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建設機械を自動運転、ダムも建物も無人で造る
トレンド・ボックス
人手不足を背景に、労働集約型の産業を一変
2016年8月2日(火)
島津 翔
ほかの産業に比べて労働生産性が低いと言われてきた建設業界。無人化建機に運搬ロボット。人手不足を背景に、これらの開発が進み始めた。自動運転で、労働集約型の産業が変わろうとしている。
無人化システムが次々に登場
(写真=Getty Images)
福岡県の山奥にある巨大なダムの建設現場で、複数の建設機械がひっきりなしに動いていた。ブルドーザーでコンクリートを運搬し、地面に敷設してならし、振動ローラーと呼ぶ機械で固めていく。その手順は、一般的なダムの建設現場と変わらない。
一つだけ違うのは、これらの建設機械の運転席に、誰も乗っていないことだ。技術者がタブレット(多機能携帯端末)で指示を出し、あらかじめ組まれたプログラムによって、機械が自動で動く。これは、大手ゼネコン(総合建設会社)の鹿島が開発した次世代建設生産システムの一部だ。ブルドーザーはコマツが開発で協力した。
ゼネコンによる無人運転時術の開発が活発になってきた。背景にあるのは、技術者や作業員の深刻な人手不足だ。
「匠の技」を学ばせる
東日本大震災からの復興や東京都心部の再開発工事の増加によって、建設業は未曽有の人手不足に陥っている。厚生労働省によれば、コンクリートなどで構造を造る工事の作業員の有効求人倍率は2015年10月時点で7.79倍。全職種中最も高い。2013年ごろからずっと高止まりしたままだ。
一方で、建設業の労働生産性は一向に改善していない。総務省などのデータでは、製造業は1994年からの20年間で生産性が2倍に高まったが、建設業はむしろ下がっている。
建設業の生産性は低いまま
●労働生産性(1時間当たり)の推移
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226265/072900047/graph.jpg
出所:内閣府、総務省、厚生労働省
無人化システムを開発した鹿島技術研究所の三浦悟・プリンシパル・リサーチャーは「『一品生産の労働集約型だから』というのはもう通用しない。変わらなければいけない」と危機感を抱く。
鹿島が開発した無人化機械は、GPS(全地球測位システム)とレーザースキャナーで位置と周辺環境を把握し、内蔵制御コンピューターが計算して設計通りにコンクリートを固めていく。
ただし、効率性という課題があった。例えば、ある部分をローラーで固めたとすると、まだ固めていない部分との間に段差ができる。段差をすぐに乗り越えようとすると重機が傾いてうまく移動できず、時間がかかる。熟練のオペレーター(重機の運転者)は、その段差をうまく乗り越えるように走行路とハンドルの切り方を工夫する。この運転技術によって、効率的にコンクリートを固められるわけだ。
「自動で動く機械を作ることに比べて、“うまいこと動かす”のは、次元が違う難しさだった」(鹿島の三浦氏)
鹿島はこうした「匠の技」を取り入れるため、熟練のオペレーターがどのように重機を操作したかをデータとして蓄積し、アルゴリズム(計算手法)に組み込んだ。つまり、コンピューターに匠の技を学ばせたわけだ。初導入した福岡県の五ケ山ダムの建設現場では効率的に精度よくコンクリートを固めることができた。
五ケ山ダムで使った無人の重機は2台。これまでは重機の数だけ人数が必要だったが、このシステムを拡張していけば、建設現場に投入するオペレーターの数が少なくて済む。複雑で人が行った方が早い部分だけ従来の重機を使えばいい。鹿島は2016年には、大分川ダム(大分市)で、ブルドーザーなどに加え、土砂を運搬するダンプカーとショベルカーも無人化する予定だ。
災害現場に無人でたどり着く
無人化はダム以外でも進んでいる。東京都内のある超高層ビルの工事現場。施工途中の高層階で、見たことのない機械が動いていた。床をはうように金属製の平たい箱がするすると動く。大林組が開発した資材搬送ロボットだ。
超高層ビルの施工では、地上から高層部へ資材を運ぶ作業が多い。鉄筋などの主要部材は大型クレーンを使って運ぶが、内装材などの比較的軽い素材は、人が台車を使って仮設エレベーターで運搬する。これに人手がかかる。
このロボットは、現場の作業員が許可ボタンを押すと、置き場に積まれた資材の下にすっと潜り込み、自ら資材を荷台に積み込む。自動で仮設エレベーターに乗り込み、作業が進むフロアに資材を運ぶ。運び終わったらエレベーターに乗り込み、また資材置き場に自動で戻ってくる。床に磁気テープを貼り、その上を自動で動く仕組みだ。コントローラーを使って、プログラムされたルート以外を動かすこともできる。
