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「ニーズに合わせた保険設計」「プロが相談」などと謳うが〔PHOTO〕gettyimages
まさか銀行がダマすわけが…あった!大損する被害続出、この保険商品を買ってはいけません 覆面取材もしてみた
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49347
2016年08月04日(木) 週刊現代 :現代ビジネス
退職金が振り込まれたタイミングを見計らって営業攻勢、相手はあなたの懐具合を知っている。
銀行が騙すわけがない。銀行が変な商品を売りつけてくるはずがない。そう「過信」している人は、気をつけたほうがいい。銀行員を信じたため、人生計画が狂った人たちの「実話」を紹介しよう。
■「利率がいい」と誘う
まずは国民生活センターの現役職員が、最近寄せられたという「相談事例」の中身を明かす。
「今春に70代の男性から、『銀行から買った保険で損を被りそうだ』と相談を受けました。
発端は、口座を持っていた支店の行員が自宅を訪ねてきて、『定期預金よりも利率がいい商品がある』と持ちかけられたことでした。そこで薦められたのが豪ドル建ての一時払い終身保険。『豪ドルはあまり変動がないので、安心して取引ができますよ』と」
契約期間は10年間なので、満期時には男性は80代。男性は、「万が一」を考えて契約を3年区切りにし、急なおカネの必要が出た時には「解約」をするという旨をあらかじめ銀行員に伝えた。
慎重に慎重を重ねて契約時には娘にも立ち会ってもらったうえで、約2000万円を一括払いして終身保険を契約。それから3年が経って、やはりおカネが必要になったので、解約の相談をしに行ったところ—。
「銀行員からは、いま解約すると1500万円程度しか戻ってこないし、解約手数料に400万円がかかると言われたそうです。男性によれば、高額な解約手数料については何ら説明を受けていなかった。それで『納得がいかない』と、センターに相談されたわけです」(前出・国セン職員)
保険を解約しようとしただけで、合計900万円もの「大損」をしかねないのだから、男性が怒るのも無理はない。
実はいま銀行員から保険を購入したがため、大損リスクに直面する「被害者」が続出している。
「銀行窓口で勧誘された生命保険に関する相談件数は、'14年度の365件が、'15年度は410件に増えています。今年度は4月~7月半ばで107件の相談があり、昨年度のペースを上回っています」(前出・国セン職員)
国民生活センターに最近寄せられたというリアルな「被害実例」を紹介しよう。
【60代夫婦のケース】
夫が最近退職したところ、退職金が振り込まれたタイミングで銀行員から連絡があり、「いまなら良い金利で運用できる商品がある」というので夫婦で銀行へ。そこで薦められたのが、一時払いの終身保険。銀行員から「相続対策にもなる」と言われたので、老後不安を考えてその場で申し込みを完了。約500万円の保険料を一括で支払った。
しかし、夫婦は商品の仕組みを詳しく理解せずに契約したため、後々になって不安に。後日、夫婦で相談して、「解約しよう」と再び銀行を訪ねたところ、行員は素直に解約に応じず、「まずは保険料を300万円に減らしたらどうか」などと提案。銀行員と話をしても埒が明かず、不安なので早くクーリングオフしたいが、どうしたらいいか……。
■元本割れのリスクを隠して
この夫婦と同じような被害体験をして、「身に覚え」がある中高年は少なくないのではないか。
最近では、より悪質な次のようなケースまで出てきている。
【70代女性のケース】
預金をしている銀行から「よい商品があるので来てください」という電話があったので、日時を約束して出向いた。もともと複数の預金をまとめて1500万円ほどの定期預金にしようと行員に相談していたが、いざ銀行に行ってみると、「全部を定期預金にするのではなく、別々の商品にしたほうが良い」と言われた。個室に案内され、行員の上司も参加する中で薦められたのが「外貨建ての商品」だった。
