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サウジアラビアの首都リヤドで、「ポケモンGO」をプレーする男性〔AFPBB News〕
私がポケモンGOを決してやらない理由 ES細胞ではなくなぜiPS細胞なのか、VW不正にも関連する大問題
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47513
2016.8.3 伊東 乾 JBpress
AR(オーグメンテッド・リアリティ)のELSI(倫理的、法的、社会的)問題について基礎からお話しをしています。今回はまず、入り口以前のポイントですが、これは別段特定のゲームがどうしたとか、そんな話をしているのではないことからお話を始めたいと思います。
■なぜ「iPS細胞」はノーベル賞を得たか?
ELSIの議論が始まったのはバイオテクノロジーや医療の分野が早かった。理由は明確です。人の命に関わるからです。
山中伸弥・現京都大学教授がiPS細胞の開発でノーベル医学生理学賞を受賞したことは日本国内でも広く知られていますが、なぜiPSがそこまで高く評価されたか、その背景にあるELSIとなると、急に広がりが小さくなってしまうので、そこから始めましょう。
iPS細胞、人工万能細胞の技術は、基礎生命科学の倫理問題から着想されたものにほかなりません。
私たちは人工でない万能細胞を作ることができます。それは古典的な方法、子作りにほかなりません。男女が営んでも、試験管の中で人工授精しても、私たちは「ヒト天然万能細胞」つまり受精卵、胚を作ることができる。
これを自由自在に基礎科学の実験に使ってよい、と思いますか?
20世紀末からの人類社会、特にバイオテクノロジーに関わる科学者集団はそのようには考えませんでした。
もし、きちんと着床して育って入れば、あなたと変わらない人間に育つ可能性がある受精卵、つまりES細胞を、臓器単位の再生工学などに使っていいのか?
もし胎児として成長していれば、一定の月齢を超えれば「ヒト」として認識される可能性があり、ことは倫理だけでなく法的な問題にも抵触してくることでしょう。
結論として、ES細胞実験には厳しい倫理チェックが課されることになっています。しかし他方、アイバンクや臓器バンクなどの現状を考えても、もし人工的に人の臓器を、例えば自分自身の遺伝情報から新たに作り出すことができれば、疾患を抱える多くの人に画期的な治療の可能性が開かれるはずです。
そこでES細胞に頼らない「別の人工万能細胞」への模索が始まり、10年を経ずして技術が確立された。iPS細胞の開発者たちがノーベル賞で表彰されたゆえんです。その背景にはこのような倫理的、法的、そして社会的な問題があります。
このように開発に先立って(proto)技術の問題を考えることをプロトテクノロジカル・アセスメントと呼び、EUではこれに相当する議論が(用語は様々ですが)非常に盛んに交わされています。
プロトテクノロジカル・アセスメントがELSIにとって決定的な例をもう1つ、別の近々の例から引いてみます。
■フォルクスワーゲンのELSI課題
昨年明らかになった独フォルクスワーゲンの廃ガス不正問題は。100年余に及ぶ自動車イノベーションの中でも極めて深い傷を残したとして、ドイツ国内では様々な議論が今も続いてます。
この問題はディーゼル車から排出される、環境に悪影響を及ぼす窒素酸化物(NOX)に対する排出規制をごまかすプログラムが1000万台以上の車に取りつけられて出荷されていたというものですが、ことはそれほど簡単ではありません。
NOXは確かに環境にひどい影響を与えますが、それ自体は無臭で必ずしも一般のライダーが感知することができません。翻って、このNOXを除去する装置は21世紀のハイテクを駆使したものだそうですが、これをフル稼働させると、運転者にもはっきり分かる走行性や燃費などにも露骨な影響が出てしまうという。
そこでフォルクスワーゲンの一部の人は考えた。車を輸出する際、環境基準検査のときだけ除去装置を働かせ、普段はスルーして「走りがご機嫌で燃費のイイ」(環境基準的にはウソをついた)システムを「開発すればよいではないか!」と。
明らかに犯罪的な技術開発ですが、それが生まれたのにはこういう背景がありました。
フォルクスワーゲンの不正が全ドイツを揺るがした背景には、この不正イノベーションがローカルでなかったことも挙げられています。
フォルクスワーゲンはハンブルクなどのある北部ニーダーザクセン州ヴォルフスブルクの企業ですが、この不正イノベーションは密かに社外に持ち出され、バーデン・ヴュルテンベルク州シュトゥットガルトの誇る老舗ボッシュに委嘱されます。
ここからが問題になります。
ボッシュとしては、検査時だけ環境安全装置を働かせ、それ以外は無効にする装置なんて、はっきりいって明らかな「不正装置」なわけですが、依頼されたら作るという職人気質が(悪く)働いて納品してしまうわけですね。
「こういうものは絶対に、実際には使わないでください」
とか何とか、いろいろ言ったということになっていますが、果たしてそれでボッシュの社会的責任は問われないのか?
