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豪シドニーの名所、オペラハウスの外で、「ポケモンGO」のゲームをするために集まった人々(2016年7月15日撮影)〔AFPBB News〕
ポケモンGOの危険性が分からない人、職を失うかも 遠隔黒板と遠隔手術の対照の中に含まれるELSIの本質
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47561
2016.8.9 伊東 乾 JBpress
プレーヤーの位置情報を陽に扱うARゲーム「ポケモンGO」の全世界的な流行で新たに注目を集めるようになったオーグメンテッド・リアリティ。
拡張現実感などと邦訳されますが、この技術の持つメリットと隠れたリスクを考えるELSI=倫理的、法的、社会的な観点からの開発に先立つ技術検討プロトテクノロジカル・アセスメントを基礎から一つひとつお話ししています。
かつてのARは、例えばMITメディアラボの石井裕さんが提唱、推進されたタンジブル・ビット(現在のMITのHPはこのようになっていますが)のプロジェクトのように、仮想世界と目の前の現実とが重層する技術としてスタートしたものでした。
石井さんがNTTからMITに移られたのが1995年、私は96年からNTT基礎研究所にサポートしていただいて音楽の基礎を調べ始め、99年に人事があっていまの研究室を構えましたので、この20年ほどVR(バーチャルリアリティ:仮想現実感)、MR(ミクストリアリティ混合現実感)、AR(オーグメンテッドリアリティ:拡張現実感)などと呼ばれる研究の進展を身近に見てきました。
VRは3Dモニターや映画「アバター」などが典型的な、現実には存在しない環境があたかも目の前に広がっているかのごとくに感じさせる技術です。
私も2001、2002年頃はシャープが主唱していた「3Dコンソーシアム」の立ち上げなどに若干加わりましたが、ほどなく様々な理由から離れてしまい、その頃の知人がシリコンバレーで成功されたりするのを見て自分の先見の明のなさを感じたものでした。
これに対してMRとかARというのは定義が様々ですので、初期的な応用から跡づけると、例えば「遠隔会議システム」の電子黒板というものがありました。
これは東京と大阪に分かれて会議しているとき、こちらで電子黒板に書いた文字が大阪にある兄弟機の黒板にも表示される。そこに大阪側の人が文字を書き加えたり、消したりすることもできる。
そうやって議論した結果を電子的に保存ができる。手で書いた文字だけれど自動認識ですぐにワープロファイルの情報として取り出すことができる・・・。
こうした形で、現実世界での私たちの行動と、必ずしも私たちが手に取ったり触ったりできないかもしれないデジタル情報とを結びつけていく技術が発達し始めたわけです。
この頃は、インターネットが民生公開された直後で、善くも悪しくも国際社会は今のような情報環境ではありませんでした。
ちなみに上記のような遠隔電子黒板は先ほどの石井裕さんの出世作の1つにほかなりません。あの頃のNTTには面白い人が沢山いました。2次元バーコードなども長らく普及しませんでしたが、世に出るとあっという間だった。今は昔の観があります。
■多様化する拡張現実感
電子黒板と並んでもう1つ、ネットワークで現実世界と仮想環境をつなぐ初期の技術を見てみましょう。「遠隔手術システム」です。
マイクロサ―ジェリーと呼ばれる外科手術の分野があります。
「マスター・マニュピュレ―タ―」を操作してモニター画面に映し出される患者さんの体内のミクロな疾患を外科的に治していこうという技術、内視鏡手術の進化したものと思っていただいて大きく外れないと思います。
胃カメラなど、目の前で挿入しつつ、その場でどんどん手術してしまうということも多いわけですが、やや込み入った手術、例えば脳外科などでは、光ファイバーのスコープを患部まで挿入するなどの「準備段階」と、実際に<鍵穴>が開いてから先の手術の心臓部、「鍵穴手術」とを別の外科医が分担するといったことが少なくないようです。
私はいまこのあたりの記述を15年ほど前の常識で記していますので、現状大きく外れているなどしたら、どうかご指摘下さい。
この「鍵穴手術」などの場合、顕微鏡システム側にいる先生は患者さんのすぐそばにいない場合も多い。
例えば隣の部屋でマスターマニュピュレーターを操作し、患者さんに直接関わる指示はマイクを通じてアシスタントの外科医に伝えてフォローなどいうこともあります。ここから「隣の部屋で可能なら、隣のビルでも可能だろう」という話になってくるわけです。
現実の技術開発がそのように進んだかは定かに了解しておりませんが、私が遠隔手術の概念を知った2001、2002年頃には、執刀医が地球の反対側にいようとも、ネットワークでつながった手術環境があれば、複数の先生が1人の患者をきちんと診ることができるシステムが検討、技術開発されていました。
つまりこういうことです。南米ブエノスアイレスで胃でも心臓でも脳でもいいんですが、どこかを開かれた患者さんが手術を受けている。
この主たる執刀医はスケジュールの都合でブエノスアイレスには行けないけれど、北米ボストンでマスター・マニュピュレーターを操作している。患者さんに直接関わる指示はネットを通じてブエノスアイレスに送られ、現場アシスタントの外科医が万全の対処をする。
さらにその手術環境を、パリと東京にいる、その分野の国際的な医師が同時に見守り、ボストンでの判断に対してリアルタイムのコメントを加えることができる・・・。
こんなグローバル遠隔共有手術システムの開発が21世紀初頭に進められていました。今なら普通のことでしょう。東芝メディカルなどとこの開発を推進しておられた光石衛先生はいまは東京大学工学部長を務めておられます。
2001年から10年まで私は東大総研というTLO、テクニカル・ライセンシング・オフィスで技術評価委員というものを務めていましたので、日常的にその時々の「先端」とされる領域の情報がコンスタントに入ってきていました。
別段、MRもARも言う必要はありません。ネットの技術があり、リアルの技術がある。ユビキタスとかIoTとか、名前は後からついてきますが、はっきり言ってこれは「言葉の政治」で、予算獲得などの目的で作文されるものに過ぎません。
私たち物理出身者は技術そのものの本質を見ますから、名前などはどうでもよく、各々の技術が立脚する基礎や基盤を検討、リスクがあればそれを指摘し、カウンターメジャーのイノベーションを提案するといった、今日で言うプロトテクノロジカル・アセスメントを検討するわけです。
■ELSIはどこで問われるか?
