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【第73回】 2016年8月4日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
住宅建設の増加はマイナス金利の影響か?
7月29日、日本銀行は、マイナス金利導入以来、半年ぶりに追加緩和を行なったが、その内容は、上場投資信託(ETF)の買い入れ額の増額という小ぶりの政策だった。このため、市場には失望感が広がった。
ところで、住宅建設は増加しており、これはマイナス金利の影響と解釈できなくはない。そこで、マイナス金利拡大による住宅建設の促進を図るべきだとの意見がある。
以下では、住宅建設増加の要因を検討し、マイナス金利幅拡大は支持できないことを示す。
ほとんどの経済指標が悪化する中
新設住宅戸数は顕著に増加
堅調な住宅投資はマイナス金利の成果と言われているが、果たして本当なのか
このところ、さまざまな指標が日本経済の停滞を示している。
家計調査による実質消費は、4ヵ月連続で減少を続けている。鉱工業生産指数も、2015年半ば以降、下落傾向だ。8月15日に公表予定の4〜6月期のGDPは、マイナス成長になる可能性がある。
このようにほとんどの経済指標が悪化する中で、新設住宅戸数は顕著に増加している。その状況は、図表1に示すとおりだ。
14年4月の消費税増税前に駆け込み需要で増加し、増税後に減少した。15年になって回復しつつあったが、秋以降再び減少した。ところが、16年2月以降は増加に転じている。
5月の新設住宅着工戸数は7万8728戸となり、前年5月に比べて9.8%増えた。前年同月を上回るのは、16年1月以降5ヵ月連続だった(ただし、6月には8万5953戸で、前年同月比は2.5%減と、6ヵ月ぶりの減少となった)。
16年2月に急激に増えたのは、マイナス金利の影響だとの見方がある。そして、このルートを通じて日本経済を活性化することができるとの意見がある。しかし、以下で述べるように、これについては、慎重な評価が必要である。
なぜなら、省エネ住宅ポイント(注)の着工期限を前にした駆け込み需要の影響もあるからだ。
この判別のためには、以下で検討するように、マイナス金利によって住宅ローンが増加しているかどうかを見る必要がある。
◆図表1:新設住宅着工戸数
(資料)国土交通省
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(注)エコ住宅を新築またはエコリフォームをする人にポイントを発行する制度。発行されるポイントは、新築は1戸あたり30万ポイント。着工が2014年12月27日〜16年3月31日の住宅が対象。なお、大きな窓のガラス交換で、8000ポイントなどとなっている。
マイナス金利が影響?
日銀アンケートでは住宅ローン需要は増加
7月の住宅ローン金利は過去最低となっている。
価格.comの「住宅ローン 金利比較」によると、主要都市銀行の変動金利は、2013年8月以降ほとんど動きがなかったが、マイナス金利政策の影響で低下し、16年6月の平均金利は、15年12月より0.154%ポイント低下して0.708%(前年比でマイナス0.133%ポイント)になった。
35年固定金利は、16年6月の平均で15年12月から0.487%ポイント低下して1.101%(前年比でマイナス0.799%ポイント)になった。
他方、日本銀行が7月20日に公表した「主要銀行貸出動向アンケート」は、「マイナス金利が住宅資金需要を高めている」と解釈できる結果だ。具体的には、つぎのとおりだ。
個人向けの資金需要が「増加」したとの回答から「減少」を指し引いた指数(DI)はプラス14となり、前回4月調査から5ポイント改善した。これは、14年4月調査以来の高水準だ。
内訳を見ると、住宅ローンの需要がプラス13と前回調査のプラス4から大きく改善した。これも14年4月調査のプラス14以来の高さだ。なお、消費者ローンはプラス4で、前回のプラス7から悪化した。
以上から、住宅ローンの需要が伸びていると解釈できる。
統計データを見ればアンケートと矛盾
長期的に住宅ローンの伸び率は低下
以上から当然予想されるのは、住宅ローンが増加していることである。ところが、統計データでは、そうした変化が確認できない。
図表2は、国内銀行について、貸出総額、住宅貸付、消費者信用の貸出残高の対前年同期比の推移を見たものである。
住宅ローンの伸び率は、2016年1〜3月期で1.8%であるが、これは、12年から13年の伸び率が3%を超えていたのと比べると、かなり低い。また、長期的に見て、住宅ローン伸び率は低下している。
このように、住宅ローンの伸び率には、マイナス金利の影響は見られない。
しかも、13年以降は、貸出総額、消費者信用に比べて、住宅貸付の伸び率が低い。
◆図表2:住宅ローン等の残高増加率の推移
(資料)国土交通省
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以上は、一見すると、上で見た「主要銀行貸出動向アンケート」とは矛盾する結果だ。この解釈としては、「住宅ローン金利の低下は、主としてこれまでのローンの借り換えを促進し、新規ローンを増やすことにはなっていない。したがって、残高が増えないのだ」ということが考えられる。
なお、全国銀行協会の資料によると、銀行の貸出金の対前年比は、マイナス金利導入後低下している。
以上からすると、マイナス金利は、住宅ローンを含め、貸出を増やしていないと結論できる。
ただし、図表1で見るように、新設住宅戸数は、エコ住宅の期限が過ぎた4、5月にも伸びている。これから見ると、マイナス金利の影響も否定できない可能性もある。
以上のように、マイナス金利が住宅建設に与える影響については、いまのところ、確定的なことが言えない。今後の推移を見る必要がある。
なお、貸出金利の低下は、銀行の収益を悪化させるという問題を持っている。このため、マイナス金利幅の拡大に対して銀行からの反発があることは間違いない。
実際、日銀は、マイナス金利に対して腰の引けた対応をしている。現在でも、250兆円あまりある当座預金のうち、210兆円程度には0.1%の金利がなされている。
人口減による空き家問題は深刻化
住宅が増えるのが良いとは限らない
長期的に見て、人口が減少し、空き家問題が深刻化しつつある。
2013年時点で、853万戸(空き家率14.1%)もの空き家が存在し、増加しつつある。住宅は供給過剰の状態にある。
このような状態で、新築住宅が増えることが資源配分上望ましいのかどうか、疑問がある。
マイナス金利は、資源配分を歪めるおそれが大きいが、住宅に関しても、その問題が現れる。
少なくとも、長期的に見て、住宅建設が日本の中心的な産業になるとは考えられない。
以上をまとめれば、仮にマイナス金利が住宅建設を増加させる効果があるとしても、それが日本経済の長期的な資源配分の観点から望ましいこととは言えないことになる。
http://diamond.jp/articles/-/97794
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