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日銀は「目覚めた」が、主役を務める局面は終わった
http://diamond.jp/articles/-/102981
2016年9月27日 真壁昭夫 [信州大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■「量」重視の政策から
「金利」重視の策に軸を移した
9月20、21日に開催された金融政策決定会合で日銀は、これまでの“お金の量”を重視する政策から、金利(イールドカーブ)を重視した政策に軸を移した。それが“長短金利操作付き量的・質的金融緩和”の導入だ。
今回の日銀の決定は、ある意味では画期的といってよいだろう。これまで、「お金の量を増やしさえすれば、物価は上昇し経済は回復する」としてきた、金融政策の基本的な考え方を大きく変えたからだ。
日銀の積極的な量的緩和策にもかかわらず、わが国経済の状況が期待したほど回復していない状況を見て、ようやく日銀も目を覚まし、政策転換をせざるを得なくなったのだろう。それは歓迎すべき転換だ。
また、今回日銀はサプライズ重視の「短期決戦型」から、金融機関への配慮など市場とのコミュニケーションを通した「長期視点の金融政策」に転換したともいえる。
日銀はマイナス金利を続けつつ、当面は長期金利がゼロ%近傍に推移するよう国債を買い入れる。これは市場動向に応じて買い入れが柔軟化されることを意味する。それは、一定の資金量を提供するこれまでの政策の大転換と見るべきだ。
一方、日銀は“オーバーシュート型コミットメント”を導入し、安定した物価上昇が確認されるまで金融緩和を続けると表明した。これはマネタリーベースの増加を目安として示し、金融政策に対する信認・期待のつなぎ留めを目指している。ただ、注意が必要な点は、政策の柔軟化は国債買い入れ額の減額につながる可能性があることだ。
決定会合後、銀行株を中心に国内の株式市場は急反発した。それは、日銀の強いコミットメントと長短金利の操作を通した金融機関への配慮を好感した結果だろう。しかし、冷静に考えると金融機関を取り巻く状況は依然として厳しい。政策の手詰まり感もあり、為替レートへの影響も限定的だろう。
今回の日銀の決定で最も明確になったことは、もう日銀のできることは限られているということだ。経済の実力=潜在成長率を引き上げない限り、わが国経済の本当の意味での回復は難しい。日銀がいくら頑張っても、潜在成長率の上昇に寄与できる部分は限られている。
■今回の決定会合のポイントは
“量的緩和策”の限界を公式に認めたこと
今回の日銀決定会合のポイントは、日銀が“量的緩和策”の限界を公式に認めたことだ。“量的緩和策”の主な限界は二つある。
一つは、毎年80兆円の国債買い取りが限界に近づいていることだ。
現在、日銀は政府が新規に発行する金額の約2倍の国債を購入している。既に、日銀は国債発行残高の約3分の1を保有するに至った。今後、このペースで更に国債を購入すると、国債市場で投資家の売買がほとんど停止し、市場機能がなくなってしまう。日銀は、そうした事態の発生を防がなければならない。
もう一つは、マイナス金利政策によって金融機関の機能低下が進むことだ。今年1月のマイナス金利政策によって、利回り曲線=イールドカーブが長期債に至るまでマイナスに落ち込み、イールドカーブ自体が平たん化=フラットニングした。これでは、金融機関の収益チャンスが大きく減ってしまうことになる。
そこで、金融機関の経営に配慮を示し、それが“長短金利操作付き量的・質的金融緩和”の導入決定に表れている。長短金利操作とは、当面、日銀が10年国債の利回りをゼロ%程度に維持し、短期金利との差を拡大させることを意味する。
つまり、過度な金利低下が進むことで銀行の貸出金利=収入が低下し、業況が悪化することを防ごうとしている。この背景には、金融業界や金融庁からマイナス金利に対する批判や懸念が示されてきたことがある。
注目を集めた「総括的な検証」の中で、日銀はマイナス金利が過度な金利低下、金融機能の持続性への懸念につながり、経済に悪影響を及ぼしかねないことを認めた。一方、物価達成が遅れている理由は新興国の減速や原油価格の下落などの海外要因であると、「想定通り」の見解が記された。
日銀はあくまでも金融政策で物価上昇を目指すために、市場との意思疎通を重視して政策の持続性と効果を高めることを強調した。それが総括的な検証の骨子だ。この点で総括的な検証は、金融機関への配慮として長短の金利差をコントロールすることが重視され、その結果、国債買い入れ額が柔軟化することもあるという考えを示している。
問題は、日銀が量・質・金利の3次元緩和に限界はないと強弁を貫いてきたことだ。状況次第とはしつつも、国債の買い入れ額が減る(柔軟化する)ことは、市場の失望につながる。
