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アベノミクスは、明るい未来をもたらすのか?(写真:ロイター/アフロ)
アベノミクスは、どうなる?(下)― アベノミクスの成否が日本経済の分岐点になるか ―
http://bylines.news.yahoo.co.jp/tsudasakae/20160922-00062461/
2016年9月22日 16時46分配信 津田栄 | 皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト
■日本経済の問題点
日本経済の問題は、前回(アベノミクスは、どうなる?(中)−問題はどこにあるのか−)で書きましたが、03.%程度という低い潜在成長率にまで低下していることにあります。それ故に、アベノミクスが実施する際に、この問題を理解し、それを解決するにはどの政策を採るべきかを検討し選択することが前提になります。そこで日本経済の問題への理解を欠き、優先順位を間違えた経済政策を行えば、期待した経済の回復につながらないことになります。アベノミクスは、果たして日本経済の問題を解決し、期待した効果を出している経済政策と言えるのでしょうか?
■経済政策の基本は三つ
そもそも、経済政策は、基本的に三つの政策から成り立っています。それは、成長政策、安定化政策、再分配政策です。成長政策は、潜在成長率を上げて、経済力を高める政策です。一方、安定化政策は、現実の経済成長率が潜在成長率を下回った場合(景気低迷もしくは不景気)に、潜在成長率に近づけるように景気を刺激する政策です。再分配政策は、成長政策や安定化政策で経済的に不利益を受けた人たちに経済的な支援を行って、不利益の緩和・縮小を行う政策です。
この三つの政策は、それぞれ政策目標が異なるために、一つの政策で達成することも、また限られた予算のなかで同時に各経済政策を行って各経済目標を達成することも難しいと言えます。もちろん、一つだけとか二つの政策だけでは、必ず問題が起きます。小泉政権時では、構造改革や規制緩和などの成長政策を重点的に行って再分配政策にはあまり配慮しなかったために、弱者切り捨て、格差拡大と言われて、国民の批判を受けました。その影響で旧民主党政権が誕生したのですが、旧民主党政権は、逆に子ども手当などの再分配政策を中心に実施したために、潜在成長率の低下につながり、さらにGDPギャップ(経済全体の総需要と供給力の差)が、供給力に比して総需要の減退が続いたために、拡大し、需要の縮小からデフレが進行して国民生活を苦しめました。どれも一つの政策目標に据えた経済政策であったため、他の政策目標が上手くいかなかったと言えます。
したがって、経済政策は、成長政策と安定化政策と再分配政策の三つの経済政策を、経済の実情に合わせて、どの政策を優先させるかを決めたうえで、他の政策目標にも配慮してバランスのとれた組み合わせを図ることが肝要かと思います。
それでは、今の日本には、どのような経済政策が採られるべきかというと、前にも話しましたが、日本経済の根本的な問題は、0.3%程度まで落ちてしまった潜在成長率ですから、これを引き上げないことには、安定化政策も再分配政策も行えないことになります。そこで、まず成長政策を優先的な政策とし、当然その過程で経済が不安定化する場合がありますから、安定化政策を絡ませて経済の落ち込みを回避し、一方で不利益を受ける人たちには再分配政策でそれを緩和するということで行うべきといえます。
■アベノミクスは・・・
アベノミクスは、個人的には、2012年閉塞感にあった日本経済の状況にあっては、そこから抜け出すために必要な政策であって、評価できるものと言えます。しかし、経済政策の基本から見て、第1の矢の大胆な金融政策も、第2の矢の財政出動も、安定化政策です。もしある程度の潜在成長率があって実際の成長率がそこに届かず景気が低迷しているのであれば、こうした安定化政策も有効ですが、現実には潜在成長率が低いことから需要が伸びず、デフレ気味の低成長にあることを考えると、第3の矢の成長戦略を優先して実行されるべきということになります。もちろん、需要が落ち込んでいる中で、安定化政策でも、低迷した需要を刺激し、一定の成長を達成できますが、潜在成長率が低いままでは、結局短期間の効果しかないということになります。ただ、この間に不利益を受ける人たちへの目配りとしての再分配政策も検討しておくべきでしょう。
しかし、安定化政策だけでは、潜在成長率を引き上げ、新たな需要を生んでデフレから脱却するのは難しいのに、実際には、アベノミクスの第1の矢の金融政策と第2の財政出動を数年間続ける一方、第3の矢の成長戦略では、期待した内容になっていない上に、経済特区などによる限定的で小手先の規制緩和や構造改革が進められてきただけで、日本経済は、一時的に回復したかのように見えても、一向に上向かないのは、当然と言えましょう。その意味でアベノミクスの経済政策の優先順位を変えない限り、期待したデフレの脱却も日本経済の復活も難しいと言えます。
