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どうする格差大国アメリカ〜なぜ「中間層」はこんなに衰退したのか オバマ時代を検証する
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49631
2016.9.10 中本 悟 現代ビジネス
景気回復過程でも広がる一方の格差と中間所得層の衰退。中間所得層に属する成人がマジョリティを失ってしまった、それがいまのアメリカ社会だ。
無党派でありながら(これだけでも驚きだ)、24年間連邦議会の議員であるバーニー・サンダースが、昨年民主党入りして大統領選挙戦に向けて掲げた「格差の是正と中間層の再興」は全米に旋風を巻き起こした。
中間層の再興は、だれが大統領になろうとも避けては通れない政治課題だ。中間層はなぜ衰退したのか。オバマ政権の中間層の再興のための処方箋はいかなるものか。
■オバマが提起した「中間層の経済学」
住宅バブルの崩壊とサブプライムローンの証券化の破たんが引き金を引いた大景気後退(Great Recession)の真っ只中の2009年1月に、国民の熱い期待を担ってオバマ政権は誕生した。
この8年間は大景気後退からの回復過程であったが、重要なことはこの過程でさらに経済格差が拡大した点である。それは中間層の衰退を意味する。
いまや民主・共和の両党とも、いかなるものであれこの問題への対策を示さない限り多くの国民の支持を得られない。
オバマ政権は景気回復を越えて安定的な経済成長に至るには、格差縮小が必要だとして、その意義を高唱する。そして、そのために「中間層重視の経済学」(middle-class economics)を提起した。
ここでは、中間層の衰退の現状と背景、「中間層の経済学」の内容を見ていきたい。
■中間層の衰退と所得格差の拡大
そもそも「中間層」とはいかなる社会階層なのか。
ピュー・リサーチセンター(米世論調査NPO)のレポートを紹介しよう。世帯はその構成人数によって経済状態が異なるので、最初に世帯規模別に中位(中間)所得を求め、それぞれの世帯規模ごとの中位所得の3分の2未満を低所得層、3分の2から2倍未満の所得を中所得層、2倍以上は高所得層とする。
たとえば2014年では4人規模の中所得世帯であれば、48,347ドル以上14,5041ドル未満の所得層となる1。これが所得面からみた中間層であり、中所得層である。
アメリカでは1980年代以降、高所得層ほど所得増加率が高くなった。また2008年の大景気後退のあとは各階層とも所得を減らしたが、その減少率は低所得者層が最大で、高所得層が最も低い。
その結果、世帯全体の総所得に占める中所得層のシェアは1980年に60%だったのが2014年には43%に低下、逆に高所得層のシェアは30%から49%に上昇した。そして、中所得層に属する18歳以上の成人比率は1981年では59%だったが、2015年には50%に低下、いまやアメリカ社会は中所得層がマジョリティではなくなっている(図1)。
図1 成人の各所得層別の分布(%)
人種別ではどうか。多民族社会アメリカでは、成人の人種別構成比で白人比率の低下が続いてきたが、それとともに中所得層に占める白人の成人シェアも低下してきた。
2001年に白人は成人人口のうち70%を占めていたが、2015年には65%へと5%の低下。同期間に中所得層に占める白人の比率も73%から67%へとほぼ人口比の減少分だけ低下した。
しかし、高所得層においては白人のシェアは2015年でも77%で人口比よりかなり高い。白人に次いで人口比の大きいヒスパニック系は、同期間にその人口比は13%から15%に上昇、同じように中所得層に占めるヒスパニック系成人の比率も12%から15%に高まったのである(表1)。
表1 成人の人種別構成比および所得階層別構成比(%)
白人中所得層の衰退が進むなかで、アメリカ社会は人口比でも経済的地位でもヒスパニック系が台頭する社会になった。
ヒスパニック系の学士卒業者の比率は、すでに2012年には10%を超えるようになり、全雇用に占めるヒスパニック系の比率も2000年の10.7%から2014年の14.3%に増加を続けている。
ここにヒスパニック系によって職を奪われ中所得層から転落したと考える白人の中所得層には、ドナルド・トランプ共和党大統領候補のメキシコ移民排斥の主張が一定の支持を得る根拠がある。
■所得格差の要因と対策
いったいなぜ、これほどの所得格差が生まれているのだろうか。所得源として大きく言えば、勤労所得と資産所得、そして移転所得がある。
それは第1に、生産性格差が競争的市場メカニズムを通じて生産性の高い企業と労働者にそれぞれ高利潤と高賃金とをもたらすからである。これが経済学の伝統的考え方である。
オバマ政権もこの考え方を踏襲するが、さらに第2の要因として、独占やその他の要因で競争が働かず一部の企業や社会階層に超過利益(レント)が生じ、付加価値の分配に不平等が生じたとする。
たとえば、金融業などの産業における寡占化や労働組合の団体交渉力の低下による賃金低下、あるいは資格認定職の高賃金やその財・サービス価格の上昇などがその一例である。
所得格差の要因をこのようにとらえると、その対策は第1に、生産性の向上であり、そのための研究開発、教育、労働者の再訓練である。
第2に、最低賃金の引き上げや有給の病気休暇(アメリカ企業では一般的でない)など様々な付加給付の拡充である。これらは労働者の団体交渉力が低下しているもとで企業側に生じているレントの労働者への再分配であり、競争的労働市場を機能させる。また、独占禁止法の運用強化による競争促進も重要になる。
これら二つは勤労所得に関わるが、いま一つの所得格差要因は資産所得である。
この景気回復過程でさらに所得格差が拡大したが、それは資産価格上昇によるキャピタルゲイン(資産売却益)が高所得者層に集中したからである。高所得層の最大の資産は株式、債券、投資信託といった金融資産であり、2013年ではそのシェアは26%、次いで住宅資産が21%を占める。
一方、中所得層の最大の資産は住宅であり、そのシェアは総資産の44%、低所得層では48%に及ぶ。
住宅価格(Case-Shiller全国住宅価格指数)は2006年の住宅バブル崩壊後続落したあと、2012年から価格上昇に転じたが、株価(S&P総合株価指数)と比べるとその回復率は低い。2010年1月〜2016年6月の間に、株価は71%上昇したが住宅価格は21%の上昇に留まった。
その結果、資産格差が拡大(図2)するとともに、キャピタルゲインは高資産保有層に集中し、これがまた所得格差をもたらした。
原出所:Saez, Emmanuel and Gabriel Zucman. 2014. “Wealth Inequality in the United States Since 1913: Evidence from Capitalized Income Tax Data.” NBER Working Paper 20625.(2015)
出所:Economic Report of the President(2016),p.30.
アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、2008年のリーマンショック後の12月からフェデラル・ファンド(FF)金利を年0〜0.25%にするという事実上のゼロ金利政策を続けてきた。昨年末にようやく0.25〜0.50%に引き上げたものの、超低金利はいまなお続行している。
金利政策はマクロ経済政策の重要な一部であるが、すべての所得階層に対して同じように作用するわけではない。FRBの超低金利政策は、金融資産価格の上昇を媒介として、所得格差と資産格差のスパイラルをもたらしているのだ。
金融政策はFRBの所掌であるが、政府としては「2010年ウォール街改革および消費者保護法」によってウォール街の暴走を抑制しようとする。とくに銀行のリスクテーキングを抑制しようとする。これもまた「中間層の経済学」の一部である。
■格差と成長からみた戦後アメリカ経済の「三つの画期」
格差縮小は公平性を優先して効率性を損ない、経済成長の停滞に至るとみるのが伝統的な考え方である。
これに対して長期的な経済格差の拡大は、@すべの人々の能力に応じた教育へのアクセス困難、A起業家精神の欠如、B独占的行動が広がると競争経済への信頼がなくなり監視コストが増加、C政治的不安定性や不安の醸成、などを招来し、結局のところ成長を妨げるというのが最近の考え方である。
オバマ政権は、この新しい考え方に立脚する。
低所低得者向けのフードスタンプ(現在は、「補助的栄養支援プログラム」と称される)やメディケイド(公的医療扶助)、そして子供の貧困を防ぐ勤労者所得税額控除、コミュニティ・カレッジの授業料の無償化、最低賃金引き上げなどを提唱している。
これらは分配政策というよりも労働能力を高め、労働参加を促進し、生産性と生産拡大を実現するものだという。したがって分配重視の「大きな政府」ではなく、分配による成長をめざすものだ、と。
所得格差の縮小と経済成長をめざすオバマ政権の「中間層の経済学」は、そのための3大条件として、@生産性上昇率、A労働参加率(16歳以上の生産人口に占める実際の労働力[雇用者と失業者]の割合)、B所得の再分配を重視する。
そして、これらの組み合わせからみると戦後アメリカ経済には三つの画期がある(表2)。
表2 アメリカの中間所得層の所得増加と経済成長
生産性と労働参加率が高まり所得格差が縮小した「成長を分かち合った時代」(1948〜73年)、生産性は低下したが女性の労働参加が増え、所得格差広がり始めた「労働参加拡張の時代」(1973〜95年)、そして生産性が再び上昇したが所得格差が拡大した「生産性回復の時代」(1995〜2013年)である。
「中間層重視の経済学」は、これらの3大要因の組み合わせを変えて、@生産性の上昇によるパイの増大、A労働参加拡大によるパイの増大、そしてB富裕層への増税や社会保障の拡充といったパイの再配分が、@とAのパイの増大を実現するというのだ。
ここに、従来の需要重視のケインズ主義でもなく、「供給重視の経済学」でもない「中間層の経済学」の独自性がある。
とはいえ、この「中間層の経済学」に基づく政策を実行するには、たとえばキャピタルゲインの課税強化ひとつをとってみても、上下両院ともに共和党が多数をしめる現在の議会構成では、法案の通過には大きな困難が伴う。
冒頭にも述べたように、中間層問題へのアプローチはいまや大統領選挙でも両党にとって不可欠である。中間層の衰退への対応が「中間層の経済学」のようなものになるのかどうかは、大統領選と議会選挙の帰趨にかかっている。
中本悟(なかもと・さとる)
立命館大学経済学部教授。1955年生まれ。1985年、一橋大学大学院経済学研究科博士課程単位修得退学。静岡大学、大阪市立大学経済研究所を経て、現職。著書に『現代アメリカの通商政策』(有斐閣)、編著に『アメリカン・グローバリズム』(日本経済評論社)、共著に『現代アメリカ経済分析』(日本評論社)、『TPPと日米関係』(晃洋書房)、『地域共同体とグローバリゼーション』(晃洋書房)など。
1 世帯所得は連邦政府が毎月おこなう世帯ごとの労働と所得に関する「人口現況調査」による。約5万5千世帯のサンプル調査。このデータの所得とは、社会保障税や組合費や老齢者医療保険(メディケア)の支払い前の所得であり、また重要なことであるがキャピタルゲイン(資産売却益)は含まない。Pew Research Center,The American Middle Class Is Losing Ground, No longer the majority and falling behind financially, December 2015.
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