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不意打ちでも安心!? 「預金封鎖」に対抗して資産を守り抜く方法=東条雅彦
2016年8月28日 ニュース
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我が国には敗戦直後に預金封鎖を実施した「前科」があります。1990年代の日本で「資産課税」が検討されていたという噂もあるくらいで、歴史的にはさほど珍しいことではありません。
現在の日本で預金封鎖が行われる可能性は極めて低いと思いますが、ゼロとは言い切れません。預金封鎖は「不意打ち」でなければ効果がないため、政府側は突如、預金封鎖を宣言します。直近では2013年3月16日土曜日、キプロス政府が預金封鎖を発表しました。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資〜雪ダルマ式に資産が増える52の教え〜』東条雅彦)
キプロスの預金封鎖に学ぶ、日本人が自分の預金を守り抜く方法
日本で「預金封鎖」はあり得るのか
日本で「預金封鎖」はあり得るのでしょうか。
かつて我が国では1946年に預金封鎖が実施され、世界でも稀に見る「預金封鎖の成功例」になっています。
預金封鎖は、資産課税を行うために実施されます。政府が借金を返せなくなって、いよいよピンチになると、国民の財産を政府に移管することで難を逃れようとします。財政再建の方法としてはとても強引ですが、効果は絶大です。
本稿では、前時代的でナンセンスに思える、この「預金封鎖」に関する情報をお届けします。意外にも預金封鎖は21世紀に入っても実施された例がたくさんあり、歴史的にはそれほど珍しいことではありません。
直近では3年前の2013年3月にキプロスで預金封鎖が実施されました。
<預金封鎖実施例>
1933年3月4日 アメリカ
1946年2月16日 日本
1990年3月15日 ブラジル
2001年12月1日 アルゼンチン
2002年7月30日 ウルグアイ
2013年3月16日 キプロス
当時、日本のマスコミは大々的に報道せず、私たちはキプロスの預金封鎖に関して、何か漠然と怖いものであるというイメージしか持てずにいました。
具体的なイメージを持てば、変な恐怖感は和らぎ、万が一の場合も冷静に対処できるようになるはずです。
あれから3年以上が経過した今、歴史の教訓を学ぶ意味で、キプロスの当時の状況とその後の状況をお伝えして、預金封鎖の真実に迫りたいと思います。
なぜキプロスは預金封鎖に至ったのか?
キプロスは、地中海に浮かぶ人口約87万人の島国です。この国はオフショア金融センターとして、多大な預金を保有していました。特にロシア富裕層からの預金を多く預かっており、GDPの800%(17兆円超)ものお金が集まっていました。
キプロスのGDPは219億ドル(1ドル=100円換算で2兆1900億円)ほどで、日本の経済規模の0.4%です(日本の都道府県で言えば、高知県の経済規模とほぼ同等です)。
キプロスは、歴史的にギリシャと深い繋がりを持っています。そのため、キプロスの銀行はギリシャの国債を多く購入していました。
そのギリシャは、2010年頃から財政危機が表面化し始めます。2011年には格付会社ムーディーズは、すでに投機的等級にあったギリシャの格付けを、さらに3段階も引き下げました(「Caa1」⇒「Ca」)。
格付け「Ca」と言えば、最も低い「C」より一段階だけ上に位置するものの、ほぼデフォルトに陥っている状態を示します。
2012年3月にはギリシャ国債の値下がりで買い手がつかず、利回りが36.5%まで上昇しました。ギリシャ国債がほぼ紙屑になったことで、キプロスの銀行は大損害を受けてしまったのです。
運命の土曜日
2013年3月16日土曜日、キプロス政府は「預金封鎖」を発表します。国内の銀行業務およびオンライン取引を停止しました。この現代において、そんな前時代的なことができるのか?と世界中で衝撃が走りました。
タイムスケジュールは次の通りです。
<2012年6月25日>
欧州連合に緊急融資を要請。
<2013年3月15日>
ユーロ圏財務相会合で銀行預金への課税を条件とする100億ユーロのキプロス支援策を決定。
<2013年3月16日>
預金封鎖を発表。
<2013年3月19日>
キプロス議会は銀行預金への課税に関する法案を否決(賛成ゼロ、反対36、棄権19)。
<2013年3月25日>
アナスタシアディス大統領と欧州連合が交渉、支援条件で合意。
<2013年3月28日>
銀行が約2週間ぶりに営業を再開し、ユーロ圏で初の資本規制(預金引出制限など)。
重要な事実
このようにキプロス政府は、EUからの100億ユーロの支援が決まった3月15日の翌日に、預金封鎖を発表しました。
10万ユーロ以下の預金者には6.75%、10万ユーロ超の預金者には9.9%の預金税を課すのが当初案でした。少額利用者も含めて、国民全員に負担を求めようとしたのです。
しかし、3月19日の議会では賛成する議員は1人もおらず、36人が反対して、19人が棄権しています。国民を目の前にして、自分の首をかけて賛成できる議員は一人もいなかったのです。
Next: ブルドーザーで銀行突撃!キプロス国民の預金は結局どうなった?
