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1億総下流化を防ぐには原発再稼働が必要
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7757
2016年9月16日 山本隆三 (常葉大学経営学部教授) Wedge
東日本大震災以降、電気料金は最大で家庭用が25%、産業用が38%上昇した。その主な原因は、原発の停止による石油、天然ガスなどの化石燃料の購入量増加だが、それだけではない。太陽光、風力発電などの再生可能エネルギー導入支援のため菅直人政権が2012年7月に開始した固定価格買い取り制度も電気料金を引き上げた。
電気料金の上昇は、社会の様々な場面に影響を与えている。例えば、全国チェーンの大型スーパーであれば、年間の電気料金の支払額は100億円を超えているので、電気料金が4割近く上昇すれば数十億円の負担増だ。薄利多売の商売には大きな影響がある。製造業の支払う電気代は年間1兆円増加したが、製造業が1年間に支払う月額給与の合計は30数兆円だ。零細企業を含む製造業全体では電気料金の負担増は3%の賃上げ額に相当する。
日本では、生活が苦しいと答える国民が6割を超えている。トマ・ピケティーは著書「20世紀の資本」により世界の多くの国で格差が拡大していると指摘したが、日本では90年代前半のバブル崩壊以降格差の拡大は見られず、全体の給与がどんどん下がっているのが実態だ。かつて言われた1億総中流から今や1億総下流になりかねない勢いだ。生活が苦しい人が増え6割を超える一方、生活に余裕がある人の数が減り、4%を下回っているのだ。
多くの人たちにとって、電気料金の上昇は見過ごせない額になっている。経済成長と給与の増加を作り出す必要があるのは言うまでもないが、その足掛かりの一つは、電気料金の引き下げだ。そのために必要なのは、安全が確認された原発の再稼働を進めることだ。
■1億総下流時代に向かっている日本
日本で1年を通し働く人約4000万人の平均給与は、1997年度の年収467万円をピークに波を打ちながら下落を続け、2014年度は415万円になっている。給与は、私たちが作り出す付加価値額(簡単に言えば儲けだ)から支払われるから、給与が下落する理由は一人当たりの付加価値額が伸びていないからだ。付加価値額は国内総生産(GDP)と同じだ。要は、一人当たりGDPが全く伸びていない。
図‐1の通り、1990年代前半日本と一人当たりGDP世界一の座を争っていたルクセンブルク、スイスの一人当たりGDPは、いま日本の3倍から2倍に成長している。日本は全く成長していない。米国の公務員が使用する中央情報局(CIA)のデータでは、日本の一人当たりGDPは消費者物価指数で調整後世界42位。国際通貨基金(IMF)の米ドル建てのデータでは世界24位。主要国で、日本より一人当たりGDPが低い国はイタリアだけになってしまった。アジア、大洋州ではシンガポール、豪州に抜かれ、韓国に迫られている。
給与の下落に伴い、「生活がかなり苦しい」、「やや苦しい」という人は増加し、いま、それぞれ約30%になり、合わせると国民の60%以上が「生活が苦しい」という国になっている。90年代前半の3分の1から大きく増えた。
図‐2の通りだ。トマ・ピケティーは格差の拡大による貧困層と富裕層の増加を指摘したが、日本には当てはまらない。年収300万円以下の層の比率は増えているが、年収1000万円以上の層の比率は1990年台後半にピークを打ち、その後減少しているのだ。要は、格差は拡大しておらず、貧困層、富裕層を問わず給与が減少している人が多いのだ。
この結果、バブル経済崩壊直後の1992年に9%近くあった「生活に大変ゆとり」と「ややゆとり」がある層の比率は、2014年には半分以下の3%代に落ち込んでいる。図‐3の通りだ。給与の減少に合わせ、生活苦を実感する人の比率は増える一方なのだ。日本は1億総下流時代に向かっているようだ。どうすれば防げるのだろうか。電気料金の引き下げが給与増に役割を果たすことになる。
■電気料金はなぜ上がった?