大林組によれば、エレベーターで運搬する資材の6割にロボットが適用できる。運搬に必要な作業員を半分以下に減らせるとみる。試験運転を経て、2016年1月には超高層ビルの建設現場に本格導入する予定。将来は複数のロボットによる連係を視野に入れる。
もともと建設業で無人化建機の開発が進んだのは、災害現場などの危険な場所で作業するのに向いていたからだった。1994年に雲仙普賢岳(長崎県)が噴火し、火砕流が発生した際には、遠隔操作できる機械によって、土砂を取り除くことに成功している。
こうした災害現場の無人化もさらに進んでいる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や次世代無人化施工技術研究組合(UC−Tec)が開発を推進しているのは、水中でも動作する無人化建機。内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の一つだ。2013年度から、年間数億円の予算を投じて、開発を進めている。
川の中を重機が走る
なぜ水中を動く無人化建機が必要なのか。UC−Tecの船迫俊雄サブリーダーは「近年、水害が多発する傾向にあり、ドライ環境だけで動作する機械では不十分だ」と説明する。
豪雨によって山間部で土砂災害が発生したとしよう。初期対応で発電機や地中を掘る掘削機、雨水をせき止める土のうなどをまず運搬しなければならない。道路がない場合はヘリで運搬していたが、天候が良くなければヘリを飛ばすことはできない。運べる重量にも制限があり、何往復もする必要があった。4年前に奈良県で水害が発生した際、ヘリが飛んだのは6日後。それまで初期対応ができなかった。
NEDOなどが開発するのは、川の中を走れる遠隔操作運搬機だ。天候に関係なく初期対応を可能にする。エンジンと駆動部に水が入らない機構は既に開発済み。現在は濁った水の中でも前方の地形を認識するセンサーを試験中だ。「1分1秒を争うような緊急対応で効果を発揮する」と船迫氏は語る。
生産性や災害対応で大きな効果を発揮する無人化建機。建設現場でロボットと人が作業を分担する日が来るのはそう遠くはなさそうだ。
センサーで杭の状態を把握
横浜市都筑区のマンションが傾いた問題で、建物の杭に社会的な関心が高まっている。
杭の状態をセンサーで把握することはできないか──。防災科学技術研究所・兵庫耐震工学研究センター(E−ディフェンス)で10月に実験が行われた。E−ディフェンスは巨大な振動破壊実験施設で、実際に実物大の建物などを揺らして、損傷の大小などを試験できる。
実験の目的は、普段は目に見えない杭が、地震によってどれだけ被害を受けたかを把握することだ。
共同研究者の一社である大成建設技術センターの船原英樹主任研究員は「地面の上に立つ建物に被害が出ていなくても、杭だけ損傷している場合がある。次の余震などで建物も被害を受ける可能性があるので、杭の被害を見極めることに意義がある」と話す。見えない部分の損傷をセンサーで把握できれば、補強などの対応を取ることができる。
杭が「傾いているか」も分かる
杭に光ファイバーや振動センサー、傾斜計などを設置して地中に埋め、阪神大震災の地震波などで実際に揺らしてみた。最も大きな揺れを与えた後のモニタリングでは、建物自体に被害がなかったにもかかわらず、杭の頭部が壊れていることがセンサーの数値で分かった。
実験施設で杭にセンサーを設置して、揺らした
実験は地震を想定したものだが、杭が地中に埋まった後でどのような状態なのかを知るにも、センサーは有効だ。「杭の傾きやひずみを確かめることができる」(大成建設の佐藤貢一課長)。
実用化にはコストの課題がある。既に実用化が始まっている建物のセンサーは、システムを含め数百万円程度。「実験で使った杭のセンサーは桁が1つ違う」(佐藤課長)。
大成建設は、学校や病院、庁舎など災害時の重要拠点での採用を狙っており、コストダウンは必須だ。単価が急激に下がれば、マンションでの採用も視野に入ってくるという
(日経ビジネス2015年12月14日号より転載)
このコラムについて
トレンド・ボックス
急速に変化を遂げる経済や社会、そして世界。目に見えるところ、また見えないところでどんな変化が起きているのでしょうか。そうした変化を敏感につかみ、日経ビジネス編集部のメンバーや専門家がスピーディーに情報を発信していきます。
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大胆だけれど細心な日産の自動運転技術
