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黒田総裁には「マーケットの声」は聞こえづらいのだろうか(写真:ロイター/アフロ)
日本株は「日銀ETF中毒」の一歩手前だ 日銀に振り回され続ける日本市場
http://toyokeizai.net/articles/-/132518
2016年08月20日 田代 昌之 :マーケットアナリスト 東洋経済
8月19日の日経平均株価は1万6545円で終了した。前週末比では2.21%下落。史上最高値を更新していたNYダウや、年初来高値推移だった英FTSE100指数など主要国の株価指数もそろってマイナスとなった。
■「日銀ETF買い」の有無に振り回される日本市場
英米株価指数は高値圏での利益確定が入ったようだが、日本は事情が違う。日銀による上場投資信託(ETF)買い入れ実施のタイミングが不透明となったことが要因にある。お盆入りで薄商いとなった東京市場は「日銀ETF買い入れの有無」に振り回されっぱなし状態だ。「日銀の呪縛」によって東京市場は、身動きが取れなくなっている。
確かに政府主導による官製相場は、一定の安心感を生み出す。だが、日銀によるETF買い入れなど金融政策は一時的なカンフル剤に留めておくべきだろう。「すでにそうなっている」という指摘もあるが、このままだと追加緩和を常に欲する「患者」のような状態になってしまうのではないか?
それはさておき、まずは日銀のETF買い入れに関する動きから再度確認しておきたい。
1週間前に寄稿した「日本株『みせかけの好調』の後に来るもの」(http://toyokeizai.net/articles/-/131595)では、日銀会合以降、市場で発生した3つの変化として、「日経平均ボラティリティ・インデックス(VI)の低下」「NT倍率の拡大」「ドル建て日経平均の高値更新」を紹介した。
これらの事象には、日銀によるETF買い入れ幅の拡大が根底にある。日銀は、4日と10日には707億円のETF買入を実施した(設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETF買い入れ12億円は毎日入るので除く)。
日銀が下落局面でETFを大量に購入するためリスク・プレミアムが低下(日経VIの低下)し、日経平均へのインパクトが大きい銘柄が先行して上昇(NT倍率の拡大)。そして、円高進行にもかかわらず、官製相場による作られた株高となる(ドル建て日経平均の高値更新)という一連の流れを説明した。
実は7月28日までは「前場、TOPIX(東証株価指数)の下落率が-0.2%よりも大きかったらETF買い入れが実施される」というパターンが確認されていた。
このパターンが明確だったことから、売り方は後場買い戻しを入れるなど、一定の抑止力となっていた。もちろんETF買い入れを飲み込むレベルの売り崩しは何度もあったが、それでもパターン通りに動いてくる日銀を市場は「信頼」していた。
異変があったのは、ETF買い入れ幅が拡大された後の8月16日だ。前場のTOPIX下落率は前日比-0.38%していた。市場はランチタイム辺りから「日銀ETF買い入れが入る」と見越して先物買いに動いた。だが、12時過ぎ、トレーダー筋から「どうやら日銀は買わないようだ」と伝わると、後場一気に崩れる格好となった。日銀がETF買い入れに動く水準が不透明となったことで、市場は疑心暗鬼となり、積極的に動けなくなっている。
■日銀が日本株を大量に抱え込む必要はあるのか
そもそも、日銀がこれほどまで日本株を抱え込む必要はあるのだろうか?15日に発表された4-6月期GDP速報値は、前期比年率+0.2%と成長率は1-3月期の+2.0%から大幅に減速した。個人消費の伸びが低迷したほか、企業設備投資が予想を下回ったことも成長鈍化の要因となった。
証券業界に近い場所で仕事をしていると、日経平均の動向だけで日本経済を判断してしまいがちだ。筆者も含め証券関係者の一部には「株が上がっている=日本の景気はいい」という単純なロジックをベースに生活しているフシがある。
株は期待(警戒)先行で上下する特性があることから、アベノミクス相場スタート時の上昇ピッチは非常に早かった。ただ、「株高=景気回復」という構図はなかなか実現できていない。
確か当初は株高による一定の浮揚効果はあった。一方、個人投資家はすそ野こそ徐々に広がっているが、欧米と比較するとまだまだだ。確定拠出年金制度の利用者にしても同じだ。幅広い層に景気回復、デフレ脱却を実感してもらうには、株高政策だけでは限界がある。
日銀によるETF買い入れ実施の有無、9月の日銀会合での追加緩和期待など、足元、金融政策への関心は異常なほど高まっている。
2013年4月に異次元緩和がスタートして早3年半経過したが、景気回復、デフレ脱却はなお道半ばだ。筆者は根本的には成長戦略の見直しが必要と考える。農業、医療、雇用など様々な規制緩和の実施が必要だと思うが、結局のところ「一丁目一番地」は人口減少への対応だろう。
人口が減少している国の経済成長率を高めようとする時点で、「力業勝負」となり歪みが生じる。人口が減少しているのであれば、少子化対策を推進するか、移民を受け入れるかの選択となるだろう。この場合、移民受け入れは、日本独特な心情的な問題が発生する可能性もあり、実現は難しいが、少子化対策は積極的に取り組む価値は十分にあると考える。即効性は無く、効果が出るまで試行錯誤もあるかもしれないが、国力を強めるためには重要なことだ。
確かに、金融政策を打ち出せば、目先の日本株は上昇するかもしれない。だが、あくまでも「カンフル剤」に留めておくべきだろう。金融、財政政策で地盤を固め、政治力で成長戦略を推進するという構図が10年、20年先の日本経済もしくは日本株を考えると、結局は一番望ましいはずだ。
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