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米失業率巡る「陰謀説」、その真偽は
アイゼンハワー大統領(右)は失業率を「操作」していたのだろうか PHOTO: ABBIE ROWE/PHOTOQUEST/GETTY IMAGES
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JOSH ZUMBRUN
2016 年 8 月 5 日 16:05 JST
「実は『本当の失業率』を示す秘密の指標が存在しており、その数値は米労働省が雇用統計で発表している失業率よりはるかに高い」。何年かごとに浮かんでは消える陰謀説だ。
だから、1960年代に広がった失業率を巡る最初の陰謀説が、労働省は失業率を人為的に「高く」出そうとしている、というものだったのは誰にとっても意外だろう。この目的は言うまでもなく、共産主義者の方針の宣伝だった。
皮肉なことにこうした陰謀説は総じて、積極的に求職していない「落胆した」人々について計測しようとする試みとつかず離れずの関係にあった。現在、こうした「落胆した」人々が排除されていることについては、数値を加工した「付随書その1」で記される場合が多い。だが、かつての理論ではこうした数値を「組み入れる」ことも数値の操作とされていたのだ。
まずは、陰謀説が生まれた1950年代と60年代における失業率に関する歴史的文脈を見てみよう。
失業率という指標は当時、まだ比較的目新しいものだった。現在もそうだが、当時この調査は商務省国勢調査局が行い、労働省からほとんど独立している同省労働統計局(BLS)がそのデータを分析していた。1916年からは、BLSが例えば工場業務に従事している人数を計測する指標を開発したが、大恐慌の中で二つのことが明らかとなった。一つは、多くの人々が仕事を探しているが見つけられずにいることであり、もう一つは、その具体的な人数について誰も手掛かりを持っていないということだった。
失業者数を計測する際、総人口から被雇用者数を差し引くだけでは有効でないことは誰もが認識していた。多くの女性や年配層、多くの学生、そして、少なくとも一部の傷病者は労働に従事しておらず、また、そうしようともしていなかったからだ。計測上必要なのは大規模な求職者の集合だったのだ。このため、1930年代には国勢調査局が、失業中で求職活動をしている人数を調査するため、当時まだ新しかった無作為サンプリング法を開発した。
1950年代までにBLSの雇用統計は重要指標としての地位を獲得しつつあった。偶然にも1954年、56年そして58年の選挙当時の失業率は低水準にあるか低下傾向を示すかしていた。当時の雇用統計は毎月10日前後に発表されていたが、良好な数値は毎年10月分に出ることが多い、ということを知ったアイゼンハワー大統領は、統計を選挙前に本来の発表予定より早く発表した。
しかし、1960年は違っていた。この年、失業率は上昇しており、労働省は選挙前に数値公表を行わなかった。これが政治的行為であることは明らかだった。民主党の全国委員長だったヘンリー・「スクープ」・ジャクソン氏はワシントンポスト紙にこう語っている。
1951年から69年の米国の失業率(赤:アイゼンハワー政権、青:ケネディー政権、緑:ジョンソン政権)
Unemployment Rate: 1951-69The unemployment rate during the administrations ofPresidents Dwight Eisenhower, John F. Kennedy and Lyndon B.Johnson
%THE WALL STREET JOURNAL Source: Labor DepartmentRecession
「行政が都合の悪い情報を隠すという言語道断な行為の一例だ。雇用統計は国民のものである。国民の税金で支えられている。政治的に利用しようがしまいが、共和党の私物ではない」
その後、同紙のバーナード・ロシター記者はあるリーク情報をつかんだ。現在なら夢のようとしか言いようのないスクープだった。1960年11月5日付紙面の一面にリークしたBLSの数値を掲載したのだ。そしてそれは悪いものだった。失業者数は20万人増加し、失業率は前月の5.7%から6.4%へと急上昇していた。選挙終了後に正式な雇用統計が発表されたが、数値はスクープの通りだった。
アイゼンハワー大統領が数値を操作しようとしていたという確証はなく、ただ発表が遅れたというだけだが、雇用統計はもはや政治的なものとなっていた。数字を操作しているという嫌疑は避けられない情勢となっていた。
失業率の算出法について追求し、ここに共産主義者の陰謀を嗅ぎ取ったのはリーダーズ・ダイジェスト誌だった。1961年9月号の大特集はこのように始まっている。
「BLSは数カ月にわたり悲惨な統計を発表しており、1930年代の大恐慌以来、米国として最悪の『失業危機』を描き出している。ほぼ毎日、一部の行政当局者からは米国の失業率が7%に接近しているとの声が聞かれる。一方、議会は最低でも部分的に雇用を支えるとの根拠から緊急歳出法案を次々に可決している。(中略)こうした一連の失業関連の政府情報は言うまでもなく、共産主義者にとって格好の材料となっている」
