http://www.asyura2.com/16/hasan112/msg/899.html
Tweet |
楽天本社ビル「楽天クリムゾンハウス」(「Wikipedia」より/掬茶)
「使い勝手悪い」楽天、アマゾンとの戦いを放棄か…ポイント大盤振る舞い戦術の限界
http://biz-journal.jp/2016/09/post_16595.html
2016.09.09 文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学客員教授 Business Journal
楽天市場の売り上げ鈍化が指摘されている。
楽天の2015年12月期国内EC(電子商取引)流通総額は、前年同期比10%増にとどまった。このEC流通総額の中には、楽天トラベルなどほかのインターネットサービスの数字も入っている。一時は20%の成長率を誇った楽天市場だからこそ、昨年度から楽天市場の単独業績を表示しなくなったのは、伸びが鈍化しているからではないかと指摘する向きもある。
日経MJは「関係者によると、単独では横ばいに近い数%の低成長にとどまる」と報道している。
利用者数で楽天を抜いたといわれるアマゾンに比べると、サイトの使い勝手が悪いうえに配送日数も長い。日経MJの調査では、「楽天とアマゾンのどちらが好きか?」との質問に対して約6割が「アマゾンのほうが好き」と答えている。
筆者自身も、アマゾンのサイトでイライラすることはほとんどないが、楽天を使っているときはイラついて途中でやめてしまうことがある。そういったこともあって、楽天はモノを販売することに関して「アマゾンと勝負する気はもうないのではないか」と思わされる。
13年の段階では物流センターを全国に8拠点つくる予定だったが、14年には白紙化している。物流センターの構築を途中であきらめた時点で、アマゾンと同じ土俵で戦うという選択を放棄したといえる。つまり、配送料無料、当日あるいは翌日配送といったサービスで戦うことはしないと決めたと推測できる。
アマゾンと同じ土俵で戦わないと決めたとしたら、これは正しい選択だろう。アマゾンは創業以来20年間利益を出さなくても株価を高値で維持することで存続でき、最近になってやっと数%の営業利益が出せただけで投資家に大喜びされている。そんな会社に勝てるような会社は、世界中を探しても存在しないだろう。
楽天は、モノを売ることでアマゾンと直接対決するのを避け、楽天トラベルのようなサービス、そして特に金融サービスに力を入れることで、会社の成長に拍車をかけるつもりなのだろう。
「楽天経済圏」と呼称しているように、楽天は楽天市場で獲得した顧客基盤をもとに、利益率の高い金融事業(フィンテック事業)に力を入れている。実際、15年12月期の決算をみると、総売上高7135億円、そのうちEC事業の売上高は2845億円で前期比7%増、金融事業は2751億円で前期比16.3%増。金融事業は総売上高の39%を占めるまでになっている。
■ポイント大盤振る舞いは楽天の焦り?
楽天経済圏の考え方は、米シアーズ、英テスコ、そして日本の丸井がとった戦略と基本的に同じだ。ただ、楽天の違うところは、ポイントを強力な武器として使っていることだろう。
グループ内のサービスを利用すればするほど、ポイントの特典が大きくなる。たとえば、楽天銀行が発行するクレジットカードを楽天市場での決済手段として使えば、ポイント還元率は通常の1%から4%に増大する。また楽天銀行カードローンでは、ローン入会時に1000ポイントが付与される。ショッピングなどで貯めたポイントを銀行の振込み手数料に利用することもできる。
楽天証券も、投資信託の残高が10万円ごとに毎月4ポイント付与される。つまり、投信を500万円保有していると、年間で2400ポイントも貯まる。さらに、取引手数料の1%相当がポイントで返ってくるような仕組みもある。
グループ内での客の循環は、ポイントによって促進される。そして、楽天市場を通じてだけの新客獲得では顧客基盤を大きくできないと考えてか、最近の楽天はポイントを武器として外部からの積極的な新規客獲得に乗り出している。14年以降は楽天ポイントを実店舗でも使えるようにして、相乗りすることをいとわない共通ポイントとして会員数を増やす作戦に出ているのだ。現在、全国1万3000店舗でポイントが貯められるようになっている。
日経MJに「焦りが透けてみえる」と書かれた策のなかに、ポイントの大盤振る舞いがある。購買しなくともポイントを提供する戦術もその一つだ。たとえば、15年に「洋服の青山」を展開する青山商事が採用した「楽天チェック」サービスは、来店しただけでポイントが貯まる制度だ。青山はもともと、カルチュア・コンビニエンス・クラブが展開するTカードと提携していて、商品を買えばTポイントがもらえることになっている。楽天チェックで、競合他社の領域にも切り込む戦術だ。
そういった積極策のおかげで、会員数はTカードや三菱商事の関連会社が運用するPontaを抜いて1億500万人で業界最多となっている。