ドイツ国内にとどまらず、国際社会の目はボッシュの言い分にかなり冷淡です。明らかに犯罪にしか使えないイノベーションでフォルクスワーゲン事件に加担したボッシュの責任は、様々なレベルで問われ始めている。
と言う以上に、ボッシュの技術がなかったら、この犯罪は起きていなかった、と言う方が責任の所在が露骨かもしれません。主犯ではないにしろ、実行犯に近い厳しい視線が向けられている。
「技術者は、その結果がどのように用いられるか、など考える必要はなく、言われたら、まず言われた事を実現するのが職人というものだ。あれこれの能書きは、製品ができてから、あとから考えればよい」
そういうものの考え方を「テクノロジカル・アセスメント」と呼んでいます。ボッシュはこの意味で「テクノロジカル・アセスメント」以前の段階にあった。
あれこれ言う前に作ってしまった後、それを巡る真剣な考慮をせずにこれを市場に出すという行為に加担してしまったわけですから。
さらにフォルクスワーゲンに至っては言語道断の割合がさらに深刻です。
テクノロジカル・アセスメントは「開発した技術が法的、倫理的、社会的に問題を発生していないだろうか。公害はないか。危険はないだろうか。リコールの必要性は?」といったことを検討するものですが、まるで逆の確信犯で「アセスメントつぶし」の隠蔽を働いたわけですから。
そうではない。個別の技術開発に先立って、これから作られるであろう装置は、果たして危険はないか、あれば事前に回避して、そのような危険を世の中に散布してしまっては取り返しがつかない(負債を企業として裁判に負けた折には抱え込むことになる)のだから・・・。
こういった検討が多々なされる必要があります。
(若い読者の中には私がミュンヘン工科大学のマインツァー教授とともに慶應義塾大学経済学部で行った特別講義に出た人がいるかもしれません。あそこでお話ししたのは、現実にはこういう背景があることでもあるのです)
覆水盆に返らず、と言います。そこからもう1つ別の例を引きましょう。
■「忘れられる権利」のELSI課題
少し違う例ですが、私がこのところドイツの友人たちと話した中に、相模原で発生した重度身障者を狙った大量殺人事件の報道で、被害者の名前がアルファベットになっているという件があります。
この事件報道で最初に想起したのは、ナチスのホロコースト、民族浄化の絶滅政策が心身障害者の「安楽死」政策から始まった事実です。
私が大変お世話になった作曲家カールハインツ・シュトックハウゼンのお母さんはノイローゼを病んで入院中、この被害に遭って命を落とされました。よく分からない骨片の入った壺だけが送られてきたそうです。
実際、犯人もヒトラーやナチスに言及する供述をしているそうですが、今もしホロコースト犠牲者の慰霊碑で、一部の人だけが「身障者だから」とか「**だから」といった理由で名前を消されたり、イニシャルにされたら、凄まじい問題になるに違いありません。
日本でどうしてそういうことが通用しているのか・・・という議論と表裏して、犯罪報道で一度出た名を「回収」 できるか、できないかというネットワーク法上の問題があります。
現在のインターネット環境では、仮に冤罪や誤認逮捕でも、逮捕されたり刑事被告人になった段階で個人の名前がネットメディアに掲載されます。
そして、放っておけばそれはほぼ永久に残ってしまう。
インターネットの民生公開が1995年。それから10年、15年経っても、犯罪者はもとより、実際には無実の人が逮捕され、冤罪が晴れて社会復帰しても、個人名がネットに残っているため、就職時に検索されしばしば採用されない、といった問題が欧州で議論され「忘れられる権利」の問題からEU法での「消去権」制度にまで強化されてきた背景があります。
