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9人が亡くなったグループホーム。大量の流木が押し寄せ、壁には濁流の跡も残っていた (c)朝日新聞社
高齢者ホーム選びの死角 9人死亡岩手・台風直撃で見えた!〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160906-00000197-sasahi-soci
週刊朝日 2016年9月16日号
「私の判断が遅かった。本当に申し訳ありません」
岩手県、北海道を中心に甚大な被害をもたらした台風10号。岩手県岩泉町の高齢者グループホーム「楽(ら)ん楽(ら)ん」では9人が遺体で見つかった。同ホーム運営法人の佐藤弘明常務理事は9月1日、報道陣の取材に、涙ながらに陳謝した。
「水かさが10分あまりで急激に増し、助けることができませんでした……」
亡くなった9人は、70〜90代の認知症の高齢者。うち2人は車いすでなければ移動できなかった。施設そばを流れる小本(おもと)川が氾濫(はんらん)し、平屋建ての建物が浸水。同敷地内にある介護老人保健施設(3階建て)にいた85人は2階以上に避難し、全員が無事救助された。
「避難計画がなかった」という備えの不十分さを含め、ホーム運営側の甘さを指摘する声は多い。
宮城県で介護支援を行う「さんりん福祉会」理事長の深澤文雅さんは、こう話す。
「台風の危険性があれば、臨時に職員を増員するなどの対策が必要。隣の老人保健施設との連携が薄かったのではないか。報道を見る限り、フォロー体制の手薄さを感じてしまいます」
河川近くのホームの立地を問題視する声も多いが、認知症介護に詳しい岩手県立大学の吉田清子准教授(社会福祉学部)は、「環境はグループホームの趣旨に沿っている」と指摘する。
「認知症のグループホームは、静かな環境で少人数で穏やかに暮らすことが目的。川沿いの落ち着いた環境は、ホームには適しています。また、避難のことを考えると、2階建てより平屋造りのほうが望ましい。施設の造りに大きな問題があるとは考えにくいです」
今回の水害で特に問題視されているのが、河川近くの高齢者施設でありながら、避難計画がつくられていなかったことだ。ただ、水防法に書かれている避難計画の策定はあくまで“努力義務”。施設があった区域は、県が浸水想定区域の検討をしながら、東日本大震災の影響で指定が先送りになっていた。ホームは火災訓練はしていたが、水害に備えたものはなかった。
水害の避難モデルを研究している徳島大学環境防災研究センターの中野晋センター長は、こう釘を刺す。
「浸水の危険性がある施設には、避難計画の策定を義務化すべきです。中小河川の場合、川幅や規模が小さいだけに一気に水位が上がりやすい。にもかかわらず、氾濫危険水位を設けていないところが多いのです。施設だけで避難計画を立てるのは困難なので、行政側が積極的に情報提供していかなくては」
岩泉町では今回、ホームのある区域が避難判断の基準を超えていながら、「対応に追われて」避難勧告を出していなかった。避難に時間のかかる高齢者や障害者は「避難準備情報」が出た段階で避難すべきだとされているが、その意識も十分に徹底していなかった。前出の佐藤常務理事も「知らなかった。避難勧告が出てから避難するものだと思っていた」と話した。
全国の山間部で川沿いの平地に立地する老人ホームや病院などの施設は少なくない。国土交通省水管理・国土保全局の担当者に対応策を聞くと、
「まずは状況を精査してから……。基本的には自治体に任せている部分が大きいので」
紋切り型の回答と及び腰。災害列島、こんなことで大丈夫なのか。
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