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「第3のNISAが始まる」って言われても…口座数は1000万を超えても半分は空、テコ入れに動く金融庁
記者の眼
2016年9月28日(水)
上木 貴博
突然だが、NISAをご存じか。日経ビジネスオンラインの読者には愚問だろうが、「ニーサ」と読む。2014年1月に始まった少額投資非課税制度だ。金融機関の広告などでしつこいほど「NISA」の文字を目にしているので、存在自体はよく知られているはずだ。
日本証券業協会のサイトでは大物タレントを起用してNISAの認知度向上に努めている
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/092700317/nisa.jpg
中身を簡単に説明すると、金融機関で開くNISA口座で株式や投資信託、ETF(上場投資信託)、REIT(不動産投資信託)などを売買した際の利益が非課税となる。通常の投資では、A社の株式が1000円の時に100株買って、1500円の時に全部売れば5万円(=1株500円の利益×100株)の利益となる。株の値上がり益に対しては利益の2割が課税されるので、1万円(=5万円×0.2)を税金として払い、残りの4万円が手元に残る。配当に対しても同じく2割、課税される。
一般的な証券口座ではなく、NISA口座での投資では課税がないのが最大の特徴だ。そんな虫のいい話があるのか……と感じる人もいるかもしれないが、政府の方にも当然、思惑がある。日本人(家計部門)が保有している金融資産はおおむね1700兆円。大半は銀行口座の中に“死蔵”されていて、積極的に運用されていない。NISAの普及で投資が一般的になれば、株式市場に流れ込むマネーが増えて、日経平均株価が上がり、政権の支持率も上がる…と考える人がいても不思議ではない。
子供にまで枠を広げてみたけれど…
もちろんNISA口座でならどんな投資でも非課税になるわけではない。非課税の投資枠は年120万円まで(当初は100万円だったが2016年から20万円引き上げ)。使い残しても翌年に繰り越しはできない。非課税期間は5年間だ。制度の実施期間も2014年から2023年までの10年間に限られている。
さらに「ジュニアNISA」も2016年4月から始まった。こちらは名前の通り、0歳〜19歳の未成年者が口座の資格者となっている。非課税投資枠は大人より小さく年間80万円までだ。
制度導入からわずかな期間で上限額を引き上げ、さらに子供まで対象に加えるのは、当初の目的を達成していないから、と考えるのが自然だろう。NISA口座の開設数は今年に入って1000万を超えた。だが、昨年末時点で「実際の投資額は0円」という割合は53%だった。つまりNISA口座を開設したけれど、半分以上が放置されているというのが実態なのだ。
理由は明白だ。2014年の制度開始から金融機関は「口座を開くと現金2000円プレゼント」といった販促キャンペーンを積極的に展開してきた。投資する意欲も資金もないまま、小金欲しさの口座を開いた人が多かったのが実情だろう。
口座開設者の年齢層にも偏りがある。金融庁によると、今年3月末時点のNISA口座数は1012万809。そのうち、60歳以上が54%を占めている。総投資額に占める60歳以上の比率は6割に近い。一方、20〜30代が開設した口座数は全体の14%で総投資額は11%に過ぎない(以下の円グラフを参照)。NISAは「長期投資の器」と位置付けられているが、非課税期間は5年間と長くはない。20〜30代の若い層からすれば、投資するカネもないし、仮に投資できたとしても非課税期間が短いと感じていたのではないか。
出所:金融庁
注:2014年1月〜2016年3月末までに実際に投資された金額
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/092700317/g1.jpg
私は、投資に関する情報を提供する月刊誌「日経マネー」編集部に2013年8月から2016年3月まで在籍した。その間、毎月のようにNISAに関する記事を書いた。その立場からすると、忸怩たる思いが強い。政府の思惑はともかく、NISA制度の狙いは日本にとって有益だ。だが、肝心の国民の方がいまいち、乗ってきていない。
こうした経緯もあるからだろう。金融庁は更にNISA改革に乗り出す。8月に提出した、2017年度税制改正要望でNISA制度の改善案を盛り込んだ。その中心が「積立NISA」だ。これは年間投資上限が60万円、非課税期間は20年間の非課税枠だという。その名の通り、投資信託の積み立て専用を想定している。
金融庁の構想通りに進めば、通常のNISA、ジュニアNISAに続く第3のNISAが誕生する。ただし、通常のNISAとの選択制なので、「併用して年間180万円まで投資」は不可能だ。「そこまで拡大すると富裕層への優遇制度と捉えられてしまう」と金融庁担当者は話す。
従来型のNISA ジュニアNISA 積立NISA
利用者 国内在住の20歳以上(外国人も含む) 未成年 従来型のNISAと同じだが、併用は不可。
投資対象 株、投信、ETF、REIT 投信の積み立て設定
非課税期間 5年 5年(資金の引き出しは本人が3月時点で18歳である年の1月1日以降) 20年
上限額 120万円 80万円 60万円
金融庁が創設を目指す「積立NISA」は、資金はそれほどないものの長期投資が可能な若年層をターゲットに設計されている。そのため投資上限額は従来型の半分だが、非課税枠の期間が一気に20年に伸びるのは魅力となる。資金がある高齢者であれば、たとえ非課税期間が短くても投資上限が120万円の従来型NISAを選ぶかもしれないが、金融庁の担当者は「選択肢を用意することで制度の利用を促したい」と語る。
仮に積立NISAが12月の大綱に盛り込まれた場合、導入は2018年1月以降とみられる。金融機関にとってはこれまで攻め切れていなかった若年層、資金が少ない層にリーチする機会が生まれる。長期保有に適した信託報酬が低いインデックス型投信やバランス型投信の拡充が進むはずだ(関連記事)。
積み立て投資は毎月数千円からでも始められる。また、投資対象を分散させる投資信託は、株式やFXより大きな損につながりにくい。「お金がないから」「投資は怖い」といった理由で投資を避けてきた人にも、少しはNISAに関心を持ってもらいたい。その際のお供に、「日経マネー」を選んでもらえるとOBとしてはこの上ない幸せなのであるが…
このコラムについて
記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/092700317/
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