キプロス国民の怒り爆発!ブルドーザーで銀行に突撃する強者も
キプロス国民は預金封鎖が発表された後、早朝からATMに並ぶも、もう預金の引き出しはできなくなっていました。これが、その際に表示された画面です。
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ThePressProject @ThePressProject
2013年3月16日 19:34
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ATMには「技術的な問題により、現在お取引できません」というエラーメッセージが表示されています。
これを知った国民は議会前でデモを行ったりして、大変な騒ぎになりました。怒りを我慢できず、ブルドーザーで銀行に突撃する強者も出てきました。
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Sir Arnold Robinson @uk_expat
BBC News - #Cyprus bailout: Man threatens bank with bulldozer http://bbc.in/ZyjbPM
2013年3月17日 17:53
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当初、キプロス政府は短期決戦で預金封鎖を解除する予定でしたが、法案がなかなかまとまらず、そのため国民は2週間も耐えなければいけませんでした。
最終的にキプロス国民の銀行預金はどうなったのか?
キプロスには大きな銀行が2つありました。国内第1位のキプロス銀行と、国内第2のライキ銀行(キプロス・ポピュラー銀行)です。
政府は経営が悪化していたライキ銀行を潰すことにしました。ライキ銀行の健全な資産を、キプロス銀行に移管することにしたのです。そして、ライキ銀行には大量の不良債権を残して倒産させました。
<最終的に決まった預金税の内容>
1)キプロス銀行の預金者
・10万ユーロ以下は全額保護する
・10万ユーロを超える分の47.5%をキプロス銀行の株券へ転換する。株式転換分以外のユーロ資産は没収とする(預金税を課税する)
2)ライキ銀行の預金者
・10万ユーロ以下は全額保護する→キプロス銀行へ移管した
・10万ユーロより多い預金は全額、没収する(100%の預金税を課税する)
この預金税は個人・法人問わず実施されました。
結局、キプロス銀行、ライキ銀行のどちらに預けていても、10万ユーロより多い通貨「ユーロ」は没収されました。
当初案は、10万ユーロ以下の預金者には6.75%、10万ユーロ超の預金者には9.9%の預金税を課すというもので、国民全体が広く浅くダメージを受ける内容でした。しかし、このような少額預金者も含めて課税する行為は、政治的には不可能でした。
そのため、広く浅くダメージを広げるのではなく、銀行を1つ閉鎖させて、富裕層に大きな負担を強いる方針に転換したのです。
そのため、キプロスの銀行に多くの資金を預けていたロシアの富裕層たちが、大ダメージを受けることになりました。
キプロス政府は預金税で合計42億ユーロを得て、EUとIMFから100億ユーロの支援を受けました。