そこで、日銀は“オーバーシュート型コミットメント”を導入し、消費者物価指数の“実績値”が安定的に2%の目標を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続すると、フォワードガイダンスを強化した。以上は、2013年4月来、日銀が進めてきた金融政策には相応の効果があり、今後も量・質・金利の3次元で物価上昇を実現させるという、意思表明でもある。
■顕著な効果は期待しづらい?不透明な
長短金利操作付き量的・質的金融緩和の効果
日銀は長短金利操作付き量的・質的金融緩和によって、金融政策の柔軟性、持続性が高まり、より強力な金融緩和が進むとしている。では、従来の金融緩和に比べて、何が強力になったのだろう。
結論を述べると、持続性が高まった以外、顕著な効果は期待しづらい。これまでの金融緩和の顕著な効果は、急速な金利低下だった。1月のマイナス金利導入後、一時は40年国債の利回りが0.1%を下回るほど、急速に金利は低下した。理論上、金利低下は資金調達コストの低下=金融緩和の効果だ。
しかし、長短金利操作付き量的・質的金融緩和の効果は不明瞭だ。次回の決定会合まで、日銀は当座預金の一部には従来通りの▲0.1%を適用する。一方、長期金利は、10年国債の利回りがゼロ%程度になるようオペレーションを行う。次回の会合以降は状況次第で20年などの金利が政策目標になることもあるだろう。
10年金利がゼロ%程度になるということは、長期近辺の金利に上昇圧力がかかることを意味する。一方、日銀が年80兆円に相当するペースで国債を買えば、金利には低下圧力がかかる。マイナス金利を続けつつ長短の金利差を拡大させるためには、買い入れ額を絞る必要が出てくる。
理論的には、短中期の国債を買えば長期金利をゼロ%程度に誘導することはできるだろう。しかし、平成28年度の発行計画では、5年国債、10年国債の発行は同額であり、長期債の買い入れを避けてマネタリーベースの増加を進めることは容易ではない。
また、長短金利の操作が金融機関の収益に与える影響も未知数だ。銀行の貸出金利は、短期金利をベースとした変動金利が多い。マイナス金利が続く以上、貸出金利は上がりづらいだろう。そう考えると、決定会合後の株高には説得力あるロジックが見いだせない。日銀が日経平均株価に比べて金融銘柄の多いTOPIX連動型のETF買い入れ増を発表したことは、銀行セクターの株価下支え要因ではあるが、依然として銀行などの収益環境が厳しいことに変わりはない。
■金融政策だけで物価上昇を目指すのは
至難の業である
総括的な検証の中で日銀は、これまでの金融政策は名目金利低下、物価上昇期待の引き上げを通して、経済を刺激も、阻害もしない"自然利子率"の低下以上に実質金利を押し下げてきたと評価した。
しかし、現実の問題として、わが国の消費者物価上昇率は4ヵ月続けてマイナスだ。2014年第2四半期以降、GDPギャップもマイナスであり需要は依然として弱い。つまり、名目金利が低下したとしても、需要回復を基点とした物価上昇は見込みづらい。
加えて、わが国では少子化、高齢化という本源的に経済にマイナスの要素を抱えている。海外に目を転じても、中国を筆頭に需給はかなり緩んでいる。いずれの主要国でもディスインフレの状況が続き、明確な物価の上昇過程は観られない。その意味では、日銀が物価上昇の阻害要因に指摘する海外要因は今後も継続することになるだろう。
その中で、日銀の主張するように金融政策だけで物価上昇を目指すのは至難の業だ。日銀が今回、「お金を供給すれば物価は上がり、景気は良くなる」との考え方を変えるのは必然と見るべきだ。また、サプライズ重視・短期決戦型の政策を転換し、市場とのコミュニケーションに配慮して長期的な政策運営に舵を切ったこと自体は重要だ。
しかし、それだけで実態経済に大きなプラスをもたらすとは考えにくい。忘れてはならないことは、経済の実力である潜在成長率を高めることだ。それには、イノベーションを進めて、効率的に新しいプロダクトを生み出す努力を重ねるしかない。それは、金融政策の守備範囲ではないはずだ。
■本格的な経済回復には
労働市場の改革や規制緩和などが必要
黒田総裁自身、金融政策だけで物価目標を達成することが難しいことは分かっているはずだ。それでも金融緩和に限界がないとの強弁を続けるのは、実質金利の低下を受けて徐々にリスクテイクが進み始めたとき、金融政策を通してその動きを後押ししたいからだろう。
金融機関への配慮、今後の追加緩和の可能性を受けて、銀行株などには一時的に持ち直しの動きが出た。しかし、それが持続的な株価上昇につながるとは想定しづらい。長短金利の操作が市場を混乱させないかなど確認すべき点も多く、金融政策の動向は注意深く見守るべきだ。
わが国経済を本格的に回復過程に復帰させるためには、労働市場の改革や規制緩和などによって民間企業の活力を高めることが必要不可欠だ。既に日銀が主役を務める局面は終わった。今回の日銀の決定はそれを明確に示している。
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