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米利上げ観測でもドル安・円高が進む4つの理由
http://diamond.jp/articles/-/100783
2016年9月6日 真壁昭夫 [信州大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■イエレンFRB議長の発言で
高まる米国の利上げ観測
8月26日、ジャクソンホール会合でのイエレンFRB議長の発言(「今後数ヵ月間で利上げを進める根拠が強まった」)を境に、金融市場の参加者の間で米国の利上げ観測が高まっている。
イエレン議長の発言内容には、特段、新しいものは含まれていなかったのだが、フィッシャー副議長が「年内に2回の利上げを行う可能性もある」と発言したことは大きなインパクトがあった。
副議長が指摘したように、米国の労働市場が完全雇用に近づいていることは確かだ。ただ、米国経済を俯瞰すると雇用以外の分野はそれほど強くはない。主要企業の収益状況は、昨年の夏場以降、悪化傾向を辿り始めている。
それに伴い、景気循環の重要な指標である設備投資のサイクルは、既に下向きに転じている。今後、米国の景気回復がどの程度続くかには不透明な部分もある。
そうした状況下、本当に利上げが可能かは難しい判断になるはずだ。一部には、FRB幹部が利上げを示唆して、低金利の長期化を期待する市場参加者に警鐘を鳴らし、割高気味に推移してきた米国の株式市場を落ち着かせようとしているとの見方もある。
一方、黒田日銀総裁の強気姿勢は変わらない。「マイナス金利深堀りの余地は十分ある」、その他にも金融政策にできることがあるとのスタンスを崩していない。同総裁の言動を素直に受け止めると、9月20、21日の日銀決定会合で追加緩和の可能性は高いだろう。
9月、奇しくも日銀決定会合と連邦公開市場委員会(FOMC)は同じ日に開催される。日米の金融政策の方向性を考えると、理屈の上で為替市場ではドル高・円安が進むはずだ。
しかし、実際には、米国の利上げがかなり緩やかなペースになるとの見方が有力で、為替市場では一方的にドル高・円安に進みにくい状況になっている。
為替ディーラーなどにヒアリングしても、「米国の利上げが後ずれすると、むしろドル安・円高が進む」との警戒感もある。「それでも円高の可能性が高い」という指摘が印象に残る。
■米国景気は成熟期
景気下振れへの警戒が強まる
足元の労働生産性の伸びや企業の設備投資動向を見ると、米国景気は成熟期に入りつつある。今すぐではないにしても、向こう1〜2年の間にはピークが徐々に意識される段階に進みつつある。
2009年6月を景気の底(ボトム)に、米国では7年超の景気回復が進んでいる。背景には、低金利を追い風にした企業業績や個人消費や住宅市場の回復などがある。
今後、景気回復の流れを一段と強くするためには、企業の設備投資が増加し、労働生産性が改善することが必要になる。それらの要件が整えば、企業の収益性は高まり、緩やかな賃金増加を通して景気回復のエンジンは一層出力を増すことになる。
実際に二つの指標を確認すると、設備投資は4〜6月期まで3四半期続けて減少している。労働生産性も同様だ。それに伴い、企業の収益も昨年7〜9月期以降は減益傾向だ。雇用の改善が続いていることは確かだが、それが企業の業績を圧迫しかねないとの懸念も出始めている。
今のところ、低金利のおかげで川下の消費が堅調なため、すぐに景気の腰が折れるとは考えづらい。しかし、永久に景気回復が続くわけではない。どこかでピークアウトを迎えることは避けられない。
米国在住のエコノミスト連中とメールのやり取りをすると、「2017年に米国の景気がピークアウトする可能性は3割、2018年末までにピークアウトの可能性は7〜8割程度」という見方が有力だ。
過去3度にわたる量的緩和などの効果もあり、足元の米国の株式市場は堅調に推移し、史上最高値圏にある。一部の専門家の間では、「米国の株価は上がり過ぎ」との見方が台頭している。
FRBとしては、景気下振れへの警戒が強まりつつある中で、低金利が株式のバブルを発生させるリスクを防ぎたいはずだ。そのため、市場の低金利観測に警鐘を鳴らし、過剰な株価上昇を抑えたいとの考えもあるだろう。