この記事は、予想を超え全米を揺るがすニュースとなった。公共政策指標の開発を研究するカリフォルニア大学バークレー校のジュディス・イネス教授は「学界でもこうした問題はすでに議論の対象となっていたが、この記事は大部数の雑誌に掲載された指標判断に関する記事としては最初のものだった」とした上で、「無味乾燥な話題のようにも見える」が、リーダーズ・ダイジェスト誌の記事は「全米の記事や社説で取り上げられ、失業率の統計に関して公に大規模な評価が行われた」という。議会の上下両院合同経済委員会は公聴会を開催し、大統領の諮問委員会も調査を命じられた。
記事は「不満があって自発的に退職して無職となった人々」は失業者として計算することができるという批判をかわし、「人々を失業者に分類しようとする官僚的衝動」に悲観的見解を述べるものだった。また、本当の失業率は発表されている数値よりも「大幅に」低いと示唆した上で、落胆が就職活動をあきらめる正当な理由であるとの考えをはっきりと否定していた。
「当初、人を『求職中』と分類する理由はその人が実際に職を探したからというだけだった。その後、1930年代には、こうしたことは職探しをしていない人々にとって不公平だと判断された。彼らは、『就業機会がないこと』で落胆したことを理由に職探しをしなかったからだ。このため政府は1940年、本人が病気を抱えていた、あるいは適当な仕事がないと『考えた』からという理由で職探しをしなかった場合でも、職に就きたいと考えている場合は誰であれ『求職中』と分類するようになった」
これは現在の理論と全く逆である。現在、BLSは意図的かつ不誠実な形で、職探しをあきらめている人々の数値を抑制している。これもまた誤りだった。当時の疑問は現在ほど明確でなかったものの、労働省が計測しようとしていたのは積極的に求職活動をしている人々だった。積極的な求職を行っていない人々については、落胆した人々という別の分類として考えられていたのだ。
経済学者のロバート・ゴードン氏は、学界や財界の人々がメンバーとなって雇用統計やこの記事について調査する合同委員会の委員長就任を求められた。
このゴードン委員会での証言で同氏は「もし私が、この記事は無責任なジャーナリズムのひどい例だと言ったとしてもお許しいただきたい。(中略)慎重な調査を経て委員会は全会一致かつ断固たる態度で、雇用および失業の統計の収集、加工および公表に責任を持つ各機関の科学的客観性に関する懸念には根拠がないと結論する」と述べた。
ただ、このように無実の罪を晴らした一方、同委員会は「これは同統計の改善が不可能だということを意味していない」とした上、BLSがその「主観性」をより少なくするため自らが抱える問題に対処すべきであるとの見解を示した。また、アイゼンハワー大統領が行ったような政治目的での統計発表の前倒しや先送りを避けるよう勧告した(その後、この勧告は採用された)。これによって、現在の雇用統計は政府からの言及はなく、BLSが単純な数字の概要だけを発表するという形となった。
ゴードン委員会の報告書を受け、BLSは1967年から求職をあきらめた失業者についても捕捉した四半期報告の発表を開始した。また、1994年にはそれまでの失業率を代替する指標として新指標(U6など)の発表を始めた。
この半世紀に多くの変革が行われ、そして忘れ去られていった。かつては、誰もが主観的に「落胆」した人々を失業者と考えることに怒りを感じていたのに、徐々にそうした人々を失業者だと考えることが「できない」ことに怒りを感じるようになってきた。そして、こうした過程を通じてずっと、BLSは失業を同じ方法で計測しようとしてきたのだ。
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By DAVID HARRISON
2016 年 8 月 5 日 14:12 JST
米大統領選挙では、共和党候補のドナルド・トランプ氏も民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官も道路や橋などのインフラ整備に多額の資金を投じると公約している。実現すれば、米連邦準備制度理事会(FRB)にとって次期政権下での利上げは容易になるかもしれない。
インフラ支出の拡大で需要が上向けば、雇用が押し上げられる一方、賃金やインフレ、生産性の伸びが加速する。来年はこれがFRBに従来より速いペースでの利上げを促す可能性がある。
クリントン氏は、向こう5年間で公共事業に2750億ドル(約27兆8000億円)を投じ、財源は法人税改革で賄う方針を示している。トランプ氏は、石油・ガス採掘の拡大や起債を財源に、クリントン氏の案の少なくとも2倍を支出する意向だとしている。
トランプ氏もクリントン氏も、それぞれの案をそのまま議会で成立させられるかは全く定かでない。特に議会は、総額3050億ドルの幹線道路整備法案を成立させたばかりだ。また、歳出を拡大したところで、許認可プロセスが長いといった他のインフラ問題が解決するかも不明だ。
