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日銀は本当に死んだのか? デフレ脱却に必要な緩和スキームは「量」の拡大だ 「名目GDP600兆円」に向けて
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49360
2016年08月04日(木) 安達 誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」 現代ビジネス
■今回は残念。次回に期待
7月28、29日の日銀の金融政策決定会合では、ETFの買い取り枠拡大(従来の3.3兆円から6兆円へ)が決定されたが、マネタリーベースの拡大ペースは年間約80兆円で据え置かれた。
1月29日のマイナス金利政策の導入以降、長期金利(国債利回り)の低下が著しく、日銀の想定を下回る水準で推移しているとされることから、ETFを追加で買い増す分は国債購入の減額で対応し、年間のマネタリーベース拡大ペースは現状を維持するというメッセージである可能性が高い。
これは、金利低下で「ポートフォリオリバランス効果」が著しく低下した国債買いオペを株式の購入で代替したという意味で、「質」的緩和の拡大といえなくもない。だが、それでも結果は期待はずれであった。
特に、筆者が当コラムで言及したように、今回の「質」的緩和では、「量的緩和政策の限界≒金融政策の限界」とみなし、「円買いプレイ」を積極的に仕掛けてきた海外投資家の見方を変えるには至らず、しばらくおさまっていた「円買いプレイ」が再開されてしまった点は痛い。ドル円レートは1ドル=100円台を試す展開である。
筆者は、今回、追加緩和を行うのであれば、「質」よりも、むしろ、「量(この場合、マネタリーベースの増加ペースの拡大)」にこだわるべきであったと考える。その意味で今回は残念だったが、黒田日銀総裁の記者会見の内容から予想する限り、次回(9月20、21日)の金融政策決定会合では、インパクトのある追加緩和措置がとられそうなので、そちらに期待したいところである。
ところで、今回の決定に関して、「マイナス金利付き量的質的緩和(QQE)」政策に否定的な識者は、「日銀は死んだ」として、「金融政策限界論」をことさら強調している。一方、QQE政策に賛成していた識者は、3月以降の日銀の追加緩和に消極的な姿勢を「白川総裁時代の旧態依然とした日銀に戻りつつある」として強く批判している。
筆者は、日銀が「デフレ脱却(インフレ目標)の達成に注力する」というスタンスを明確にしたいのであれば、マーケットの変動に対処する形での追加緩和を実施する必要はないと考える。そして、重要なのは、むしろ、消費税率引き上げ後の景気失速によって頓挫した「デフレ脱却」へのコミットメントをもう一度明確にした上で、その新たなコミットメントと整合的な追加緩和スキームを提示することであると考える。
その意味で、2014年10月の「ハロウィン緩和」と今年1月のマイナス金利導入は、いかにもマーケットの短期的な動き(特に為替レート)に対応したような印象がぬぐえないこと、及び、今回の措置も、いかにも経済対策の発表にあわせた場当たり的な印象がぬぐえないことが、世の中の人々に余計な誤解を与え、期待形成にマイナスの影響をもたらしているのではないかと懸念する。
そして、それが、前述のような「円買いプレイ」を誘発させ、「余計な円高」を招いているのではないかと考えている。従って、1月のマイナス金利政策と今回の追加緩和はむしろ、やらないほうが良かったのではないかと考えている。
■「名目GDP600兆円」目標との整合性
ところで、今後の金融政策に関する議論の一つとして、現在の金融緩和、特に「年間80兆円ペースでのマネタリーベース拡大で十分なのか」という議論がある。
特に、今後の金融政策運営では、政府の経済対策との協調が重視されるため、重要な課題となりうるのが、安倍政権が掲げた「名目GDP600兆円」目標との整合性である。
ちなみに、日銀が「量的質的緩和政策」を採用した2013年4-6月期を出発点として、2020年に名目GDPの水準が600兆円に到達するという成長経路を考えた場合、平均して3%程度の名目成長率が必要であったという計算になる。
そこで、現状の金融政策スタンスが、「名目GDP600兆円」目標にマッチしているか否かを考える一つの方法が、目標となる名目GDP成長率(この場合3%)を実現するために必要なマネタリーベースの伸び率を算出する方法である。これは「マッカラムルール」といわれるもので、米国のカーネギーメロン大学のベネット・マッカラム教授が考案した金融政策のルールである。
