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米映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート(The Wolf of Wall Street)』(2014年)のマーティン・スコセッシ監督〔AFPBB News〕
マレーシア政府の腐敗ぶりにディカプリオも真っ青 1MDBの資金流用疑惑に米司法省がメス、ナジブ首相の刑事責任追及も
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47506
2016.8.3 末永 恵 JBpress
「米国史上最大級の資産差し押さえ」のニュースは、世界を驚愕の嵐に巻き込んでいる――。
米司法省が7月20日(日本時間21日)、マレーシア政府100%出資の国有投資会社「ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)」の資金流用疑惑にからみ、1MDB関係者が同資金35億ドル(約3750億円)以上を不正流用・洗浄(マネーロンダリング)したと確定し、首相の義理の息子ら親族らが保有する関連資産(10億ドル=約1070億円)の差し押さえを求め、米ロサンゼルス連邦地裁(複数訴訟案件)に提訴したからだ。
1MDBはマレーシア財務省管轄=財務相をナジブ 首相が兼務。同首相は設立者であるとともに、顧問委員会委員長兼非常勤代表だった(5月まで)。
その中で米司法省は、「不正流用された資金をマネーロンダリングするため企てられた国際的な陰謀」と厳しく糾弾。
さらには、今回の事件が「米国史上最大の泥棒政冶(盗賊政冶)による横領事件」と名指しで、ナジブ政権を批判するとともに、同首相が不正資金を受理したとも示唆。
■刑事訴追も検討
今回の1MDB不正横領事件は、約1年半前の2015年3月と4月に日本のメディアとして初めて、JBpress上で報道した「消えた23億ドル〜マレーシア政府系投資会社の巨額不正疑惑(1)(2)(3)」(日本貿易振興機構=ジェトロ=で経済産業省所管の国のシンクタンクであるアジア経済研究所が調査論文で参考文献として引用)に関連するもので、すでにスイスでは同事件関連取引銀行(BSI)が刑事訴追を受けている。
今回、米司法省は民事訴訟を起し、一方、嵐の渦中にあるナジブ首相は「米司法省の訴訟は、民事で刑事訴訟ではない」と主張し、暗に自らの潔白を強調するが、「米国政府も刑事事件としても捜査に着手している」(米政府筋)という。
ナジブ首相は昨夏、約7億ドル(約750億円)の資金が個人口座に振り込まれたことを認めたが、「1MDBからではなく“中東王族からの献金”」と疑惑を否定、国内捜査を終結させていた。
しかし、米司法省は136ページにわたる今回の訴状の中で、「中東から献金された事実はない」と否定し、1MDBからの資金横領と確定。
7月21日には、米国と歩調を合わせるように、シンガポール金融通貨庁(中央銀行)と司法長官が、不正に関与した中心人物のジョー・ロウ氏(前述の昨年の本コラム記事参照)とその家族が保有する資産を含めた約1億8000万ドルが預けられた銀行口座などを凍結したと発表。
さらに、スイス当局は資金洗浄総額は「40億ドル以上(約4300億円)」とも換算し(専門家によっては、60億ドル以上=約6450億円以上とも試算)、シンガポール当局とともに、1MDB資金をぺーパーカンパニーに送金する処理を手助けした金融機関(ゴールドマンサックスなど)を捜査中。
シンガポールは同日、スタンダード・チャタード、UBS、DBSの大手銀行が資金洗浄対策で不備があり、譴責したとした上、これまでの資金洗浄疑惑調査が、1MDB関連であると初めて認めた。
今後の捜査いかんでは、前代未聞の大規模な国際マネースキャンダルに発展した1MDB横領事件は、国際的な刑事裁判へと発展する可能性もあり、“そうなれば”、疑惑を否定しながら、一方で強固な政治基盤を築いてきたナジブ首相の政治生命も含め(首相を退いた後に訴追される可能性も)、マレーシアの政局への影響は計り知れない。
今回司法省が公開した訴状によると、不正流用・洗浄は1MDB設立直後の2009年から2013年までの4年間行われたという。
■アジズ氏は全財産差し押さえ
サウジアラビアの原油事業などへの投資名目で巨額資金を拠出したが、実態は米国、スイスなどの金融機関が発行した社債などで調達した資金をペーパーカンパニーなどに支払い、資金洗浄され、首謀者のナジブ首相の義理の息子、リザ・アジズ氏、1MDB設立の中心人物のジョー・ロウ氏(実名公表)、さらには「マレーシア政府高官1」に流れ(詳細は昨年本コラム記事参照)、米国に住むアジズ氏は全財産が差し止め対象となった。
首謀者らは、不正横領した資金でビバリーヒルズやマンハッタンの高級不動産、モネやゴッホの絵画、プライベートジェット機などを“爆買い”した(参照1、2、3、4、5)。