ただ、公共資本支出拡大に向けた次期政権の取り組みに期待するのは理不尽とも言えない。
地方政府も投資を拡大する可能性がある。格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは昨年の調査リポートで、今年と来年は市や郡、学区の資本支出が増えるとの見通しを示した。こうした支出の兆候はまださほど見られないが、状況は変わる可能性がある。
資本投資が増えればFRBには若干の余裕が生まれ、2017年には当局が見込む0.7%かそれ以上の利上げが可能になるかもしれない。
イエレンFRB議長は5月のイベントで、足元の景気回復期において低迷している生産性の伸びを財政政策で加速させる一つの方法として、インフラ投資に言及した。
議長は「生産性の伸びが加速すれば、経済における正常な金利水準は押し上げられ、われわれの(政策)余地もやや広がるだろう」と述べた。
イエレン議長をはじめとするFRB当局は財政政策当局に対し、1年以上前から資本投資の拡大を求めているが、成果は出ていない。だが「トランプ大統領」、もしくは「クリントン大統領」の下ではうまくいくかもしれない。
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7月の米雇用統計、労働市場の真の姿示すか
米労働省は5日に7月の雇用統計を発表する。写真はペンシルベニア州ピッツバーグで行われた就職説明会(3月) PHOTO: KEITH SRAKOCIC/ASSOCIATED PRESS
By
STEVEN RUSSOLILLO
2016 年 8 月 5 日 11:15 JST
米国の雇用の伸びは5月にわずか1万1000万人にとどまった後、6月は28万7000人に達した。米労働省が東部時間5日午前8時30分(日本時間午後9時30分)に発表する7月の雇用統計は、どちらが真の姿か示すものになるだろう。市場予想は5月と6月の中間あたりだが、そうであれば着実だが過度ではない伸びに落ち着くことになる。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が実施したエコノミスト調査では、7月の非農業部門就業者数は17万9000人増が中心予想となっている。これは6カ月平均の17万2000人増におおむね一致するが、昨年の平均22万9000人増や、2014年の平均25万1000人増は下回る。7月の失業率は前月の4.9%から4.8%へ低下すると予想されている。
雇用の伸びの減速は、景気拡大期の終盤における労働市場の状況と一致する。それが本当なら、注目すべき数字は平均時給となる。6月は2.6%上昇し、09年以来最高の伸びに並んだ。これが示しているのは、労働者が不足し賃金が上がっているために雇用が減速している、ということだ。
賃金の上昇はインフレにつながることが多い。これこそ、米連邦準備制度理事会(FRB)にとって雇用統計が大きな意味を持つ理由の一つだ。
期待外れだった4-6月期の米国内総生産(GDP)成長率、英イングランド銀行(中央銀行)の利下げと緩和策拡大、迫り来る米大統領選挙を背景に、投資家はFRBの年内利上げの確率が次第に下がっているとみている。フェデラルファンド(FF)金利先物市場に織り込まれている利上げの確率は9月が12%、12月も30%にとどまっている。
非農業部門就業者数、前月比(単位:千人) Help Wanted Change in nonfarm payrolls, in thousands
THE WALL STREET JOURNAL
Source: Labor Department
利上げ見通しを生かし続けるには、少なくともまずまずの雇用統計が必要になる。悪い数字が出れば年内利上げの扉は閉ざされる公算が大きい。
先月は良好な6月の雇用統計が好感され、株式市場ではダウ工業株30種平均が200ドル近く上昇した。FRBの利上げに対する懸念より、労働市場が回復したことへの安心感が大きかった。
7月の雇用統計は強すぎても弱すぎても投資家を神経質にさせる恐れがある。ダウ平均は今週に入って7営業日連続での下げを記録したが、年初来では依然5%余り上昇しており、過去最高値も射程圏内にある。
2カ月連続で極端に振れた雇用統計は、中間あたりに落ち着くのが投資家にとってちょうどいいのかもしれない。
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中国の金融政策、垣間見えた当局の縄張り争い
国家発展改革委員会の声明文修正に見る中国人民銀行との軋轢
中国人民銀行 PHOTO: GETTY IMAGES
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CHUIN-WEI YAP
2016 年 8 月 5 日 16:38 JST
綺麗さっぱり白紙撤回、といけるだろうか。
