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単身世帯の増加と金融機関に期待される役割 未婚化を社会は支えられるか 「デス・カフェ」で終末期医療を考える
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投稿者 軽毛 日時 2016 年 9 月 18 日 12:02:54: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

単身世帯の増加と金融機関に期待される役割
• *本稿は、『季刊 個人金融』 2016年夏号(一般財団法人ゆうちょ財団、2016年8月発行) に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。
みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦
【要旨】
今後日本では、50代・60代の単身男性と80歳以上の単身女性が急増するとみられている。特に、2030年の80歳以上の単身女性は、2010年の2倍になり、256万人と推計されている。また、未婚の一人暮らし高齢者も急増していく。


高齢単身世帯の増加は、経済的に困窮する人の増加、介護需要の高まり、社会的に孤立する人の増加、判断能力が不十分な身寄りのない高齢者の増加、などをもたらして社会に大きな影響を与えるだろう。また、平均的にみて高齢世代は現役世代よりも金融資産を有しているので、高齢単身世帯の増加によって、金融機関も大きな影響を受ける。こうした中、金融機関に期待される役割としては、単身世帯に対する家計・資産のアドバイザリー機能の強化、判断能力が低下した高齢者の財産保護、単身世帯の介護・生活リスクに対応できる金融商品の開発、などがあげられる。


今後の課題の一つとしては、金融機関が地域の他の機関と連携しながら、どのように高齢単身世帯への見守り機能を果たすかという点があげられる。
はじめに
日本では、単身世帯が増加している。増えているのは、若者の一人暮らしではない。配偶者と死別した高齢者の一人暮らしや、未婚の中高年男性の一人暮らしが増加している。
結婚をして同居家族がいることを「標準」としてきた日本社会において、単身世帯の増加は、社会に大きな影響を与えていくと考えられる。これは個人の生き方や家族のあり方が多様化したことの反映であり、けしてネガティブな面ばかりではない。しかし一方で、これまで同居家族の助け合いが生活保障の大きな役割を果たしてきたので、単身世帯の増加に伴って、生活面のリスクに社会としての対応を考えていく必要がある。また、平均的にみて高齢世代は現役世代よりも金融資産を有しているので、高齢単身世帯の増加は、金融機関にも大きな影響を与えることが考えられる。換言すれば、高齢単身世帯の抱えるリスクに対して、金融機関に期待される役割も大きい。
そこで本稿では、単身世帯の増加の実態とその要因を見た上で、単身世帯の増加が社会に与える影響として、経済的困窮者の増加、介護需要の高まり、社会的に孤立する人の増加、判断能力が不十分な身寄りのない高齢者の増加、といった点をみていく。その上で、金融機関に期待される役割を考察していく。
1. 単身世帯の増加の実態と将来予測
まず、単身世帯(一人暮らし)の増加の実態と将来推計をみていこう。2010年現在、全国の単身世帯数は1678万世帯にのぼり、総人口の13.1%、全世帯数の32.4%を占めている(*1)。「標準世帯」といわれる「夫婦と子供からなる世帯」の全世帯に占める割合が27.9%なので、「単身世帯」は「夫婦と子供からなる世帯」を抜いて、構成比の最も高い世帯類型となった。
そして2030年になると、単身世帯数は1872万世帯(2010年対比で11.6%増)となり、総人口の16.1%を占めるとみられている。全世帯に占める単身世帯の割合は36.5%となり、「夫婦と子供からなる世帯」の割合(24.0%)を大きく上回っていくと推計されている(*2)。
注目すべきは、今後、年齢階層ごとの単身世帯数の増減が大きい点である。具体的には、2010年現在、男性で最も多くの単身世帯を抱えているのは20代である(図表1)。20代で単身世帯が多いのは、進学や就職などを機に親元を離れて一人暮らしを始める若者が多いためだ。そして30代以降、年齢階層があがるにつれて、単身世帯数は減少していく。これは、結婚をして二人以上世帯となるためである。
一方、女性をみると、20代のみならず70代でも単身世帯が多い。70代で単身世帯が多いのは、女性の平均寿命が男性よりも長いので夫と死別して一人暮らしをする女性が増えるためである。
しかし、2030年の男女別・年齢階層別の単身世帯数は、2010年の状況とは一変する。具体的には、2030年の20代の単身世帯数は、少子化の影響を受けて男女共に大きく減少していく。その一方で、2030年に男性で最も多くの単身世帯を抱える年齢階層は50代となる。また、女性で単身世帯が最も多いのは80歳以上であり、256万世帯にもなる。80歳以上の単身女性数は、2010年の2倍の水準にのぼるとみられている。
図表1 男女別・年齢階層別の単身世帯数