そればかりか、投資詐欺やマネーロンダリングの実話を描いた米アカデミー賞候補の米映画 「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(レオナルド・ディカプリオ主演。2013年製作、2014年日本公開。ゴールデングローブ賞受賞)の製作資金や、ラスベガスなどでのカジノギャンブル代、“豪遊パーティー”で著名芸能人や音楽家などのセレブへの破格な報酬に充てられたという(詳細は昨年本コラム記事参照)。
今回の捜査で注目されている訴訟の1つが、司法省がディカプリオ主演の同映画製作資金にマネーロンダリング資金が関わったことが判明し、ナジブ首相の義理の息子、アジズ氏が共同設立者の映画製作会社に対しても民事訴訟を起こしたことだ。
アカデミー賞候補作が、しかもアカデミー賞受賞俳優が海外の首脳の不正資金流用疑惑に何らかの形で関わっていたことでハリウッド業界にも激震が走っている。
司法省の訴状では、1MDB傘下の投資会社からアジズ氏の個人口座に計2億3800万ドル(約255億円)が口座に振り込まれ、そのうち約1億ドルが同映画会社関連の口座に渡り、製作費に充てられたとしている。
さらに、同作品は3億9200万ドルの興行成績を収めるという大ヒット作品となり、司法当局はアジズ氏らがこれらの資金操作を行い、1MDBから不正流用した“裏金”を正当な資金にすり替えたと見ており、司法当局は刑事訴追に向けても捜査を進めている。
また訴状では、「ハリウッド俳優1」と記されているハリウッドスターのディカプリオ氏。2014年の同映画のゴールデングローブ賞授賞式で「ジョーイ、リズ、ジョー」への感謝の意を表するとともに、「この映画のリスクをも背負ってくれた」と賛辞した、と記述されている。
ジョーイは映画会社の共同創業者のジョーイ・マクファーランド氏、ジョーは紛れもない、1MDB設立に関与した不正資金流用の中心人物のジョー・ロウ氏で、リズは、ナジブ首相の義理の息子のリズ・アジズ氏だ。
加えて、1MDBからの不正流用資金は、ラスベガスなどでのカジノの豪遊金としても充てられ、「誰かのカジノでの巨額な損失」もカバーしたとされている。
訴状によると、「ハリウッド俳優1」は公私ともに親しいアジズ氏やロウ氏らと1回だけでなく数回以上、ギャンブルに興じたとも指摘されている。
■1日で1億円以上豪遊
2012年には、ラスベガスでの1週間のカジノ豪遊で1100万ドル(約12億円)が1MDBからロウ氏の個人口座に振り込まれ、1日に115万ドル(約1億2000万円)が浪費されたこともあるという。
トヨタ自動車の「プリウス」や「レクサスLS」などのエコカーを早くから保有し、アカデミー賞授賞式にはベンツやベントレーで来場するハリウッドスターと一線を画し、プリウスで登場、環境活動家としても知られるディカプリオの“影”の部分が暴露される可能性もあり、1MDBの余波はハリウッド業界をも巻き込む様相に発展している。
さらに、香港に居住し、資産家の息子としてアジアの金融業界の大物と知られ、ヒルトンホテルの創業者の孫娘のパリス・ヒルトンやセレブたちとも交遊があり、彼らをアジズ氏らに紹介したとされる1MDBの中心人物のジョ−・ロウ氏も訴状では、実名で登場している。
米司法省の訴状によると、昨夏にナジブ首相の個人口座に、約7億ドル(約750億円)の資金が振り込まれたことが発覚して以来、スイス当局の捜査により、スイス国内の保有口座を凍結されるなど、ロウ氏は「資金不足」に陥ったと見られている。
そして1MDBの不正資金流用で購入したピカソやモネの高級美術品を「バーゲン価格」でオークションのサザビーズなどで売却し始め、馬脚を現し始めた。
突然、オークション界に彗星のごとく現われた若き美術商として名を馳せる一方、購入時の価格の60%から70%で次々と売りさばく異常な行動でも特別視され始めた。
今年に入っても、2013年に約4000万ドルで購入したピカソの「女性の頭」を2750万ドルで売却し、資産運用に苦慮する財政事情を露呈した。司法省は、ロウ氏が今も保有しているとされる5750万ドルのモネやゴッホの美術品を押収したいと考えている。
一方、国際社会の最大の関心事は、訴状に「マレーシア政府高官1」と称された人物の素性と同人物への今後の捜査の行方だ。
不正流用された1MDBの資金は、1MDBと合弁企業を設立するペトロサウジの共同創立者に渡り、そこから「政府高官1」の口座に振り返られたという(昨年の本コラム記事参照)。
■「政府高官1」とナジブ首相
訴状にはナジブ首相を名指したものはないが、この人物の口座には、総額7億3100万ドル(約790億円)が数回にわたって振り込まれ、「政府高官1」は1MDBで極めて支配的な立場にあり、アジズ氏の親族であったことから、ナジブ首相が1MDBで果たした役割と合致する。