3日朝、中国の経済政策を取り仕切っている国家発展改革委員会(NDRC)が声明文を発表した。その中でNDRCは国内経済の問題点を指摘し、企業活動を活性化させるためにはいくつかの対策が必要だと呼びかけた。
それ自体は何も目新しいことではない。しかし委員会の政策研究部門が発表したその声明文には、「政策金利と銀行預金準備率を適切なタイミングで下げること」という一行が書き加えられていた。
NDRCは政策金利を決定できる立場にはない。それは中国人民銀行(中央銀行)の管轄だ。つまり今回は、金融政策を担当していない機関が政策金利に関して公に考えを発表する、というとても珍しい事態が生じたのだ。ましてや国のインフラ事業などを担当するNDRCが政策金利がどうあるべきかについて論じるなど、かなり稀なことだと言っていい。ちなみに中央銀行は昨年10月以降、政策金利を変更していない。
自らの勇み足に気がついたのか、NDRCの政策研究班わずか数時間のうちに声明文から該当箇所を綺麗に削除している。もちろん、修正される前の発表文はいくつかのサイトでまだ見ることができるわけだが。さらに言えば、声明文を修正したことでNDRCの稀に見る大胆な発言が余計に人目につくこととなり、中国ウォッチャーらの注目を集めてしまった格好だ。
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Victor Shih @vshih2
Holy smoke,NDRC redacted phrase calling 4 RRR & rate cuts, but original still on sina http://finance.sina.com.cn/china/2016-08-03/doc-ifxunyxy6403227.shtml
vs
http://www.sdpc.gov.cn/xwzx/xwfb/201608/t20160803_813883.html
6:27 PM - 3 Aug 2016
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この一件は、中国経済の舵取りを担う2つの機関の微妙な関係を物語っている。
ここ数カ月、人民銀行や一部の関係者は、市場の流動性を高める政策に頼り続けても経済は好転していないと警告してきた。金融政策でできることは既に限界に達しており、それを乱用することは消費者物価や資産価格のインフレをもたらす可能性がある、というのが彼らの考え方だ。
人民銀行の統計部門責任者を務める Sheng Songcheng氏は2週間前中国の金融政策が「流動性の罠」に陥ってしまったと指摘した。同氏は資金を注入しても金利が下がることなく、投資を喚起できていない状況を危惧。中国の企業は流動資産を銀行システムなどに貯め込むだけで、投資を拡大していないとしている。
最新の経済指標は、人民銀行の懸念を裏付けているように見える。狭義のマネーサプライM1はここにきてハイペースで拡大。より広義のM2に対し、20年ぶりの高い伸びを見せている。このことから企業が内部留保を進め、資金を活用していないことが推測できる。
そんな中で今回NDRCが政策金利の引き下げを促したのは、経済減速の責任を実質的に中央銀行に押しつけようとする行為だ。NDRCのメンバーらは、お金を借りた方が得だと企業に思わせさえすれば事態は好転し、減速気味の経済を立ち直せると主張する。
矛先は財政省にも
一方、人民銀行はその考えに同意していない。「自分たちだけに経済再生の重荷を押し付けるのはやめてほしい」という彼らのメッセージが、今回の一件から垣間見える。
先日、人民銀行のSheng氏は国内総生産(GDP)の3%にあたる現在の財政赤字を5%まではを積み上げても良いと発言した。メディアにも広く取り上げられたこのコメントは、税制度を担う中国の財政省にも汗をかいてもらい、経済を再生させる責任の一旦を担わせるべきとするものだ。
今回の件については財政省もNDRCからもコメントを得られなかった。
NDRCの声明文が修正されたのち、人民銀行は2日と3日に行われた会合に関する資料を公表している。その中には特筆すべき情報はなく、人民銀行は今年後半も国内流動性を潤沢に維持し、融資も適正な範囲で増やしていくと表明。穏健な金融政策を実施し、人民元の安定を保ち、市場主義を基本とした改革を推し進めるとの考えを示した。
つまり、すべては正常に戻ったということなのかもしれない。
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英中銀の二者択一、さらにリスクを高めるか
RICHARD BARLEY
2016 年 8 月 5 日 15:39 JST
英中銀イングランド銀行は期待を裏切らなかった。イングランド銀行は4日の金融政策委員会(MPC)で、ブレグジット(英国のEU離脱)の衝撃に対処するために使うことのできるあらゆる手段を動員し、しかもさらに措置を強化できることを明確に示して市場の意表を突いた。これはいまのところ賢明な取り組みだが、積極的な金融政策のリスクをさらに示している。