電気料金上昇の第一の原因は、原子力発電所の停止を補うため火力発電所の稼働率が向上し、液化天然ガス(LNG)、原油などの化石燃料の購入数量が増えたことだ。東日本大震災前には発電量の約30%を賄っていた原発は定期点検後に停止が続き、徐々に発電量は減少し、2014年度にはゼロになる。図 - 4の通りだ。
貯めるとコストが高い電気は、必要な時に必要な量を発電することになるが、電力需要は季節により、また1日のうちでも変動する。このため最も需要の大きくなる時期にだけ使用される設備を電力会社は持っている。震災前にその役割を果たしていたのは、燃料価格が相対的に高かった石油火力、次いでLNG火力だった。原発の停止により稼働率が低かった火力の稼働率が向上し、石油とLNGの購入量は大きく増加した。
2010年に1100万キロリットル(KL)だった電力会社の原油と重油の消費量は、2011年には2300万KLを超え、2012年には3000万KLに迫った。2010年に4200万トンだったLNGの消費量は、2011年には5300万トン、12年には5600万トンに達する。2013年から原油・重油の消費量は減少を始めるが、代わって石炭が1000万トン増加する。図‐5が示す通りだ。
使用量が増えても、単価が下がれば支払総額は増えないが、間が悪いことにリーマンショック後1バレル当たり50ドルを切ることがあった原油価格は、2011年になり100ドルを超え、2014年の秋に下落を始めるまで、ほぼ100ドルを維持することになった。原油価格にリンクする契約形態が多いLNG、また競合燃料の石炭も同様の価格推移となった。
さらに、2013年1月に発表された日銀の2%インフレターゲット政策により円安が進み、1ドル80円台だった為替レートは、2013年末には100円に、2015年には120円になる。円安は輸入品の価格のアップを招く。燃料消費量の増加に加え、単価上昇、円安により燃料代金、電気料金は大きく上昇することになり、震災前との比較では家庭用電気料金は最大25%、産業用は38%上昇することになった。しかし、電気料金を上昇させたのは燃料代ばかりではなかった。太陽光などの再生可能エネルギーにより発電された電気を買い取る固定価格買い取り制度(FIT)による上昇額も大きかった。
■再生可能エネルギー導入費用の負担の大きさ
エネルギー自給率向上、地球温暖化への対処を目的に欧州主要国が再エネ導入支援策を本格的に開始したのは2000年代になってからだった。支援策の中心になったのは発電された電気を買い取るFITだった。買い取り額は電気料金の形で需要家が負担する。日本においても、大震災直後に大きな注目を浴びたのは太陽光、風力などの再生可能エネルギーによる発電だった。推進派は、「再エネにより原発の電気を置き換えることができる」「太陽光パネル製造などにより産業が振興される」とメリットを強調した。
この話を真に受けて、政権の辞任と引き換えにFITを導入したのは菅直人政権だった。制度が開始されたのは2012年7月だったが、その前後から先行した欧州諸国ではFIT制度の見直しが相次いでいた。買い取り電力量の増加による電気料金の上昇が各国で問題になってきたためだ。期待した産業振興も中国企業の進出により実現せず、関連する欧州企業は振るわなかった。
欧州主要国は、買い取り額の減額を続けたが、中には制度そのものの見直しをおこなう国もでてきた。スペインは遡及し買い取り額の減額を行ったが、過剰な利益が再エネ設備導入者にもたらされないように、7.4%の収益率を上限とし買い取り額が決められた。同時に2005年以前建設の風力発電については、買い取りを中止した。事業者からは、遡及による制度変更について訴訟が起こされたが、スペイン最高裁は、政府は変更の権限を持つとして訴えを退けた。
イタリアでは、太陽光発電の自家消費分に1kWh当たり5ユーロセント(5.6円)の課税が行われ、さらに300万ユーロ(3.4億円)以上の売り上げ、かつ30万ユーロ(3400万円)以上の収益を上げている再エネ事業者に対し10.5%の課税を導入した。ドイツはFIT制度を原則廃止した。
そんな中で、気前のよい買い取り額で制度を開始したのが、日本だった。特に、買い取り額が高く設定された太陽光発電事業は、爆発的勢いで広まっていった。予想外の設備導入量による買い取り額の負担増を懸念した政府は、制度と買い取り額の見直しを毎年行っているが、負担額は大きく増加し、電気料金にも大きな影響を与えている。図 - 6が買い取り負担額と電気料金の推移を示している。いま、産業用電気料金の10%以上はFITの買い取り負担額になっている。
原発の停止の影響により電気料金が上昇することは事前に予想できた。また、FITにより再エネが普及すれば、電気料金上昇が引き起こされることも当然予見できた。夢物語のような話を信じて、電気料金上昇による産業と生活への影響を考えずに、原発の停止と並行して制度を導入した政権の責任は大きい。
■電気料金が引き起こす下流化
電気料金の上昇が製造業を初め産業の競争力に影響を与えることは容易に想像可能だ。電気を大量に使用する電気炉などを利用する業界では収益に大きな影響が生じ、倒産する企業も出ている。家庭生活でも電気料金の上昇は大きな影響を生じる。図‐7は、震災後の世帯所得金額と世帯が負担している電気料金年額の推移を示したものだ。
2014年の世帯所得金額の平均は542万円だが、60%以上の世帯はこの金額以下の所得しかない。上からも下からも50%になる真ん中の世帯の収入は427万円だ。世帯平均の可処分所得は420万円だ。世帯収入が伸び悩む中で電気料金は上昇している。1kWhの電気料金は震災後最大25%上昇したが、世帯平均の電気料金の負担額はそこまで上昇していない。単価の上昇を受けた節電が行われたのだろう。
それもで、2010年の世帯平均の負担額11万8000円は、2015年には13万3000円に上昇している。決して小さい額ではない。日本人の総下流化を防ぐためには電気料金のさらなる上昇は避けなければならない。再エネの導入量の増加はまだ続く。今は低迷している原油価格もやがて上昇に転じると予想されている。このままでは電気料金の上昇は続くことになるだろう。
安全性の確認された原発の再稼働により電気料金引き下げの目途を付けることがまず重要だ。産業にも生活にも大きな影響がある電気料金の上昇が続けば、1億総下流化は笑い話ではなくなる。
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