■際限なきわが国の金融緩和策
懸念される「副作用」とリスク
金利引き上げの可能性を仄めかすFRBに対して、わが国の金融政策は依然として際限のない緩和策に向かっている。少なくとも黒田総裁の発言を見る限り、日銀のスタンスに大きな変化は感じられない。
7月の日銀決定会合では、市場参加者の期待とは裏腹にETF買入れ額の倍増を軸とする追加緩和が決定された。そして、9月の決定会合では物価および経済情勢、そして金融政策の効果に関して"総括的な検証"が行われる。
黒田総裁のスタンスは、「わが国経済がデフレ脱却するためには何でもする。さらなる金融緩和に限界はない」というのが基本だ。
そうした総裁の言動を見ると、9月の検証では、「マイナス金利政策には相応の効果がある」、「デフレから脱却できないのはエネルギー価格等の海外要因」、「さらなる金融緩和策の実施によってあくまでもデフレ脱却を目指す」、の3点が主な内容になる可能性が高いとみる。それは、金融市場の参加者に、際限なき金融緩和が進むとの思惑を与えることになるだろう。
そうした金融政策の運営手法に対して、経済の専門家の間でも賛否両論ある。現象面で見ると、マイナス金利政策は銀行や保険会社をはじめ金融機関の業績を悪化させている。その意味では、一段のマイナス金利の深掘りには相応のリスクがあると考えるべきだ。
足元では度重なる金融緩和にもかかわらず、わが国の消費者物価指数は下落している。異次元の金融緩和をもってしても需要が回復していないことを考えれば、金融政策だけで景気を回復させることには限界がある。
むしろ、金融機関への影響など際限なき金融緩和の「副作用」とリスクが懸念される。今後、さらに思い切った金融緩和策を実施することは、最終的に、金融政策の効果の限界を露呈することにもなりかねない。日銀としても、そろそろそうしたリスクを念頭に置いた政策運営を求められる局面に入っている。
■今後も続く円高傾向
背景には4つの要因
冷静に日米の金融政策の方向性を考えると、利上げの可能性があるドルが強含み、金融緩和観測のある円が弱含みの展開になってもおかしくはない。しかし、実際の為替市場では一方的なドル高・円安は進んでいない。
今後も円高傾向が続く可能性がある。背景には4つの要因が考えられる。
まず、通貨の価値に影響を与えるわが国の“実質金利”の高さだ。国債の利回り(名目金利)を見ると、主要国の中では米国が一番高い。しかし、物価上昇を加味した実質金利を見ると、デフレの影響を受けてわが国の実質金利は米国よりも高い。その為、円はドルに対して強含みになりやすい。
二つ目は、米国の為替政策の変化がある。米国政府はドル高による景気圧迫を懸念し始め、本音では緩やかなドル安を望んでいるように見える。この点は、イエレン議長などFRB高官の発言にも表れている。生産性の落ち込みを考慮すると連続的な利上げも進みづらい。そのため、利上げ観測が積極的なドル買いにつながるとは考えづらい部分がある。
三つ目は中国をはじめとする新興国、そして欧州・ユーロ圏の経済的なリスクがあることだ。中国の減速懸念は解消されておらず、多くの投資家はリスクを取りづらい状況にある。欧州では、英国とEUの離脱交渉の工程、それが各国世論にどう影響するかが不透明だ。イタリアを中心に銀行の不良債権問題や自己資本の健全性への懸念もある。
四つ目は、トルコを含めた中東の地政学リスクだ。トルコでは、失敗には終わったものの軍事クーデターが企てられ、政情が不安定だ。その虚を突いて、トルコや欧州でのテロ攻撃が増える恐れもある。それは欧州各国の世論を移民・難民の排斥に傾かせるだろう。
これらの要素を考えると、ヘッジファンドなど大手投資家はリスク回避を念頭に動きやすい。そうした思惑は、キャリートレードの巻き戻しなどを通して、円高圧力を強める可能性がある。
また、原油価格の下落などによる貿易収支改善から、経常収支の黒字額が増えている。それは円買いの要因になりやすい。わが国が世界最大の債権国であることもあり、円への需要も安定している。目先の米利上げ観測はあるものの、それでも基本的にドル安・円高が進みやすい状況にあるとみる。
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