ただ、欧州ではもっぱら、これが法学や哲学、倫理など「文系」の議論として検討され、技術開発の現場と直結していなかった。
犯罪報道はともかく、イノベーションや製品開発では、これでは十分ものごとが機能しません。「リコールの制度があります」と言っているだけと変わらないわけですから。
技術の中に当初から、転ばぬ先の杖としてのELSIテクノロジーが含まれている方が本来は安全なわけです。
これからリリースする 製品が出てしまってからでは遅すぎる。消費者に被害が出てからでは企業側のダメージも小さくは済まない。そこで「プロトテクノロジカル・アセスメント」が必要不可欠という議論になってきたわけです。
前回は「ポケモンGO」というゲームを題材に話の口火を切りましたが、問題は個別の商品に特化したものではない。
ちなみに、2016年7月末時点で私自身はポケモンGOというゲームをしたことなどありません。と言うよりあるわけがない。
このゲームが日本以外の各国でリリースされたとき、私はまだ日本にいましたので、すでに諸国で発生しているARゲーム犯罪の報道などを目にしつつ、欧米のELSI研究者と議論を始めました。
また、この原稿はドイ ツのベルリンで書いていて、日本国内でリリースされたポケモンGOへのリアクションは報道で見るだけで、現実には目にしていません。
ベルリンの地下鉄では車内広告で、広々とした緑の中で三々五々「POKENON PARTY」に興じる人々の報道などを目にしますが、これと同様の風景が日本で可能なのかどうか?
寿司詰めの深夜の公園の写真などを見るばかりで、個別の判断は私にはできません。仮に事件事故があっても、そういうところで司法は判断しないでしょう。判検事の人々もARゲームに興じた経験があるばかりとは限らない。そういう人たちが最高裁判例も出す可能性が高い。
私がスマートホンを利用するのは米国内でだけで日本でもドイツでも携帯電話しか使っていません。理由は連載の読者なら幾度も書いていることですのでご存じと思います。同じ理由で「何とかポイントカード」の類も一切使いません。
別段「ゲームをして遊んでみた。その結果こんな感想を持った」というような話では全くないし、もっと言えば、すでに発売・普及した結果「こんな犯罪がありました」「こんな事故が起きました」「その結果、民事で訴えらえて判例が出てから業界団体として対策を・・・」といったことでは遅すぎると言うより取り返しがつかないケースが多くなっている。
EUでのプロトテクノロジカル・アセスメントの議論は、このような背景からなされているものです。
ちなみに私の近しい人の中にもポケモンGOの前身というべき位置情報ゲーム「Ingress」からのユーザが何人もいます。本稿をチェックしているメンバーの中にもおられ、この稿はそういうメガネも通した上でリリースしていることも添えておきたいと思います。ARを用いた技術全般に共通する基本的なリスクはすでに指摘される通りで、今後さらに予期せぬ展開があるでしょう。
ゲームに限らずAR商品が持つELSI上の課題は多岐に及び、一つひとつ丁寧な対策を検討する必要があると、リサーチコアでも検討しています。
これからもう少し踏み込んで考えてみたいと思います。
(つづく)
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