この後、国内第2の銀行を失ったキプロスの経済はガタガタになっています。2007年より以前の失業率は概ね3%台(完全雇用)で推移していましたが、キプロス・ショック以降は失業率が一気に跳ね上がりました。
<キプロス 失業率の推移>
2007年 3.91%
2008年 3.67% ←リーマン・ショック
2009年 5.41%
2010年 6.27%
2011年 7.91%
2012年 11.88%
2013年 15.89% ←キプロス・ショック(預金封鎖&資産課税)
2014年 16.13%
2015年 15.32%
2016年 14.23%
<キプロス 名目GDPの推移(単位:10億ユーロ)>
2012年 19.47
2013年 18.07 ←キプロス・ショック(預金封鎖&資産課税)
2014年 17.39
2015年 17.42
2016年 17.82
キプロス経済は今もまだ完全には立ち直れていません。しかし、失業率は毎年1%ずつ改善されてきており、名目GDPも今年は前年比で2%上昇する見込みです。厳しい状況が続いているものの、最悪期からは脱出しつつあります。
Next: 明日は我が身、1990年代の日本でも「資産課税」が検討されていた
1990年代の日本でも「資産課税」が検討されていた
大前研一氏によると、1990年代の住専危機の際に、当時の大蔵省が「新円切り替え」による「資産課税」を実施する計画があったそうです。
幸い、旧紙幣100万円が新紙幣80万円にされる「新円切り替え」は実施されませんでした。ATMメーカーから事前に情報が漏れてしまったため、計画は未遂で終わったとのことです。
日本政府の債務残高対GDP比が100%に達したのが1996年です。その翌年の1997年に橋本内閣が財政構造改革法を成立させ、2003年までに赤字国債発行を削減しようとしていました。結局、その後も財政赤字は拡大し、2016年には債務残高対GDP比は249%を突破する予定です。
我が国では、債務の膨張スピードが経済の成長スピードよりも速くなっています。
経済が成長しているときは、税収もそのぶん伸びていきます。債務の膨張スピードよりも経済の成長スピードの方が速ければ財政は破綻しないのですが、日本では、
経済の成長スピード K (約0%)
債務の膨張スピード S (約4%)
「K<S」
この状態が20年以上、続いています。
債務の膨張にも「複利レバレッジ」がかかります。72の法則で「72÷4=18」となり、18年で債務は2倍になります。
K<S(0%<4%)の状態がこのまま続くと、債務残高対GDP比はどうなるか?
1980年 50%
↓18年後↓
1998年 121%
↓18年後↓
2016年 249%
↓18年後↓
2034年 498%
上記のように「K<S」が続けば、数列の発散により債務の膨張が止まらなくなり、18年毎に2倍のペースで増えていきます。
大蔵省の「新円切り替え未遂事件」が事実であるのなら、残念ながら我が国での「資産課税」の可能性を完全には否定できません(限りなく0%に近かったとしても、0%とは言い切れません)。
私たちがキプロスの預金封鎖から学べることは、「悲観的な予想を元に万全の準備をして、楽観的に対応する」ということです。この「危機管理の鉄則」に従った対策で、迎え撃つしかありません。
Next: 今日から始める預金封鎖対策。自分の預金を守り抜く方法とは?
