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進まなくても料金発生…瀕死のタクシー業界、過剰規制に守られ利用者軽視の代償
http://biz-journal.jp/2016/09/post_16669.html
2016.09.18 文=井手秀樹/慶應義塾大学名誉教授 Business Journal
今回はタクシー料金について考えてみたい。
東京23区などで、来年4月から初乗り410円という新しい料金体系が実施されるとの報道があったが、低迷するタクシー業界の「攻めの工夫」として取り上げられた。
具体的には、初乗り距離を約1kmに縮め、237m毎に80円を加算し、2km時点で730円になる。初乗りの距離が短くなり、運賃も安くなる。高齢者や外国人観光客などに、近距離でも気軽に乗ってもらえる運賃設定というわけだ。
タクシーは鉄道・バスなどとともに、地域における重要な公共交通機関だ。特にタクシーは、地域社会に密着したドア・ツー・ドアの少人数個別輸送が可能で、いつでも誰でも利用できる、機動性の高い交通手段だ。
重要な公共交通機関であるにもかかわらず、タクシーの輸送人数はこの10年で3割以上減少している。他方、2002年に小泉政権が進めた規制緩和で、タクシー台数が増加し、長引く不況でタクシー業界が雇用の受け皿として寄与したことも確かだが、結果として限られたパイを奪い合う構図になってしまった。
需要が減少している状況では、供給量を減らす、つまりタクシー台数を減らす、これが経済学の教えるところだ。しかし、規制緩和後やみくもにタクシー台数を増やす事業者が存在した。タクシーは収益率が低くても、走らせさえすれば収入を得ることができ、台数が多ければ乗り場の位置取りも有利という会社の判断がある。「鵜飼いの鵜」状態で、個々の運転手の収入は悪化するが、タクシー会社は儲かる。このような非合理的な行動をとる企業が存在した。供給が過剰になれば運賃が下がり需給がバランスするが、自由な運賃設定は制限されている。
仮に多様な運賃メニューがあっても、流しのタクシーの場合は手を上げてタクシーが止まってからでないと運賃がわからないし、次に必ず低運賃のタクシーが来るとも限らない。利用者にとっては不確実性が高いという特徴がある。
■事業者の淘汰が必要
また、需給のバランスの状態がわかりにくい。なぜなら、需要と供給は同時に発生し、サービスは利用者が乗っているときのみ生産されているからである。空車で走っているタクシーはサービスを供給していることにはならない。したがって、「実車率」が高ければ空車の数が少ないため、利用者にとっては利便性が低い。実車率がかなり高くなれば、供給不足といえる。
タクシー業界は規制緩和で台数が増え、重大事故が増加し、運転手の収入も低下したという。ただ、統計データを見る限り、その根拠は希薄だ。重大事故は規制緩和後から2007年まで減少傾向にある。事故の原因には、高齢者の運転、自転車の増加、交通事情の悪化などさまざまな要因が考えられる。また、運転手の収入の悪化は長引く不況によるところが大きい。
しかし、タクシー業界の強い要望もあり、「行き過ぎた」規制緩和を見直し、09年に再規制へと転じた。さらに14年には自民・公明・民主3党の議員立法で、一定の要件を満たす地域で、国交省は運賃の上限・下限を決め、一部では新規参入や増車を禁じ、減車も命じることができる、という「過剰な規制強化」が実施された。
これまで需要喚起、サービスの質の向上といった努力をタクシー業界が怠り、利用者を軽視し、規制に守られて利益を確保してきたつけが低迷を続ける要因だといえる。渋滞にはまれば、まったく進まないにもかかわらず運賃が上がる。1970年に導入された時間距離併用制運賃(例:走行速度が10km以下になった時、105秒で90円。地域により異なる)で、既得権益のように考えられているが、導入当時と比べれば信号も道路事情も大きく変わっている。
介護タクシーや外国語を話す運転手など、新たなサービス出てきているが、運賃を含めたさらなる競争導入で事業者の淘汰が必要な業界だ。
(文=井手秀樹/慶應義塾大学名誉教授)
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