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「正社員になれない」「希望職種につけない」が当然化…実感なき「雇用情勢の好転」
http://biz-journal.jp/2016/09/post_16591.html
2016.09.09 文=寺尾淳/ジャーナリスト Business Journal
■「一般事務の正社員」という希望がかなう可能性は22%しかない
8月30日、7月の有効求人倍率と完全失業率が発表された。全国の有効求人倍率は1.37倍。新規求人倍率は2.01倍。4月から4カ月連続で、全都道府県で1倍を超えている。完全失業率は3.0%だった。5月は3.2%、6月は3.1%だったので、1カ月に0.1ポイントずつ下がっている。数字の上では日本の雇用情勢は好転している。
しかし、雇われても正社員になれるとは限らない。厚生労働省の「一般職業紹介状況」によると、雇用形態を「正社員」に限定すると有効求人倍率(季節調整値)は0.88倍で、単純計算では正社員を希望する人100人中12人は、その希望がかなわない。リーマンショック直後の2009年には0.25倍で4分の1しか希望がかなわなかったが、それより改善したとはいえ、意に沿わない働き方をしている人はいまだに数多く存在している。
さらに、希望する職種の偏りという問題がある。7月の厚生労働省の「職業分類」ごとの有効求人倍率(常用・除パート)を見ると、次のようになっている。
・管理的職業:1.35倍
・専門的・技術的職業:1.86倍
・事務的職業:0.33倍
・販売の職業:1.46倍
・サービスの職業:2.32倍
・保安の職業:5.83倍
・農林漁業の職業:1.02倍
・生産工程の職業:1.14倍
・輸送・機械運転の職業:1.85倍
・建設・採掘の職業:3.34倍
・運搬・清掃・包装等の職業:0.44倍
このなかで、最も求職者が多いのは「事務的職業」で有効求職数が36万9479もある。それに対して有効求人は12万1636しかない。事務的職業の職種を細かく分けると、「一般事務」が最多で、有効求職数30万5592に対し有効求人数は7万6801で、その有効求人倍率は0.25倍。つまり4人のうち3人は「一般事務の仕事がしたい」という職種の希望がかなわない。
有効求人倍率が1倍を超える他の職種はどうかというと、たとえば「管理的職業」つまり中間管理職は、他の企業で課長や部長をやっていた経験が問われるのがふつう。「建設・採掘の職業」は慢性的な人手不足だが、建設業などは必要な資格を取らないと仕事につけないことが多い。「保安の職業」「輸送・機械運転の職業」も事情はほぼ同じである。
資格も経験も問われない求人を探すなら、事務的職業以外では「販売の職業」「サービスの職業」「生産工程の職業」あたりになるが、小売店の販売員、外勤の営業職、介護などサービス職種、工場勤務などは、「接客は自分に向いていない」「土日は休みたい」「工場の生産ラインの仕事はイヤだ」などと敬遠されることが少なくない。そのため、結果的に一般事務に人気が集中してしまう傾向が見て取れる。
あくまでも単純計算だが、7月の「一般職業紹介状況」の正社員の有効求人倍率に一般事務の有効求人倍率を掛け算すると、0.88×0.25=0.22で、「一般事務の正社員」の希望がかなう可能性は22%しかない。
そのように「つきたい仕事」の希望と募集している仕事のギャップが激しいから、学校はすでに卒業してしまい、これといった資格がなく経験も乏しい若い人の間では、ニュースで「雇用情勢は好転している」といくら伝えられようと、その実感は乏しいのだろう。
■「オランダモデル」には可能性もあるが、限界もある
「正社員になれない」状況の打開策として注目を浴びてきたものに、「オランダモデル」がある。これはオランダが実施して「成功した」といわれている雇用改革である。
簡単にいえば、「同一価値労働・同一賃金」のルール化で、オランダ政府は1996年、フルタイムでもパートタイムでも、労働の中身が同じなら誰もに同額の賃金を支払うように労働法を改正した。2000年には労働時間調整法を制定して、労働者が希望すればフルタイムとパートの間で自由に乗り換えることができ、労働時間も労働者が決められるようにした。年金など社会保険の取り扱いも、フルタイムとパートの差をなくしている。
この「パートの待遇のフルタイム化」で、オランダでは失業率が01年に2.4%まで低下するという効果があがった。同年のパートタイムの比率は33%で、働く人の3分の1にまで高まっている。
日本流にいえば、正社員とパートで労働条件の違いがなければ、雇用市場では「パートでもかまわない」と思う人が増えて正社員志向が和らぎ、その分、雇用機会が増えて失業率が低下していく。安倍内閣の労働政策も、「ワークライフバランス」「ワークシェアリング」のお手本としてオランダモデルを見習っている部分が多分にあり、それは今盛んにいわれている「働き方改革」にもつながっている。
しかし、オランダモデルは日本の労働環境、雇用環境を改善する可能性を秘めている反面、限界もある。それは「同一価値労働・同一賃金」という原則の部分に潜んでおり、「企業の生産性を低下させる恐れがある」という懸念が指摘されている。
■日本企業では一般事務は「仕事(ジョブ)」ではなかった?