「危機管理の鉄則」を知り、自分の預金を守り抜こう
キプロス国民は、銀行預金を引き出せずに困り果てました。このリスクをなくすには、手元に一定額の現金を持っておくのが有効です。
2週間から1カ月ぐらいを凌げる現金を持っていれば、キプロス国民のように困り果てるという事態にはなりません。
そして、多くの資産を持っている人は、そもそも余分なお金を「預金」という形で持たないことが有効な預金封鎖対策になります。
日銀のバランスシートを見ると、大半のお金が、借方(資産の部)に「国債」、貸方(負債)に「預金」として記載されています。
<日銀のバランスシート>
借方 貸方
国債 預金(日銀券)
複式簿記の基本は「等価交換」です。日銀は、日本国債と通貨「円」を等価交換することで、民間銀行に通貨「円」を供給しています。
銀行に多くのお金を預金することは、日本国債を保有することと何ら変わりません。
2018年に向かって、需給環境悪化により、国債は暴落するリスクが高くなっています。国債価格の下落は、等価交換している通貨「円」の価値下落を意味します。
そこで、次の2つの対策を実施しておけば、預金封鎖のリスクを大幅にヘッジできます。
<対策1>
通貨「円」のポジションを下げて、他の資産(株式・不動産・ゴールド等)のポジションを上げておく。
<対策2>
2週間〜1カ月程度を凌ぐための現金を保有しておく。
これらの対策は危機管理の一環となります。
忘れてはならない「危機管理の鉄則」
「悲観的な予想を元に万全の準備をして、楽観的に対応する」
多くの場合、「楽観的な予想を元にたいした準備もせず、悲観的な対応に追われる」という逆パターンの行動になってしまいがちなので、気をつけましょう。
以上が、キプロスの預金封鎖から学べることです。
預金封鎖は「不意打ち」でなければ効果がないため、政府側は突如、預金封鎖を宣言します。この不意打ちを防ぐには、「危機管理の鉄則」で臨むのが賢明なのです。
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『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資〜雪ダルマ式に資産が増える52の教え〜』(2016年8月21日号)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による
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http://www.mag2.com/p/money/21214
ドイツ銀行CEO「ドラギは我々をクラッシュさせるつもりか!」迫る10月ショック
2016年8月30日 ニュース
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今年初めになって、欧米メディアが、とうとうドイツ経済に暗雲が垂れ込めていることを書くようになりました。ドイツ銀行の破綻は「現実的なレベルになってきた」と。それは、ドイツ銀行が身の丈以上の金融拡大を続けてきたことが原因です。(『カレイドスコープのメルマガ』)
※本記事は、『カレイドスコープのメルマガ』 2016年8月25日第170号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。割愛した全文もすぐ読めます。
なぜ今?「緊急事態」に備え国民に食料備蓄を呼びかける独政府
現実味を帯びてきたドイツ銀行の破綻
ドイツ銀行の意味のないポートフォリオによれば、デリバティブ取引における保有残高は、2016年初頭の時点でドイツのGDPの25倍にまで膨らんでいたのです。それはとっくに、利払いができるかどうかの瀬戸際まで悪化しています。
ドイツが先か、日本が先か、それとも米国が先か……順序は別にして、そこには「はっきりした筋書き」が炙り出されてきたのです。
その「筋書き」は、いったい誰が書いているのか。そして、今年から(遅くとも2017年以内)始まるグローバルな連鎖崩壊の様相は、どれほど酷いのか。それについては、次号のメルマガで詳述することにしたいと思います。
リーマン・ショック以来のヘッジファンド解約数
さて、その「筋書き」ですが、今度こそは、欧米の慎重なアナリストたちが口をそろえて言ってきたように、本当に有史以来の未曽有の経済災害が誘発されようとしています。
最大の震源は、もちろん、ヘッジファンドの破綻です。
ここにきて、ヘッジファンドの解約は月間ベースで、2008年後半から始まった世界金融恐慌以来のペースで進んでいます。
【関連】英フィナンシャル・タイムズが「日本撤退」を投資家に勧める理由
ヘッジファンドの場合はレバレッジを利かせてある分、市場の大暴騰でも大暴落でも、予期せぬ事態に遭遇した場合、その損失は再起不能なレベルまで跳ね上がります。
しかし、もはや、はじける以外に適正な評価額に戻ることが叶わなくなっているバブルにおいては、当然のことながら大暴落に違いないわけです。
24日のブルームバーグによれば、「英銀ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド・グループ(RBS)はグローバル・トランザクション・サービス(GTS)業務の約3000顧客に、取引銀行の変更を急ぐように促した」とのこと。
ブレグジットの余波が、いよいよ表面化してきた?それだけではありません。欧州の金融危機勃発の兆候が顕著になってきた、ということです。
ドイツ政府が国民に食料や水の備蓄を呼びかけ
つい数日前、英BBCは、「ドイツ政府、国民に水・食料の備蓄呼びかけ」という、ゾッとする見出しの記事をアップしました。
ドイツ政府が冷戦以来初めて、国家的緊急事態に備えて食料や水を備蓄するよう国民に呼びかけている。ドイツ政府は24日にも民間防衛計画を承認する見通し。
……(ドイツの)民間防衛計画では市民に、少なくとも10日分の食料を供えるよう勧告している。
非常事態の際に公的支援が提供されるまでの間、自前で対応できるようにするためだ。
……政府は10日分の食料のほか、5日分の水(1人あたり1日2リットル)の備蓄も奨励している。
イタリアのペルージャで起こったような、巨大地震の前触れ?災害続きの日本人であれば、条件反射的にそのように考えるでしょう。
ドイツ政府が食料の備蓄を勧告しているのはドイツ全国民に対してです。地震ではありません。
では、シリア発、第三次世界大戦の勃発?
