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「円高で株安になる」は本当か
http://diamond.jp/articles/-/99627
2016年8月24日 宿輪純一 [経済学博士・エコノミスト] ダイヤモンド・オンライン
筆者は通貨(為替)については学生のころから長年研究してきた。卒論も通貨について書き、銀行勤務時も為替ディーラーやエコノミストなど為替関係の仕事もしながら研究を続け経済学の博士号も取得した。関連書籍を何冊も書いてきた。そんな中でいつも気になっていたのは、円高は日本経済・日本企業にとって本当に悪いのか?ということだ。それは「思い込み」の可能性が高いのではないかと考えている。
■トヨタ自動車の営業利益予想
「真水」で見れば過去最高水準
先日も、トヨタ自動車は2017年3月期の連結業績予想を下方修正し、営業利益が前期比44%減と発表された。円相場の前提を1ドル=102円(前期実績は120円)と円高方向に見直したためである。それでも世界販売台数は前期比1%増えるなど競争力はなお強い。為替変動の影響を除いた「真水」の営業利益は過去最高の前期とほぼ同じ水準を確保する、としている。
企業において、円為替レートの影響が出るのは、主として(1)輸出(売上)と、(2)決算(営業利益)の部分である。
まず、輸出(売上)の部分は、先日発表された「財政経済白書」にもあるが、もはや円安でも輸出は伸びない。その主たる原因は日本企業による海外生産の拡大で、為替の影響を受けずに済むようそうしたわけだから、ある意味当然だ。「財政経済白書」では、他にも電気機器などの輸出競争力の低下なども挙げている。全体で見ても輸出のGDPに対する影響は、10年前に比べて4分の1になったともいわれている。確かに、アベノミクスの導入で1ドル=125円レベルの円安になったが、輸出はそれほど伸びず、GDPに与える影響も少なかった。構造が変わったのである。
そもそも、現在では日本の輸出がGDPに占める割合は、わずか15%程度だ。約40%のドイツや韓国とは違うのである。そのため為替が景気に与える影響が大きいというのも、すでに「思い込み」に近くなっている。
そして、決算、特にトヨタ自動車の決算報道に見られるように、海外での営業利益がドル建てであったとすると、ドルに対して円高が進めば、海外での営業利益は“評価上”少なくなる。日本企業は自国の会計基準に合わせ円建てで決算書を作るので、そうなるかもしれない。しかし、それはそれほど重視すべきものなのか。
それは、あくまで“評価”である。そして、例えば、米国に本部があるように仮定して、ドルに寄せた場合には、円資産をドルで評価しなおすために、評価上の営業利益は上がることになる。海外の投資家にはこの方が分かりやすいし、実際に投資家はこのように分析する方も多い。日本の株式市場の取引は外国人投資家の比率が高く、取引量で約6割・保有量で約4割といわれている。
筆者が経営会議に参加しているメーカーでは、日本の会計基準にそって円建てで決算書を作っている。しかし、海外部門を評価するときにはトヨタ自動車と同様に為替レートの影響を排除した「真水」で評価している。為替レートはある意味、コントロールできないので、この「真水」の部分が重要なのだ。米ドル建て(米ドルに寄せる)の決算書も参考として載せるようにする。
■“ネガティブ”“単純”な情報が
視聴者・読者に受けがいい
しかし、そもそも、日本の上場企業を見ても、海外拠点が全て黒字ではない。営業利益が赤字の場合には、円高に行くと赤字幅の縮小になり、決算上有利になる。また日本企業すべてが輸出企業ではない。円高の時には輸入価格が安くなり経営上良い。報道においては、損するといった“ネガティブな情報”が視聴者・読者に受けるため、流れやすい。
実際にリアルに為替の影響を受けるのは、期末・期初などの本部に対する「収益の送金」である。もちろん、最近の海外拠点は全額を本国に送金するわけではなく、その国内に事業拡大のため再投資することも多くなってきている。
実際、今年1〜6月の海外子会社の内部留保は、統計がある96年以降で最高となっている。現地に再投資するため、そして日本へ無理に送金すると円換算で目減りするが、それを防いでいるのだ。つまり、円高に行ったとしても、為替の影響は受けにくくなっている。円高に行っても、実際の業績には、市場の敏感な反応ほどには響かないのである。
特に金融市場における相場予想や解説では「シンプルなパターン」が受ける。円高で株売り、円安で株買いというものである。確かに、海外に進出せず、国内でほぼすべて生産し輸出していた時代はそうだっただろうが、現在ではその残像、それは「思い込み」ともいえるのではないか。
円高・円安と株価の動きと同じようなものに「低リスク通貨:円」というものがある。これも思い込みではないかと考えている。この言葉が出てきたのは欧州債務危機の時で、確かにその時のギリシャ、そして欧州諸国よりは、経済全体として強かったかもしれない。
しかし、現在、ニューヨークのドル市場では邦銀に対する3ヵ月物の貸出金利で、市場対比の上乗せ金利(ジャパン・プレミアム)が0.8%まで上昇した。このレベルはリーマンショック時以上である。このことは、日本経済が本当は低リスクではないことを示している。こうした事態に対応するため、日本銀行は邦銀に対するドル供給枠を120億ドルから240億ドルに倍増させた。
強いていえば、基本的に円は低金利であるため、“常に”金利が高い米国債も含めたドル市場に資金が流れている。いわゆるキャリートレードである。市場のリスクが高まってくると、資金を戻すため円が買われるのが主因と考えている。
市場では「美人投票の理論」というものがある。イギリスの経済学者のケインズが市場での値動きについて説明したもので、美人コンクールの優勝者を当てるには、自分が美人だと思う女性を選ぶのではなく、皆から一番人気がありそうな女性を探せというものだ。それは金融市場にも当てはまり、自分がどう考えるかではなく、市場参加者がどう考えるかが重要というわけだ。
しかも、市場参加者の思考は「円高・株安」「円は低リスク通貨」といった“シンプルなパターン”に纏まっていくことが多い。本当かどうかよりも、そう動くからそうなのだ。そして何より注意が必要なのは、「思い込みは、抜けはじめると早い」ということである。すでに、円高になっても株高というケースも出てき始めている。
【著者紹介】
しゅくわ・じゅんいち
博士(経済学)・エコノミスト。帝京大学経済学部経済学科教授。慶應義塾大学経済学部非常勤講師(国際金融論)も兼務。1963年、東京生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒業後、87年富士銀行(新橋支店)に入行。国際資金為替部、海外勤務等。98年三和銀行に移籍。企画部等勤務。2002年合併でUFJ銀行・UFJホールディングス。経営企画部、国際企画部等勤務、06年合併で三菱東京UFJ銀行。企画部経済調査室等勤務、15年3月退職。4月より現職。兼務で03年から東京大学大学院、早稲田大学、清華大学大学院(北京)等で教鞭。財務省・金融庁・経済産業省・外務省等の経済・金融関係委員会にも参加。06年よりボランティアによる公開講義「宿輪ゼミ」を主催し、4月で10周年、開催は200回を超え、会員は“1万人”を超えた。映画評論家としても活躍中。主な著書には、日本経済新聞社から(新刊)『通貨経済学入門(第2版)』〈15年2月刊〉、『アジア金融システムの経済学』など、東洋経済新報社から『決済インフラ入門』〈15年12月刊〉、『金融が支える日本経済』(共著)〈15年6月刊〉、『円安vs.円高―どちらの道を選択すべきか(第2版)』(共著)、『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』、『決済システムのすべて(第3版)』(共著)、『証券決済システムのすべて(第2版)』(共著)など がある。
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