(資料)2010年は総務省『国勢調査』(実績値)。2030年は国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計(全国推計)』(2013年1月推計)による将来推計に基づき、筆者作成。
2. なぜ単身世帯は増加していくのか
では、なぜ50代男性や80歳以上女性で単身世帯が増加していくのか。50代男性で単身世帯が増加していく最大の要因は、未婚化の進展である。50歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合を「生涯未婚率」と呼ぶが、男性の生涯未婚率は85年まで1〜3%台で推移した後、90年以降、急激に上昇を始め、10年には20.1%となった。そして30年になると、男性の生涯未婚率は27.6%になると予測されている。ちなみに、女性の生涯未婚率も上昇しているが、男性ほど高い水準ではない。女性の生涯未婚率は10年の10.6%が2030年には18.8%になると推計されている(*3)。
一方、80歳以上の高齢女性で単身世帯が増加していくのは、2030年に「団塊の世代」が80歳以上になり、80歳以上人口が増加することと長寿化の影響が大きい(*4)。また、配偶者と死別した高齢女性が子供と同居しない傾向が続くことも一因と考えられる。実際、夫と死別した80歳以上女性のうち、子供と同居する人の割合は、95年の69.7%から2010年には52.4%まで低下した(*5)。たかだか15年間で、配偶者を失った老親と子の同居率が17%ポイントも低下している。今後もこの傾向は続くことが予想される。
そして、中高年の未婚化の進展に伴って、今後未婚の高齢者の増加も予想される。具体的には、65歳以上の未婚者は、2010年の120万人が2030年には314万人になるとみられている。実に2.63倍の増加である。特に、高齢男性で未婚者の増加が著しく、3.56倍にもなる(図表2)。こうした未婚の高齢者の多くは、一人暮らしになる可能性が高い。未婚の高齢単身者は、配偶者と死別した高齢単身者とは異なり、配偶者のみならず子供もいないことが考えられる。老後を家族に頼ることが一層行いにくくなることが予想される。

図表2 男女別にみた高齢単身者数と高齢未婚者数の増加―2010 年と2030 年の比較
男性 女性
2010年 2030年 倍率 2010年 2030年 倍率
65歳以上人口[1] 1,247 1,578 1.26倍 1,692 2,107 1.24倍
単身者数[2]
([2]/[1] %) 146
(11.6%) 243
(15.4%) 1.66倍 352
(20.8%) 486
(23.1%) 1.38倍
単身者数[3]
([3]/[1] %) 50
(4.0%) 178
(11.3%) 3.56倍 70
(4.1%) 137
(6.5%) 1.96倍
(単位:万人)
(資料)2010 年は総務省『国勢調査』(実績値)。2030 年は国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計(全国推計)』(2013 年1 月推計)による将来推計に基づき、筆者作成。

3. 単身世帯の増加が社会に与える影響
では、単身世帯の増加は社会にどのような影響を与えるのか。様々な影響が考えられるが、以下では、高齢単身世帯の増加による影響を中心に、経済的に困窮する人の増加、介護需要の高まり、社会的に孤立する人の増加、判断能力が不十分な身寄りのない高齢者の増加、を取り上げていく。
(1)経済的に困窮する人の増加
第一に、単身世帯の増加に伴って、貧困に陥る高齢者の増加が懸念される。貧困を測る指標としては、所得をベースにした「相対的貧困率」を用いることが一般的である。相対的貧困率とは、所属する世帯の可処分所得から世帯規模を調整した「等価可処分所得」を算出した上で、同所得の中央値の50%(貧困線)未満で生活する人々の割合を示す。ちなみに、厚生労働省『平成25年国民生活基礎調査』によれば、2012年の貧困線は122万円であり、これに満たない人の割合が相対的貧困率となる(*6)。
2012年の高齢単身世帯の相対的貧困率をみると、男性29.3%、女性44.6%である。同年の高齢者全体の貧困率が男性15.1%、女性22.1%なので、高齢単身男女の貧困率は、各々高齢者全体の2倍程度の高い水準になっている。他の世帯類型と比べても、単身世帯の貧困率が最も高い(図表3)。
では、なぜ高齢単身世帯では相対的貧困率が高いのだろうか。第一に、高齢単身世帯では、老齢基礎年金(あるいは旧国民年金)のみを受給し、厚生年金や共済年金といったいわゆる「公的年金の二階部分」を受給しない高齢者の比率が高いことがあげられる。図表4は、高齢単身世帯の男女と高齢夫婦世帯について、厚生年金・共済年金(遺族厚生年金、遺族共済年金を含む)の受給の有無を尋ねたものである。世帯として厚生年金・共済年金を受給していない人の割合は、夫婦世帯では1.7%なのに、単身男性では7.8%、単身女性では14.7%の人が厚生年金・共済年金を受給していない。そして、厚生年金・共済年金を受給しない単身世帯の公的年金受給額は、それらを受給する単身世帯の受給額の3分の1程度の水準になっている(前掲、図表4)。
それでは、基礎年金のみを受給する高齢単身世帯とは、どのような人々なのだろうか。まず、自営業や農業従業者であった人が廃業して高齢期に一人暮らしをすれば、公的年金は基礎年金のみで生活していくことが想定される。また、現役時代に非正規労働に従事していた未婚者も、未婚のまま高齢期を迎えれば、公的年金としては基礎年金のみを受給することになる。こうした人々は、貧困に陥りやすいことが考えられる。
第二に、無年金者は公的年金を受給できないために、貧困に陥る可能性が高い。公的年金を受給するには、受給資格期間として「保険料納付済み期間」と「保険料免除・猶予期間」などを合算して25年を満たすことが必要である。この期間を満たさないと無年金者となり、公的年金を受給できない。厚生労働省『平成25年国民生活基礎調査』(2013年)において、「65歳以上の者のいる世帯」のうち「公的年金・恩給受給者のいない世帯」の割合をみると、夫婦のみ世帯では2.9%なのに、単身男性の9.7%、単身女性の4.7%が無年金者になっている。単身男性における無年金者の割合は、他の世帯類型と比較して著しく高い。
第三に、現役時代の賃金が低いことや、就労期間が短いことが考えられる。図表4(前掲)に示されている通り、厚生年金・共済年金を受給する単身世帯であっても、単身男性では28.9%、単身女性では45.0%が世帯年収150万円未満となっている。厚生年金や共済年金の給付水準は、現役時代の賃金水準や就労期間の影響を受ける。賃金が低かったり、就労期間が短かったりすれば、それに応じて公的年金の給付水準も低下する。
図表3 世帯類型別にみた高齢者の相対的貧困率(2012年)