カーニー総裁とMPC委員らは明らかに消極的ではなかった。イングランド銀行は政策金利を0.25%引き下げ過去最低の0.25%とし、総裁はマイナス金利にする可能性を明確に否定したが、追加利下げの含みを残した。銀行融資を支援するために最大1000億ポンドの低利資金を供給する新たな措置を打ち出し、利下げによる利ざや縮小に対する懸念を抑えた。また、英国債を新たに600億ポンド買い入れて持ち高を4350億ポンドとし、加えて投資適格社債を100億ポンド購入する措置も発表した。
市場は緩和を織り込んでいたが、これほど大々的な措置は見込んでいなかった。ポンド相場は0.02ドル余り下落し、10年物英国債の利回りは過去最低水準をつけた。FTSE100種株価指数は上昇し、ポンド建て社債は反発上昇した。
イングランド銀行はここで二つの二者択一問題を抱えている。一つは中央銀行にとって伝統的な、成長かインフレかという問題だ。今回の答えは簡単だ。イングランド銀行はまさしく成長に焦点を合わせ、インフレが上伸する可能性には目をつぶっている。英経済が今後18カ月間にわたり低迷するとして、成長見通しをかつてないほど大幅に下方修正した。経済が弱いにもかかわらず、インフレは跳ね上がる見通しを示している。だが、これはポンド相場の急落が輸入価格を押し上げるためだ。
もう一つの二者択一はもっと微妙だ。成長か金融の安定かという問題だ。世界中で金融緩和政策をとっているため、既に市場のゆがみに対する多くの懸念が浮上している。カーニー総裁は、債券買入により投資家はさらにリスクをとるよう促されるとのいつもの見解を改めて示した。だがその過程でバブルが膨れあがる危険性がある。利回りを追求する投資行動で、すでに債券価格はとてつもなく高い水準まで押し上げられており、投資家は新興諸国やジャンク(投資不適格)級の高利回り債などリスクの高い資産を受け入れるようになっている。こうした中、先行きの投資収益の見通しは悪化している。
イングランド銀行の資金供給措置は、中銀が金融システムにリスクを加えている状況をさらに浮き彫りにしている。低金利で銀行の利ざやは圧縮され利益が損なわれ、銀行は弱体化している。投資家はこの弱さを一因として銀行株を売っている。この株安のため、銀行による融資の可能性が低下していることは明らかだ。イングランド銀行の計画は、市中銀行が融資を維持し増やすならば低利資金を供給することで、こうしたリスクを相殺しようとするものだ。
カーニー総裁は、緩和措置の好影響の方が金融の安定に対するリスクよりも大きいと主張したが、銀行融資を支援する計画から見て、総裁がリスクを意識していることは明らかだ。
この判断は、当面は正しいかもしれない。だが徐々に、金融政策が緊急体制にあることだけでなく、その体制を続ける期間の長さへの心配が深まっている。市場はイングランド銀行の政策行動からあめ玉をたっぷりもらったが、その行動の長期的な影響に対する懸念も高めている。
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英中銀緩和も、投資家の期待は財政出動に
4日、四半期インフレ報告の記者会見に臨む英中銀イングランド銀行のカーニー総裁 PHOTO: GETTY IMAGES
By
JON SINDREU
2016 年 8 月 5 日 15:55 JST
英中銀イングランド銀行は4日、期待通りの役目を果たした。市場が期待していた景気刺激策という意味では、利下げと債券買い入れ、資金供給の全てを打ち出した。だが投資家やアナリストの視線はこのところ、経済にてこ入れする財政政策に向いている。
この1年で市場一般の考え方がどのように変化したかの証として、金融政策はいまや欧州連合(EU)からの離脱が英経済に及ぼす可能性のある悪影響と闘うことはできないと広く受け止められている。大方が求めている答えは財政出動だ。
アバディーン・アセット・マネジメントのチーフエコノミスト、ルーシー・オキャロル氏は「実際に重要なことは、財務大臣が秋に財政拡大を打ち出すかどうかだろう。金融政策はこれ以上あまりできることがない」と指摘した。同氏は、イングランド銀行は「経済的な利益よりも自分たちの立場を守るために」一連の政策行動を4日に打ち出す必要があったのだと述べた。
経済企業調査センターのスコット・コーフ理事は「発表された一連の政策は実際のところかなり控え目だ。世の中を変えるほどのものではない」として、「本当に必要なことは政府支出を拡大して減税する財政政策の再検討だ」と主張した。
英財政支出の推移−危機以降、裁量支出は削減してきたが、年金など制御が難しい支出が増えている
Total U.K. Public SpendingDiscretionary public spending has been cut since the crisis. The rise inexpenditure was due to spending that departments have a hard timecontrolling (welfare, tax credits, pensions).
