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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 ハゲタカが年金を守る
http://wjn.jp/article/detail/0757609/
週刊実話 2016年8月11日号
公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、保有している株式の銘柄を公表する方針であることが分かった。正式発表はまだ(※執筆時点)だが、昨年度の積立金運用でGPIFは、5兆円を超える損失を出したとみられ、国民から運用の透明性に批判が続出したからだとみられる。
ここで、簡単に国民年金や共済年金を含む日本の公的年金制度がどのような財政構造になっているのかをみておこう。
保険料収入や国庫負担などの年金財政収入は、'14年度は48兆円。これに対して、年金給付を中心とする支出は51兆円と、差し引き3兆円の赤字となっている。
ただし、この'14年に関しては、積立金の運用で20兆円の利益を出したため、最終的に17兆円の黒字となった。
これまでの年金財政の黒字を積み重ねた積立金は、時価ベースで203兆円に達している。この積立金のうち、厚生年金と国民年金の積立金、144兆円の運用を任されているのがGPIFだ。
GPIFは現在、資産運用の基本ポートフォリオを国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%としている。運用資金の半分を内外の株式に投資するのだから、株式相場が上がれば利益が出て、下がれば損がでる。これは当然の話だ。
だから、毎年の黒字や赤字で一喜一憂してはいけない。もし、赤字が一切許せないというのであれば、そもそも株式投資に手を出してはいけないのだ。ただ、積立金を高利回りで運用できれば、年金給付を充実できるというのも事実だ。そこで注目すべきが、ノーベル財団だ。
ノーベル賞の賞金や運営費は、ダイナマイトの発明で巨万の富を築いたアルフレッド・ノーベルの遺産を運用することでまかなわれている。
ノーベル財団が公開している資産運用をみると、運用資金のおよそ半分を内外の株式に投じているのは、GPIFと同じだ。
GPIFの'14年度の運用利回りは+12.3%、ノーベル財団は+16.5%だ。ところが、'15年度については、GPIFがおそらく4%程度の損失を出しているのに対して、ノーベル財団は+7.3%の運用利回りを確保している。
株式市場が低迷したのにもかかわらず、なぜノーベル財団がこうした高パフォーマンスを達成したのかというと、株価が下落する前に売り抜けて、それをヘッジファンドに回したからだ。ノーベル財団が、'15年末でヘッジファンドに振り向けた資金は、30%にも及んでいる。
私はこれまで、一貫してヘッジファンドを批判してきた。彼らのやっていることは、商品投機、企業の乗っ取り、不良債権処理に乗じた資産強奪など、違法ではないものの、倫理的に問題のあるものが多いからだ。しかし、そうした法律すれすれの行動だからこそ、高収益が稼げるのも事実なのだ。
政府は、公的年金の積立金を本気で増やそうと考えるなら、ハゲタカに資金を回すことを真剣に検討すべきではないのか。ノーベル財団はやっているのだし、米国の私的年金がヘッジファンドに金を出すのは、以前から常識になっているからだ。
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