昔から「日本のホワイトカラーの生産性は低い」とよくいわれてきたが、オフィスワークの生産性を正直に、緻密に計算したら、経験が少ない若い社員などは労働の価値に見合う賃金が法定の最低賃金になってしまうようなケースもあり得る。それに該当する職種が、雇用市場で最も人気があり、つきたがる人が多くて競争率最高の「一般事務」だというのが、なんとも悩ましい。
これは日本独特の企業風土に根ざしている。「一般事務」のオフィスワークとはそもそも、純粋な意味で報酬に見合った成果を求められる「仕事(ジョブ)」ではなかった。新卒で採用した正社員にはとりあえずその仕事をさせておき、研修を受けさせ、資格も取らせながら、上司が人材の良し悪しを見極め、将来の幹部候補生を選抜する場だった。
そのように日本企業にとって一般事務という職種は、特に大企業の男性ホワイトカラーにとっては生産性を度外視して「幹部候補生の候補」がやってきた仕事だから、正社員の中途採用の求人を出したりしない。そのため需給ギャップが激しくなる。
欧米企業ではたいていの場合、幹部候補生は採用時から別コースで、一般事務を経験するとしても何年もやったりしない。すぐに管理職になりそのキャリアを積む。それは「オランダモデル」のオランダでも同様だ。一般事務は一般事務で「オフィスワーク」という一つの「ジョブ」になっており、活発に中途採用を行っている。女性を中心に人気の職種だが、日本ほど需給ギャップはひどくない。オフィスワーカーは、たとえば企業会計や秘書実務のスキルを身につけたり資格を取ったりして、より高い報酬が得られるジョブにステップアップすることを目指す。
また、オランダのようにフルタイムとパートタイムの待遇を同じにするといっても、日本で正社員とパートの待遇をまったく同じにしようとしたら、経営者に対して相当な意識改革を強いることになるだろう。
そのように欧米と日本では「働く」ことにまつわる事情が異なるので、オランダの制度をそのまま日本に導入できない。だが、現状のままでいいはずはない。
■意識改革は経営者にも、働く者にも必要
安倍内閣は「働き方改革」と盛んに言っているが、それを問う前に「正社員になりたくてもなれない」「希望の職種につきたくてもつけない」という雇用の現状の改善のほうが先なのではないか。その第一歩として、雇用市場で「新卒」「経験」「資格」をことさら重視する経営者の意識改革が求められてくるだろう。
民間企業の経営にかかわる話だが、経営者に意識改革を強く迫るような政策も、あっていい。安倍内閣の「働き方改革」で本当にひとり当たりの労働時間が短縮されるなら、それが「ワークシェアリング」の効果をあげて、企業が正社員を雇える余地も増えるはずだ。
また、企業の意識改革の結果、将来、日本でも欧米のような「一般事務の雇用のオープン化」が広がれば、資格も経験もない若い人は希望する一般事務職を「ジョブ」と認識し、「最初は法定の最低賃金に近い待遇でもかまわない。『ブラック』なんて言わない。自分の生産性を向上させて、それが認められて昇給できるようにがんばる」という意識を持つようになり、一般事務職の競争率が異常に高い雇用市場での需給ギャップも解消に向かうだろう。
「幹部になりたい」とか「定年まで会社にぶら下がりたい」などと、夢にも思ってはいけない。雇われるチャンスを得るには、それぐらいの覚悟が欲しいところ。意識改革は、働く者にも必要になりそうだ。
(文=寺尾淳/ジャーナリスト)
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