THE WALL STREET JOURNAL
NOTE: Figures for the fiscal year ending 2016 are forecasts
Source: U.K. Office for Budget Responsibility
金融危機後に英国の財政赤字は膨れあがったが、大半の原因は税収の落ち込みと、福祉や年金など政府が制御に苦戦している種類の支出増加にあった。オズボーン前財務相の下での緊縮政策で、裁量的支出が削減され、2020年までの財政均衡達成に向けて緩やかに続けられる予定だった。
後任のハモンド現財務相はこの目標を撤回した。同財相は当初渋っていたが、イングランド銀行のカーニー総裁に宛てた4日の公開書簡で、財政支出の拡大を数カ月中に発表することを示唆した。「中銀がとっている行動と並行して、経済を支え信頼を高めるために必要な措置を講じるよう備える」と述べた。
かつて無い中央銀行の介入と世界の低成長が何年も続き、エコノミストや国際機関の見解も財政出動をさらに容認するものになりつつある。国際通貨基金(IMF)は、2010年から11年にかけて景気拡大戦略として財政緊縮を促してきたが、いまでは政府支出の拡大を主張している。
資産運用会社トウリーの資産運用投資責任者、アンドリュー・ウィルソン氏は「先進国はいわゆる緊縮から離れつつあるようだ。金融政策と同時に、おそらくずっと遅れている社会基盤整備プログラムなどを含め、財政緩和を期待できる」と語った。
日本銀行がいずれ政府の支出を直接まかなう「ヘリコプターマネー」を実施する可能性があるとの観測が深まる中、日本政府は2日、7兆5000億円の財政支出(真水部分)を含む事業規模28兆1000億円の経済対策を閣議決定した。
ロイヤル・ロンドン・アセット・マネジメントのデリバティブ(金融派生商品)責任者、ダレン・バスチン氏は「(英国では)事態が悪化するならば、財政と金融の政策協調が求められるかもしれない」とみている。
それでも、日銀やイングランド銀行をはじめとする先進諸国の中銀当局者らは、そのような手法をいまのところ否定している。カーニー総裁は4日、「その戦略(ヘリコプターマネー)にメリットがあるとは思わない」と語った。
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By JASON DOUGLAS
2016 年 8 月 5 日 15:15 JST
【ロンドン】英中銀イングランド銀行が4日に発表した一連の景気刺激策には、規模が大きすぎ時期も早すぎだとして中銀内部からさえも批判の声が上がった。
イングランド銀行の金融政策委員会(MPC)は4日、すでに過去最低だった政策金利をさらに引き下げ0.25%とし、長らく休止状態だった債券買入措置を増額して再始動したほか、融資促進に向けて銀行に低金利で資金を供給する方針も示した。国民投票で欧州連合(EU)離脱が決まったことを受け、英国経済を支えるために数多くの政策を動員した。
だが9人で構成されるMPCでは、少人数ながら一部の政策に反対した委員もいた。ブレグジット(英国のEU離脱)支持派の議員からは、経済指標を見る限りそのような大規模な措置はまだ必要ないとの懸念も出ており、一部の委員が同様の考えを抱いていることがはっきりした。
与党・保守党の反EU派の急先鋒であるジョン・レッドウッド議員は今回のイングランド銀行の決定を「場当たり的だ」とし、「(景気が)大幅に悪化しつつあるという証拠は現時点で全く無い」と指摘した。
3人のMPC委員が、EU離脱決定から6週間しか経過していないとした上、企業や家計の各種調査はこれまで景気減速を示唆しているものの、経済指標が発表されるのは数カ月先だと主張した。
MPC議事録によると、反対した委員らは「国民投票後に明らかになった最近の調査や信頼感指数は、景気の弱さを誇張している可能性がある」と指摘。
さらに、ブレグジット決定後の経済指標が改善したことが確認できていないのに追加緩和を行えば、インフレ率は中銀目標の年率2%を直近の見通し通りにやや上回るどころか、大きく飛び越えることになりかねないとの見方を示した。
MPC外部委員を務めるフォーブスMIT教授(2015年)
米ホワイトハウスで米大統領の経済顧問を務めた経歴を持ち、現在は米マサチューセッツ工科大学(MIT)教授であるフォーブス委員は社債買い入れにも反対した。残りの8人の委員は賛成だった。
議事録によると、フォーブス委員は「現段階での過度な刺激策、金融政策の緩和に伴うコスト、プログラムに関わるリスクについて特に懸念を示した」。
カーニー総裁も含め過半数の委員はそうした懸念を一蹴。インフレがやや加速するという代償があるとしても、一段と深刻な景気減速に向かう危険性を拭い去るため速やかに行動することが賢明だと判断した。
BNPパリバのシニアエコノミスト、ドミニク・ブライアン氏はこれについて、妥当なアプローチだとの見方を示し、中銀措置を巡るリスクは非対称、つまり景気悪化を食い止めることよりもインフレ抑制の方が簡単な場合が多いからだと説明した。
さらに、「長く待ちすぎて政策対応手段を探すのに苦労するよりも、オーバーシュートするリスクがあろうが早いうちに行動した方が良い」と指摘した。
