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マイナス金利政策下で長期金利が大きく変動するメカニズム
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160808-00000010-zuuonline-bus_all
ZUU online 8月8日(月)12時10分配信
財政収支の改善と日銀の大規模な金融緩和などにより日本の国債市場の流動性が縮小している。その上、マーケットとの対話がうまくいっていないことによる金融政策の先行きの不透明感もあり、長期金利(国債10年金利)の変動が大きくなっていると言われる。
過度な警戒感や変動により金利の水準感を見失う恐れがあるため、マクロのファンダメンタルズや政策要因に基づいた分析で、金利のフェアバリューがどのあたりにあるのかを認識しておくことが、極めて重要になってきている。
■ネット資金需要ーマクロのファンダメンタルズ要因
マクロのファンダメンタルズ要因としては二つの柱がある。
一つは、企業貯蓄率と財政収支の合計で、貨幣経済の拡張を左右するネットの資金需要である(トータルレバレッジ、GDP対比、マイナスが強い)である。重要なのは、財政赤字が長期金利に単独で影響を及ぼすのではなく、企業の資金余剰との相対感で影響を及ぼすということだ。財政赤字が大きくても、企業の資金余剰が大きければ、ネットの資金需要は弱く、長期金利は低位安定することになる。
日本の内需低迷・デフレの長期化は、企業貯蓄率と財政収支の合計であるネットの資金需要がゼロと、国内の資金需要・総需要を生み出す力、資金が循環し貨幣経済が拡大する力が喪失していたことが原因であった。言い換えれば、ネットの資金需要の水準が、企業の貯蓄率を前提として、どれだけ財政政策が景気刺激的なのかを示す政策変数であると言える。
実際に、2000年代は企業貯蓄率が大きく変動していても、ネットの資金需要はゼロ%近くに張り付き、恒常的なプラスとなっている企業貯蓄率(デレバレッジ)に対して、マイナス(赤字)である財政収支が相殺している程度、すなわち成長を強く追及せず、安定だけを目指す財政政策であったと言える。
■長期金利を過度に恐れると、取れる手段を潰してしまう
ネットの資金需要の動きを見ると、バブル期にはGDP対比−10%程度、平均では−5%程度、デフレ期は0%程度、そして+5%程度になると信用収縮をともなう、デフレスパイラルになると考えられる。
ネットの資金需要は受動的な変数であるように見えるが、財政政策によってある程度コントロールできる政策変数と見なしているのが、このモデルの大きな特徴である。企業貯蓄率が高く、景気が悪い時には財政赤字を増やし、企業貯蓄率が低く、景気が良い時には財政赤字を減らす。
どの水準で、企業貯蓄率と財政収支をバランスさせるのか、すなわちその合計であるネットの資金需要の水準をどの位置にするのかは、財政政策の強さの度合いに依存すると考える。財政政策を緩和し、ネットの資金需要の水準を0%程度から若干のマイナスにし、資金が循環し貨幣経済が拡大する力を復活させたのがアベノミクスのデフレ完全脱却への推進力であった。
しかし、消費税率引き上げ後の財政緊縮などにより、ネットの資金需要はまた0%の戻り、その推進力が喪失してしまった。今後、財政拡大などにより、ネットの資金需要を復活させ、アベノミクスを再稼動させることが期待される。企業の貯蓄行動を前提とせず、財政赤字だけで過度に長期金利上昇を恐れ、財政政策の手を縛ることはよくない。
■日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIーマクロのファンダメンタルズ要因
もう一つは、失業率に先行する指標として知られ、内需の拡張を左右する日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIである。金融機関の貸出態度が緩和的であるということは、国債投資よりも貸出を優先する傾向にあることも意味する。貸出態度が緩和すれば、企業の資金調達に対する不安感が減少し、より積極的な企業活動が景気を刺激していくことになる。
金融政策要因としては二つの柱がある。一つは、イールドカーブのアンカーである日銀政策金利である。もう一つは、日銀の資金供給(マネタイズ、買いオペ)の力を示す日銀当座預金残高の変化(前年差、GDP対比)である。
財政拡大によりネットの資金需要が増加しても、日銀のマネタイズの力で長期金利を抑制することは可能であると考えられる。ネットの資金需要と日銀当座預金残高の変化の合計が、マクロ的な債券需給の代理変数ということになる。そして、グローバルな金利水準の代理変数として、米国債10年金利の動きが重要となる。
数年前までは、米国の長期金利を入れても入れなくても、推計結果に大きな違いがなかった。しかし、昨今の大幅な金利低下は、日本国内の要因だけではなく、グローバルな金利水準の大幅な低下を理由にしないと、説明が困難になってきている。
■マイナス金利時にも応用できるモデルとは?
