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ラオスで開催されたASEAN外相会議の共同声明を見ても、中国への懸念を示したものの、仲裁裁判所の判断を尊重するとの記述は棚上げされた Photo:外務省HPより
中国がアジア各国を“金満外交”で蹂躙する理由
http://diamond.jp/articles/-/97441
2016年8月2日 真壁昭夫 [信州大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■中国の強引な南シナ海進出に対して
アジア各国の姿勢のばらつきが鮮明化
国際的な裁定が下ったにもかかわらず、今のところ、中国の強引な南シナ海の海洋進出の落としどころが見えない。それに伴い、アジア情勢にも大きな影響が出ている。最も顕著な兆候は、ASEAN(東南アジア諸国連合)の中で対中国の姿勢で溝ができていることだ。
中国の海洋進出に対する、アジア各国の姿勢のばらつきが鮮明化している。ラオスで開催されたASEAN外相会議の共同声明を見ても、中国への懸念を示したものの、仲裁裁判所の判断を尊重するとの記述は棚上げされた。
カンボジアなど親中派の国が中国への配慮を求めた結果、一時は共同声明が出せない恐れもあったとみられる。結局、各国は妥協を余儀なくされ、中国の「身勝手」を容認するとも取れる声明に落ち着いた。
声明の中で明示的な批判がなかったことを受け、中国の王毅外相は「ASEANは中国を支持」と身勝手な見方を示した。あくまでも強気な姿勢を崩さない。。
中国政府には、国内経済の減速に対する国民の不満を抑え、関心を海外に向けさせるために積極的な海洋進出を進める必要があるのだろう。そこには、中国を中心に世界が動くという"中華思想"に頼って、現在の一党独裁体制を支える理屈を作ろうとする意図が読み取れる。同時に、中国側の焦りも感じられる。
これらの中国の間違った海外政策で、アジア諸国の対中感情は明らかに悪化している。フィリピン等は自らの主権が侵害されたことを受けて、中国との経済的な関係以上に外交ルートを使った安全保障の強化を重視し始めた。
そうした中、国際的な司法判断を尊重し“大人の対応”を取ってきたわが国に対して、好意的な姿勢を見せる国は増えている。わが国は東南アジア各国との連携を強め、正しいことを正当に主張すべきだ。それは、最終的にわが国の経済外交の促進にもつながる。
■中国の“金満外交”に懐柔された
ラオスやカンボジアなど親中派の国
7月12日に示された仲裁裁判所の判断に対して、中国政府は真っ向から反発し、国際司法判断の受け入れを断固拒否している。その裏には、経済成長率の低下が顕著な中国国内の問題がある。
そうした中国の強硬姿勢は、先述した通り、ASEAN諸国の足並みを乱れさせ始めた。顕著な例が、ASEAN外相会議の共同声明だ。声明の策定に当たり、カンボジアは過去の声明文にも修正が必要と主張し、中国に対する配慮を求めたようだ。
その背景には、カンボジアのフン・セン首相が中国からの経済支援によって国内経済を支え、政権基盤を強化してきたことがある。「中国なくしてフン・セン政権なし」の状況につけ込んで、中国は外相会議に先立ってカンボジアへの新規支援を約束し、自らへの支持を取り付けていた。
ASEAN議長国であるラオスも、カンボジアと並ぶ親中派として知られる。ラオスも、外相会議に先立って中国との会談を行っていたようだ。中国は自己正当化と、東南アジア各国からの批判阻止を目的に、ASEAN諸国の切り崩しを図っていた。親中派の国は、中国のいわゆる"金満外交"に懐柔されたのである。
一方、中国に対する警戒を一段と強めているフィリピンやベトナムなどは、国際司法判断を尊重することを声明文に入れるべきだと主張した。特にフィリピンには、仲裁裁判所に提訴することで、中国の横暴を国際世論に晒し少しでも歯止めをかけたいと考えてきた。インドネシアやシンガポールなどもそれに同調した。
その結果、共同声明では南シナ海での動向に懸念を持っていると、暗に中国の海洋進出を批判する表現が盛り込まれた。しかし、名指しで批判することは回避され、中国への配慮が強く印象付けられる内容になってしまった。