独紙フランクフルター・アルゲマイネによると、ドイツ内務省が発表した69ページにわたる民間防衛計画書では、「通常の国防が必要となるドイツ領への攻撃は、あまりあり得ないものの、国家安全保障への将来的な脅威の可能性を排除すべきではなく、そのため民間防衛の施策が必要であると考えたため」としています。
民間防衛計画書に書かれてある「10日分の食料と水の備蓄」が戦争への準備であると考えるドイツ国民は、おそらく、ほとんどいないでしょう。
ドイツ政府は、全国民に、いったい何を示唆しているのでしょう?
Next: ドイツ銀行CEO「ドラギは我々をクラッシュさせるつもりか!」
EU全体に向けられたドイツ銀行CEOの警告
ゼロヘッジは、8月25日、「ドイツ銀行CEOが預金者のために『致命的な結果』を警告した」ことを取り上げています。
ドイツ銀行の破綻が本当に近づいてきたのか、英BBCまでもが「もっとも危険な銀行」と表現するようになりました。
そのドイツ銀行のCEOが、8月24日、とうとうドイツ国民に向けて重大な警告を発したのです。
「欧州中央銀行(ECB)は量的金融緩和を止めろ! ドラギはわれわれをクラッシュさせるつもりか……」
EUの中央銀行である欧州中央銀行(ECB)とドイツ銀行との間の論争は、今に始まったことではありません。
しかし、ドイツ銀行のCEOが、欧州中央銀行(ECB)総裁のドラギを、そう非難するのは、ややお門違いかも知れません。
イタリアの大富豪、ベルルスコーニが数年前、イタリアの首相を務めていたとき、彼はECB総裁にこう言っていたのです。
「イタリアの債務危機を救うためには、中央銀行による債券の買い取り(量的金融緩和)が必要だ。なぜ、ECBはそうせず、イタリアを窮地に追い込むような真似をするのか理解できない」
これは、債務危機に喘ぐ他のEU加盟国の指導者も同じです。彼らは、数年前までは、ECBの量的金融緩和を望んでいたのです。
しかし、それは大統領なり首相なり、自分の任期の間だけは経済破綻させたくない、という責任の先送りに過ぎず、EUの債務危機を根本から解決しようなとど、誰一人として考えていなかったのです。
EU加盟国の債務危機を解決するためには、まずユーロの採用を中止して、それぞれが自国通貨に戻すことです。
本来が、強さの違う通貨を統合して為替という調整機能(それは自国通貨を保護し、金利政策を有効に機能させる)を失うことによって、自国通貨の強い国が独り勝ちし、通貨の弱い国が破綻させられることが運命づけられてしまうのです。
自由貿易のために関税を撤廃してしまうことから、この為替調整機能が喪失し、結果、通貨の弱い国から順番に破綻していくのです。
それを防ぐために、いわば「持ち合い」で相互に国債を保有せざるを得なくなり、それが今日のEU全体の債務危機を招いた根本的な原因となっているのです。
この構造は、ギリシャの破綻で証明されました。
今、ユーロを採用したEU加盟国は、自国通貨で通商を行っていたときに支払っていた関税の何千倍、いや何万倍ものコストを支払う羽目に陥っているのです。
それは、量的金融緩和とマイナス金利によってもたらされるユーロそのものの購買力の低下です。その効果は、増税とまったく同じです。
こうしたことは目に見えないので、私はこれを「ステルス増税」と言ってきました。
もっとも、ドイツの場合は、もともとドイツマルクが強かったわけですから、ユーロ圏で独り勝ちすることは、あらかじめ決まっていたと言えます。
ドイツ銀行の「不覚」とは?