(資料)阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006、2009、2012年」貧困統計ホームページにより、筆者作成。

受給者に占める
構成比(%) 公的年金受給額
(万円) 世帯収入
(万円) 世帯収入150万円未満の世帯の割合(%)
厚生年金・共済年金の有無 (注1) あり なし あり なし あり なし あり なし
単身男性 92.2% 7.8% 187.1 60.3 245.3 119.8 28.9% 80.8%
単身女性 85.3% 14.7% 151.8 53.8 181.3 73.9 45.0% 91.7%
夫婦世帯 93.9%
(注2) 1.7%
(注2) 216.2
(注3) 99.6
(注3) 298.6
(注4) 196.7
(注4) 10.3%
(注5) 58.1%
(注5)
図表4 世帯類型別にみた公的年金の受給状況(2012年)
(注)
1. 調査対象は、厚生年金および国民年金の受給者23,000人(有効回答数13,495件、回収率58.7%)。
2. 夫婦世帯では「あり」「なし」を合計しても100%にならない。これは、「有無不明」が4.4%(224件)あるため。
3. 夫婦世帯の年金額や世帯収入は、世帯員数の平方根で除した「等価所得」を示した。原数値は「あり」(305.7万円)、「なし」(140.8万円)。
4. 上記3と同じ。 原数値は「あり」(422.3万円)、「なし」(278.3万円)。
5. 夫婦世帯では200万円未満(等価所得ベースで141万円未満)の世帯割合を示した。
(資料)厚生労働省『老齢年金受給者実態調査』(2012年)により、筆者作成。
(2)介護需要の高まり
第二に、介護需要の高まりである。単身世帯は同居家族がいないので、要介護となった場合に同居家族に頼ることができない。実際、介護を必要としている単身世帯に対して「主たる介護者」を尋ねると、「事業者」が4割強を占め、最も高い(図表5)。残りは、「子」「子の配偶者」などの別居家族が「主たる介護者」となっている。
これに対して、「夫婦のみの世帯」「三世代世帯」では、「配偶者」「子」「子の配偶者」などが「主たる介護者」になっていて、事業者は1割にも満たない。今後、高齢単身世帯の増加に伴って、事業者が提供する介護サービスへの需要が高まっていくだろう。
問題のひとつは、こうした介護需要に対応できるだけの労働力を確保していけるか、という点である。現行のまま推移すれば、日本の生産年齢人口は2010年から2030年にかけて年平均で約70万人減少していくとみられている。一方、介護職員は、2012年度から2025年度にかけて年平均で約7万人増やす必要があると推計されている(*7)。生産年齢人口が大きく減少していく中で、これだけの介護職員を増やしていくことは容易ではないだろう。
図表5 世帯類型別にみた「主な介護者」の続柄―要介護者を抱える世帯を対象

