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人工知能に仕事を奪われる人々を、 ベーシックインカムで救おうという議論の現実味
http://diamond.jp/articles/-/98513
2016年8月16日 森信茂樹 [中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員] ダイヤモンド・オンライン
■中間層が崩壊する恐れも?
人工知能が日本に及ぼす影響
人工知能(AI)の発達で仕事を奪われる中間層が続出するという。ベーシックインカム(BI)によってそうした人々の生活を保証しようという議論もあるが、果たしてそれは現実的か
人工知能(AI)の発達は、わが国経済・社会にどのような影響を及ぼすのか。
アルファ碁に象徴されるディープラーニングの進化の状況を見る限り、AIが経済社会のあらゆる分野に活用されれば、飛躍的な生産性の向上をもたらす可能性は高い。その一方で、これをうまく使いこなす人とこれに伴い職を失う人との間に、かつてデジタルディバイドと呼ばれていた大きな格差が、大々的に発生するだろう。
すでに野村総研から、「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」というセンセーショナルな予測も公表されている。
一方政府は、名目GDP600兆円の実現に向けた成長戦略(日本再興戦略2016)の中で、第4次産業革命を奨励しているが、その中に以下のような記述がある。
「今後の生産性革命を主導する最大の鍵は、……第4次産業革命である。……既存の枠組みを果敢に転換して、世界に先駆けて社会課題を解決するビジネスを生み出すのか。それとも、これまでの延長線上で、海外のプラットフォームの下請けとなるのか。……人口減少問題に打ち勝つチャンスである一方で、 中間層が崩壊するピンチにもなり得るものである」(下線筆者)
第4次産業革命に的確に対応できなければ、健全な思想の中核となる中間層の崩壊という大きな問題が生じるとして、経産省作成の図表の中で、「放置すれば700万人を超える失業者が生じ、うまく対応できても161万人の失業者が出る」と試算している。
しかし問題は、AIへの対応が順調に進んだ場合にこそ生じるのではないか。第4次産業革命が生じた場合、そのことが失業者の急増や所得格差の拡大など極端な負の影響をもたらす可能性がある。したがって、それへの対応も併せて検討しておくことが必要だ。
ITやAIの発達は、グローバル経済の下で、市場メカニズムにより、我々の制御できないスピードで、いわば暴力的に進んでいく。一方所得格差への対応は、生身の人間を相手にした政治の世界だけに、対応が後手後手になることは目に見えている。
さてその対策として、欧州の経済学者を中心に、ベーシックインカム(最低保障制度、以下BI)が提唱されている。BIというのは、国家が無条件に(勤労や所得・資産の多寡にかかわらず)、最低限の生活を保障するための給付を行う制度である。もともと、格差や貧困問題への対応として提唱されてきたのだが、AIの発達という新たな要因が加わり、支持層の幅を広げている。
つまり、AIがいくら効率よく生産しても、それを消費する(できる)者がいなければ経済は成り立たない。AIは消費主体ではないのである。そこで、政府がBIにより国民の最低生活の保証をすることにより、消費をつくり出し、経済の維持的な発展につなげようという考え方である。
そうなれば人々はあくせく働くことから解放され、その分余暇とか文化活動に振り向けることができる、という。AIの発達により生産性が現在の2倍に上昇すれば、我々の勤労時間は半分でよくなり、残りの半分の勤労に対応する所得は国家が保障・給付することができるというわけである。
これは全くの空想物語とは言えない。米国アラスカ州やアラブ諸国の一部で、石油の算出による経済的利益を国民や州民に還元するという観点から、無条件の生活の補助が行われている。
また本年6月5日、スイスで成人に対して毎月27万円を給付する「ベーシックインカム(以下BI)の導入」の是非について国民投票が行われた。結果的には否決されたものの、フィンランドやオランダなどでも検討が始まっている。
わが国でも、先ごろの参議院選挙で、生活の党など3党(ただし小政党)がBIの導入を政権公約として掲げていた。
興味深いのは、BIはリベラルと新自由主義の双方から主張されているという点である。リベラル派は貧困対策として、新自由主義者は執行に多くのコストや問題を抱える社会保障制度をスリム化し、小さな政府を実現しようという考え方からの主張である。
■人口知能に奪われた収入をベーシック
インカムで保証することの3つの課題
ユートピアのような話だが、このような世界をつくり出すためには、乗り越えるべき大きな課題が3つある。
1つは、勤労をどう考えるかという問題である。BIの最大の特色は、無条件に給付を受けることができるということだから、勤労と所得が切り離されることになり、モラルの問題を引き起こすだろう。とりわけわが国のように勤労を美徳とする国で、このような政策にコンセンサスが得られるだろうか。これは、哲学的な問題でもある。
2つ目は、BIのための財源をどうやって調達するのかという点である。本年6月4日号のエコノミスト誌は、医療費(ヘルスケア)を除く社会保障費のGDP比を計算し、これを総人口で割って1人当たりの給付額を試算する方法を示している。
これにしたがってわが国の場合を計算してみよう。エコノミスト誌(OECD統計)によると、わが国の医療を除く社会保障費負担割合(GDP比)は5.7%なので、それをGDP500兆円にかけて1億2000万の人口で割ると、おおむね1人当たり年間23万円(月2万円)程度になる。過去、ダイヤモンド・オンラインで山崎元氏が社会保障給付費(90兆円から医療費を差し引いた60兆円)から逆算されているが、その水準は1人当たり月4万6000円である。
これでは、現行の生活保護水準(たとえば50代の単身世帯で、生活扶助費が8.2万円、住宅扶助費が5.4万円、合計13万5000円)をはるかに下回る。したがって最低限の生活保障という場合、一人当たり月10万円弱の給付額となる。つまり、その水準に引き上げるためには、AIが生み出す追加的な付加価値に大規模に(ざっと計算して5、60兆円)課税する必要が出てくる。
■AIから生み出す付加価値に課税して
BIの財源を捻出するには
では、どのようにAIから生み出す付加価値に課税してBIの財源を捻出したらいいのだろうか。
まず、AIを操る高所得者への課税強化が考えられる。今の最高税率55%(国・地方)を大幅に引き上げるのである。しかしこれは、彼らの勤労意欲を損なわせたり、海外への所得の租税回避や節税行為を引き起こしたりすることが容易に想像され、実効性は薄い。法人への課税強化も同じである。
結局、土地という移動できないものへの課税強化につながるが、これは別の意味で経済に悪影響を及ぼす。
このようにBIの裏側には、財源の調達の問題(税制)があるわけで、ここまで考えておかなければ現実の選択肢とはなり得ない。
最後に、BIは大きな政府を志向するのか、それとも政府の効率化を目指す新自由主義的な政策として導入するのか、この点を明確にしなければ、支離滅裂な議論になる。わが国でも、双方からの主張が混在している。
このような論点を、AIが我々の就労の半分にとって代わるまでに議論していく必要がある。その間は、フルタイムで働いていても貧困層から抜け出せない人々への対処として、勤労にインセンティブを与える給付付き税額控除(勤労税額控除)の導入を行う必要がある。「給付付き税額控除」は、勤労を給付の条件としている点でBIとは異なるが、人々の生活水準を引き上げ、自らの価値を高める点では共通している。
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