いま2つの技術を並置しました。第1は遠隔で同一の電子黒板を用いて複数の人が議論するという状況、第2は遠隔で、全身麻酔をかけられお腹なり脳なりを開かれた1人の患者さんを複数の外科医が執刀するという状況。
この両者が立脚するネットワーク・テクノロジーには共通する部分があります。
ということは、この両者が立脚するネットワーク・テクノロジーには共通の脆弱点が存在しうるということでもあります。
今は昔で、すでに確立された技術として、仮に以下のような「ハッキング」を検討してみましょう。
第三者の「アノニマス」なハッカーが、電子黒板システムでのやり取りを傍受しているとしましょう。で、そこでの議論、例えば社外秘の新製品情報を盗んでいたとする。十分問題ですね。
そういうケースではしないことですが、いまこの「アノニマス」君がいたずら心を起こして、突然横から侵入したとします。同じ電子黒板上に、突然ドラえもんの絵を描いたとしたら・・・。会議している人たちは驚くことでしょう。
この場合は「傍受してますよ」「横から操作もできるんですよ」と相手に伝えているわけですから冗談で済むかもしれません。
いまこれは学生向けなどと同様、分かりやすいようにお話ししているので「エアプ」とか意味のないことを言って読み流しても理解が浅いだけにとどまりますので、ポイントは外部にデータが漏れ、さらに第三者が改変することが可能だという点にあります。
さらに加えて言うなら、ブロックチェーンの技術が重要なのは、こうした改変を許さないセキュアな環境を構築することで、お金も扱えるようになるということなのですが、ここでは横道に進まず議論を戻します。
さて、同じことがもし「遠隔手術」で起きたら、どうでしょう?
つまり第三者である「アノニマス」なハッカー君が、患者のお腹の中でマイクロメスを使ってドラえもんを落書きしたら、たぶん相当困ることになるでしょう。
鍵穴手術の脳内プローブでドラえもんを落書きしたら、取り返しのつかないことになるのは間違いありません。
別に「エアプ」ではなく、これは単にノイズの混入として考えるだけでも技術開発上避けて通れない点で、ここから応用に即したセキュアな環境をどのように構築するか、が分かれてきます。
もちろん誤解のないように、現実の遠隔手術システムは高度なセキュリティ対策を施されており、横から「ドラえもん」は言うまでもなく、ノイズの混入などにも十分な配慮が尽くされています。
遠隔外科手術に求められる厳密なセキュリティは、遠隔電子黒板技術には必要ないでしょう。結果的に電子黒板はより安価に価格設定できるでしょうし、遠隔手術ははるかに高価、しかし安心してお医者さんも患者さんも命を預けることができる、そういうシステムとしてイノベーションが確固たるものになり、市場へと製品が離陸していくことができる。
こういう概算を弾くのがTLOの大事な仕事になります。具体的な数字はそれなりのビジネスで出てくるもので、こういうとこで無償に得られるものではありません(笑)。
さて、いま15年前の「拡張現実感技術」にも応用範囲によって様々なセキュリティ環境があり得、それによってコストが違えば安全性も全く異なるという大枠をお話ししました。
ARが上記、つまり2001〜2002年頃と現在つまり2016年時点と大きく変わった転機は2000年5月に起こります。
2000年4月、私は現在の研究室を正式にスタートさせたのですが、情報と名のつく部署を作ってスタートした直後に「IT革命は終わった」と国際的に喧伝され、やや面喰いました。
これは「インターネットの敷設というインフラストラクチャそのものでビジネスが大きく動く初期段階は終わった」という意味で、この先を積極的に展開していかねば食い扶持はないよ、ということをイノベーション的には意味します。
翌5月、米国国防総省は民生用のGPSにかけていた制限信号を解除し、今日の高性能GPSが民生つまりビジネス応用に公開されました。資金回収のフェイズに入ったということです。
ちなみにニューヨークの世界貿易センタービルなどが同時多発的に攻撃された9.11テロは2001年秋、これを受ける形でイラク戦争が勃発したのは2003年初頭。
私たちは相対論補正を施したGPSによるピンポイント爆撃の威力を見せつけられるわけですが、このときすでにGPSのビジネス転用は進み始めていたわけで、なんともはやなPRになっていると思わざるを得ませんでした。
ARはGPSの技術と結びつくことで、様々な意味で決定的に質的な変化を迎えることになります。
今回は冒頭と最後と正確に2回だけ「ポケモンGO」というゲームの名前に触れ、本論では一切これに特化した話をしていませんが、ここから読み取れる読者は多くの本質的な内容を察知されることでしょう。
具体的には次回以降に記して行きますが、テレビ視聴者よろしく受け身で画面に表示される明示的な情報しか受け取らないとAIに席を奪われてしまいます。
行間を読むところに人間の人間たるゆえんがあることに言及して、続きは次回といたします。真面目な内容としてご興味の方は本郷で講義もしますので履修していただければと思います。
ただ、遠隔黒板と遠隔手術の対照の中に、必要なエッセンスの大半が含まれていることに留意していただければ、ご自身でその先を考えていただけるし、その方がよほど気が利いています。
(つづく)
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