クルマのうんテク
単眼カメラだけで高度な運転支援
2016年8月2日(火)
鶴原 吉郎
自動運転技術の第一弾「プロパイロット1.0」を最初に搭載する新型「セレナ」。8月下旬に発売を予定する
世界の完成車メーカーとしては最も早く、2014年に自動運転技術の開発ロードマップを公表した日産自動車。その内容は、2016年に高速道路・単一レーンでの自動運転、2018年に高速道路・複数レーンでの自動運転、そして2020年に交差点や十字路を含めた一般道路での自動運転を実用化するというものだ。特に一般道路での自動運転の実用化を明言している完成車メーカーは、国内では日産だけである。そして、自動運転の第一弾がいよいよ商品化されるということで、筆者はいったいどのようなものかと注目していた。そして筆者はその大胆さに驚かされることになった。
カメラだけで実現
なぜ驚いたかといえば、8月下旬に発売される新型「セレナ」から搭載が始まる自動運転技術「プロパイロット1.0」が、単眼カメラだけでその機能を実現するシステムになっていたからだ。筆者は、恐らく単眼カメラとミリ波レーダーの組み合わせで実現すると予想していた。今回のプロパイロットよりも機能が限定された自動ブレーキや、アダプティブ・クルーズ・コントロール(高速道路で先行車両との距離を自動的に一定に保つようにアクセル、ブレーキを制御する機能)、車線維持支援機能などを実現するのに、他社ではカメラとミリ波レーダー、あるいはカメラとレーザーレーダーというように、複数のセンサーを組み合わせる場合が多いからだ。それなのに日産は、より高度な機能をカメラだけで実現した。
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プロパイロット1.0の構成。単眼カメラのほか、電動パワーステアリング(EPS)、横滑り防止装置(VDC)、電動パーキングブレーキ(PKB)、スロットルを制御する「ECM(電子制御モジュール)」、カメラの情報を基に各ユニットを制御する「ADAS ECU」などから構成されている
単眼カメラだけで構成しているというのは厳密にいうと正確ではない。今回の日産のシステムは、単眼カメラからの情報を基に各ユニットを制御する「ADAS ECU」、ADAS ECUからの司令を受けてステアリングを動かすための電動パワーステアリング(EPS)、エンジンの出力を制御する「ECM(電子制御モジュール)」、ブレーキを制御するための横滑り防止装置(VDC)、停止状態を保持するための電動パーキングブレーキ(PKB)などから構成されている。
ただし、EPSやVDC、ECMはプロパイロットよりも前から搭載されている装置だし、電動PKBも、運転支援機能とは関係なく、最近のクルマでは装着が進んでいる装備なので、プロパイロットのためだけに装備されているわけではない。その意味では、単眼カメラとADAS ECUを追加しただけで実現した機能だと言っても、あながち嘘にはならないだろう。
日産が単眼カメラだけでシステムを構成したのは低コスト化のためだ。これから日産は、幅広い車種にプロパイロット1.0を展開する計画であり、普及価格帯のクルマに展開するにも、低コスト化は不可欠だ。日産はまだプロパイロット1.0の価格を発表していないが、新型セレナでは搭載車種を300万円以下に設定するとしており、現行型セレナの売れ筋価格帯が250〜280万円であることを考えると、実質的な価格は20万円以下に設定されそうだ。
コストだけではないメリット
単眼カメラだけでシステムを実現したメリットはコストだけではない。例えば、プロパイロットに近い機能を実現した運転支援システムには、前回のこのコラムで紹介した米テスラ・モーターズの「オートパイロット」や、富士重工業の「アイサイト(ver.3)」などがあるが、オートパイロットは単眼カメラにミリ波レーダーを組み合わせたシステムだし、アイサイトは2つのカメラで構成するステレオカメラを使ったシステムである。いずれも、複数のセンサーを組み合わせているのだ。
まずミリ波レーダーと単眼カメラの組み合わせを考えると、単眼カメラは通常フロントウインドーの室内側、ルームミラーの裏側あたりに取り付ける。一方で、ミリ波レーダーは、寸法が大きいためにフロントウインドーの内側に取り付けることはできず、通常はフロントグリルの裏側に取り付けることが多い。しかし、小型車などではフロントグリルの裏に取り付けられたラジエーターとの隙間を確保するのが難しい場合がある。
