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黒田日銀「ノーアクション」に対する、ごく当たり前の疑問と不安 これでは、「円高ゲーム」は止まらない
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49823
2016.9.29 安達 誠司 現代ビジネス
■実質的には「ゼロ回答」
マーケットにとっての一大イベントであった9月20日、21日の日米の金融政策決定会合が終わった。日銀は「長短金利操作付き量的質的緩和」という新たな金融政策の枠組みの導入を決め、FRBは利上げを見送った。
このうち、FRBの金融政策については、各種経済指標が悪化傾向だったことから直前の予想通りの展開になった。慎重なスタンスをとった今回のFRBの対応は、どちらかというとマーケットに好感されているように思える。
一方、日銀の金融政策については評価が分かれている。各論者の評価に関してはいろいろなメディアで公表されているので敢えてここでは言及しない。
これはあくまで筆者の個人的な評価だが、今回のポイントは「(公表しないまでも事実上、円高是正のための)追加緩和の有無」だったと考えていたので、実質的に「ゼロ回答」に終わったと考えている。
もっとも、今回は新たに「イールドカーブ・コントロール」という枠組みを導入したので、「ゼロ回答ではない」という指摘も受けた。
確かに、「イールドカーブ・コントロール政策」において、10年物国債利回りの誘導水準を「ゼロ%」に設定したが、日銀は特に10年物国債利回りを高めに誘導するようなそぶりは見せていない(9月27日時点の10年物国債利回りは-0.08%)。
政策的には「ノーアクション」だったからこそ、為替市場では、ドル円の高値を試すような展開が断続的に続いているのだと思う。
すなわち、今回の金融政策決定会合においても、1月29日に導入が決定された「マイナス金利政策」を「量的質的金融緩和(QQE)政策の限界」とみなす現在の為替市場の「ゲームのルール」を変えることができなかったわけだ。
そのため、今回の結果をみて、通貨投機で高収益を狙うヘッジファンド等が「円高ゲーム」を再開するのは、ある意味「合理的な(勝つ可能性が高い)」投資行動ではないかと考える。
■量の拡大」は放棄されていないが…
ところで、今回の政策フレームワークの変更では、「量の拡大を放棄した」との認識がマスメディアを通じてマーケットに流布している。
日銀の声明文を素直に読む限りでは、従来通り、年間80兆円ペースでのマネタリーベース拡大は継続するし、場合によっては、将来、量の拡大を実施する政策オプションも排除していない。そのため、「量の拡大の放棄」という解釈は正しくない。
だが、ここまでの説明だと、従来のような「量の拡大」が、金融政策の新たな主軸となった「長短金利水準の操作」と両立する保障もないため、そうとられても仕方がない部分がある。
エコノミストの「流儀」に従って、「標準的なモデル(金融政策を簡単な方程式体系で表現したもの)」で考えると、イールドカーブ(長短金利)を政策目標にした場合、日銀が目標実現のために実施する国債購入の額(マネタリーベースの多くの部分を占める)がイールドカーブによって決定されることになる。そのため、日銀は自由にマネタリーベースの量を決めることはできなくなるはずである。
これは、マネタリーベースの量が重要な意味を持つと考えているリフレ派にとっては確かに不都合であろう。一方で反リフレ派の人たちは溜飲を下げたことだろう(ただし、反リフレ派の批判のように、リフレ派全員が、いまでもマネタリーベースの「量」自体に決定的な意味を持たせている訳ではない点も付記しておこう)。
私も一応はリフレ派に分類されるようなので、一歩譲って、マネタリーベース(もしくはその拡大ペース)が増加すればよいと考えた場合、それが可能になることが比較的はっきりしていると思われるのは、10年超の国債利回りが日銀の想定を超える上昇となった場合である。
つまり、上昇した長期金利を、日銀が想定する「適正水準」に誘導するために、当該国債の購入額を増やす場合だ。これには、例えば、政府が大幅な財政支出拡大を、国債増発をともなう形で実行した場合も含まれるだろう(事実上の「ヘリコプター・マネー」)。
海外では、今回の日銀の政策決定を好意的に解釈する経済学者もみられた。彼らの多くは、将来的に、財政出動との一体性がむしろ強化されたことを評価したのだと思われるが、まさにそのケースである。
