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失業率は下がったが、“欲望”が低い日本では消費は伸びない
アベノミクスと低欲望社会の現実 安倍首相のブレーンたちはそろそろ気付くべき
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20160911/dms1609110830001-n1.htm
2016.09.11 大前研一のニュース時評 夕刊フジ
総務省によると、7月の全国の完全失業率は3・0%で、6月に比べて0・1ポイント改善。1995年5月以来、21年2カ月ぶりの低い水準となった。また、厚生労働省が発表した7月の有効求人倍率は1・37倍で、24年10カ月ぶりの高水準となった前月から変わらない。
しかし、7月の物価変動を除いた実質消費支出は、前年同月比0・5%減少した。失業率は下がって有効求人倍率も増えている一方で、財布のヒモは堅い。
求人は賃金の低いサービス業などが多く、企業にはパートで人手不足を補おうという意識が強い。つまり、日本の雇用の増加はパートや派遣社員、アルバイトなどの非正規労働や低賃金の職種に偏っていて、消費には結びつかないということだ。
この8月、政府は事業規模28兆円の経済対策を決定した。リニア中央新幹線の前倒しや大型クルーズ船向けの港湾整備などのインフラ整備や、年金の受給資格の25年から10年への短縮などを盛り込んでいる。
ただ、完全雇用に近い状況のときに、カネをバラまいて景気を刺激するという経済理論は、世界中のどこを探したって見つからない。これはアベノミクスの最大の問題点だ。
ヘリコプターから市中に現金をばらまくかのような「ヘリコプターマネー」で、マネーサプライ(通貨供給量)を大幅に増やすという景気刺激策は、ハイパーインフレにつながる可能性も高い。ところが、日本の場合にはインフレにもならない。
7月の全国消費者物価指数は5カ月連続の下落となった。その理由は、いわゆる「低欲望社会」だからだ。低欲望社会は、金利がほとんどつかなくても貯金は増え、銀行の貸し出しも減るという日本独特の経済現象。実際、低金利でも借金して家を建てようという人は少ない。カネを握っている人、つまり高齢者がカネを使う気になっていないからだ。マーケットにも欲しいモノはない。
また、現役世代の給料を少しぐらい上げても、将来の不安や、いざというときのために貯めてしまう。1700兆円もの個人金融資産は表に出てこない。
本来、安倍晋三首相がしなくてはならない経済政策は、このカネが表に出てくるようにすることではないか。賃上げでもなければ、非正規の正規社員化でもない。カネをバラまいたところで、どうしようもない。カネはすでにたっぷりあるのだ。
どこといって悪くないのに、景気は上昇しない。この原因は古い経済学が教えてくれる金利やマネーサプライではない。将来に対する不安から、みんなが持っている金を使わないのだ。成長期と違って強い欲望もない。低欲望社会の現実に安倍首相のブレーンたちはそろそろ気がつくべきだ。
安倍首相の周囲にいる人たちの多くは、「株が上がったら景気がよくなる」と思っている。企業の将来価値というものが上がってこなければ、株は上がらない。日銀やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の買う官製相場で株が上がっても、景気とは関係ない。
こういった間違った経済認識が、アベノミクスの前提になっている。それなのに、いまだに「この道しかない」と言っている。それに気がつく人が安倍首相のアドバイザーの中に1人でもいれば、何とかなるかもしれないのだが。
■ビジネス・ブレークスルー(スカパー!557チャンネル)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。
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