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ジャネット・イエレンFRB議長(撮影:AP/アフロ)
円高地獄が再び日本企業を襲う懸念浮上…米国、景気後退局面入り間近の兆候
http://biz-journal.jp/2016/08/post_16454.html
2016.08.26 文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授 Business Journal
8月に入り円高傾向が進んでいる。その背景には、主要通貨に対してドルが軟調に推移していることがある。米国FRB(連邦準備制度理事会)が利上げの可能性を示唆するなか、多くの投資家は世界経済の先行きに懸念を持ち始めている。特に、米国経済の先行きを懸念する声が出始めているのが気になる。
投資家の中で、「米国がこれまで以上のペースで回復するよりも、徐々に景気のピークが迫っている可能性が高まっている」との見方が高まっているということだ。世界的に株式市場が安定していることもあり、短期のうちに米国経済が減速に陥るとは考えづらいが、米国企業の業績が短期間で上向くとも想定しづらい。米国経済のピークアウトの時期には注意が必要だ。
それに加えて、原油価格の急落や中国経済の減速懸念、欧州の政治混乱など、先行きのリスクは多い。投資家のリスク回避の動きが加速すると今後、一段と円高が進むことも考えられる。それは、日本の主力輸出企業にとって大きなマイナス要因だ。日本経済に、再び円高の試練がやってきたと考えるべきだ。
■為替市場で一段と進む円高傾向
8月以降の為替相場で円高傾向が顕著な背景には、ドルが弱含みになっていることがある。ドルの主要通貨に対するレートの水準を示すドルインデックスは、8月月初から19日まで1%以上下落した。その水準は予想を上回った米雇用統計後の水準を下回っている。追加緩和期待があるユーロに対してもドルは軟調だ。
この間、ドル/円は8月16日に99円台半ばまで上昇した。これは予想外に英国のEU離脱が決定され市場が混乱するなか、6月24日につけた1ドル=99.02円以来の円高だ。為替相場の動向に影響を与えることが多い銀行のディーラーなどの投機筋のポジションを見ても、ドルに対して円を買う動きは根強い。
ドル安の背景にある主な要因として、ドルの実質金利が上昇しづらいことが考えられる。短期的に為替レートの動向は実質金利(名目金利−物価上昇率)に反応しやすい。そして投資資金は、金利の低い通貨から高い通貨に流れ込む。この考えに従うと、米国の国債利回り(名目金利)が上昇する、あるいは物価上昇率が高まるとの期待が強まる場合、ドルは主要通貨に対して強含みやすい。
足許の市場環境を見ていると、米国の名目金利、物価上昇率とも上昇しづらいようだ。多くの市場参加者が「米国の利上げは容易ではない」と考えているため、金利が上昇するとすかさず押し目買いが入る。その背景には、米国の労働生産性が3期続けてマイナスになるなど、今後の景気回復に対する懸念があるようだ。
物価を見ても、FRBが物価の指標として重視する個人消費支出で見た物価上昇率は、16年1月以降、前年比1.6%の横ばいで推移している。国内総生産(GDP)成長率が予想を下回るなか、さらなる消費が進み物価が上昇するとは期待しづらい。こうして米国の実質金利は上昇しづらくなっている。
これを日米の金利差に当てはめると、日本では日銀が期待を下回る追加緩和を発表した7月下旬以降、国内の金利が急上昇した。その結果、米国と日本の金利差には縮小圧力がかかり、ドル安・円高が進行したと考えられる。
■米国政府の為替政策の変化
米国内外の金利差の縮小に加え、米国政府の為替相場(ドルの為替レート)に対する考え方=為替政策が変化してきたこともドルの下落に影響しているはずだ。
一般的に、「米国は強いドルが国益と考えている」との説明をよく目にする。しかし、米国政府の為替相場に対する考え方を注意深く振り返ると、常に米国が自国への資金流入を促すために「強いドルが国益」と主張してきたわけではないことがわかる。米国は自国経済の基礎的な条件=ファンダメンタルズの動向に照らして、強いドルを容認できるか、あるいは、ドル安が好ましいのか、考え方を変えてきた。これが米国の為替政策の変化だ。