(資料)厚生労働省『平成25年国民生活基礎調査』により、筆者作成。
(3)社会的に孤立する人の増加
第三に、社会的に孤立する高齢者の増加である。高齢世帯について世帯類型別に会話頻度をみると、「2週間に1回以下」と回答した人の割合は、夫婦のみ世帯では、男性4.1%、女性1.6%なのに対して、単身世帯では男性16.7%、女性3.9%となっている。つまり、高齢単身男性の6人に1人が2週間に1回以下しか会話をしていない。
また、先述の通り、今後、未婚の高齢単身者の増加が予想されているが、未婚の高齢単身者は様々なサポートについて「頼れる人がいない」と回答する人の割合が高い。例えば、「病院の付き添いや送り迎えなどを頼みたい相手」を尋ねると、高齢単身者全体では18.8%が「あてはまる人はいない」という回答しているのに対して、未婚の一人暮らし高齢者に限ると男性は31.1%、女性は22.5%の人が「あてはまる人はいない」と回答している。また、「心配ごとや悩み事を相談したい相手」を尋ねると、「あてはまる人はいない」という回答は、高齢単身者全体では16.8%なのに、男性は34.5%、女性22.5%と同様に高い水準にある(*8)。先述の通り、未婚の一人暮らし高齢者は、配偶者のみならず、子どもがいないことが考えられるので、頼りになる家族が身近にいないことの影響が大きいと推察される。
(4)判断能力が不十分な身寄りのない高齢者の増加
第四に、認知症などによって判断能力が低下した身寄りのない高齢者の増加である。身寄りのない一人暮らし高齢者が、判断能力が不十分になった場合、預貯金などの財産管理や介護事業者や病院と契約を結ぶなどの身上監護にどのように対応していけばよいかが大きな課題になる。家族がいれば、家族が財産管理などを自動的に代行するが、一人暮らし高齢者の中にはこうした代行者がいない可能性がある。
では、一人暮らしの認知症高齢者は、どの程度増えていくのだろうか。まず、2012年現在、認知症高齢者は462万人(高齢者総数に占める割合は15.0%)いると推計されている(*9)。そして、各年齢階層の認知症有病率が2012年と一定と仮定した場合、2030年の認知症高齢者数は744万人(同20.2%)になると推計されている。つまり、2030年の認知症高齢者数は、2012年の1.61倍になる。
65歳以上の一人暮らし高齢者においても、上記の認知症有病率と同じ確率で認知症患者が発生すると仮定した場合、認知症の一人暮らし高齢者数は、2012年の88.5万人が2030年には159.0万人へと1.80倍に増加していく。同様に、認知症の未婚の高齢者数は、2012年の14.8万人が2025年には35.6万人へと2.40倍になると予想される(*10)。未婚の一人暮らし高齢者は、「身寄りのない高齢者」になりやすく、判断能力が不十分になった場合の意思決定の代行が難しい。
この点、判断能力が不十分な人に対する財産管理や身上監護について、その人を保護・支援する「成年後見制度」が導入されている。成年後見制度には、「任意後見」と「法定後見」の2つの制度がある。任意後見は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が不十分となる場合に備えて、予め自らが選んだ代理人(任意後見人)に、財産管理や身上監護に関する代理権を与える制度である。一方「法定後見」は、既に本人の判断能力が低下している場合に支援する手続きであり、本人、配偶者、親族などが家庭裁判所に申し立てることによって、家庭裁判所によって選ばれた成年後見人が本人を保護・支援する。
しかし、認知症などのために判断能力が低下しても、身近に頼れる親族がおらず、家庭裁判所に成年後見の申し立てを行なえないケースがある。この場合、市区町村長が親族に代わって家庭裁判所に申し立てを行なうことができる。近年、市区町村長による申し立て件数が急増しており、2015年に市区町村長が家裁に申し立てた件数は5,993件(申し立て件数全体の17.3%)となった。これは、子による申し立て件数10,445件(同30.2%)に次いで高い水準だった。また、2014年(5,592件)と比べて、市区町村長による申し立て件数は7.2%の増加となっている(*11)。
市区町村長による申し立て件数の急増が示すように、今後、単身世帯の増加に伴って、判断能力が不十分な身寄りのない高齢者が増えていくことが予想される。

4. 単身世帯の増加に対して金融機関に期待される役割
では、単身世帯の抱えるリスクに対して、金融機関にはどのような役割が期待されているのであろうか。以下では、単身世帯の抱えるリスクに対して、金融機関がなしうることを考察してみたい。
(1)単身世帯に対する家計・資産のアドバイザリー機能の強化
第一に、単身世帯の家計や資産に対するアドバイザリー機能の強化である。単身世帯の家計や金融資産の平均値を二人以上世帯と比べると、現役時代の単身世帯は二人以上世帯よりも恵まれた状況にある。しかし、高齢期になると二人以上世帯よりも悪化する。金融機関が中高年の単身世帯などに助言することによって、生涯を見通して消費を平準化することなどが行なわれれば、高齢単身世帯の貧困予防の一助となるだろう。
具体的な家計・資産状況について、まず、単身世帯と二人以上世帯の年間収入(等価所得ベース)を年齢階層別に比較すると、単身男性の所得は50代まで二人以上世帯を上回り、60代以降になると、二人以上世帯の年収の方が高くなる(図表6)。また、単身女性の年収は40代までは二人以上世帯を上回っているが、50代以降になると二人以上世帯の年収を下回る。
また、金融資産を単身世帯と二人以上世帯で比較しても、同様の点を指摘できる。貯蓄現在高は、いずれの年齢階層においても二人以上世帯の方が高いが、二人以上世帯では、負債現在高も大きい(図表7)。このため、貯蓄現在高から負債現在高を差し引いた「金融資産」は、40代までは単身男女の方が二人以上世帯よりも高い。しかし、単身男性は50代以降、単身女性は60代以降、二人以上世帯の金融資産と逆転している。
では、なぜ現役世代の二人以上世帯では負債が多いのか。これは、二人以上世帯は単身世帯よりも持ち家率が高いため、住宅ローンを抱えていることが主因だと考えられる。具体的には、単身世帯と二人以上世帯で年齢階層別の持ち家率を比較すると、単身世帯の持ち家率は相当程度低い水準にある(図表8)。例えば、40代の単身世帯の持ち家率は、二人以上世帯よりも45.6ポイントも低い水準にある。このため、住宅ローンの返済終了時期にあたる60歳以降になると、二人以上世帯の負債現在高が減少し、二人以上世帯の金融資産が単身世帯を上回るようになる。
単身世帯と二人以上世帯の持ち家率が大きく異なる背景には、二人以上世帯では、結婚や出産などの世帯規模の拡大に合わせて住宅購入を検討する機会があるのに対して、単身世帯では未婚者を中心にこのような機会が乏しいことが考えられる。そして、単身世帯が高齢期になると、年金収入から家賃を捻出することになり、家賃負担が重くのしかかることが懸念される。
このように、単身世帯の家計や資産形成は、二人以上世帯とは大きく異なっている。単身世帯が持ち家を購入すべきかどうかは、一概にいえることではないが、将来を見据えた家計・資産の状況を考慮した上で決定すべきだと思われる。特に、家計支出を現役世代の単身世帯と二人以上世帯と比べると、世帯主年齢が35〜59歳の二人以上世帯は、消費支出の7.4%を教育費に支出しているのに対して、単身男女には教育費の支出がない(*12)。その分を将来に備えるなどの工夫の余地はあるだろう。
図表6 年齢階層別にみた単身男女と二人以上世帯の年収比較