■「イールドカーブ・コントロール」への疑問
だが、その他の場合はいま一つはっきりしない。例えば、10年物国債利回りが誘導目標のゼロ%から大幅に下方に乖離した場合(例えば、何らかの理由で-2%になってしまった場合)、日銀は10年物国債の売りオペと短中期国債の買いオペという「逆ツイストオペ」を実施するであろううか。
もし、「逆ツイストオペ」を実施するのであれば、短中期国債の買いオペの量が10年物国債の売りオペの量を上回る必要があるが、その制約の中で、短中期ゾーンの国債利回りをうまく誘導できるであろうか(もしくは、短中期ソーンの金利形成はマーケットに依存させるのであろうか)。
また、短中期債を売却した金融機関が長期国債への選好を高めてしまった場合、結局、イールドカーブのフラット化の圧力が高いまま維持されるような気がするが、その場合は、逆に日銀保有の長期国債残高が減少し、日銀のバランスシートが改善されるからそれでよしとするのだろうか。
確かに、「短中期国債の買いオペ」は指値で実施できるため、「逆ツイストオペ」の場合、中短期国債を日銀が「高値」で購入することが可能であるが、これによって低下(マイナス幅が拡大)した短中期ゾーンの金利とマイナスの政策金利が乖離した場合、日銀はどのように対処するのだろうか。
「均衡イールドカーブ」の分析によれば、イールドカーブの中でも、短中期ゾーンの部分が、将来の経済の「需給ギャップ」、及び、予想インフレ率に強く影響を与えるとされる。だが、マイナス金利の深堀りをせずに、前述のような高い「指値」で短中期債ゾーンでの国債買いオペを行った場合、短中期ゾーンが「逆イールド(すなわち、最も短い政策金利よりも、中期ゾーンの金利の方がよりマイナス幅が大きい状況)」となりはしないだろうか。
もし、「逆イールド」になった場合には想定した効果が出るのであろうか(通常、逆イールドの場合は、実体経済にとってはネガティブな影響が出やすい、もしくは、将来の予想インフレ率の低下、もしくは、「需給ギャップ」のマイナス幅の拡大、すなわち、景気悪化を示唆するといわれている)。
そして、もし、それを是正(すなわち、イールドカーブを「きれいな」順イールドにする)しようとすれば、中期ゾーンの金利の低下幅に応じて、適正な「さらなるマイナス金利の深掘り」をする必要が生じてくる可能性もあると考えるが、この「マイナス金利の深掘り」はさらなる円高をもたらす可能性はないのか、という点も気になる。
ついでにいえば、黒田総裁の会見を拝聴する限り、追加緩和の手段として、「マイナス金利の深堀り」をその主な手段としたようだが、マイナス金利導入後の円高(しかも、一時的な現象ではなく、もう半年以上続いている)をどのように理論的に説明するのだろうか(その話はまだ行われていないような気がする)。
■まずは円高を是正すべきでは?
筆者自身の不勉強もあって、今回は、色々と疑問点を並べたが、筆者にはどうも「イールドカーブ・コントロール」の具体的な運営のイメージが湧かないのである。
特に、「イールドカーブ・コントロール」と、量的拡大(マネタリーベースの拡大)、及び質的拡大(オペ対象資産の拡大)との関連性がよくわからない。
筆者は、2013年4月の「QQE導入(もしくはそれ以前)」による金融政策のレジーム転換が予想インフレ率を引き上げて以降、「リフレレジーム」が再び「デフレレジーム」に転換するところまでは来ていないと考えている。その意味では、リフレ派からみれば、楽観的でけしからんということなのかもしれない。
だが、最近になって、予想インフレ率が下方屈折していることは関連指標をみればほぼ間違いないと思われるし、その対処が必要な状況ではないかとも考える。
筆者は、この予想インフレ率の低下はマイナス金利政策採用後の突然の円高がもたらしたものではないかと考えているので、そのための対応を期待していた(それゆえ、それほど大量の量的緩和拡大が必要だとも考えていなかった)のだが、今回もなされなかった。
好意的にみれば、円高是正に有効、かつ、実現可能性が高い政策手段が何であるかという論点に対する結論が出なかったのではないかと思う。その意味では、金融政策に対する宿題は依然として残されているのではないだろうか。
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