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コラム:黒田緩和「総括検証」に必要な3つの視点=井上哲也氏(ロイター)
http://www.asyura2.com/16/hasan111/msg/696.html
投稿者 赤かぶ 日時 2016 年 8 月 09 日 16:57:55: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

コラム:黒田緩和「総括検証」に必要な3つの視点=井上哲也氏
http://jp.reuters.com/article/column-tetsuya-inoue-idJPKCN10K0EM
2016年 08月 9日 15:19 JST


井上哲也野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部長
 8月9日、野村総合研究所・金融ITイノベーション研究部長の井上哲也氏は、9月の日銀会合での「総括的な検証」は、最小限の技術的な内容に終わらせることなく、コミュニケーションの改善、政策の運営と枠組み自体の柔軟性といった要素を含む抜本的なものにすべきだと指摘。提供写真(2016年 ロイター)


[東京 9日] - 日銀は次回9月の金融政策決定会合で「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」に関する「総括的な検証」を行うとした。その際の声明文によれば、検証は「2%の物価安定の目標をできるだけ早期に達成する観点」から行うものとされている。

具体的には、国債買い入れを中心とする「量」、上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)の買い入れによる「質」、そしてマイナス金利政策による「金利」の各次元の政策について、主に以下の3点が議論されるとみられる。

1)目標達成に向かって意図した効果を持ったか

2)そうでなければ、その理由は何か

3)目標の早期達成のために政策手段の変更を行うかどうか

こうした検証の背景には、3年以上にわたって実施してきた強力な金融緩和にもかかわらず2%インフレが実現しなかっただけでなく、インフレ期待が足元でむしろ低下するなど、目標達成への道筋が不透明になりつつあるという厳しい現実がある。

だとすれば政策手段の効果の分析と見直しといった最小限の作業にとどまることなく、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」に関する幅広い検証が望まれる。実際、「総括的な検証」を行うと発表した後に、長期金利の反応も含めて国内外の市場から強い関心が寄せられていることは、抜本的な検証に対する期待の証左と理解できる。

<コミュニケーション改善と中間目標設定>

筆者は、抜本的な検証として、次の要素が含まれることを期待する。第1にコミュニケーションの改善である。

「量的・質的金融緩和」の導入時点は別としても、また日銀が意図したかどうかにかかわらず、この間の政策運営は度々サプライズを招いた。常にアップサイドである保証はなく、「総括的な検証」が示唆するように各政策手段に様々な制約が生じている以上、サプライズを招くことの費用対効果は実際に芳しくなかった。

しかも、日銀も認めているようにインフレ期待に適応的な性質が強い(つまり過去のインフレ動向に基づいて期待インフレが形成される)のであれば、サプライズによるインフレ期待の改善も期待できない。コミュニケーションの改善に向けては、日時を加味したフォワードガイダンス(例えばX年Y月まで現政策を維持するとの予告)を導入するとか、今回の「総括的な検証」のように政策判断自体を予告するといった見直しが考えられる。

第2に政策運営の柔軟性である。「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の下では、2%インフレの到達が唯一の目標だ。しかし、この間には長期金利を顕著に低下させ、多くの期間で実質金利をマイナス化した。また、銀行貸出金利やクレジット資産のリスクプレミアムを低下させたことにも異論は少ないだろう。

したがって、2%インフレを最終目標として維持するとしても、ある種の中間目標を設定するといった見直しが考えられる。実際、前回(7月)の記者会見では、黒田東彦日銀総裁も2%インフレが未達である理由に関して原油価格の大幅下落に言及するなど、中間目標の設定と整合的な考え方が感じられる。

中間目標は最終目標と因果の意味で安定的な関係を持つ必要があるほか、この間の経験を踏まえれば、マネタリーベースなどの「量」よりも実質金利やリスクプレミアムなどの「金利」や「質」に関連する内容に可能性が存在する。

政策運営の柔軟性に関しては、やや技術的であるが、各政策手段の運営目標も見直しのポイントとなり得る。例えば、国債買い入れは今後も相当な規模を維持する場合、売り手の反応によって実績が影響を受ける度合いが徐々に大きくなると考えられる。

その意味でも、全体の規模や内容は維持するとしても、各月の買い入れ金額やその年限構成については、市場参加者との対話を通じてより大きな許容範囲を設定し、時間を通じて平均的に運営目標を達成することも考えられる。

<政策の長期的展望を示す必要性>

第3に政策の枠組み自体の柔軟性である。冒頭に見たように、日銀はあくまでも2%インフレの早期達成という現行の枠組みの下で「総括的な検証」を行うスタンスを示している。

それでも声明文が示すように、この間の経済・物価動向と政策効果について「総括的な検証」を行えば、各政策手段を最大限に行使して2%インフレを追求する政策の費用対効果も、いわば副産物として当然に明らかになるはずである。

この3年間の経験によって、国内外で様々なショックが生じてもデフレに戻るリスクを抑止するには安定したインフレ期待が不可欠であることが確認された以上、その確保にはどのようなインフレ率のパスを実現すべきかは重要なテーマである。

また、市場が金融政策に対して過度な悲観に陥り、結果として金融緩和の効果が低下する事態を回避する上でも、政策のより長期的な展望を示すことの意味は高まっている。

今や、日銀が直面する政策課題とそれに対応するための金融政策は、前向きな意味でも後向きな意味でも「非伝統的金融政策」の最先端にあり、米欧の金融政策にも大きな影響を与えるようになっている。

今回の「総括的な検証」を各政策手段の効果の検証と見直しといった技術的な内容に終わらせることなく、執行部と政策委員が知見を集約することで抜本的な検証とすることが期待される。

*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融ITイノベーション研究部長。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。

 

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