米国の影
第2は中国です。
中国の人民元は10月からSDRの構成通貨に加えられます。これを機に、中国当局は、IMFや米国からの要請、圧力もあり、資本規制、為替管理を緩め、より開放された市場にしなければなりません。
これを先取りするように、人民元相場はじり安となっています。
そして先週あたりから、香港の人民元預金が急減しています。恐らく、本土に資金が逆流しているものと思われます。
香港での人民元預金は、14年末に1兆元ありましたが、この7月には6671億元にまで減少しています。その中で、香港銀行間取引金利(HIBOR)の金利が急騰しました。
HIBORは通常中国の預金金利見合いで、1.5%前後でしたが、先週19日には23.68%をつけるなど、急騰しています。預金の急速な流出で、香港の銀行が資金をとりあさったためと考えられます。
香港ハンセン指数 週足(SBI証券提供)
上海総合指数 週足(SBI証券提供)
昨年夏も今年初めも、中国での市場混乱の裏に、米国の影がちらついています。中国当局が動きにくいこの時期に、米国資本が揺さぶりをかけてくる可能性は否定できません。
■第3のカード「原油相場」〜OPEC減産合意だけでは安心できない?
そして第3が原油相場です。
原油需給は明らかに供給過剰で、OPEC、非OPECともに増産を続けています。多くの産油国が過去最高水準の生産をしているところで、増産凍結を決めても、すでにある供給過剰は解消できません。
それでも、IEA(国際エネルギー機関)などは、増産凍結の可能性や、需給改善を期待させるメッセージを発し、価格を支えてきました。
このIEAなどは米国の石油メジャーの息のかかった組織で、石油業界寄りのバイアスがかかるとともに、政治ともつながりがあります。
これまでも彼らと政治がリンクして原油価格を大きく動かし、操作してきました。時にロシアの経済力をそぐためといった政治要因によっても動きます。
現在、アルジェリアで国際エネルギー・フォーラムが開催されています。そしてその合間にOPECメンバーなどで生産量の調整が論議されています。
市場を混乱させたい筋にすれば、50ドルくらいまで価格を吊り上げておいて、「凍結合意に至らず」とすれば、原油相場を崩すことができます。在庫統計に手を加えることも容易です。
※編注:28日のWTI原油先物は、国際エネルギー・フォーラムで原油減産が大筋で合意されたとの報道により大幅反発。一方で、実際の需給改善効果は小さいとする見方も出ている。
ただ、市場では「OPECの生産制限は現状の生産枠とほぼ同水準で、需給改善にはつながらない」(オッペンハイマーのファデル・ゲート氏)との指摘があった。
出典:NY商品、原油が反発 「OPEC生産調整で合意」と伝わる、金は続落 – 日本経済新聞
WTI原油先物 日足(SBI証券提供)
■大きな下げ余地
米国の株価も債券相場も、かなり高値圏にあり、頭が重くなっているだけに、何らかのショックをきっかけに、大きく下げる余地が大きくなっています。
これと米大統領選挙のヤマ場とが重なるだけに、これからしばらくは、政治サイドからの相場かく乱に注意が必要となります。
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