ではなぜ、ドイツ銀行は破綻秒読みにまで追い込まれてしまったのでしょう。
ドイツ銀行は、ECBの量的金融緩和が、今日のような最低金利に導いた元凶であると非難しています。
ドイツ銀行のジョン・クライアン(John Cryan)最高経営責任者(CEO)は、8月31日から9月1日の二日間、フランクフルトで開催されたドイツの日刊商業経済紙ハンデルスブラット主催の『激動の中の銀行』というイベントにゲストコメンテーターとして招かれたとき、
「現在のECBの通貨政策は、経済を強化してヨーロッパの銀行システムをより安全にする目的に反している」と強い不満をもらしました。
しかし、その不満とも警告とも受け取れる発言は、ECB総裁のマリオ・ドラギを標的にしたものではなく、ドイツという国それ自体に対してのものだったのです。
もちろん、表面上は、彼の銀行の顧客を保護するかのように装いながら……
「もしドイツ銀行が破綻するなら、ドイツ銀行とともに、すべてを引きずり込んでしまう可能性がある」ということを彼は暗に示唆したのです。彼は、ドイツ銀行の破綻が、それだけ巨大な災害をもたらすことを承知しているのです。
Next: ジェイコブ・ロスチャイルドが警告する“脅威”とは?
先進国の国々は「いつか爆発する超新星」の脅威に晒されている
「現在、世界は歴史始まって以来の最も大きな財政的な実験を経験している」……これは、政府債務の増大と量的緩和にともなうマイナス金利に言及しているロスチャイルドのせりふです。
読者のみなさんは、彼が「財政的な実験をやっている」と言っていることに注目してください。
RTの記事では、RITキャピタル・パートナーズの会長、ジェイコブ・ロスチャイルド (第4代ロスチャイルド卿)がこう述べていると伝えています。
「低金利と政府の国債の逆利回り、そして量的金融緩和は、世界史で最も大きい財政的な実験の一部である。そして、結果はどうなるかまだ分からない」
RITキャピタル・パートナーズは、半期ごとにレポートをまとめた上で、それを公開していますが、今回の報告書では、ほとんどコメントしないことで知られているジェイコブ・ロスチャイルド自らが口を開いた、ということから世界中の投資家が注目しているのです。
「レビュー(市場概観)の作成にとりかかっていたこの6ヵ月間、われわれは中央銀行が世界の歴史の中で、確かに通貨政策の最大の実験を続けてきたことを見てきた。したがって、われわれは未知の海に漂っており、逆利回りになっている世界の国債の約30%、大規模な量的金融緩和とが組み合わさってもたらされている超低金利が何をもたらすかを予想することは不可能である」
「米国株は2008年以降3倍に成長した。投資家たちの旺盛な投資意欲と低いボラティリティのお陰で……」
この世界でもっとも有名な銀行家は、中央銀行の政策が株式市場の急成長につながった点をアピールするのを忘れていません。
ここで再び読者のみなさんは、彼が「低いボラティリティ」と言っている点に注目してください。
……とりあえず先に進みましょう。
「経済のリアル・セクター(実物部門)は、先進国の多くの地域における弱い需要とデフレによって経済成長は貧血状態のままである。その上、悪化の一途をたどっている地政学的な状況下で、グローバル経済は多くのリスク要因を抱え込んだままでいる」と、この億万長者は強調しました。
「悪化の一途をたどる地政学的な状況」とは、国際テロのリスクが高まっていることを意味しています。「これは中東で紛争が続いている結果である」と、ジェイコブ・ロスチャイルドも、その他大勢の一般的なアナリストと同じことを言っています。
6月に出されたバンクオブアメリカ・メリルリンチの報告書によれば、先進国の金利は米国の0.5%に代表されるように、過去もっとも低い水準にあるとのことです。
スウェーデン、スイス、日本のような国々の中央銀行は、こぞって「デフレとの闘い」を掲げて、とうとう貸出し金利をマイナスにしさえしているのです。結果、上述してきたように、ドイツ銀行のクライアンCEOが再三警告しているように「致命的な結果」を招こうとしています。
もう一つの悲痛なことは、国債の逆利回りです。6月に、ドイツの10年国債の利回りが歴史的に初めて0%になりました。
ヤヌス・キャピタル(Janus Capital)は、この500年でもっとも低い利回りになったと推計しています。そのような債券の総額は10兆ドルにまで膨らんでいます。
主導的なポートフォリオ・マネージャー、ビル・グロス(Bill Gross)は、それを「いつか爆発する超新星」と呼んでいます。
Next: 10月の悲劇…オクトーバー・サプライズは起こるのか?
