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トラックドライバーの長時間労働・低賃金は誰のせいか?(ダイヤモンド・オンライン)
http://www.asyura2.com/16/hasan113/msg/530.html
投稿者 赤かぶ 日時 2016 年 9 月 23 日 09:08:10: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

             2014年の消費増税前に深刻化した「モノが運べない問題」
   

トラックドライバーの長時間労働・低賃金は誰のせいか?
http://diamond.jp/articles/-/102013
2016年9月23日 西村 旦 [カーゴニュース編集長] ダイヤモンド・オンライン


■「モノが運べなくなる事態」の現実味

 トラックドライバー不足が進んでいる。

 景気低迷による荷動きの減少で、足元のモノの流れは一見スムーズに動いているように見える。だが、物量があと数パーセントでも増えれば、ドライバー不足やトラック不足は一気に顕在化することになるだろう。

 ある識者はドライバー不足の現状を「コップの水の表面張力のようなものだ」と例える。いまはコップの縁スレスレで危うくバランスを保っているが、そこにあと一滴、二滴垂らせば水はコップからあふれ出す。そうなれば、2年前の消費増税前のように再び「モノを運べない事態」が現実となる可能性は高い。

 経済は「モノづくり」「モノ売り」「モノ運び」「金融」という4つの基本機能で成り立っている。その一角が崩れてボトルネックになることは、日本の産業界にとっても大きな損失となるはずだ。

 いま国内物流の大動脈を担う大型幹線ドライバーの平均年齢は50歳をゆうに超えている。各産業で若年労働力というパイの奪い合いが続く中、10年後の物流が滞りなく動いていくと楽観視できる要素はほとんどない。

 産業界・企業経営者たちは、物流力を湯水のように使えた時代からパラダイムが大きく変わったことを改めて認識すべきだろう。

 そうした危機感もあり、国土交通省では昨年「トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会」を立ち上げた。メーカーや小売りなどの荷主企業との連携・協力を通じて、ドライバー不足の原因ともなっている長時間労働の短縮などを実現していこうという試みだ。労働行政をつかさどる厚生労働省との共催であることからも、その意欲のほどがうかがえる。

 具体的には、長時間労働の温床ともなっている荷主の集荷先・納品先での手待ち時間をなくすことでドライバーの就労環境を改善していくことを目指している。物流センターや倉庫の前で納品待ちのトラックが列をなしている光景をよく目にするが、実態として1〜2時間の“待ち”などザラである。このムダな時間をなくすことができれば、トラックの稼働効率が上がり、ドライバーの労働時間を短縮することができる。

 ただ、実現のためには荷主側の協力が不可欠だ。このため協議会では、47都道府県で荷主とトラック運送事業者が連携したパイロット事業をスタートさせ、ベストプラクティスの横展開を図っていく。

 ドライバー不足を解消していくためには、労働環境の改善に加えて、給与などの待遇を変えていくことで"魅力ある産業"にしていくことも重要だ。このため協議会では、給与アップの原資となるトラック運賃・料金のあり方も大きなテーマとして位置付けている。

■横行してきた「口頭によるあいまいな契約」

 運賃・料金を巡る課題は大きく2つある。

 1つ目は「運賃と付帯作業料金の分離」だ。運賃とは本来、荷物をA地点からB地点まで運ぶことに対する対価であり、トラック荷台への荷物の積み込みや納品先での荷降しなどの荷役作業は付帯業務として別途料金をもらうべきものである。

 だが、取引における力関係などを背景に、トラック運送事業者は荷役作業を“サービス”として行う慣行が長く続いている。フォークリフトでの作業が可能な場合ならまだしも、運送現場では依然として「手積み・手降し」が多く、ドライバーに過度の負荷を強いるばかりか、女性ドライバーが増えない一因ともなっている。