(注)二人以上世帯の年間収入は、「年間収入/世帯人員の平方根」によって世帯規模を調整した「等価所得」である。
(資料)総務省『平成21年全国消費実態調査(家計資産編・純資産)』第4表、第18表により筆者作成。

図表7 単身世帯と二人以上世帯の貯蓄と負債(2009年)
30歳
未満 30代 40代 50代 60代 70歳
以上
単身男性 貯蓄現在高[1] 146 535 848 1,160 1,334 1,006
負債現在高[2] 46 226 547 477 145 32
金融資産
([1]-[2]) 101 309 302 683 1,189 974
単身女性 貯蓄現在高[1] 181 440 896 1,192 1,669 1,439
負債現在高[2] 13 126 328 108 33 36
金融資産
([1]-[2]) 168 314 568 1,085 1,636 1,404
二人以上
世帯 貯蓄現在高[1] 311 616 1,023 1,496 2,048 1,987
負債現在高[2] 349 878 949 569 263 127
金融資産
([1]-[2]) -38 -262 74 927 1,785 1,860
(単位:万円)
(資料)総務省『平成21年全国消費実態調査(家計資産編)』 第4表、18表より筆者作成。

図表8 単身世帯と二人以上世帯の持ち家率の比較(2013年)
30歳
未満 30代 40代 50代 60代 70歳
以上
二人以上世帯 19.1 50.1 69.9 81.3 87.0 88.5
単身世帯 2.9 10.8 24.3 38.2 53.8 68.4
男性 3.2 12.1 23.0 33.9 49.2 64.8
女性 2.5 8.7 26.7 45.6 58.7 70.0
(単位:%)
(注)
1. 二人以上世帯の年齢階層は、世帯主の年齢に基づく。
2. 持ち家率は、「持ち家の世帯数/ 主世帯数」で算出。
(資料)総務省『平成25年住宅・土地統計調査(確報集計)』(第39表、第59表)により筆者作成。
(2)判断能力が低下した高齢者の財産保護
第二に、身寄りのない高齢単身者が認知症になった場合の財産保護への支援である。先述の通り、認知症などのために判断能力が不十分な人を保護・支援する制度として、2000年に「成年後見制度」が導入された。
しかし、成年後見制度には様々な課題が指摘されている。そのひとつとして、後見人が高齢者の資産を着服したり横領するなど不正利用が指摘されている(*13)。
このような不正を防止するために、2012年に「後見制度支援信託」が始まった。これは、判断能力が低下した高齢者の財産のうち、日常的な支払いをするのに必要十分な金銭を預貯金として後見人が管理する。その一方で、通常使用しない金銭を信託銀行等に信託する仕組みである。信託された財産について払い戻したり、信託契約を解約するには、予め家庭裁判所が発行する指示書を必要とする(*14)。また、信託銀行等が受託者として善良なる管理者の注意義務のもとで管理するので、第三者による引き出しなどによって信託財産が損なわれることはない。
2012年に始まった「後見制度支援信託」は急速に広がり、2015年には6,563人の利用があり、信託された財産は約2109億円となっている。制度開始以来の累計利用者数は9,965人、累計信託財産額は3363億円に及んでいる(*15)。このように、資産の大きい高齢者の資産管理については、成年後見制度と信託制度の併用によって、不正を防止することが期待できる。
ただし、他方で課題も指摘されている。まず、地方において後見制度支援信託に対応した金融機関が少ないなどの問題が指摘されている。どこの地域においても、身寄りのない認知症高齢者は増加する可能性があるので、信託制度を利用できるように体制を整備する必要がある。また、それほど大きな資産を有するわけではない高齢者の財産保護に向けて、金融機関がどのような役割を果たしうるかは、今後の検討課題といえよう。
なお、認知症高齢者は、全国に476万人(2012年)いると推計されているのに対して、成年後見制度の利用者数は19.1万人(2015年末)に留まる。そのうち、「任意後見」は、2,245人(2015年末)に過ぎない(*16)。金融機関の関与によって、成年後見制度の安全性が高まり、活用促進につながることが期待される。
(3)単身世帯の抱える介護・生活リスクに対応できる金融商品の開発
第三に、単身世帯の抱える介護・生活リスクに対応できる金融商品の開発である。例えば、ある金融機関では、[1]認知症になった場合に備えて、予め金融機関に預けた資金を金銭信託で運用して定期的に生活費を支払うサービス、[2]認知症になった場合などに備えて、高齢者を成年後見人制度に取り次ぐサービス、[3]遺言書を作成して、死亡後に相続手続きを行なうサービス、を組み合わせた金融商品を提供している。
こうした金融商品を普及させていくと共に、単身世帯の老後不安の緩和に向けた一層の工夫も求められる。例えば、あるNPO法人では、高齢者と生活支援契約を結んで、生前の生活支援に加えて、死後の事務支援や、葬儀・納骨支援などを行なっている。成年後見制度は、本人の死亡と共に契約が終了するので、死後の葬儀などを依頼できない。この点、死亡後の遺産整理や葬儀などのサービスへの取り次ぎも含めれば、身寄りのない高齢単身者のニーズに応えていけるのではないか。しかも、金融機関が高齢者とNPO法人の間に入れば、第三者としてのチェック機能が働くので、健全な運営と信頼性の向上に貢献できる可能性がある。