10月の悲劇…オクトーバー・サプライズは起こるのか?
ジェイコブ・ロスチャイルドは、RITキャピタル・パートナーズの半期ごとのレポートの中で、欧州連合(EU)の今後、11月8日の米大統領選挙の結果、長引く中国の経済成長の鈍化……こうした数々のリスク要因の他に、ブレグジット(英国のEU離脱)の今後の成り行きについても憂慮すべきリススクに含めています。
前号のメルマガ(第169号パート1とパート2)で、大統領選に向けて、グローバル・エリートたちは「オクトーバー・サプライズを必要としている」と書きました。
確かに、それは起きます。オーストリアとハンガリーは、10月の同じ日に画期的なEU離脱を決める国民投票を開くかもしれません!
重要な視点は、それが米国の大統領選に、どのように影響してくるか、ということです。
ハンガリーの火種
米国の保守系・オンライン・ニュースサイト「ブライトバート・ニュース」(7月5日付)によると、「ハンガリーの大統領、アーデル・ヤーノシュ(Janos Ader)は、欧州連合(EU)の移民政策に関して是非を問う国民投票を10月2日に行う」と発表したとのこと。
アーデルの大統領執務室は、この国民投票では、「EUがハンガリー議会の同意を得ることなく、非ハンガリー市民の移民に関する問題の解決策を勝手に決めることを容認するのかどうかがハンガリー国民に問われることになる」と述べています。
移民に断固反対しているハンガリーのオルバン・ヴィクトル(Viktor Orban)首相は、「NOに投票することは、ハンガリーの独立を支持し、押し付けの義務的な和解案を拒否することに賛成の意を示すことになる」と述べました。
当初、オルバン首相は、この2月に国民投票の実施を発表しました。彼は、EUの移民政策に反対するハンガリー国民の投票が、ヨーロッパ大陸全域で望まれていない移住者の強制的な分担受け入れを拒否する強力な切り札になると考えているのです。
とはいうものの、ハンガリーは移住者の受け入れを拒否していることから、EUによって法廷に持ち込まれ、場合によっては罰金を科される可能性も出てきます。
7月の初め、オルバン・ヴィクトル首相がブリッセルを訪問したとき、彼はこのように述べました。
「EUはブリュッセルにあるのではない。EUは、現在、28の主権国家から成っている。EUは、その機関によって成り立っているのではなく、これらの参加国によって成り立っているという考え方に戻らなければならない」
もともと、彼は「移民は薬ではなく毒だ」と述べ、シリアを始めとする中東からの大量の難民を受け入れたドイツで治安が悪化していることから、「移民の受け入れは政治テロのリスクを増大させる」と主張してきました。
オーストリアでも
一方、オーストリアでは、10月2日に、大統領選の決選投票のやり直しを行うことを発表したばかりです。
EU懐疑派で人民主義の候補者である自由党のノルベルト・ホッファー(Norbert Hofer)は、今後、中央ヨーロッパの表看板になりそうです。
オーストリア大統領選の投票は、今年の5月に実施されましたが、投票のカウントにおいて不正行為が発覚したことから告発を受け、ハンガリー最高裁判所による徹底的な調査につながっていきました。特に、不正は郵便投票の分類に関して見られました。
投票日後一ヵ月以上経ってから、オーストリアの法定は、投票が不適切に取り扱われている証拠を確認し、さらに第2ラウンドの決選投票において写真判定によって不正が確定したことから、「非常に深刻な事態」と認める至ったということです。
ホッファーは、自由党から立候補したものの、惜しくも敗北。票のカウントの過程で見つかった不審な証拠の数々を挙げて不正選挙を訴えていました。
6月23日の英国の国民投票の結果は、ホッファーをさらに励ますこととなりました。