■中国経済の減速と無縁ではない
積極的な海洋進出と外交政策
当面、南シナ海を巡る対立は続くだろう。これは中国経済の減速と無関係ではない。中国国内では、成長率の鈍化や失業の増加等、社会情勢は不安定になりつつある。その中で、共産党政権は国民の不満を抑え、権力基盤を強化するために積極的な海洋進出を図っている。
習近平政権が、国民の求心力維持のために掲げたのが"中華思想"だ。これは、漢民族が中心となって世界の秩序、繁栄を築くとの考えだ。つまり、漢民族が悠久の繁栄を謳歌するために、積極的に海外の資源や成長源泉を取り込んで国内の基盤を強化しようとしたのである。
中国は、東南アジア各国に対して表向き友好的なアプローチを仕掛けた。その一つがAIIB(アジアインフラ投資銀行)の創設だ。世界各国の協力を取り付けつつインフラ開発支援を呼びかけることで、中国は過剰な供給能力を抱えた国有企業の海外進出を企図した。
一方、中国はスプラトリー諸島海域などで埋め立てを実行し、そこが固有の領土であると主張した。これにフィリピンなどが反発すると、軍事施設などを設営し圧力をかけた。これが、「従わなければ力づくで手に入れる」という“力の論理”に基づく外交だ。
道路や鉄道の整備などが不可欠なアジアの新興国にとって、インフラ開発支援はのどから手が出るほど必要なはずだ。にもかかわらず、徐々に中国の進出を批判し、距離を取ろうとする国が増えている。
この状況は、力の論理の限界、そして中国経済の重要度の低下を意味している。つまり、ASEAN諸国は、冷静に自国の安全保障と中国の脅威を天秤にかけ、自国の主権と安全保障を守るために国際社会との関係強化を目指し始めた。
それでも中国は、国内事情などを勘案して強硬な姿勢を貫くだろう。中長期的に見た場合、それは更なる中国への批判や離反につながることは避けられない。長期的に見て、間違った政策を振りかざし続ければ、いずれ、近隣諸国との関係が崩壊し、中国自身の利益にもならないはずだ。
■わが国は粛々と司法遵守の重要性を説き
東南アジア各国との関係を強化すべき
中国に対する批判や懸念が高まっている状況は、わが国にとってある意味では大きなチャンスだ。ASEAN各国の考えは経済成長と安全保障の両立に向かっている。政府は毅然とした態度で国際司法判断の尊重を国際社会と共有し、ASEAN諸国が求めるインフラ支援などを行えばよい。
アジア諸国のインフラ投資には、官民共同のプロジェクトとして積極的に推進すべきだ。それは、アジア諸国だけではなく、わが国の経済にとっても重要なメリットになる。
2015年12月末、ASEAN域内の貿易促進や市場の統合による経済成長の加速を目指す、アセアン経済共同体(AEC)が発足し東南アジアの10ヵ国が加盟した。AECの人口は6.2億人、全体の経済規模2.5兆ドル(260兆円程度)にのぼる。
AECは世界経済の中でも今後の成長が期待される重要な市場だ。世界の主要国にとって、AECとの関係強化やサポートは是が非でも手に入れたい成長基盤と言える。
すでに、製造業、金融業など、わが国の多くの企業がASEAN地域の経済成長を見込んで積極的に進出している。省エネや製品の耐久性、安全性、アフターサービスだけでなく、技術指導などの面でもわが国に対する期待は強い。
わが国政府は従来の経済協定にとどまらず、トップセールスを展開するなど、早期に、しかも積極的にASEAN経済への関与を深めるべきだ。
現在、中国関連のインフラ支援に関して不信感は高まっている。中国が受注したインドネシア、ジャワ島での高速鉄道整備計画は予定通り進んでいない。そうしたケースを考えると、わが国企業の資金や技術の面からのサポートを強調すれば、インフラ投資の需要を取り込むことは可能なはずだ。
中国の主張を全面的に否定した国際仲裁裁判所の裁定は、中国の強引な海洋進出が完全に誤っていることを世界に示した。わが国は粛々と司法遵守の重要性を説き、東南アジア各国が欲する技術やノウハウの提供に力を入れて関係を強化するべきだ。それが、中国の横暴に歯止めをかける有力な手段になるはずだ。
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