それでは、日本経済の復活の条件となる潜在成長率を引き上げるための成長政策を考えますと、経済成長につながる三つの要素である労働力、資本ストック(設備等)、技術進歩のなかで、もはや人口減少、少子高齢化により労働力が日本の経済成長の要因にはなりえず、資本ストックである設備等をいかに増やすか、そして技術をいかに進歩させるかが重要と言えましょう。これが実現するには、自由競争を促すように制度に作り変えることが必要となります。
そのためには政府の関与をできるだけ排除し、税制優遇や規制緩和、自由化により市場を通じて競争を促進させることが求められると言えます。政府が、特定の産業を優遇するような政策を成長政策と言いますが、それはあくまで産業政策であって経済政策とは言えません。基本的には、成長政策は、政府が関与できるような規制を緩和し、これまでそうした規制によって作り上げられてきた経済構造を改革することであるといえます。
一方、成長政策では、経済が不安定になることを考えると、アベノミクスの第1の矢の大胆な金融政策と第2の矢の財政出動である安定化政策は間違っていませんが、その内容において問題があると言えます。財政政策と金融政策を基本とする安定化政策では、もはや成熟した経済において、財政出動による公共事業が乗数効果の低下から景気を回復させる力が小さくなっていますから、財政政策は、その役割が小さいということになります。このことは、1990年代以降バブル崩壊後の長期経済低迷期に多額の財政出動による公共事業を繰り返してきて膨大な財政赤字を生み出した割に経済にあまり効果がなかったことからいえます。むしろ金融緩和による景気刺激策のほうが経済全体に効果が出てきますから、安定化政策は、金融政策に中心をおいたほうがいいということになりましょう。当然、成長政策や安定化政策により不利益や格差が生まれますので、それをできるだけ緩和させて、経済成長や安定化政策による利益を分配させる再分配政策として、セーフティーネットを用意しておけば、万全であったと言えましょう。
そういった意味で、アベノミクスは、経済政策としては評価できますが、その実行において安定化政策を優先して、成長戦略を進めていないことに問題があり、また成功していない理由があると言えます。そして、もし第3の矢の成長戦略を中心に潜在成長率の引き上げを優先的に行い、その間第1の矢の大胆な金融政策を中心とする安定化政策で経済を支えていくことをすれば、もちろん、第2の矢の財政出動も行えば少しは効果がありましょうが、それも一回限りに止めて財政赤字の拡大を抑えていれば、日本経済は、もっと改善していたと言えるのではないでしょうか。その点で、安倍首相は理解していて、先日、潜在成長率引き上げのために一層の構造改革を徹底するように言ったのは正しいのですが、行動につながっていないのは残念です。
さらに問題になるのは、アベノミクスで上手くいかないまま、時間を浪費してしまうことが、日本経済を一段と劣化させ、潜在成長率をもっと引き下げてしまうことです。今日本が将来不安を感じて消費に向かわず、需要を生み出せていないのは、将来の日本経済の成長への期待が薄れているからだと言えますが、それが時間の経過とともに増幅してしまえば、取り返しがつかなくなってしまいます。
その点で、アベノミクスの優先順位を変え、第3の矢の成長戦略を中心に、大胆で抜本的な規制緩和と構造改革を早急に進めることが求められているのではないでしょうか。そして、日本にはあまり時間が残されていない状況の中で、日本経済を復活させるには、アベノミクスが成功することが重要です。しかし、今まで通りのやり方を変えないで、このまま安定化政策だけをしていれば、日本の経済の衰退は決定的になるのではないでしょうか。その意味で、アベノミクスの成否は、日本経済の分岐点になるのではないでしょうか。
■最後に
多くの人は、日本経済の回復を期待していますが、今アベノミクスが行われても、期待の持てる明るい未来が待っていると思っている人が少ないのではないでしょうか。そのため、将来不安が消えず、需要が伸びないことで物価が低迷して、経済が思うように回復しないといえます。
アベノミクスが目指す日本経済の復活が昔のような活気のある姿であれば、それに戻ることは、もはや経済環境が違いますから、とても難しいでしょう。これから、アベノミクスを含めて経済政策を行う上で求められるのは、国民に、成長戦略によって、その先にある日本として将来のあり方や姿を示し、明るい未来を見せて、自信を持たせることではないでしょうか。
津田栄
皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト
1981年大和証券に入社、企業アナリスト、エコノミスト、債券部トレーダー、大和投資顧問年金運用マネジャー、外資系投信投資顧問CIOを歴任。村上龍氏主宰のJMMで経済、金融について寄稿する一方、2001年独立して、大前研一主宰の一新塾にて政策立案を学び、政府へ政策提言を行う。現在、政治、経済、社会で起きる様々な危機について広く考える内閣府認証NPO法人日本危機管理学総研の設立に参加し、理事に就任。2015年より皇學館大学特別招聘教授として、経済政策、日本経済を講義。
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