ホッファーが「EU自らが改革に乗り出さない限りは、オーストリアはEU離脱に向けて国民投票を実施する」と言ったのは、今回が初めてではありません。英国の国民投票の結果を受けて、彼はいっそう語気を強めています。
「EUが、そのコアバリューを取り戻そうとするよりはむしろ、中央集権的な歩みを止めようとしないのであれば」、そのとき彼は、言葉どおり、オーストリアのEU離脱を問う国民投票に訴えることになります。
10月2日の大統領選のやり直しは、同時に、オーストリアのEU離脱を決める選挙になりそうですが……
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最大規模のオクトーバー・サプライズが起こった場合は……
オクトーバー・サプライズが最小規模となった場合は、ハンガリーのEU離脱投票の実施。
最大規模となった場合は、オーストリア、ポーランド以外で、イタリア、フランスでも国民投票の実施を宣言する声が上がり、さらには、ドイツ銀行の破綻が、より具体的、現実的に迫って来るという事態が展開されることになります。
そして、さらに悪ければ、英BBCが報じたとおり、ドイツ国内で(おそらく)銀行システムの混乱に乗じて、インターネットや水道といったインフラを破壊するテロが勃発し、一部の地域で物流が停滞する、という緊急事態が生じる最悪の事態さえ想定しなければならなくなる、ということです。
それは、EUに大混乱を引き起こし、米国の大統領選の実施さえ危ぶまれる事態を引き起こすかもしれません。
このことは、メルマガ第169号のパート1とパート2で書いた「プランC」と密接につながってきます。(ダイジェストはコチラ)
まったく想像したくない近未来ですが、米国の大統領選混迷の様相を見るにつけ、あながち、すべてが幻想であると片づけることができない悲しさがあるのです。
日本への影響は?
一方、日本への影響は、どんなことが考えられるでしょう。
日本の金融市場は、海外で経済的混乱が起こる予兆を感じ取ると、すぐさま円高になる構造になっています。
それは、事前に察知した外国からの資金が円に向かって逃避してくるので円高に振れます。すると輸出が低迷するので、特に経団連企業(輸出型企業が多い)の株価は先行きを見越して下落します。
日経225指数には、多くの経団連企業の個々の株価が反映されています。
逃げ足の早い外国人投資家(日本の株式市場に入っている投資家の6割以上は外国人投資家)は、日経225指数に、ほんのちょっとの不穏なシグナルを発見すれば、すぐさま日本市場から資金を引き上げてしまいます。これは先物に現れます。
これが、株式市場の連想的大暴落を招くのです。
もし、円高になっても、思ったより日経平均が下がらなければ、それは官製相場の最後の深呼吸であって、その後、呼吸停止してしまうかも知れません。
さらにトランプが大統領になった場合、一層の円高が進むことが強く予想されます。
EUの増大している中央集権主義は、結局、地球を半周回って、あらゆる先進国の株式市場に悪影響を与えるでしょう。
ですから、今後、オクトーバー・サプライズの規模がどの程度になるのか、よく目を凝らして、為替、とくに対ユーロに敏感になることが必要です。
※本記事は、『カレイドスコープのメルマガ』 2016年8月25日第170号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。割愛した全文もすぐ読めます。
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『「カレイドスコープ」のメルマガ』(2016年8月25日第170号より一部抜粋、再構成
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