例えば、トヨタ自動車の運転支援システムには、単眼カメラとレーザーレーダーを組み合わせた小型車向けの「Toyota Safety Sense C」と、単眼カメラとミリ波レーダーを組み合わせた中型・上級車向けの「Toyota Safety Sense P」があるのだが、2種類のシステムを用意した理由の1つとして、トヨタは、小型車ではミリ波レーダーの取り付けスペースの確保が難しいことを挙げている。日産のように、システムを単眼カメラで構成できれば、ミリ波レーダーの取り付け位置を確保する必要がなくなり、小型車から上級車まで幅広い車種を同じシステムでカバーできる。
一方、ステレオカメラとすると、ミリ波レーダーの取り付けスペースが必要ないというメリットは同じだが、より室内側の取り付けスペースを小さくできるのが優位点だ。ステレオカメラは、物体の画像をとらえるだけでなく、ちょうど人間の眼のように2つのカメラを配置することで、三角測量の原理で物体までの距離も測ることができるのが特徴だ。ただしそのためには、2つのカメラをある程度距離を離して配置することが必要で、ルームミラーの裏側に配置した場合に、フロントウインドー上部でかなりの面積を占めることになる。このため、信号を見上げた場合など、視野を遮ることもある。この点、単眼カメラなら、カメラが1つだけなので、カメラ自体の寸法を小さくでき、視野を遮る範囲を小さくできる。
新型セレナのフロントウインドーの室内側に取り付けられた単眼カメラ
モービルアイの半導体を使用
ただし単眼カメラを使ううえでの問題は、距離をどう測るかである。ミリ波レーダーは前回のこのコラムで説明したように、電波を使って物体との距離を直接測るセンサーである。これに対して、カメラは画像をとらえるだけなので、直接距離を測ることはできない。例えば先ほど出てきたステレオカメラは、左右のカメラでとらえた画像の違いから、三角測量の原理で、物体の距離を割り出す。これに対して、日産のシステムでは単眼カメラで物体との距離を測定するのが大きな特徴である。この単眼カメラで物体との距離を測定するのに日産が使っているのがイスラエル・モービルアイの画像処理半導体だ。
モービルアイは「EyeQ」と呼ぶ運転支援システム用の画像処理半導体を開発する企業で、これまでも日産はモービルアイの半導体を使ってきた。例えば日産は既にモービルアイの画像処理半導体を使い、単眼カメラだけで歩行者認識を含む自動ブレーキ機能「エマージェンシーブレーキ」や、車線維持支援機能などを商品化している。
モービルアイが、単眼カメラでどのような手法を使って物体との距離を測っているのか、その詳細は企業機密なのだが、基本的な原理は「消点収束」を活用するというものだ。広大な平原で、地平線の彼方に伸びる直線道路を想像していただきたい。道路は、水平方向の無限遠に向かって1点に収束するはずだ。これが消点(道路が消える点)収束である。そこよりも手前にある物体を見るには、水平よりも下に視点を下げる必要がある。具体的には、先行車両のタイヤが地面と接している点が、水平よりもどのくらい下の位置に見えているかが分かれば、原理的には先行車両との距離が分かるはずだ。
もちろん上り坂や下り坂ではこの角度が狂うし、カーブでもこの手法がそのまま使えるわけではない。しかし、上り坂や下り坂の角度をセンサーで検知して補正したり、カーブにおいて道路の幅がどのくらい狭くなっているかを検知したりすることで、距離を推定することはできる。基本原理をベースに、様々な修正手法を組み合わせることで、モービルアイの画像処理半導体は物体との距離測定を可能にしていると推定されている。
もちろんモービルアイの画像処理半導体は物体との距離を測るだけではなく、その物体が何であるかを判定する機能も備えている。日産が新型セレナに搭載するのは、モービルアイの画像処理半導体の最新版である「EyeQ3」というタイプで、その前の世代の「EyeQ2」の約6 倍の画像処理性能を実現している。従来のQ2が30万画素程度のカメラの画像処理に使われていたのに対し、新型セレナでは約130万画素という非常に画素の多いカメラの使用を可能にした。画素数が増えれば、そのぶん遠方の物体との距離を正確に推定することが可能になる。
運転支援システムであることを強調
前回のこのコラムで紹介したテスラ・モーターズの「モデルS」は、単眼カメラの画像処理にモービルアイのQ2を使っており、これにミリ波レーダーを組み合わせて運転支援システムを構成していた。今回日産は、画像処理半導体の性能を上げることで、単眼カメラ単独で、テスラのオートパイロットに近い運転支援機能を実現したといえる(テスラのオートパイロットの機能に関してはこのコラムの第46回を参照いただきたい)。