歴史的に、米国経済が堅調に推移し海外の経済も回復基調にある場合、米国政府はドル高を許容し、「強いドルは国益」と考えてきた。たとえば、2011年11月から15年半ばまで、ドルは円に対して57%程度上昇した。この背景には、米国経済がシェールガス革命などによって緩やかに回復し、世界全体の景況感も上向いたことがある。こうして米国企業がドル高の影響を吸収できるだけの収益を得られる環境が整っていった。
だから、米国政府はドル高が進んでも、ことさらに目くじらを立てなかった。為替相場に大きな影響を与えることが多いヘッジファンドなどは、その考えをいち早く察知したはずだ。彼らは金利の低い円で資金を調達し、利上げ観測が高まりやすいドルを買う“キャリートレード”を進めた。こうして円安が進行した。
ひとたび経済がドル高に圧迫され始めると、米国政府は手のひらを返すようにドル高への警戒を示すことが多い。15年頃から、米国財務長官であるジャック・ルーは、主要国の金融緩和依存とドル高の進行に警戒を示し始めた。
そこには、中国経済など海外経済の減速により、米国企業の収益がドル高に圧迫されているとの懸念があったとみられる。16年に入ると米政府高官は「為替相場は秩序立っている」と表明し、為替介入を示唆する日本をけん制している。現状、輸出振興などのために緩やかなドル安が望ましいのが米国の本音だろう。
この結果、大手投資家はキャリートレードの持ち高(ポジション)を閉じ、ドル売り、円買いに転じている。これが、年初来のドル安・円高につながった部分は大きい。
■日本経済に試練の円高進行
今後、円の需給面、そして米国経済のファンダメンタルズの点から、円高が続きやすいのではないか。
まず需給面について、日本では原油価格の下落による貿易収支の改善などによって経常黒字が積み上がっている。これは、国内の企業がドルなどの外貨を売り、円を買う必要があることを意味する。それが潜在的な円高圧力になっていることは忘れるべきではない。
基本的に、円の為替レートは国内だけの事情で決まるほど単純ではない。それは、米国を中心とする世界経済の動向から影響される。経常黒字が確保されているということは、恒常的に自国通貨を買い戻す動き(円高圧力)があるということだ。円安が進むためには米国を中心に世界経済が上向き、投資家が積極的にリスクを取ろうとすることが重要だ。
では、米国経済はさらなる回復を続けることができるか。まず、企業の設備投資意欲は低調だ。これまで多くの企業が投資を抑制し、人員採用を進めることで生産能力を増強してきた。しかし、4〜6月期まで3四半期続けて米国の労働生産性はマイナスで推移し、企業の収益性は悪化している。
米国の消費が盛り上がりづらいなか、企業が収益を確保するには人員の削減=リストラが必要になるかもしれない。そうなると、米国の雇用環境は悪化し、景気の先行きに対する懸念も高まりやすい。
米国の景気循環の観点からも、さらなる景気回復は期待しづらい。第2次世界大戦後、米国の平均的な景気拡張期間は約5年だ。直近の景気のボトム(谷)は09年6月だ。そこから7年以上の景気回復が続いている。16年4〜6月期まで4四半期続けて企業業績が減益だったことを考えると、景気はピークまで7合目程度といったところだろう。
8月に入りFRBの高官が年内利上げの可能性があると発言している。もし、FRBが市場の落ち着いている間に利上げを進めようとすれば、ヘッジファンドは短期的な利益確保のためにドル買いに動くはずだ。それがドル高につながり、企業業績の圧迫など米国経済に下押し圧力をかけるだろう。そう考えると米国の利上げは容易ではない。
以上より、ドルは軟調に推移しやすく、基調として円高が進みやすいことは慎重に考えるべきだろう。
(文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授)
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