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摩周湖
北海道・釧路に一大カジノ構想!前のめりの自治体と住民の対立先鋭化「本格的な観光振興を」
http://biz-journal.jp/2016/08/post_16180.html
2016.08.05 文=編集部 Business Journal
7月中旬、北海道・道東地方は連日、重い雲が立ち込め、曇り空の日々が続いていた。日中でも気温は15度前後と肌寒く、それほど多くない観光客の表情も冴えない。
そんな陰鬱な状況に大きな光が差し込んだ。7月25日、環境省が外国人観光客の誘致強化に向けて国立公園をブランド化する事業の候補地8カ所を選定した。そのなかに阿寒が含まれたのである。
翌日の全国紙はベタ記事扱いだったが、地元の釧路新聞は一面トップだった。記事は「地元関係者からは、(中略)観光振興の追い風になるとの大きな期待が寄せられている」と地元の熱い思いを伝えていた。
「国立公園満喫プロジェクト」は、東京五輪が開催される2020年までに、さらなる外国人観光客誘致のために外国人向けガイドツアーの開発や宿泊施設の充実、海外への情報発信の強化に取り組むもので、阿寒、阿蘇くじゅう、日光など8カ所をブランド観光地として世界にPRしていく。
観光客の減少に悩んできた道東の自治体にとっては、願ってもない朗報となったのである。
■阿寒湖温泉の宿泊客数はピーク時から半減
阿寒国立公園は1934年指定の、北海道でもっとも歴史のある国立公園のひとつだ。阿寒、摩周、屈斜路の3つのカルデラ地形が近接し、天然林に覆われている。阿寒湖のマリモ、世界有数の透明度を誇る摩周湖が人気スポットで、釧路市や弟子屈(てしかが)町など1市10町にまたがる。
近年は観光客の減少に歯止めがかからず、阿寒湖温泉の宿泊者数は1998年度の約100万人をピークに2014年度には約56万人にまで減少。摩周湖、屈斜路湖を擁する弟子屈町も同様で、91年度の約73万人から14年度は24万人にまで落ち込んでしまった。現状を打破するため、弟子屈町の呼び掛けで公園名を「阿寒摩周国立公園」に改称し、両地域の連携を深める動きを模索してきた。
加えて、観光振興の起爆剤として地元が期待を込めているのが「統合型リゾート(IR)構想」である。カジノ施設や商業施設、MICE(ビジネス関連イベントや国際会議など)施設などを有する滞在型リゾートを目指すものだ。釧路では05年に商工会議所青年部がカジノ構想を打ち出し、11年には共産党以外の6会派11議員がカジノ議連を設立。13年に蝦名大也市長が高橋はるみ知事に面会し、阿寒湖温泉地区へのカジノ誘致を要請した。14年には市がカジノ調査予算160万円を計上している。
阿寒湖温泉をはじめ道内各地で温泉リゾートを展開する鶴雅グループの代表でNPO法人「阿寒観光協会まちづくり推進機構」の理事長も務める大西雅之氏が、政府の「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」に有識者として参加。IRを活用したビジネスツーリズムとラグジュアリーツーリズムを取り込んだ国際観光振興を提言を行うなどしている。
阿寒を舞台に統合型リゾート構想を実現させようと総力戦を展開してきたのである。それだけに今回の環境省の選定が、カジノ実現への大きな弾みになると、観光業者らは期待しているわけだ。
■経済効果は最大1950億円
この統合型リゾート構想には北海道も積極的で、誘致を表明した自治体を支援する方針。道は15年にIRについての調査報告書をまとめ、拠点空港隣接型(苫小牧市)、高原リゾート型(留寿都村)、エコリゾート型(阿寒湖温泉)の3モデルで経済波及効果を試算した。それによると拠点空港隣接型が2560億円前後、高原リゾート型が1811億円、エコリゾート型が1264億円となった。
釧路市は5月に「釧路市統合型リゾート可能性調査」の結果を公表した。あずさ監査法人に委託したもので、建設の第一候補地は国設阿寒湖畔スキー場周辺で、ここに誘致した場合の経済波及効果は最大1950億円とされている。
道も自治体もIR誘致に向けて前のめりなのである。今後、国会でのIR推進法案の行方が最大のポイントになるが、環境省のお墨付きを得たことで、施設建設にあたり必要となる規制緩和の道は開けたことになる。
しかし、地元は必ずしも一枚岩ではない。カジノ誘致に対しては、ギャンブル依存症や治安悪化などを理由にした反対論がある。昨年の釧路市議会では「道の調査では3カ所でもっとも収益が見込めないのが阿寒湖となった。撤退すべきではないか」と迫る議員もいた。
共産党市議団が2年前に開催したシンポジウムでは、阿寒町の女性がこんな発言をしていた。
「地域の住民は圧倒的にカジノに反対だ。地元の温泉街のボスが積極的だから、みんな声が出せないと言っている」
地元のある住民は「国会議員もカジノ誘致に前のめりだが、それでいいのか。豊かな大自然を生かし、カジノに依存しない本質的な観光振興策を考えたことがあるのか。一時的なブームで観光客が殺到したところで、工事やオーバーユースで環境が破壊されたりしたら元も子もない」とあきれ気味だ。
アベノミクスの下で進められる、カジノを目玉にした外国人観光客の誘致と国立公園内の規制緩和。これが本当に地方の活性化につながるのか。一部の事業者の懐が潤うだけになるのではないか。冷静な判断と行動が必要になる。
(文=編集部)
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