おわりに
今後の課題の一つとしては、金融機関が地域の他の機関と連携しながら、どのように高齢単身世帯への見守り機能を果たしていくのかという点があろう。金融機関は、高齢者の資産を扱うことから高齢者と継続的な関係をもつことができる。その点で、高齢単身者の認知機能の低下や、生活困窮している状況などに早期に気づく場面が多いように思われる。
一方で、個人情報保護の観点から、本人の同意なしに、こうした情報を地域包括支援センターなどの地域の機関につなぐことが難しい。今後、高齢単身世帯が急増していく中で、こうした場合にどのような対応をとっていくべきか、金融業界として検討していく必要があるだろう。また、本人からの同意の取得の仕方なども研修などを通じて学ぶ必要があろう。
今後増加していく高齢単身世帯に対して、金融機関に期待される役割は大きい。新たな役割を考えていくことは、ビジネスチャンスに結びつくことにもなろう。
【注】
1. (*1)総務省『平成22年国勢調査』
2. (*2)国立社会保障・人口問題研究所(2013年)の将来推計。
3. (*3)将来推計は、国立社会保障・人口問題研究所(2013年)に基づき、筆者計算。
4. (*4)「団塊の世代」は1947年?1949年の時期に生まれた世代なので、2030年には81〜83歳となる。
5. (*5)総務省『国勢調査』1995年版と2010年版に基づく。
6. (*6)厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査の概況」(2014)p.8
7. (*7)厚生労働省(2011)における改革シナリオによる。
8. (*8)内閣府(2015:36,46)
9. (*9)二宮利治他(2015:12)
10. (*10)二宮利治他(2015:11)の有病率を用いて、2012年と2030年の高齢単身者数及び未婚高齢者数の将来推計に筆者が乗じて算出。
11. (*11)最高裁判所(2016b:4)。なお、10年前の2005年度は、市区町村が申した件数は666件であり、全申し立て件数の3.3%を占めるに過ぎなかった(最高裁判所(2006b:6)。
12. (*12)総務省『平成26年家計調査』(家計収支編詳細結果)参照。
13. (*13)成年後見人の不正は、2014年は831件(被害総額56.7億円)、2015年は521件(同29.7億円)だったという(『産経新聞』2016年5月2日朝刊)。
14. (*14)家庭裁判所(2011)、一般社団法人信託協会(2015)参照。
15. (*15)最高裁判所(2016a)に基づく。
16. (*16)最高裁判所(2016b)に基づく。
【参考文献】
• 上野千鶴子(2015)『おひとりさまの最期』朝日新聞出版
• 香川美里(2016)「FPが知っておきたい高齢者の財産管理に関する各種制度と留意点」『KINZAIフィナンシャル・プラン』2016年4月
• 家庭裁判所(2011)『後見制度において利用する信託の概要』2011年12月
• 上林里佳(2016)「判断能力が低下した高齢者との金融取引事例」『金融財政事情』2016年4月4日
• 厚生労働省(2011)『社会保障・税一体改革の「医療・介護にかかる長期推計」』2011年6月
• 国立社会保障・人口問題研究所(2013)『日本の世帯数の将来推計(全国推計)(2013年1月推計)』
• 最高裁判所(2016a)『後見制度支援信託の利用状況等について〜2015年1月から2015年12月』2016年
• 最高裁判所(2016b)『成年後見関係事件の概況〜2015年1月から2015年12月』2016年
• 最高裁判所(2006)『成年後見関係事件の概況〜2005年4月から2006年3月』2006年
• 一般社団法人信託協会(2015)『後見制度をバックアップ後見制度支援信託』2015年2月。
• 一般社団法人全国銀行協会(2012)『少子高齢社会における金融仲介サービスの役割―少子高齢社会に向けた金融機関の取組みについて【事例編】』2012年3月
• 内閣府(2015)『一人暮らし高齢者に関する意識調査』2015年3月
• 成本迅「医学からみた認知症高齢顧客の特徴とトラブル防止」『KINZAIフィナンシャル・プラン』2016年4月
• 二宮利治他(2015)『日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究―平成26年総括・分担研究報告書』(平成26年度厚生労働省科学研究費補助金特別研究事業、2015年3月
• 認知症施策に関する懇談会(2016)『認知症と共生する社会に向けて』2016年3月
• 藤森克彦(2010)『単身急増社会の衝撃』日本経済新聞出版社、2010年
• 法務省民事局(2015)『いざというときのために知って安心成年後見制度成年後見登録』2015年
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「デス・カフェ」で終末期医療を考える
2016年6月
未婚化を社会は支えられるか
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2016年3月
血縁を超え公的にも地域的にも支え合っていける社会に
―「単身急増社会」がもたらす影響とその対策―
『オムニ・マネジメント』 2015年12月号
その他
• 社会・経済・科学分野の書籍 単身急増社会の衝撃
http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/contribution/2016/kojinkinyu1608_04.html 


 