カーニー総裁は数週間以内に、超党派の議員から構成される財務委員会で証言する。国民投票前に総裁を批判したジェイコブ・リースモッグ下院議員(保守党)は同委員会メンバーだが、4日の追加緩和の発表後、イングランド銀行は行動を遅らせた方が良かったかもしれないと話した。
国民投票に向けて離脱派と残留派が議論を戦わせていた間、離脱支持派の同議員は、離脱派勝利ならインフレ加速と景気鈍化が進みかねないというカーニー総裁の警告をたびたび批判していた。総裁はそうしたリスクを払拭(ふっしょく)しなければならないと主張していた。
同議員は「経済で起きていることについてまだ何も情報がないにもかかわらず、景況感に関する情報だけに基づいてイングランド銀行がこれほどまでの規模の政策をここまで早く打ち出したことは興味深い」と語った。
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英ポンド、下げ相場は始まったばかりか
MIKE BIRD
2016 年 8 月 5 日 09:34 JST
英中銀イングランド銀行が4日、予想外にいくつかの景気刺激策を打ち出したことを受け、英ポンドは米ドルに対し下落した。
イングランド銀行の政策発表後、ポンドは前日比1.35%安の1.3110ドルまで下落した。それでも7月6日につけた31年ぶりの安値1.2796ドルは上回っている。ポンド相場は6月23日の国民投票で英国が欧州連合(EU)からの離脱を決めた後、1.49ドル前後から一気に急落した。
だが、ブレグジット(英国のEU離脱)決定後は予想を裏切り、ポンドは7月を通じて安値から持ち直し、イングランド銀行金融政策委員会(MPC)の前までに1.3345ドルまで上昇した。4日の下げでポンドは、6日ぶりの安値をつけたにすぎない。
ポンド相場の見通しは割れているが、年内にポンド高を予想するアナリストはほとんどいない。JPモルガン・チェースは年末も現在の水準と横ばいの1.31ドルと予想しているが、大手金融機関の中ではこれが最も強気な見通しだ。
対照的に、HSBCの為替アナリストは年末までに1.15ドル、ドイツ銀行は1.20ドルに下落すると予想している。ゴールドマン・サックスのアナリストは、2日のリポートで示したポンドが3カ月以内に1.20ドルまで売り込まれるとの予想を据え置いた。
MPCの中でも最もタカ派の一人であるウィール委員が考えを変えて金融緩和策を支持する姿勢を示して以来、市場はイングランド銀行が少なくとも利下げすると予想していた。イングランド銀行が実際に緩和措置をさらに拡大したので、ポンド相場の見通しはさらに引き下げられる可能性が高い。
英ポンドの対ドル相場、大手金融機関の予想
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アナリストらは、なぜこのように一段と急激な売り相場を予想しているのだろうか。
英国の経常収支の赤字拡大がその一因だ。英国はモノとサービスの輸入が輸出を上回っており、資本収支も出超になっている。こうした収支は、外国からの英資産に対する投資というかたちで、何とか相殺される必要がある。
HSBCのアナリストは7月の調査リポートで、英国の状況を南アフリカやブラジルなど新興諸国と照らし合わせて示した。こうした新興諸国では、外国からの投資需要が減退すると、通貨が急落する可能性がある。HSBCはリポートで、英国は新興国ではない「が、(経常収支の)赤字はこれらの国々よりもさらに大幅だ」と指摘し、だから新興諸国は「ポンドがどう動く可能性があるかの手掛かりを提供している」と述べた。
さらにドイツ銀行は7月のリポートで、「イングランド銀行の追加緩和で英国と欧州の長期債のスプレッド(利回り差)は縮小する」ので、英国債に対する需要が弱まるかもしれないと指摘した。英国債需要が減るということは、外国人投資家のポンド買い需要が少なくなるという意味だ。
このようなポンド急落が起きるかどうかはまだ分からない。英国の現状と比較できるブレグジットのような出来事はほとんどない上に、政治情勢がどのように展開するか全く不明な中、アナリストと投資家は当て推量を行っている。
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イタリアの危うい銀行救済計画、政府は問題先送り
欧州の銀行は再び「破滅のループ」に陥る恐れがある
イタリアのレンツィ首相
By SIMON NIXON
2016 年 8 月 5 日 11:42 JST
イタリア政府が策定した同国3位の銀行モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナの救済計画について言えるのはせいぜい「うまくいくかもしれない」ぐらいだ。
モンテ・デイ・パスキは7月29日、複雑な不良債権処理計画を発表した。最も回収の見込みが低い不良債権400億ユーロ(同行の融資残高の約15%に相当)を民間資金で新設された銀行支援基金「アトランテ」に移管し、その後、新たに約50億ユーロを調達するというものだ。