テスラのオートパイロットに近い、と表現したが、今回日産が新型セレナに搭載するプロパイロット1.0で実現している機能は、@渋滞走行、A単一レーンでの高速巡航走行、の2つのシーンでステアリング、ブレーキ、アクセルのすべてを自動的に操作するというものだ。巡航走行では、ドライバーが設定した車速(約30〜100km/h)内で、先行車両との車間距離を一定に保つよう制御することに加え、車線中央を走行するようにステアリング操作を支援する。
一方、渋滞走行では、@先行車両が停車した場合にシステムが自動的にブレーキをかけて停車。A車両が完全に停止した場合、ドライバーはブレーキを踏むことなく、停止状態を保持。B先行車両が発進した際は、ドライバーがレジュームスイッチを押すかアクセルペダルを軽く踏むと追従走行を再開(停車時間が3秒以内であれば、ドライバーがなにもしなくても再発進)――という機能を備える。
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プロパイロット1.0の機能
これを、従来の運転支援システムの中では最も自動化が進んでいたテスラのオートパイロットと比較してみよう。一番大きな違いは、テスラが手放し運転が可能だったのに対し、日産のプロパイロットではできないことだ。日産のシステムでは、ステアリングに軽く手を添えている必要があり、10秒以上離しているとシステムが解除されてしまう。また、テスラでは停車からの再発進時にドライバーの操作が不要だが、日産のシステムでは必要だ。テスラのように、ウインカーを出すと自動的にクルマが進路変更してくれる機能も備えていない。
このように、テスラに比べると日産のシステムの「自動化度」は低く、そのぶん未来感も薄いのだが、一方でこのシステムがあくまでも運転支援システムであり、自動運転システムではないことをドライバーに意識させる効果はあるだろう。ドライバーがシステムに過度に依存しないように配慮した結果だといえる。
次に日本の完成車メーカーの運転支援システムである富士重工業の「アイサイト(ver.3)」との比較してみよう。アイサイトも、高速道路で車線の中央を走るようにステアリング操作を支援する機能を備えているのだが、アイサイトではステアリング支援をしてくれるのは時速65km以上であるのに対して、日産のプロパイロットでは渋滞走行時を含む全車速で、ステアリング操作をしてくれる点が異なる。渋滞時のステアリング、アクセル、ブレーキのすべての操作を自動化したのは日本の完成車メーカーで初だという。この点で、国内メーカーの運転支援システムの中では、最も「自動化度」が高いシステムといえるだろう。
現実的な進化
日産が当初、2014年に「単一レーンでの自動運転を2016年に実現する」と発表したときには、当然ステアリングからの手放しが可能で、しかもナビゲーションシステム上で目的地を設定すれば、そこまで自動的に走ってくれるようなシステムをイメージしていたのだが、実際に登場したシステムは、それよりもずっと現実的なものだった。自動運転技術、という名称は付いているが、実態としては、アダプティブ・クルーズ・コントロールの進化系と考えたほうが正しいだろう。
このように、極めて現実的にでき上がっているプロパイロット1.0だが、いささかの疑問は、このシステムに「自動運転技術」という名称を使ったことである。これは日産のプレスリリースにもはっきり書いてあるし、日産のホームページにおける新型「セレナ」のPRページでも「同一車線自動運転技術」と紹介されているのでこの記事でもそう表現してきたのだが、実際には同社の技術担当役員も、プロパイロット1.0の発表の席で「これは運転支援システムです」と言っている。なぜこんなややこしいことになるのか。
同社では2014年7月にカルロス・ゴーン社長が「我々は2016年末までに、当社の自動運転戦略のもと、2つの次世代テクノロジーを実用化する予定です。まず、混雑した高速道路上で安全な自動運転を可能にする技術、トラフィック・ジャム・パイロットを市場に投入します。更にほぼ同時期に、運転操作が不要な自動駐車システムも幅広いモデルに投入する予定です」と表明しており、ここで「自動運転」という表現を使っていることから、今回プロパイロットを市場投入するに際しても、この表現を使わざるを得なかったのだろう、というのが筆者の推測だ。