未婚化を社会は支えられるか
• *本稿は、『週刊東洋経済』 2016年5月14日号(発行:東洋経済新報社)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。
みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦
未婚者の増加に対して、「困ったものだ」「日本の将来はどうなっていくのか」という声を聞く。そこには、未婚者に対する批判が含まれていることも少なくない。
確かに、未婚者の増加が社会に与えるインパクトは大きい。筆者は仕事柄、公的年金制度の分析をしているが、年金制度の課題の多くは少子化が元凶といえる。たとえば年金の世代間格差も少子化が原因であり、どのような年金制度でも少子化が続けば世代間格差が広がることは避けられない。そして少子化をもたらす大きな要因が未婚化だ。
しかし、だからといって未婚者を批判するのはお門違いというものだ。結婚はあくまで私的な事柄であって、「社会のため」「年金のため」といった大義のために人は結婚するのではない。
むしろ考えるべきは未婚者が増える背景であり、本人の意思に反した未婚の増加で、社会の側に結婚を困難にする要因があるのならそれを取り除くことである。また生涯未婚者の抱える生活上のリスクへの対応も考えていく必要があろう。
まず、本人の意思に反した未婚化の要因として、非正規労働者の増加が挙げられる。男性の非正規労働者は、正規労働者に比べて未婚者の比率が高い。この背景には、賃金が低く雇用が安定しないため、結婚したくても難しい状況が推察される。特に、子供の教育費や住宅ローンの返済は大きなハードルになりうる。具体的には、教育費や住宅ローン返済額は年齢に伴って上昇し、40代後半から50代にピークを迎える(図表1)。一方、男性の非正規労働者の賃金を見ると、正規労働者より低いうえ、年齢を重ねてもほぼフラットに推移する。非正規労働者の自助努力だけで対応するのは難しく、社会の支援が必要だ。
また、今後を考えると、生涯未婚者が高齢期に一人暮らしとなった場合などに生活上のリスクが高まることが懸念される。現行の生活保障システムは家族の存在を前提としている面が強いのに対して、生涯未婚者は配偶者や子供がおらず、個人の備えだけでは対応が困難であると考えられる。具体的には、以下の三つのリスクが考えられる。
第一に、貧困のリスクである。未婚者が失業や病気で働けなくなれば、貧困に陥りやすい。結婚していれば配偶者が働くことで家計を支えることも可能だが、未婚者はそれができない。たとえば、2010年の国勢調査によると、50代未婚男性のうち無業者の割合は30.8%に上っており、この中には貧困に陥っている人が一定程度いるものと推察される。また、高齢者層では未婚者の貧困率が高い。高齢者全体の相対的貧困率は男性18.4%、女性24.8%だが、未婚男性は40%、未婚女性は47.4%と高い水準だ(内閣府「生活困難を抱える男女に関する検討会報告書」、10年)。
第二に、介護をめぐるリスクだ。未婚者が高齢期に一人暮らしで病気や要介護状態に陥った場合、その対応が難しい。単身世帯(未婚者のほか配偶者との離別・死別者を含む)が要介護者となった場合、主な介護者は誰かを見ると、事業者が42.7%を占め最大となっている。残りは子供などの別居家族である(厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査」)。この点、一人暮らしの未婚者は子供がいないため、事業者の比率は一層高まることが考えられる。生産年齢人口が減少していく中で、増えていく介護需要に対応できるだけの介護職員を確保していけるかは、社会の課題である。
図表1 教育・住宅の負担が重い
―雇用形態別の賃金水準と教育費・住宅ローン返済額の比較―

(出所) 総務省「家計調査」(2014年)、厚生労働省「賃金構造基本調査」(同)
社会保障の機能強化と非正規の処遇改善を
第三に、社会的孤立のリスクである。一人暮らし高齢者に「一緒にいるとほっとする相手」の有無を尋ねると23.4%が「当てはまる人はいない」と回答しているが、未婚の一人暮らし高齢者に限ると男性の54.6%、女性の30.6%がそうした相手はいないと答えている(内閣府「一人暮らし高齢者に関する意識調査」、15年)。
では、未婚者の増加に対して、社会はどのような対応をすべきか。
第一に、社会保障の機能強化である。一般に高齢化率が高い国は、対GDP比の社会支出も高くなる傾向があるが、日本は異なる。日本の高齢化率はOECD(経済協力開発機構)33カ国中トップだが、社会支出の比率は回帰直線を下回る(図表2)。高齢化率を勘案すれば、低福祉ともいえる水準だ。この背景には、日本では家族が社会保障制度を補う役割を果たしてきたことが考えられる。たとえば公的介護保険の導入にもかかわらず、在宅で要介護者を抱える世帯の7割が「主な介護者は家族」と回答している。
だが、未婚者が増えるなど家族のあり方が大きく変化している。好むと好まざるとにかかわらず、家族に従来どおりの役割を求めるのは難しく、社会保障の機能強化が求められる。
そして、機能強化のためには財源の確保が必要だ。無駄の削減は当然としても、それだけで財源を捻出するのは難しい。税や社会保険料の引き上げは不可避である。幸いなことに日本のGDPに占める税と社会保険料の負担率(国民負担率)は主要先進国に比べてまだ低い水準にある。12年の国民負担率を国際比較すると、フランス(46.2%)、ドイツ(39%)、スウェーデン(36.1%)、英国(34.5%)、日本(30.1%)、米国(24.9%)であり、日本は米国に次いで低い(財務省「日本の財政関係資料」、16年)。個々の負担能力に配慮しつつ、税や社会保険料を引き上げる余地は残されている。
第二に、非正規労働者の処遇改善が重要だ。特に1990年代以降の就職氷河期に非正規労働者となった若者は、職業訓練の機会に恵まれず、正規労働者への転換も容易ではない。正規と非正規労働者の賃金格差を合理的な範囲に是正するとともに、職業訓練の充実が求められる。
これらの取り組みは未婚者にとどまらず、多様な生き方や家族のあり方に対応した社会を実現する一歩になる。最終的には、すべての人にとって暮らしやすい社会を築くことになるのではないか。


