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意外と脆いニッポン経済!黒田総裁の「失敗策」がもたらす円高リスク マイナス金利にも限度がある
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49803
2016.9.27 町田 徹 経済ジャーナリスト 現代ビジネス
■黒田総裁が打ち出した「策」
「策士、策に溺れる」の例えの典型だろうか―。
黒田日銀は先週水曜日(9月21日)の金融政策決定会合で、注目の「総括的な検証」を行い、刹那的としか言いようがない”金融引き締め”策を打ち出した。
その柱は、民間銀行が日銀に余資を預託する当座預金金利(-0.1%)の更なる引き下げ(マイナス金利の深掘り)という肝心の施策を見合わせる一方で、半年以上にわたってマイナスで推移してきた長期金利を0%に押し上げるというものだ。
はっきり言って、中途半端な政策だろう。早くも効果に疑問が生じている。債券市場では、「総括的な検証」を受けた21日午後、長期金利の指標である新発10年物国債の利回りが約半年ぶりにプラスの水準(0.005%)を回復したものの、祭日(秋分の日)を挟んだ23日には-0.055%とあっさりマイナス水準に逆戻りした。
結果として、頼みの綱は、年内実施が期待されている米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げだけという状態に陥った。この利上げが遅れたり、できなかったりすれば、円高圧力が高まって日本からの輸出のペースが鈍るリスクがある。潜在成長率の低下に悩む日本経済の減速が、これまで以上に懸念されることになるだろう。
最初にお断りしておくが、筆者は常に本コラムを独立した経済ジャーナリストの観点から書いている。
筆者がゆうちょ銀行の社外取締役を兼務していることを理由に、8月2日付の拙稿「間もなく『マイナス金利の深堀り』という一手を打ちそうな日銀・黒田総裁が、絶対にやってはいけないこと」が「ゆうちょ銀行の立場を代弁しているのではないか」と勘繰る向きがあると聞くが、ピント外れな憶測である。
会社の立場を代弁(説明)するのは、実務に従事する執行部の責務だ。業務執行取締役を兼務せず、独立して執行部を監視監督することが使命の社外取締役の座にある以上、筆者が執行部の責務を代行することはない。
あわせて、筆者は、ゆうちょ銀行の社外取締役を務めている事実を隠そうとしたことは一度たりともないことも明言しておく。2014年5月13日付の「私が『ゆうちょ銀行』の社外取締役を引き受けた理由」など一連のコラムを一読いただけば、それは明らかなはずである。
■あまりに中途半端な方針
さて、本論に戻ろう。
日銀は、21日付で公表した「金融緩和強化のための新しい枠組み:『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』」で、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するため、従来の二つの政策的な枠組み(「量的・質的金融緩和」と「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」)を強化する形で、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入を決定したと説明している。
その内容は、@長短金利の操作を行う「イールドカーブ・コントロール」、A消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%の「物価安定の目標」を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する「オーバーシュート型コミットメント」――の二つである。
@の具体策として、日銀は「長期金利(10年物国債金利)が概ね現状程度(ゼロ%程度)で推移するよう、長期国債の買入れを行う」「買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営する」という。
また、新たに「日銀が指定する利回りによる国債買入れ(指値オペ)」を導入する方針も打ち出した。
しかし、これは中途半端だ。筆者は前述の8月2日付の拙稿で、「日銀が次回の金融政策決定会合で、マイナス金利政策の深掘りを断行するのならば、フラットなイールドカーブの是正は絶対的な必要条件となってくる」と書いた。
この観点からは、日銀が「イールドカーブ・コントロール」のために新たなオペを導入することが、理に適っているように映るかもしれない。だが、それは違うのだ。
■金融緩和策を放棄した?
筆者は、マイナス金利の深掘りによって果敢な金融緩和姿勢の継続を鮮明にすることを前提に、マイナス金利策と量的緩和策の併存の弊害として生じていたイールドカーブのフラット化や逆イールド化を是正するよう提案した。
一方、日銀は、量的緩和に未練を残したまま、「イールドカーブ・コントロール」に乗り出す方針を示したというわけだ。
日銀の方針には、金融政策決定会合の場で、政策委員会審議委員からも「短期政策金利を-0.1%、10年金利の目標をゼロ%程度とすることは期間10年までの金利をマイナス圏で固定することにつながりかねず、金融仲介機能に悪影響を及ぼす」(佐藤健裕委員)とか、「国債市場や金融仲介機能の安定の観点から、短期政策金利は+0.1%が妥当であり、長期金利操作目標は国債買入れペースの一段の拡大を強いられるリスクがある」(木内登英委員)といった反対が出たという。
肝心の深掘りを見合わせた黒田日銀の胸のうちはわからない。「運用難から銀行を含む金融機関小経営が圧迫されるとか、年金の運用パフォーマンスが下がるといった批判の大きさにたじろいだのではないか」とか、「マイナス金利を深掘りできる回数が限られているので政策を温存したのではないか」といった憶測が飛び交っているだけだ。
が、今回、マイナス金利の深掘りをしなかったことが、金融緩和策を放棄したような格好になっていることは見逃せない。
全体の引き下げを試みず、7月8日に過去最低の-0.300%を付けるなど、3月11日以来6カ月以上にわたってマイナスの領域で推移してきた長期金利を0%近辺に誘導するというのは、部分的ながら利上げ(金融引き締め)を意味するからである。
■湧き上がる円高の再燃リスク
もちろん、今回の長期金利の0%への誘導が、中長期的な金融引き締めに繋がるほどの力強さは日本経済にないだろう。
ここに、筆者が、今回の長短金利操作付き量的・質的金融緩和を、刹那的な金融引き締め策と揶揄せざるを得ない由縁がある。
結果として、早くも注目を集めているのが、円高の再燃リスクだ。外為市場では、外国証券会社を中心に、日銀の動きを「ステルス・テーパリング(隠れた国債購入の削減)への第一歩」とみなす向きがある。23日の取引は、政策決定会合前より円高・ドル安の1ドル=100円台が中心になり、円の上昇圧力の台頭を浮き彫りにした。
そもそも実質金利は名目金利から物価上昇率を引いた水準で決まる。とすれば、日銀の当座預金金利(-0.1%)−物価連動債利回り(推計-0.3%)=+0.2%が現在の実質金利と考えられよう。
一方、日銀の推計によると、潜在成長率はここ2、3年、年率0.07%〜0.2%で推移してきた。これと比べると、実質金利は、潜在成長率の低下に追随したに過ぎず、政策的な緩和環境を整えるのに十分な低さに下がったとは言い難い。
潜在成長率の低さを勘案すれば、日銀はマイナス金利の深掘りを急ぐべきだ。が、実は、北欧諸国の先例から見ても、また、預金者にマイナス金利を転嫁するのが非現実的という事実を勘案しても、深掘りできる回数には限度がある。
赤字まみれの財政に期待できない中で、口先だけだった構造改革をできるか。実は、日銀よりも、アベノミクスの3本目の矢が改めて問われていることを忘れてはならない。
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