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日本銀行(撮影=編集部)
日銀、政府発表GDP値を「間違い」と指摘…「消費増税の14年は景気悪化」を否定
http://biz-journal.jp/2016/08/post_16421.html
2016.08.24 文=高橋洋一/政策工房代表取締役会長、嘉悦大学教授 Business Journal
日本銀行が2014年度のGDP統計(内閣府発表)に疑問を呈するレポートを発表し、内閣府が反論したことが話題になっている。日銀がこうしたリポートを出した背景は何か。
この日銀レポートは個人名で発表されており、冒頭に「ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません」という注記がされている。しかし、レポートを執筆したのは日銀調査統計局の人物であり、職務に無関係な「趣味の研究」とはいいがたい。同レポートの背景には、日銀の組織としての意図があるとみたほうがいい。
同レポートは、14年度の実質成長率について2.4%だったと指摘している。政府が公表しているものでは▲1.0%だったので、その差は3.4%と大きい。
レポートでは、税務統計を使ってGDPの推計を行っている。経済学の基本原理として、GDPを生産面、分配所得面、支出面から見ても同じ値になるという「三面等価」が知られている。具体的には、GDPは次の3つの面を持つ。
・生産面からみたGDP
GDPは付加価値の合計であるとして、各生産部門で生産された付加価値の合計
・分配所得面からみたGDP
従業員への賃金、資本家への配当や企業での内部留保、政府への税金などの合計
・支出面からみたGDP
分配された所得がどう使われるかを消費、投資、輸出入に分けたものの合計
政府は主として支出面からGDPを算出しているして、日銀レポートでは分配面から算出を行っている。今回の日銀による算出のポイントは、税務統計が使われている点である。税収は消費増税してもそこそこ好調であるため、税務統計を使うと分配面のGDPは大きくなる。
■税務統計とGDPの乖離
同レポートは、黒田東彦日銀総裁が「消費増税しても景気への影響は軽微」と主張してきたことを援護射撃する格好になる。財務省としても、消費増税による景気の落ち込みを否定したいので、同レポートには賛成だろう。
「消費増税して消費が落ち込みマイナス成長になった」というのが、これまで前提とされてきたが、実は消費増税しても景気は落ち込んでいなかったというのだ。「消費増税しても景気への影響は軽微である」と主張してきた財務省の御用学者が聞いたら、泣いて喜びそうな話である。
これまでも税務統計とGDPには乖離があった。納税者がどの程度真面目に申告するかどうかで税収が変わってくるからだ。
この点について、確たるデータがあるわけでないが、筆者が財務官僚の頃、1年だけ地方の税務署長を経験したことがある。そのとき、地元の有力者から「若い署長さんが来たので、ご祝儀に今年は税金を払います」と言われた。その年の確定申告では、近隣の税務署と比べてこの税務署の税収は多かった。
あとでわかったことだが、本省キャリア署長は若いから、しばしば前例のない税務調査を行ったりするので、ご祝儀ではなく「無茶なことをするな」というメッセージだったのだ。納税者のスタンスいかんで税収が左右されるのかと実感したエピソードだった。14年度は消費増税等の話題が多く、納税者がより「まともな申告」をした可能性がある。
■解消されるべき、内閣府と日銀間の認識の乖離
今回の日銀レポートでは、米国における分配面からのGDP推計にも言及している。税収面からGDPを推計するのは方法論としては間違っていないが、日本では申告率や申告度合いが年によって変わる。一方、米国では申告率や申告度合いが安定的で、税務統計がより実際のGDPを反映しているとされる。なぜなら、税務番号(社会保障番号)が長い間社会へ定着してきたからだ。
米国では、税務申告では社会保障番号の記入が必須だし、社会保障番号は銀行口座を開設するときも必須である。となると、税務申告の虚偽を当局が把握するのは難しくない。もともと現金取引の割合が低い米国で銀行口座を押さえれば、納税者の資金の流れを容易に把握できる。
一方、日本ではようやくマイナンバー制がスタートしたばかりだ。しかも、税務申告ではマイナンバー記入は必須でない。こうした事情もあって、税務統計がGDPを反映しているとはいいがたい状況だ。
GDPは各種データから多面的に見る必要がある。もし今回の日銀レポートが正しければ、日銀が別に推計している潜在GDPを大きく上回ることになって、猛烈な賃金上昇がないとおかしい。黒田総裁を擁護するためのレポートかもしれないが、「ちょっと無理がある」といえよう。
いずれにしても、内閣府と日銀の間で意見の相違があるのは好ましくない。せっかくの機会なので、経済財政担当相と日銀総裁が共に出席する経済財政諮問会議でしっかりと議論してもらいたい。
なお、内閣府と日銀の間には潜在GDPやGDPギャップについても見解の相違があるようだが、これらの数値は景気対策の規模やタイミングを大きく左右するので、この際に両者の意見相違を調整すべきである。
(文=高橋洋一/政策工房代表取締役会長、嘉悦大学教授)
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