図表2 日本の社会保障コストはまだ割安
―65歳以上人口比率と社会支出の対GDP比(2011年)―

(出所) OECD Stat.より筆者作成
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血縁を超え公的にも地域的にも支え合っていける社会に
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高齢者貧困 雇用創出で防げ
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2015年10月
介護保険改正:所得多い高齢者 利用者負担2割に
『週刊エコノミスト』 2015年8月25日号
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http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/contribution/2016/toyokeizai160514.html

 


「デス・カフェ」で終末期医療を考える
2016年6月7日 社会保障 藤森クラスター藤森 克彦
「どこで死を迎えたいか」「良い死を迎えるために、何をしたらよいか」「死後、遺された人に自分の

ことをどのように思い出してほしいのか」――これまでタブーとされてきた死について、自由に語り合

う「デス・カフェ」が、欧米で広がっている。2011年にロンドンで始まって以来、31か国で開催され、

数千人の人々が死について語り合ったという。
デス・カフェの主催者は、非営利団体など様々だ。参加費は原則無料。カフェなどの一角を借りて、紅

茶を飲み、クッキーを食べながら、見知らぬ人と死について語り合う。参加者主導で展開され、結論を

出すわけではない。その目的は、死についての認識を高め、限りある人生を最大限豊かにすることにあ

る。
特筆すべきは、英国では、終末期医療の質の向上を目的に、官民が一緒になって、社会の中で死につい

て語り合える雰囲気を作り出そうとしている点である(*1)。質の高い終末期医療を提供していくには

、まずは人々が自ら望む終末期医療を適切に考えられるように、準備が必要になる。デス・カフェは、

その一つの手段となっている。
そして、各自が望む終末期医療を実現するには、その意思を医療・介護を担う専門職と共有することが

求められる。そこで、英国政府は「電子緩和ケア・コーディネーション・システム(Electronic

Pallative care co-ordination system: EPaCCS)」の導入を始めた。これは、終末期を過ごしたいと考

える場所、終末期の治療を拒む意思の有無、心肺停止の蘇生救急措置に対する意向、などを診断情報と

ともに予め記録する仕組みだ。なお、同システムへの登録や情報共有にあたっては、本人の同意が必要

となる。
ここでは、ある高齢者が、医療・介護職と情報を共有して自らが望む終末期を実現した事例をみていこ

う。肺がんを患う一人の高齢者は、退院後、残された日々を自宅で過ごすことを決意した。家庭医

(General Practitioner:GP)によって、彼の診断情報や終末期の希望などがEPaCCSに加えられた。一

方、在宅介護に向けて、痛みを緩和する薬剤が与えられ、その説明もなされた。また、医療・介護チー

ムが連携をして、月1回ケア・カンファレンスが開かれた。
やがて、最期の時がきた。担当したスタッフは、EPaCCSで本人の意向を確認し、救急車を呼ぶことなく

、GPや訪問看護師に連絡を取った。専門チームの協働によって、本人の希望通りに穏やかに自宅で亡く

なったという。
EPaCCSによる情報共有の効果は大きく、EPaCCSが導入された地域では、終末期を迎えた人の8割が希望

する場所で亡くなったという。課題としては、EPaCCSが導入されていない地域が多いことが指摘されて

いる(*2)。また、自宅では痛みの緩和ケアが不十分との声も強い(*3)。
翻って日本を考えると、エンディング・ノートが関心を高めているが、どのような終末期医療を望むか

について、人々が互いに考えを深め合う機会が少ない。デス・カフェのような場を設けて、エンディン

グ・ノートを皆で語り合いながら作成していくような機会があってもよいかもしれない。
また、終末期医療に関して本人の意思を明確にしても、医療・介護の専門職と情報共有しなくては、そ

の実現は難しい。日本の75歳以上高齢者は、2010年から2030年にかけて61%(859万人)も増加すること

が予想されている。しかも、身寄りのない高齢者が増えていくので、終末期をどのように送るのか、意

思表示を共有する仕組みも考えていく必要があるだろう。

*1 緩和ケアや終末期ケアなどに関わるチャリティ「全国緩和ケアカウンシル」は、保健省の支援を受

けて、2009年に「死について考える連合(Dying Matters Coalition)」を設立した。この団体の目的は

、全ての人々に質の高い終末期医療を届けるとともに、死や終末期に対する社会の雰囲気を変えていく

ことにある(Dying Matters HP, End of Life Care Strategy, last accessed on 6th June 2016、及び

田中美穂「死について話し合おう 英国のDying Matters」『apital』朝日新聞デジタル、2015年11月

23日参照)
*2The Choice in End of Life Care Programme Board(2015), What's important to me. A Review of

Choice in End of Life Care, p.26.
*3自宅の場合、痛みの緩和ケアが不十分だったという意見が53%にのぼり、病院の25%、ホスピスの13%

に比べて極めて高い。終末期を送る場所として自宅希望は多いが、緩和ケアが課題となっている(NHS

England(2014), Actions for End of Life Care: 2014-16, p.8)。
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(2015年10月27日)
その他
社会・経済・科学分野の書籍 単身急増社会の衝撃
http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/column/2016/0607.html
 

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