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金融マン・経営者必読! 銀行が生き残る唯一の方法を教えよう 現実から目を背けるな
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49573
2016.9.22 橋本 卓典 共同通信社経済部記者 現代ビジネス
■これは時代の転換点ではないか?
「本を書いて欲しい」――。
執筆の依頼を受けたのは昨年10月だったかと思う。筆者の畏友でフリーの記者タカシさんと編集担当者のキドコロさんが職場近くに来られた。お互い手の内を探り合うような何とも言えぬ緊張感が漂う中、まだまだ荒削りな問題意識の擦り合わせをしたのを思い出す。
筆者のように長く金融業界を取材していれば、銀行の関係者がどれほど金融庁の考えや方向性に神経を張り巡らしているかは、手に取るように分かる。それほどまでに監督官庁である金融庁は銀行にとって絶大な存在なのだ。
そのため、なぜ多くの銀行の取引が格付けの良い一部の顧客にだけ低金利融資で殺到するというおかしなものに変質してしまったのかを金融史という観点から整理し、折しも不良債権処理時代の象徴である「金融検査マニュアル」を捨て去ろうとしている金融庁の内幕を書けば、少なくとも銀行の関係者は見て見ぬふりはできないはずだという確信はあった。
しかし、そうしたややこしい金融の話とは無縁のはずの出版社が理解してくれるだろうか、興味を示してくれるだろうか――。そんな漠然とした不安が拭い切れないでいた。
おぼろげな記憶だが、カタカタとノートパソコンに筆者の話を打ち込んでいくキドコロさんに筆者は熱弁を振るった。
「検査マニュアルと営業ノルマでがんじがらめに縛り付けられた銀行員は、お客の事業ではなく、その担保や保証しか見なくなってしまったのです。
結果、お客が倒産や廃業で従業員がちりぢりになって、たとえ地元を離れることになっても、自らの銀行の保全のことしか考えない。それが、人口減少が深刻化していく地方の、銀行の実像なんです。
健全な銀行をつくることばかりを目指してきた金融庁もそこを転換する問題意識を持たなかった。これで地域活性化が成ると思いますか?」
編集者というのは実に面白い生き物で、筆者の問題意識をたちどころに理解した上で、「生々しく、息遣いある人間の物語を盛り込んでくださいよ」と筆者に的確なアドバイスをしたのには舌を巻いた。
「田舎の銀行の話なんか売れるのか」という社内の冷たい視線もあったかもしれないが、少なくとも『捨てられる銀行』(講談社現代新書)はこうした縁の下の力持ちの存在があって日の目を見ることができたのは間違いない。しかも、10万部を超えるとは、嬉しい限りだ。
よく聞かれるが、筆者が地域金融の取材を始めたのは2015年2月からだ。それまでは地域金融とはほとんど関わりを持たなかった。それだけに「大手地銀が進んでおり、それ以外は遅れている」といった妙な偏見も一切持たなかった。
むしろメディアや金融庁の会議で取り上げられる地銀が、常に地銀上位行であることに、「本当に地方で起きている革新や変革を捉えられているのか?」と、ある種の胡散臭さすら感じていた。
取材を開始した時点で、安倍政権は地方創生を重要テーマに掲げており、金融庁長官に昇格することが確実視されていた森信親監督局長(当時)がどのような問題意識で取り組んでいくのかが最大の焦点だった。
取材をしてみると不思議な感覚にとらわれた。「これは時代の転換点なのではないか」という思いが湧いてきたのだ。
■現実から目を背けてはいけない
2015年7月に森長官が誕生し、ある時点の金融機関の健全性だけを求めてきた「検査マニュアル」を捨て去り、真のリスクを直視するための「新たな検査監督体制」を模索することが明確に打ち出された。
広島銀行から日下智晴氏を一本釣りして地域金融企画室長に抜擢し、30年に亘って地域金融を見続けてきた第一人者の多胡秀人氏を招聘した有識者会議を設けた。
監督業者である銀行に話を聞くのではなく、銀行を飛び越えて、その先の取引事業者に直接、銀行との取引実態を聞きに行くという前代未聞の施策を打ち出したのだ。批判や異論も大いにあったが、金融庁の変わろうとする覚悟と本気度がうかがえた。
「森長官が辞めたら元に戻るんじゃないの?」「金融庁の下の連中がついてこないんじゃないの?」――。
歴史の転換点では、常に出てくるネガティブな意見だ。現状肯定派というか、慣例が変わることを認めたくないという思いから出る声だ。
しかし、立ち止まって思い出してみたい。
1999年の検査マニュアル導入で徹底的な保全ありきの金融に秩序化されたこと、2008年のリーマン・ショックで世界の金融規制が一変し、投資銀行による収益追求モデルが崩壊したこと、2011年の東日本大震災で日本のエネルギー政策が一変したこと。後から振り返ると「あれが歴史の転換点だった」というタイミングが必ずある。