一つの問題は、プラスの政策金利の時のモデルを、マイナスの政策金利の時にも応用してよいのか、ということだ。プラスに比べマイナスであると、金融機関は保有国債をなかなか手放したがらないため、日銀の国債買入れオペの価格が強含みやすくなるとみられる。同じ10bpの政策金利の変化でも、長期金利に与える影響はプラスに比べてマイナスの時の方が大きくなると考えられる。
マイナスの時のインパクトがプラスの時の何倍かを表す、調整ファクターを政策金利にかけることで、その違いを含めることができる。(1であれば同じ強さ、5であれば5倍のインパクトの強さを表す。)2016年4−6月期は4倍の調整ファクターで、実績がうまく説明できる。
これらの要因を使うと、日本の長期金利のマクロ・フェアバリューが推計できる(1988年からのデータ、4四半期移動平均、98%程度の動きを説明)。
長期金利 = 0.183+ 0.022 中小企業貸出態度DI + 0.74 (政策金利X調整ファクター)+ 0.90 LN (米国長期金利)− 0.063 (ネットの資金需要+日銀当座預金残高変化)
調整ファクターが1・2・3・4・5と変化するに従い、2016年7−9月期の長期金利の推計値(米国の長期金利は1.55%程度、ネットの資金需要は+0.8%、DIは20を前提)は0.05%・−0.02%・−0.10%・−0.17%・−0.24%と変化する。
■調整ファクターを見極める
現在の長期金利の水準は、調整ファクターを3倍程度とすると、マクロ・フェアバリューと考えることができる。そして、プラスとマイナスの政策金利のインパクトが同等であれば、長期金利のフェアバリューは若干のプラスということになる。問題なのは調整ファクターは何倍が適当なのか、判断ができないことである。
その時の、グローバルなマーケット環境、政策への期待、または国債入札や日銀国債買入れオペの結果により、調整ファクターは短期間に変動しても不思議ではない。調整ファクターが大きく変動すれば、推計値も大きく変動するため、長期金利の変動幅は大きくなるとみられる。
ファンダメンタルズに変化はなくても、調整ファクターが1倍から6倍に変化すれば、長期金利は36bpも変動することになる。もちろん、調整ファクターが一定でも、政策金利に対する予想が変化すれば、長期金利が変動することになる。
このように考えれば、マイナス金利政策により長期金利は低く抑制されているが、変動が高まっていることが説明できる。
■マーケットとの対話が日銀に求められる
政策金利の係数が1を下回っていることは、長期金利の影響は政策金利の変化の七割程度であり、イールドカーブが利上げ局面でフラットニング、利下げ局面でスティープニングする傾向にあることを示す。しかし、調整ファクターが1.5倍より大きければ、マイナス金利下では、イールドカーブが利上げ局面ではスティープニング、利下げ局面ではフラットニングすることを示し、実際にそのようになってきた。
現行の日銀の金融政策の枠組みは、低金利の中で長期金利の変動を大きくしやすいものであり、日銀がマーケットとの対話をしっかりしていくことは重要であると考えられる。
会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト
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