米司法省は1MDB横領事件を「国際的資金洗浄の企て」と厳しく罰する意向で、今後、刑事訴追される可能性が高いアジズ氏やジョー・ロウ氏とともに、「政府高官1」の刑事的責任を追及する構えだ。
「その実行性や時期については政治的な判断に委ねられるだろう」(米政府筋)とする見方が濃厚だ。
今回の民事訴訟でさえも、物的、かつ状況証拠を押収していながら、「政府高官1」とあえてナジブ首相を名指ししなかったことからも、米政府の政治的配慮が見え隠れする。
そもそも、今回の訴追は、ナジブ政権打倒が目的ではなく、リンチ司法長官がワシントンでの記者会見で「米国が汚職や資金洗浄の場になることは許されない」と再三語ったように、米政府は米国が国際的資金洗浄の“楽園”になることを断固阻止し、マレーシアの1MDB事件を利用し、世界に向け、確固たる姿勢を表明することが最大の狙いである。
さらには、すでに捜査の手は米国でのマネーロンダリングに手を貸した米金融機関にも伸びている。
米司法省、証券取引委員会、連邦準備制度が1MDBの資金調達に絡み、世界最大級の投資銀行、ゴールドマン・サックス・グループの関与や取引について調査中だ(米政府筋)。
1MDBによる60億ドル(約6400億円)あまりの起債関連業務について、起債発行にあたり、相場をはるかに上回る手数料を要求し、破格の利益をゴールドマンにもたらしたティム・ライスナー氏(既に退職、東南アジア部門会長=当時)への召喚状も発行されている。同氏には、1MDB関係者から報酬も別途、支払われていることも確認されている。
こうした状況の中、訴状で「政府高官1」と合致するナジブ首相は、改めて身の潔白を表明する一方、ここ1年間で前副首相更迭や野党幹部への煽動法摘発、インターネットメディア追放など反対勢力を一掃してきた強固な政治基盤を今後、さらに固めていくだろう。
実際、昨夏、首相への刑事訴追を予定していながら辞任に追い込まれたガ二司法長官の後任で首相の任命を受けたアパンディ司法長官は、「首相に対する中傷や告発に強い懸念を覚える」と米司法当局の訴訟に不快感を表明、ナジブ首相への忠誠心を示した。
さらに、「今回の訴訟で米国との二国間関係に変異はない」(ナジブ首相)と表向きは冷静な態度を演出するが、親密なバラク・オバマ大統領退任も見据え、南シナ海や高速鉄道建設問題などに関連し中国との関係を深めていく戦略に打って出ている。
また、イスラム同盟国に対して、「ユダヤ社会がムスリム社会の打倒を図っている」などと嫌米感情を煽っていく可能性も否めない。
■IS対策でマレーシアを攻め切れない米国
今回、米国がマレーシアの1MDB横領告発に踏み切ったのは、オバマ大統領の求心力の衰退に加え、南シナ海を巡る中国に対する国際裁判所での判決、次期大統領候補がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に懐疑的な姿勢など、マレーシアへの「加担」が不必要になってきたことが背景にある。
ただ、欧州で乱発するIS(イスラム国)関連のテロで、テロリストの温床、中継地点でも知られるマレーシアの協力は今後も不可欠であることは間違いない。「ナジブ首相が現職中での刑事訴追は政治的には困難」(米政府筋)と見られている。
とは言え、「米国への国際的なシンジケートによる資金洗浄企てやその資金がテロリストに渡ることを阻止するためにも、“見せしめ”の意味でもナジブ首相が将来的に訴追される可能性はある」と、首相を退任した後に刑事訴追されるとの憶測もある。
リンチ司法長官はワシントンでの記者会見で再三、「マレーシア国民の資産が盗まれた」と強調し、「腐敗した政府高官が公的ファンドを個人口座のように私物化した」と厳しく非難し、「米国史上最大の泥棒政冶の横領事件」と締めくくった。
泥棒政治(クレプトクラシー=Kleptocracy)とは、ギリシャ語の「クレプテース(盗む)」と「クラトス(支配)」が語源で、民主国家であっても、政治家などの支配階級が民の資金(公金)を横領して私腹を肥やす腐敗した政治体制のことを言う。
政権を牛耳る人々による極めて利己的な背任横領が横行する「醜い政府」への軽蔑語でもある。
今回訴追を受けたアカデミー賞候補作の米映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」は、ディカプリオ演じる実在の株式仲買人、ジョーダン・ベルフォートの自伝小説を映画化したもの。
マネーロンダリングと投資詐欺を図りウォールストリートでのし上がるが、最後は有罪で投獄された転落人生を描いた。
米司法省の提訴で、マネーロンダリングと投資詐欺題材にした同映画は、実際の製作資金が、資金洗浄の格好の場に利用されていた可能性が明らかになり、訴訟の結末も映画と同様になるか――。
ナジブ首相の政治家人生の結末は、ベルフォートなのか、冷静を装う裏で、そのエンディングを”書き換えたい”のは、何を言う首相自身だろう。
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