 こうした現状を変えるために国交省が進めているのが「契約書面化」だ。口頭によるあいまいな契約から書面契約に切り替えることで、明確な業務範囲の設定や料金明確化を進めていくことを目的にしている。これにより、トラック運送事業者の実質的な収入アップを図ろうというものだ。

 2点目が「運賃自体の底上げ」だ。しかし、荷主と運送事業者との運賃契約はあくまで相対が基本であり、行政が関与できる余地はほとんどない。トラック業界ではよく「適正運賃」という言葉が使われるが、“適正”の実態は非常に曖昧だ。運賃のあり方は運ぶ荷物の性質や形状、取引条件、地域性などによって千差万別であり、何をもって“適正”なのかは一概に見定めがたい。

 例えば、ある運送業者がAという荷主からB地点からC地点までの運送を請け負ったとする。C地点まで届けたあとは空のまま戻らなければならない。そこで「空気を運ぶよりはましだ」と近隣のD荷主から通常よりも安く運送を請け負ったとする。その運賃が安かったとして“不適正”だとは言い切れないだろう。

 トラック業界の一部からは目安として「最低運賃」や「標準運賃」の設定を求める声もあがっている。だが、“最低”や“標準”を定めるモノサシ自体が曖昧である以上、この議論は実効性に乏しいと言わざるを得ない。

 また、仮に「標準運賃」を設定した場合、標準以上の運賃を収受している運送事業者への値下げ圧力が高まり、企業努力を損ねることになりかねない。

 運賃問題では、さらに根本的な課題がある。

■「荷主」とは誰か?

 それはトラック運送業界の多層構造に由来する「そもそもトラック運送事業者にとっての“荷主”とは誰か」という問題だ。

「荷主」という言葉から通常イメージするのはメーカーや卸など「モノをつくったり、売ったりする企業」だろう。しかし、より厳密には「運送の委託元」を意味する。

 トラック運送業界は、元請・下請の多層構造が特徴である。例えばメーカーA社の物流業務を担う元請として運送大手B社があり、その下請として中小業者であるC社やD社が存在する。この場合、C社やD社にとっての“荷主”はB社であり、つまりは同じトラック運送業者ということになる。ちなみにメーカーや卸など本当の荷主を指して「真荷主(しんにぬし)」と表現することも少なくない。

 問題はここだ。運送事業者から「荷主がちゃんとした運賃を払ってくれない」「荷主が値上げに応じてくれない」といった話をよく耳にする。

 では、彼らが言うところの“荷主”とは一体誰なのか。ちゃんとした運賃を払ってくれないのは、実は彼らに仕事をまわしている元請の同業者なのかもしれない。業界の多層構造を考えるとき、少なくとも「真荷主」と「トラック運送事業者」という二元的な構図だけでは“真実”が見えてこないことは確かだ。

 協議会での議論もここにきて「真荷主との取引関係だけでなく、業界の多層構造について光を当てるべき」との意見が出ている。確かに将来にわたってトラック運送業界が健全に発展していくためには、この多層構造がもたらす問題から目をそらすことはできない。

 だが、その一方で改めて注意しなければならないのは、「結局のところ、課題はトラック業界内の“富の分配”のあり方だ」「所詮、トラックというコップの中の嵐だ」と問題を矮小化してしまうことである。

 トラック運輸産業に様々な構造問題があることは事実だが、一方で荷主産業界はトラックの近代化を可能にするほどの対価、言い換えれば“再生産を可能とする運賃”を払ってきただろうか。

 バブル崩壊以降のデフレ環境下で、荷主産業界は総じて「モノ運び」という機能をいつでも代替可能なものとして使い捨ててきたのではないか。大胆な表現を許してもらえるならば、現在の「モノを運べない危機」は、荷主産業界が自らの過去に“復讐”されているとも言えるのではないだろうか。

 荷主産業界は「モノ運び」という大事な機能を将来にわたって失わないためにも、いま一度、トラックとの”互恵関係”について戦略的に考えるべきであろう。

 

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