その潮流の中で我々は生きている限り、パラダイムシフトが起こりつつあることを受け止めなければならない。受け止めなくてもいずれ、現実から目を背けられなくなる。それからでは遅いのだ。
森金融庁は「銀行が永続的な成長を目指すならば、何よりも顧客基盤の成長、活性化にも責任を持たなければならない。それこそが真の健全性だ。そのためには財務や収益だけで金融庁が銀行を判断するのも、銀行が取引企業を判断するのも間違っている。
銀行は取引先の事業や将来性を深く理解し、これまでのような“貸しさえすれば良い”ということだけではなく、本業支援にも本気で取り組むべきだ。そして金融庁はそうした銀行のビジネスモデルを深く洞察する行政に転換しなければならない」と言っているに過ぎない。
画一的な形式を重視する金融検査マニュアル時代に戻るはずだとかといくら固執したところで、どちらが理にかなっているかは自明だ。人口減少社会において、これまで通りの、顧客を見ずに自らの保全だけを見る金融でこの先良くなるとの考えは、誰もがおかしいと感じるはずだ。
大変革には、想定外の問題や修正は付きものだ。銀行界に限らず、いち早く時流の先を読んで、先手を打って動く人や組織こそが「先行者メリット」を享受することができる。
そして一度動き始めた時流はそう簡単には元には戻らないことも我々は知っている。
■どん底からの挑戦
本書で何を読者に伝えたかったのか。いくつかのポイントがある。わずかだが紹介したい。
一つは、いかに人間は愚かで過ちを犯しやすい生き物かという永遠のテーマだ。
不良債権問題の抜本的な解決という重大テーマを帯びた金融庁は金融検査マニュアルを振りかざし、徹底的な資産査定に挑み、反論をねじ伏せ、勝利した。当時の大蔵省がスキャンダルにまみれ、不良債権問題に対処できなくなっていたことを踏まえれば、金融庁の不良債権処理は行政史においても評価されるべきものだ。
しかし、金融検査マニュアルに従順な銀行を磨いていく過程で、貸し渋り解消のため国策として拡充された信用保証制度の100%保証に、銀行が「究極の保全」目的でこぞって飛びつき、それを金融庁も是認し続けた辺りから銀行がおかしくなっていった。
信用力のない企業だからこそ保証付き融資が必要なのだ。にもかかわらず、銀行は信用保証協会に「病人」の企業を担ぎ込んで、100%保証付き融資で自らの貸出残高を積み上げるだけ積み上げ、あとは企業の経営改善に取り組むこともなく、ただ見て見ぬふりをした。銀行に取引先の事業の目利きを期待できなくなったのもこの頃からだ。
いまだにこの悪弊は連綿と続いている。銀行員をダメにしている。
企業の経営が失速して破綻すれば、銀行は保証協会の代位弁済で融資の100%を回収して取引は終了。残された保証協会は延々と返済を迫り、回収できない分は最終的に我々の税金につけまわされてきた。
検査マニュアル、信用保証制度、金融庁、銀行という負の循環、構造的問題を断ち切ることができないまま今日に至った。なぜか。「不良債権処理」、「貸し渋りの解消」という正しい問題意識の下で始められたからだ。
よかれと思って始めた改革に副作用があり、のちに副作用が肥大化した場合は、人間はなかなか立ち止まることはできない弱さがあるということを、読者と一緒に考えたかったのだ。
そして、もう一つ金融に関係のない読者にも受け取っていただきたかった筆者の思いは、この本に登場するのが、いずれも挫折や苦境を乗り越えてきた人間や金融機関ばかりということだ。「人生負け知らずの超エリートが大成功を収めてます」という物語を読まされて、心を揺さぶられる読者はいない。
地域金融の改革の原動力、推進力となっているのは、どん底の状態から這い上がってきた人間の力だ。
いま一つ。本書『捨てられる銀行』は既に過去の話だと言える。動き出した金融庁の大改革、金融史から見た地域金融、なぜ銀行員がダメになったのか、それでも地方で革新を起こしている銀行はないのかを中心に書いた。問題は、ここから先、改革の行方はどうなるのか、なったのかだ。
「このタイトルは大げさだよ」というお声もいただいた。しかしながら、むしろ筆者は、銀行が「捨てられる」どころでは済まないのではないかと、森金融庁が挑む改革の本気度に戦慄し始めている。
「顧客本位とかそんな甘いもので経営はできない」と斜に構えて見るのは大いに結構。しかし、地域金融の先には人の生活があり、生業があり、ぬくもりや夢があることにも思いを馳せてほしい。
単なる批評からは何も生まれない。困難な問題に立ち向かう行動する人たちに、我々はどういう声を掛けてあげられるのだろうか。
「金融検査マニュアル」は廃止、地域の顧客にリスクをとれない銀行は消滅する!新しいビジネスモデルが求められる時代に生き残る銀行とは?金融マン、経営者必読のスクープレポート!
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