本人は以前から預金をしたいと伝えていたので、「外貨建て」というのは外貨預金のことだと勘違いしていた。高齢なのでリスク商品で運用するつもりはなかったが、しつこく言われたので契約した。が、家に帰ってパンフレットをよく見ると、契約したのが10年満期の外貨建て変額保険だったので、驚いた。
記憶する限り、個室で2人の行員と話した中で、「保険」という言葉は一度も使われなかった。しかも自分は預金を希望しているのに、なぜ保険を売りつけるのか。怒りが収まらず、いますぐクーリングオフをしたい。
いずれのケースも、顧客は預金などリスクのない運用を求めているのに、銀行側はそれを完全に無視して、「元本割れリスク」のある高額商品を売りつけている。
なぜそんなことをするのか。理由は一つで、そうした「危険な商品」を売りつけたほうが、銀行は圧倒的に儲かるからである。ファイナンシャル・マネジメント代表の山本俊成氏が言う。
「数年前の銀行業界では、最大の営業商品は投資信託でした。売れば売るほど手数料が入るおいしいビジネスでしたが、各行が次々と参入して手数料の値引き競争が激化。旨みがなくなってきた。
その代わりに出てきたのが、生命保険。投信同様に、売った分だけ生保会社から手数料が入るので、各行が営業モード全開。特に日本では高齢者を中心に『銀行』というだけで絶大な信頼がある。その信用力を持って保険の窓口販売(銀行窓販)をするだけで、ウソのように大量の保険が売れる」
実際、日本能率協会総合研究所が今月発表した『高齢者のくらしと金融に関する調査結果』によれば、調査対象とした60歳以上の高齢者のうち4分の1が銀行窓販の利用経験者。利用はしていないが、銀行の担当者からアプローチを受けたことがある人も含めれば2人に1人に及んでいる。
メガバンクから地銀まで、全国各地で銀行マンが保険をセールスしまくっているわけだ。経済評論家の山崎元氏も言う。
「銀行が窓口で生命保険を売った場合、銀行が生命保険会社から受け取る販売手数料は外貨建て終身保険だと4~9%と言われています。一方で、投資信託の場合は2~3%なので、投信を売るよりも保険を売るほうが『2倍以上』もおいしい。
しかも、投信は手数料を顧客に開示しなければいけないが、保険は開示義務がありません。さらに、マイナス金利時代のいま、稼ぎどころのない銀行にとって保険販売は手っ取り早い稼ぎになる。
はっきり言って、手数料が4~9%の金融商品は『ぼったくり商品』だが、それが金融知識のない高齢者たちに堂々と売られ、銀行の重要な収入源になっているわけです」
■まず定期預金に入らせる
外貨建ての手数料が図抜けて高い
右のグラフは金融庁が作成したもので、商品別の手数料率推移を示している。これを見ると、外貨建て保険の販売手数料が伸び続け、投信に代わって銀行の「稼ぎ頭」になっている様が如実に見て取れる。
銀行が売る保険商品の中には手数料が10%と「超高率」のものもあり、1000万円の保険を売った場合、100万円が銀行の懐に入るのだから実入りは大きい。銀行員はこうした高額保険を売りつけようと、あの手この手の「営業術」を駆使しているのが実態だ。
岸森健介氏(仮名、50代)は、そんなバンカーの巧みな術中にハメられた一人。長年担当してもらっている女性行員から突然訪問を受けたのは、岸森氏が住宅ローンを完済した直後だったという。
「会社にやってきて、『住宅ローンの返済が終わったようですから、そろそろ運用のほうも考えてみませんか』と持ちかけてきました。私が財形貯蓄で老後資産をコツコツと貯めていたのを把握していて、『財形を取り崩して、定期預金に回しませんか』と誘ってきました」
岸森氏が、「特に運用の意思はない」と告げると、女性行員は声を潜めて、「いま特別な金利をご案内しているんです」と囁いた。提示されたのは、3ヵ月定期で、500万円を預けると2万~3万円の利息が付くもの。確かに財形や普通預金より利率がいいと思い、500万円を預けた。