同じく29日に欧州銀行監督機構(EBA)が公表したストレステスト(健全性審査)の結果で、逆境シナリオではモンテ・デイ・パスキの自己資本は完全に吹き飛ぶと判断された。そのため不良債権処理計画を発表しなかったら、同行は週明け8月1日に営業を開始できなかったかもしれない。この計画はリスクを伴うが、預金が大量に引き出されることはなかった。
当然ながら、こうした状況に陥るのは避けるべきだった。イタリア銀行業界の問題は数年前から明白だった。2014年の欧州中央銀行(ECB)によるストレステストで、イタリアの銀行14行のうち9行が不合格となった。国際通貨基金(IMF)は、同国の銀行業界全体の不良債権は計3600億ユーロに上り、融資残高の18%に相当すると見積もっている。
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アイルランドとスペインは数年前に銀行システムを浄化し、今やユーロ圏で最も高い経済成長を遂げている。だがイタリア政府は、欧州連合(EU)の新しい規則が今年1月に施行される前に不良債権問題に対処するよう求める欧州諸国や国際機関の声を無視した。新規則は、公的資金で銀行を救済する際には債権者も一定の損失を負担すると規定している。イタリアの銀行業界の問題は現在、ユーロ圏全体に対する重大なリスクとなっている。
確かに、イタリア政府はただ手をこまぬいていたわけではない。資金調達を妨げていた政治勢力の影響力を弱めた。また、銀行が不良債権の債務を再編したり、担保を手に入れたりすることを難しくしていたイタリアの複雑な破綻処理制度を改革した。
しかしイタリア当局は、不良債権は担保で十分カバーされており、景気が回復しさえすればなくなると主張するばかりで、銀行に不良債権処理を命じるのが後手に回った。その結果、過剰な不良債権を抱えた銀行が貸し出しを渋るようになり、それが経済に打撃を与え、銀行の不良債権がさらに膨らむという悪循環に陥った。
問題を先送りする試み
実のところ、モンテ・デイ・パスキの不良債権処理計画は問題を先送りしようとする試みだ。確かに、これはシステミックリスクの最大の原因である同行自身の問題にけじめをつけることを目的としている。だがイタリアの他の金融機関は、アトランテを通じて16億ユーロを拠出し、モンテ・デイ・パスキの不良資産を買い取らなければならず、多額の偶発債務を背負うことになる。
また、モンテ・デイ・パスキが提示した不良債権移管の条件に他行の株主はショックを受けている。不良債権の買い取り価格は0.33ユーロと、現在の価格0.37ユーロをやや下回るにすぎないが、同行が建前としてはアトランテに保持するものの、評価額をゼロにして株主に渡す予定の16億ユーロ相当の株式を除くと、買い取り価格は0.27ユーロとなる。
資本不足額が予想以上に膨らむ可能性がある状況に他行がどのように対処するかという問題をイタリア政府は先送りにしている。
政府の立場から見れば、こうする以外に危機に対処する方法はなかった。10月に憲法改正の是非を問う国民投票を控える中で、個人投資家に損失を負わせるような解決策は政治的な理由から決して許されなかった。
また、公的資金による「予備的な資本増強」も無理だった。EUの規則では銀行がストレステストで不合格になった特定のケースにおいて、これが認められているが、株主と劣後債保有者も「損失を負担」しなければならない。
モンテ・デイ・パスキの劣後債51億ユーロの大半は個人投資家が保有している。昨年12月に小規模銀行4行の救済策の一環として、劣後債6億ユーロの債務が帳消しにされたとき、政治的な反発を招いた。
カギ握る憲法改正めぐる国民投票
多くの投資家は、憲法改正は極めて重要で危険にさらすことはできないことに同意するだろう。レンツィ首相が国民投票で支持を得られなかった場合は辞任する意向を示し、政治的危機が起きる可能性が高まっている中ではなおさらだ。
モンテ・デイ・パスキが時価総額の6倍近くにあたる50億ユーロを投資家から集められない限り、レンツィ首相の悪夢のシナリオは現実になる可能性がある。一方、利益をむしばんでいる巨額の不良債権関連費用がなくなることで、モンテ・デイ・パスキは年間約10億ユーロの利益をあげられるかもしれない。これは新しい株主にとって大きな利益となる可能性がある。
しかし、その達成に必要な利益成長を実現できる経営計画がモンテ・デイ・パスキにあるだろうか。過度な規制やマイナス金利、イールドカーブの平たん化が利ざやを圧迫し、欧州の銀行のビジネスモデルを破壊することへの懸念が広がる中、多くの人が欧州の銀行に対する信頼を失っている。モンテ・デイ・パスキとレンツィ首相が不運なのは、こうした中で投資家を説得しなければならないことだ。
コメルツ銀行やHSBCホールディングスなど複数の欧州の銀行がこの1週間に発表した4-6月期(第2四半期)決算は期待外れの内容だった。これを受けて、中央銀行の景気刺激策の副作用が効果を上回り始め、銀行がバランスシートの縮小に動くことで、再び「破滅のループ」に陥ることへの懸念が強まっている。
イタリアは常に時間を稼いできたが、これ以上、時間はイタリアに味方してくれないかもしれない。
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