ポイントの大盤振る舞いをきっかけに会員になってもらえれば、最終的には楽天グループが提供する70ものサービスの購買客になってもらえるかもしれないという意図はわかる。だが、ポイント会員が増えても、データを抱えた良質の購買客が増えるとは限らない。ポイント会員のうちのどれだけが、楽天経済圏の中を循環してくれる優良客になってくれるのだろうか。
■小売業は、客との信頼感を構築しなければならない
楽天は、楽天トラベルやその他のサービス業、特にフィンテック事業に、アマゾンとは異なる活路を見いだしている。勢いのかげる楽天市場からの新規客にだけ頼るのではなく、リアル店舗を含めた広い市場から新規客を収集する方法を選択しており、そのための武器としてポイントを利用しているという推測のもとに話を進めてきた。
推測が正しいとして、この戦略の大きな問題点は、ポイントの大盤振る舞いで集めた会員客が、楽天市場でのショッピングを通じて育成されたロイヤルティの高い顧客のように、グループ全体のサービスも利用するようになってくれるかどうかにある。
前述したように、顧客基盤には顧客データだけでなく顧客との関係性も含まれる。何回も購買した結果として生まれる信頼感、ロイヤルティがあるからこそ、顧客は楽天の金融サービスに伝統的銀行、証券、保険会社にはない魅力を感じてくれるのだ。
たとえば、丸井も新規会員を集めるために他社との提携カードを展開し始めている。これまで20社と提携しているが、企業提携よりも商業施設との提携カードのほうが、利用率が丸井店舗と同程度になっていると発表している。実際に購買することで生まれ育てられた関係性が重要だということだろう。
そこにあるのは、快適なショッピング経験から生まれた小売業者への信頼感だ。快適という言葉には、便利、簡単、誠実さ、信頼性などが含まれている。
08年の金融危機の後、世界的に銀行への信頼感が失われたなかで、自分が常に利用してダイレクトなコミュニケーションが存在する小売業への信頼感が増した。「小売店は自分達の味方だ」と考える消費者が多くなったという調査結果がある。日本でも、伝統的銀行への不信感はバブル崩壊後から継続して高く、反対にスーパーマーケットやコンビニエンスストアへの信頼感は、特に11年の東日本大震災後に高くなっている。そういった意味で、小売業が消費者向けの金融サービスに入る大きなチャンスが到来しているといえる。
■小売業で顧客満足度を高めなければ衰退する
楽天や丸井が金融セグメントに注力するのは、正しい戦略だろう。だが、今のところ消費者の信頼感は本業である小売業、楽天市場で培われているのだ。ポイント会員というだけでなく、そのポイントを使って楽天市場や楽天トラベルで購買をしてもらう。そういった購買経験のなかで培われた信頼感があって初めて、金融サービスも継続して利用してもらえるようになる。
そのような意味で、楽天市場の成長が落ちることを無視していては、第2のシアーズやテスコになる可能性がある。もちろん、楽天の三木谷浩史社長はその点には気がついており、低評価店の改善を促進することを宣言している。
また、将来的にはAI(人工知能)によって、経費を抑えながらもサービスの向上をめざすと語っている。たとえば、楽天トラベルではAIが旅行先選択の相談に乗るといった具合だ。しかし、何よりもまず大切なのは、楽天市場サイトの使い勝手の悪さを改善することだろう。
過去の歴史は、集客手段であった小売業の競争優位が失われたとき、顧客ベースが縮小していき、結局、小売業も金融業も衰退していくことを教えてくれる。
もちろん極端にいって、金融業を本業にして楽天市場を縮小することもできる。アマゾンの配送サービスをまねしなくても、営業利益で勝つためには、本当に質の良い個性的店舗だけを集める必要がある。その場合、楽天市場が小さくなるのは避けられないだろう。
日本のようにリテールバンキングが重要といいながら、相変わらず法人営業を中心としている都市銀行が多いなか、ダイレクトにコミュニケーションしていくほうが良質な金融サービスを提供できる可能性が高い。現に、日本経済新聞社が発表した「第12回日経金融機関ランキング」では、顧客満足度総合ランキングの1位は9年連続でソニー銀行だ。7位に住信SBIネット銀行が入っていることからみても、消費者とダイレクトにコミュニケーションしている金融業のサービスが評価されていることがわかる。ちなみに、楽天銀行は34位だった。
小売業あるいは金融業、どちらを本業にするとしても楽天は顧客満足度を向上させる地道な努力を積み重ねる必要があるようだ。
ちなみに、16年2月に発表された中期事業戦略では、ネット証券、クレジットカード、銀行、生命保険、電子マネー、スマホ決済等を含めた金融(フィンテック)事業の営業利益を20年までに今の2倍の1200億円規模にするとしている。これは、国内ECが目標としている1600億円とそれほど変わらない目標額だといえる。
(文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学客員教授)
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民112掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。