それから3ヵ月後、女性行員が再訪してきた。
「そろそろ定期の期間が終わります。今度はこの500万円を外貨建て保険に回しませんか。普通預金に戻すよりもずっと利率がいいですよ」
そう言って次に薦めてきたのが、「外貨建ての変額保険」。500万円を一括で払えば保険会社がそれを運用し、「うまくいけば払ったより多くの額が返ってくる」と誘われた。付き合いの長い行員だったので信用して、「500万円のうち300万円分なら」と任せたが、これが大きな過ちだった。
「後日、知人の金融マンにその話をしたら、『完全に騙されたね』と言われました。目下の円高で、すでに数十万円のマイナスが出ているようです。いま解約する場合はさらに数十万円もかかる、と」
ファイナンシャルプランナーの長尾義弘氏は、「銀行員がよくやる手口です」と言う。
「定期預金の満期に近づく頃に保険を売りつける。セールストークは、『預金はほとんど金利がつきません』。そして、手数料を多く稼げる外貨建て変額保険などを、『安定的に資産を増やせます』と売り込む常套手段です。
顧客が契約した後に損失リスクに気付いても、大抵は後の祭りです。8日以内のクーリングオフや特定早期解約の期間内に申し立てないと、その後は裁判で争うか、泣き寝入りするしかない」
■危ないのは「豪ドル建て」
本誌記者が大手行の窓口を「覆面取材」した際も、バンカーの驚愕の営業術に出くわした。
訪ねたのは、40代の本誌記者が口座を開設している都内の支店。すでに入っている医療保険の見直しと新たな資産運用の相談を持ちかけると、対応した女性行員はさっそく、「いまは××社の保険に入っていらっしゃいますよね」と言ってきた。
こちらからは伝えてはいないのに、口座の入出金記録から把握したのだろう。続けて、「奥様の口座も確認させて頂きました」と言うので、唖然とした。
確かに妻も同じ支店に口座はあるが、それも伝えているわけではない。銀行員はパソコンの端末ひとつを叩くだけで、こちらの「プライベート」が丸見えなのである。
「奥様の分も含めて、保険商品を提案いたします」
まだ相談を開始して10分ほどなのに、薦めてきたのは豪ドル建ての個人年金保険。それも妻の定期預金400万円分をピッタリ同額分、そのまま保険に転換する「設計書」になっていた……。
銀行からすれば、顧客の資産の増減からカネの出入りは1円単位まですべて丸裸。その圧倒的な情報量を武器に、客の懐具合を見ながら保険を売りつける。それが銀行の保険販売の実態である。
いまやそんな銀行窓販による保険販売は年間5兆円規模の超ビッグビジネスだが、売り上げの過半を占めているのは外貨建て保険と変額保険。ファイナンシャルプランナーの平野雅章氏が言う。
「銀行は医療保険やがん保険も扱いますが、商品数は少なく、重視しているとは言い難い。外貨建て保険のほうが販売単価も高く、手数料を効率よく稼げるからでしょう。しかし、こうした商品は元本割れリスクがある。中高年は手を出すべきではない」
保険コンサルタントの後田亨氏も、「銀行が売る外貨建て保険や変額保険は資産運用には向いていない」と言う。
「私がある大手保険会社の資料を調べた時、顧客には豪ドル建て商品を積極的に販売していたのに、その保険会社自身は豪ドル建ての資産にほとんど投資をしていなかった。つまり、自分たちは買わないような商品を顧客に売ろうとしている。良識ある銀行の窓販担当者は、『窓販の仕事はもうしたくない』と嘆いているほどですから」
金融庁はこうした事態を問題視し、銀行に販売手数料の開示を促しているのだが—。
「開示となれば、保険は売りづらくなるので、銀行側は開示直前まで『駆け込み』で一気に保険をセールスしてくる可能性がある」(前出・長尾氏)
手数料開示の目安は「年内」。しばらく気をつけたほうがよさそうだ。
「週刊現代」2016年8月6日号より
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