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中・低所得層のさらなる低所得化が必ず加速する理由…世界の格差縮小、国内の格差拡大
http://biz-journal.jp/2016/08/post_16286.html
2016.08.14 文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト Business Journal
年明け以降、米国の製造業景気指標は、先進国のなかでもっとも改善傾向にある。代表的な指標であるISM製造業景況指数は、2015年12月の48.0から16年6月には好不調の分かれ目となる50を超える53.2まで上昇し、米国製造業の景気は昨年末をボトムに回復傾向にある。
これは、年明け以降の原油価格の反転でシェール関連企業の景況感が改善したことが一因であろう。しかし、それ以上に世界経済の先行き不透明感に伴う米利上げ観測の後退でドル安が進み、輸出競争力の高まりを背景に製造業の景況感が回復し始めたこと、つまり為替要因による面が大きい。
中国の製造業PMIも、全国人民代表大会(全人代=国会に相当)を契機とした景気刺激策の加速とそれまでの人民元安で、今年2月を底に急速に改善している。さらに欧州でも、ECB(欧州中央銀行)が15年1月から量的緩和に踏み切りユーロ安が進んだことから、企業の輸出競争力の高まりを追い風に、ユーロ圏の製造業PMIが改善傾向にある。
対照的なのは日本だ。世界経済の不透明感に伴う投資家のリスク回避姿勢から円高が進んだ結果、日本企業の景況感は急激に悪化している。
日本の製造業PMIは16年5月に47.7とアベノミクス初期の13年1月の水準まで落ち込み、翌6月には48.8とやや上昇に転じたものの、依然として好不調の分岐点である50を下回っている。これは、4月の熊本地震に伴うサプライチェーン(供給網)一時停止の影響だけでなく、政府の為替介入や日銀の追加緩和観測の低下を背景に、円高による企業業績への懸念が大きく高まったことによるものであり、日本だけが円高に苦しめられる構図となっている。
■先進国の長期停滞論
GDP(国内総生産)や鉱工業生産指数といった重要な経済統計の先行指標として注目されるPMIと為替の連動性の高まりは、実体経済に及ぼす為替の影響度が従来以上に強まっていることを示す。こうした構図を考えるひとつの拠り所は、長期停滞論である。これは米国のサマーズ元財務長官が提示した「先進国の長期停滞論」に基づいたものだ。
サマーズ氏が14年に執筆したコラムによれば、長期停滞とは重大な経済危機や金融危機が引き起こした深刻な需要不足が資本や労働投入を激減させ、潜在GDP(経済全体の供給力)を大きく引き下げるとされる。このため、危機後のGDPは危機がなかった場合の潜在GDPに比べると、水準も成長率も低いままにとどまってしまう。
そこで、金利を引き下げて需要を刺激して危機前の潜在GDPに戻す政策が有効と思われるが、問題なのは従来の金融政策が効かないことだ。すなわちリーマン・ショック(08年)のような極めて重大な危機が発生したため、家計や企業といった経済主体の消費や投資行動が大きく減退、政策金利をゼロまで引き下げても、元の状態に回復しなくなる(景気に中立な実質利子率<自然利子率>がマイナス)。金融政策が限界に直面した状態だ。
この状態では、財政政策で潜在GDPを引き上げない限り、危機前の潜在GDPの水準には永遠に戻らない。
こうした特徴は近年の米国経済でみられることから、サマーズ氏が長期停滞論と提唱した。ただ、リーマン・ショック以降の世界経済を見渡しても、日欧はじめ多くの国で成長が鈍化しており、同様に長期停滞論が指摘できる。つまり、世界的に経済のパイが広がらなくなっているのである。そのため、限られたパイを奪う武器として暗黙の通貨安競争が展開されている。
■中間層以下の低所得化
主要国に通貨安競争を誘発しやすい背景には、格差拡大に伴う中間層以下の低所得化が政治社会問題化していることだ。
筆者は、先進国で富裕層と中間層以下の格差が広がってきた背景には、経済のグローバル化の進展があると見ている。東西冷戦の終結により資本主義国と社会主義国を分断していた市場の垣根がなくなると、先進国は新興国の安い労働力が使えるようになり、新興国に工場をつくるなどして、資本を新興国に移していった。新興国は安い労働力を武器に先進国から投資を受けて、経済成長を後押しする。
このように先進国と新興国の市場が一体化すると、それまで先進国の中低所得層が担ってきた仕事は新興国の安い賃金の労働者にとって代わられる。すると、先進国の中低所得層の賃金は下落圧力がかかり、高いスキルを持つ特定の層との間で、格差が広がる。先進国と新興国の格差が縮まる一方で、国内の格差が広がることは、経済のグローバルのなかで必然となっている。
経済がグローバル化すると、企業は国境に関係なく最適な立地に動く。そうなると、中低所得者層の雇用機会や所得を確保するような政策が重要性を増し、通貨政策面では自国通貨を下げ、自国の製造業やサービスの仕事を確保する方向に動く。その結果、製造業や観光産業などの競争が有利になる通貨安競争が広がりやすくなるといえよう。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)
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