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日経ビジネスオンライン
統計が示す「来年7月5日は企業滅亡の危機」説
記者の眼
2016年9月5日(月)
武田 健太郎
ノストラダムスの大予言とまではいかないが、日本中の企業に不幸を引き起こすとされる不吉な一日が来年7月5日に迫っている。過去の統計を分析すると、企業が倒産する割合が通常の3倍以上に増加しているという。企業活動にも悪影響を及ぼす何らかの力が働いているのだろうか?真偽はいかほどに。
1999年に人類が滅亡するというノストラダムスの大予言は外れた。2017年7月5日に企業倒産が増えるという説はあたるのか。(写真=Science Photo Library/アフロ)
「2017年7月5日はデータ結果を見る限り倒産数は3倍ですね」。そう語るのは、23万社の企業倒産データを調査した東京商工リサーチの友田信男常務取締役。日付と曜日、六曜の3つで悪条件が約9年ぶりに重なるという。キーワードは「5日」「水曜日」「仏滅」。この3つそれぞれに理由があるという。
手形取引の習慣が引き金に
まず毎月5日に倒産が多い理由。2000年以降に倒産した約23万社を調べたところ、確かに日付別での倒産数では5日が1万4728件と2位の10日(9582件)を大幅に上回っている。これには「手形取引の習慣が影響しています」と友田常務。手形取引は減っているものの、製造業や建設業など資金回収期間が長い業種で商習慣として残っている。この手形の支払いの締め切りが通常月末に設定されている。資金繰りに行き詰まり、月末に手形が不渡りとなり、土日を挟んで3営業日の5日に銀行から取引停止処分を受ける企業が多いという。
倒産日は5日が最多
●2000年以降の日付別の企業倒産件数
(出典)東京商工リサーチ
もっとも最近では、銀行からの取引停止以外に、法的手続きによる倒産が増加している。この影響が色濃く出るのが曜日別の倒産件数。調査では水曜日の倒産割合が23.8%と最も多い。法的手続きの場合は、倒産を決めた社長が弁護士に相談し、書類を裁判所に提出するため、企業側の都合で日程は多少コントロール出来る。友田常務は「土日で倒産を決断した場合、月曜日から準備を始めると3営業日の水曜日位に裁判所に提出というのが一般的なスケジュール」と話す。
さらに仏滅に倒産が多い理由はどうだろう。友田常務は「縁起が良い日なら、事業で起死回生となる幸運が起こることを少しは期待するのでしょう。倒産の書類提出を1日くらい待つかもしれません。でも仏滅ならあきらめがついて、さっさと提出するのでしょう」と分析する。正直やや強引な理由に思えるが、データ上は確かに仏滅での倒産割合が17.1%と、大安(16.8%)や友引(16.0%)など6種類ある六曜全体で最大だった。心理面への影響が多少はあるのだろう。
倒産が増える「5日」「水曜」「仏滅」の3条件が重なるのは来年7月5日。企業にとって倒産に至る不幸が降りかかるアンラッキーな一日という訳では無く、銀行の取引停止処分や裁判所への書類提出が増える傾向にあるというカラクリだった。あえて不幸な人を探すとするならば、倒産書類を大量に受け付けなくては裁判所関係者かもしれない。
倒産と日付にまつわる統計で、もう一つ東京商工リサーチは調査結果をまとめている。倒産企業の社長の誕生日を調べたところ、1月1日が1156人と圧倒的に多く、次いで1月2日(817人)、1月3日(547人)と続く。友田常務は「正月のお祝い気分で生まれた子どもは甘やかされて育ったんでしょうかね」と笑って話す。これはさすがに納得出来ない。別の専門家に聞いてみることにする。
倒産企業の社長は元旦生まれが最多?
●2000年以降に倒産した企業の社長の誕生日ランキング
(出典)東京商工リサーチ
誕生日と性格の関係性などを分析する、バースデイサイエンス研究所の佐奈由紀子代表を訪れた。誕生日別の倒産ランキングを見せると「最近では正月三が日に生まれる人の割合は全体に比べ少ないはずです」との答えが返ってきた。何かと忙しい正月は計画分娩などが避けられる傾向があり、4年に一度しか訪れない2月29日に次いで生まれる割合は少ないという。しかし、佐奈代表が約15年前に調査会社などに登録された経営者誕生日を調べたところ1月1日や2日が圧倒的に多かったという。
誕生日隠しは戦国時代から?
そこで、東京商工リサーチに問い合わせて見たところ「倒産していない会社の登録データも確認したところ、1月1日生まれの社長が明らかに多かった」「70〜80歳代では、忙しい年末に生まれた場合、年が明けた正月に出生届けを出すケースが多かった」と背景を話す。
さらに、先ほどの佐奈代表によると、「経営者は特に誕生日を秘密にしたい人が多い」と指摘する。東京商工リサーチでは社長の生年月日は聞き取り調査で確認している。正確な誕生日以外を伝えることも可能だ。佐奈代表によると戦国時代には武将は験を担ぎ、自分の生年月日と相性の良い方角というものを強く意識したという。合戦の際には兵を移動させる方角などにも影響する。武将の本当の誕生日は、敵国に知られていけないトップシークレットだったと話す。その名残が現代の経営者にも一部で生きていて、誕生日の登録を便宜的に1月1日としている可能性がある。
1月1日を誕生日とする社長が多い理由に、年末忙しかった理論と戦国武将理論の2つが出てきた。だが、どちらにせよ本当の誕生日と倒産数が相関するという話には至らない。社長の誕生日と会社の経営状態は全く無関係なのだろうか。誕生日に関しては、昨年に米コロンビア大学が発表した研究結果が話題を呼んだ。病院を訪れた170万人の患者を対象に調査した内容で「1月生まれは高血圧」など、生まれ月ごとにかかりやすい病気が変わるという内容。生まれた時期によって気温や日照時間などは違う。調査が進めば健康と誕生日の因果関係が科学的に説明出来るかもしれない。そうすれば事業経営と誕生日との関係の分析にも道が開ける可能性もでてくる。
企業が倒産するアンラッキーデーに関してはどうだろう。企業活動は1年を通したサイクルで動いている。世界的に見れば年末の米クリスマス商戦に向けて電機メーカーなどは商品発表や生産のスケジュールを組むし、穀物なども年間で収穫時期は概ね決まっている。人間活動と自然活動のサイクルに1年の企業活動は影響される。業種ごとに、明確に説明出来るラッキーデーやアンラッキーデーは潜んでいる。分析の余地はありだ。ちなみに佐奈代表曰く、9月前半には多くの業種で注意が必要という。「夏の暑さが一段落して、お店などで売上げが伸びやすい。ふと気が舞い上がって、ヘマをする人が多い」とのこと。皆様ご注意を。
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記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
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