金融政策のルールといえば、「テイラールール」があまりにも有名であるが、ある条件の下では、「マッカラムルール」は「テイラールール」と「同値」であることが証明されている。すなわち、「マッカラムルール」は「テイラールール」から算出される最適な政策金利水準を最適マネタリーベースの伸び率に換算する方法といえる。
「マッカラムルール」とは、単純にいえば、「マネタリーベースの対目標名目GDP比」を、その長期的な「均衡値」に近づける場合に、どの程度、マネタリーベースを供給する必要があるのかを計算する算式である(通常、「均衡値」は長期的な平均値をとることが多く、これをそのまま「最適値」とする場合が多い)。
そこで、この「マッカラムルール」を、名目3%成長を目標として、日本に当てはめると、図表1のようになる。
直近(2016年1-3月期)における最適なマネタリーベース伸び率は前年比+30%弱となる。一方、同時期の実際のマネタリーベースの伸び率は前年比+28.8%であり、誤差等を含めると現状の日銀の金融政策は、ほぼ「マッカラムルール」に沿った伸び率となっている。
そして、これを残高に換算しても、現時点では、名目3%成長を実現するために必要な残高をほぼ満たしていると考えられる(図表2)。その意味では、現在の日銀の金融政策スタンスをマネタリーベース残高だけからみる限り、まだ、「遅きに失した」というような状況ではないと思われる。
だが、これは、2013年以降、名目3%成長へ向けて経済が順調に拡大していたと仮定した場合の数字である。残念ながら、直近(2016年1-3月期)までの日本の名目GDP成長率は平均+1.8%に過ぎない。そのため、直近(2016年1-3月期)を出発点として、2020年に名目600兆円を実現するためには、今後、平均で年率+3.7%の成長を実現させる必要がある。
これは、マネタリーベースの伸び率で換算しなおせば、今後、日銀は、マネタリーベースの供給ペースをさらに加速させる必要があることを意味する。すなわち、「マッカラムルール」上は、現行の3%成長から3.7%成長を前提としたマネタリーベース供給にスイッチさせなければならないことを意味している。そして、これは年率で40%程度の伸び率となる。
さらにもう一つ注意点がある。日銀によって供給された貨幣の流通速度が上昇した場合、日銀はそれほどマネタリーベースを拡大させる必要はなくなる。すなわち、「信用創造」によって、市中により多くの資金が流通するようになれば、マネタリーベースはそれほど供給されなくとも、マネーストックは増加し、それが経済成長に寄与するためである。
これが実現した場合、前述の「マッカラムルール」から算出された最適なマネタリーベースの伸び率は低下、もしくは、それを累積した最適なマネタリーベース残高は減少していく。そして、これは、2012年頃の米国で実現したことである。
当時の米国の状況を振り返ってみると、FRBは、2011年6月をもって2回目の量的緩和政策(QE2)を終了させた。ある程度の景気回復が実現したと判断したためである。だが、その後、再び景気が悪化したため、FRBは追加の金融緩和(QE3)の実施を余儀なくされた。
当時、「マッカラムルール」から算出した最適伸び率(ただし、米国の場合は名目5%成長を前提)は大きく鈍化しており、米国はデフレ危機から脱しつつあることが示唆される状況であった。だが、QE2終了後のFRBによるマネタリーベース供給量の伸び率は、この「マッカラムルール」から算出される最適伸び率を大きく下回っていた。
結局、この急激なマネタリーベース供給ペースの減速が、株価の急落から景況観の悪化につながり、FRBはQE3の実施を余儀なくされることになったと思われる(2010年6月のQE1終了以降も同様である)(図表3)。
このことは、仮に日銀がマネタリーベースの供給ペースを緩めることが可能になった場合でも、急激に減少させるのではなく、ソフトランディングさせていく必要があることを意味している。
以上の考え方にもとづいて、現在の日銀のマネタリーベースの伸び率をみると、その伸び率自体は高いものの、伸び率の減速ペースが早く、このままいけば、4-6月期には、名目3%を前提とした場合の最適供給ペースをも下回ることが想定される。これは、米国にたとえると、QE1、もしくはQE2が終わる局面でのマネタリーベース伸び率の急低下局面と似ていなくもない。
いずれにせよ、9月の金融政策決定会合では、マネタリーベースの供給ペースをさらに拡大させる必要があると考える。少なくとも前年比で40%程度の伸び率を確保する必要があるのではなかろうか。
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