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世耕大臣が唱える新卒一括採用の見直しは本当に必要か?(ダイヤモンド・オンライン)
http://www.asyura2.com/16/hasan111/msg/725.html
投稿者 赤かぶ 日時 2016 年 8 月 10 日 08:49:15: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

            世耕大臣が唱える新卒一括採用は、学生にとっても企業にとっても本当に負担なのか
   

世耕大臣が唱える新卒一括採用の見直しは本当に必要か?
http://diamond.jp/articles/-/98426
2016年8月10日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] ダイヤモンド・オンライン


■新卒一括採用は見なすべきか?
 世耕経産大臣の問題提起

 世耕経済産業大臣は8月4日にNHKなどのインタビューで、大手企業の間で定着している「新卒一括採用」の見直しを促していきたいという考えを述べた。「実施する企業は多いが、かなりの比率で新入社員が辞めている。採用される学生も採用する企業も、このやり方は負担だと思っている」と理由を示した。

 学生側にとって、大半の企業が同時期に採用活動を行うことが負担になる側面はある。エネルギーを消耗する競争の下で、忙しく就職を決めなければならない。また、就職活動の期間に学業が疎かにならざるを得ないケースもあろう。

 ただし、内定の時期が早まると、それ以降に学業に力が入らなくなるケースがあるので、選考をもっと遅くしてほしいという大学筋の声は、大学の授業の側に価値や魅力がないだけの問題であろう。就職内定を取っていても、受けることにメリットがある教育だと学生が判断すれば、彼らは大学に来るだろう。企業が学業成績を見ることによって学生を勉強させようというのは、もともと価値のある教育を行っていないことを棚上げにした、大学の勘違いだ。

 一方、企業にとって新卒一括採用は「負担」なのだろうか。他社がそうするから自社もそうしなければならないといった側面が場合によってはあるかもしれないが、採用活動の時期を短縮できることや、学生を短期間で確保しやすいこと、加えて年次単位の安直な人事管理ができることなども含めて、企業にとって新卒一括採用は、理想的ではないまでも、ローコストだから行われているのだろう。「負担」という認識は、企業側にはないのではないか。

■新卒一括よりも
 中途採用の不利をなくせ

 そもそも、かなりの比率で新入社員が辞めるのは、新卒一括以外の方法で採用してもやむを得ないように思われる。

 俗に「3年で3割辞める」と言われるが、新卒の就職でも中途採用でも、職場と社員のミスマッチは3割くらいはあるものだというのが筆者の実感だ。仕事をしてみると、入社前の期待と異なることは情報収集も判断も不完全である以上十分あり得るし、人的な相性の問題もあれば、3年も経つと会社の様子が変わることもある。

 世耕大臣が、「かなりの比率で新入社員が辞めている」ことを問題視しているのだとすれば、いささかピントがずれているように思う。

 この問題の解決のためには、むしろ中途採用市場を整備すると共に、年金や人事評価などの面で、中途採用者が不利にならないようにすることが重要である。強力に推進すべきは、「やり直しの利く就職活動」ではないだろうか。

 もちろん、別の企業に勤めていた転職者だけではなく、既卒者も不利にならないような採用が行われることが望ましい。

 ただし、求職者が企業から見て真に魅力的であれば、既卒でも転職による中途入社であっても、企業は採用したいと思うはずだ。「画一的な就職活動をするのではない、個性的な学生(や元学生)こそが魅力的な人材だ」という考えは、たまたまそういう人材もいるという話であって、総論としては企業から見てファンタジーに近い。少なくとも、一般的に「よくある話」ではないだろう。もちろん、原則論として、人材採用の門戸を広く開放することは、社会的な存在である企業として望ましいことなので、反対はしない。

■通年の採用活動がいいのなら
 青田買いも正当化される

 採用活動は通年で行うのがいいし、既卒者・転職者も有能なら採用して使うべきだというのは、企業の手間や人事制度などのコストの問題を棚上げすると、理屈が通っているように思う。

 そうだとすれば、就職活動時期の学齢を待たずに有望な学生を採用する、いわゆる「青田買い」も正当化されていいように思う。

 率直に言って、人材が仕事にあって有能であるか否かを分かつ最大の要素は、大学生時代の努力の質と量ではなく、その人物の才能・素質だ。身も蓋もない話だが、事実なのだから仕方がない。企業から見て、良い素質のある学生を早く確保することは、合理的な行動だ。

 ただ、採用活動に熱心なことで知られるある企業の経営者から聞いた話だが、「青田買い」による人材評価は「精度が落ちる」面があるのだそうだ。とはいえ、評価に不確実な面があっても、それを補うに足るだけ高い素質を持っていると評価した学生を採用することは、企業にとって悪いことではない。

 また、学生にとっても、早々に就職が決まっていれば、就職活動に無駄なエネルギーを注がずに済み、学業に集中できる場合もあるだろう。この場合も、内定を取った学生に見捨てられるとすれば、大学側の教育内容に魅力が乏しいことが問題である。

 ただし、学生が内定を得てから、実際に就職するまでの期間が長くなるので、この場合の雇われる側・雇う側双方の事情の変化をどう処理するかを、内定時に合意しておく必要があるだろう。たとえば、学生がどうしても大学院に進んで研究をしたいと思った場合にどうするか、あるいは、企業の事業環境が急激に悪化した場合にどうするか、という点に関する「契約」の問題だ。社会経験が乏しい学生には、時にハードルが高い場合もあろうが、双方が納得できる契約を結べる場合に、第三者が邪魔をする正当な理由はない。

■報酬に見合う実績を上げるためにも
 経営者が人事管理システムを改革せよ

 業態や管理すべき集団によっては仕方がない場合もあるのだろうが、新卒一括採用と結びついている「年次主義型人事管理」は、そろそろ止めるべき企業が多いのではないか。年次が何年若かろうが、有能な管理職たり得る人材はいるし、年次が上なのに無能な管理職はもっとたくさん居るというのが、多くの企業の実態だろう。社員を下級の兵隊のように画一的に扱う人事管理は、止める方がいい。

 個々の社員の貢献によって報酬は違っていいし、能力によって処遇が異なってもいいはずだ。管理する側が、個々の社員を同期や同年齢の社員との相対評価でなく評価し、仕事の与え方や経済的処遇についても個々の社員と交渉するような、「丁寧な人事管理」が日本の企業にも本来、必要なのではないだろうか。

 大企業の場合、社員1人の人件費だけで通算数億円になるはずだし、社員が業績に及ぼす影響はもっと大きいはずだ。

 個々の社員に適合することを目指す、画一的でない人事管理を行うなら、新卒一括採用の弊害も自ずと解消に向かうだろう。

 問題は、企業経営の根幹に関わる人事管理のシステムを誰が変更するのかだが、これは経営者がやるしかない。部長も含めて人事部員のような「既存の人事システムで偉くなる途中に居る人」に、人事制度の抜本的な改革を任せるのは無理だ。

 ところが、多くのサラリーマン経営者の場合、自分自身が既存の人事管理システムにおける成功者なので、これを改革しようとする意欲や問題意識が乏しい場合がある。

 近年、普通の社員の年収はそうでもないが、上場企業の経営者の報酬は顕著に上昇する傾向にある。日本企業の経営者たちは、報酬に見合う実績を上げるためにも、人事管理システムの改革に本気で取り組むべきではないだろうか。その成果が十分出たときには、少なくとも企業側で新卒一括採用にこだわる必要はなくなるように思う。

「新卒一括採用」が企業の後進性を象徴するようになれば、日本企業の人事システム改革は成功である。

 

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