自動運転という言葉には様々な捉え方が存在し、人によっても捉え方が異なる。NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)の定義では、今回のプロパイロット1.0はレベル2(ドライバーが安全運行の責任を持つが、操舵・制動・加速全ての運転支援を行う段階。完全自動運転はレベル4)の自動運転ということになり、その意味で日産がこのシステムを自動運転技術と呼ぶのは間違いではない。
しかし、自動運転にあまり予備知識のない一般の消費者は、自動運転にこんなレベルの違いがあることなど知らないだろう。だから他の完成車メーカーは「自動運転」という言い方を慎重に避けているのだが、そうした中で日産があえて「自動運転」という言葉を商品に使ったのは、単眼カメラだけでシステムを構成したのと並ぶ大胆な決断といえる。実際のシステムの設計にはドライバーが過度に依存しないように細心の注意が払われているのは、すでに説明した通りだが、この大胆な決断が消費者にどのように受け止められるのかを、今後も注意深く見ていきたい。
このコラムについて
クルマのうんテク
2013年に、トヨタ自動車グループの世界生産台数が、世界の自動車メーカーで初めて1000万台を超えるなど、日本を代表する製造業である自動車産業。その一方で、国内市場では軽自動車がシェアの約4割に達し、若者のクルマ離れが話題になるなど、クルマという商品がコモディティ化し、消費者の関心が薄れていると指摘されている。しかし、燃費向上競争の激化や安全性向上ニーズの高まり、さらには今後の自動運転技術の実用化に向けて、外からは見えにくいクルマの内部では大きな変化が起こっている。このコラムでは、クルマのテクノロジーに関する薀蓄(うんちく)を「うんテク」と命名し、自動車エンジニアの見えざる戦いの一端を紹介したい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/264450/073100040/
90%のマネジャーはAIに置き換えられる
横山信弘の絶対達成2分間バトル
2016年8月2日(火)
横山 信弘
AI(人工知能)が話題になっています。私は90%近くのマネジャーがAIに置き換えられる時代が来ると考えています。
今回は鷲沢社長と日高人事部長がバトルを繰り広げます。次の会話を読んでみてください。
●日高人事部長:「社長、提案があります。営業部の課長たちのことです。もっと社内にいてもらったほうがいいと思うのですが」
○鷲沢社長:「どういうことだ」
●日高人事部長:「部下の管理がしっかりできていないのです。一部の部下たちも不満を持っています」
○鷲沢社長:「具体的に言いたまえ」
●日高人事部長:「社長が来られてから、営業の材料である『予材』を目標予算の2倍以上積み上げることで目標を絶対達成させるやり方を取り入れています」
○鷲沢社長:「そう、予材管理だ」
●日高人事部長:「課長が部下の予材管理シートを1週間1回チェックし、部下にフィードバックするルールにしていますが徹底されていません」
○鷲沢社長:「そうなのか」
●日高人事部長:「ほとんどの課長ができていません。課長は全員プレイングマネジャーです。自分の目標を達成させるのに必死になっていて、部下のことまで気がまわらないのです」
○鷲沢社長:「ほとんど、ということはやっている課長もいるわけだな」
●日高人事部長:「例外は正田課長です。予材管理を徹底させています。目標の2倍の予材をキープできていない部下がいると、2倍の量に達するまで一緒に考えています」
○鷲沢社長:「ショーグンならやるだろうな」(正田軍次という名前なのでショーグンと呼ばれている)
●日高人事部長:「正田課長の部下たちの営業成績は伸びています。彼が着任する前は他の課より成績が悪かったのですが追いついてきました」
○鷲沢社長:「さすがショーグンだ」
●日高人事部長:「部下が伸びるか伸びないかはマネジャーにかかっています。そこで先の提案に戻るのですが、課長たちにもっと社内にいてもらったほうがいいと思うのです」
○鷲沢社長:「どういう理屈だ、それは」
●日高人事部長:「正田課長のように部下と接する時間を増やすのです。そうすれば予材が増えていき、目標の2倍をキープできるようになるでしょう」
○鷲沢社長:「目標の2倍をキープするためには、もっとお客様をまわって材料を見つけてこなければいかん。社内にいて予材が増えるわけがない! どうしてそれがわからない」
●日高人事部長:「しかし、実際に正田課長は部下たちとの面談にしっかり時間をとっています」
○鷲沢社長:「君は物事の一部分しか見ていない。正田課長は他の課長の誰よりもお客様をまわっているぞ。社内にいる時間だって誰よりも少ない。というか、彼が社内にいるのはまさに面談の時ぐらいだろう」
●日高人事部長:「ほかの課長も結構、外に出ているのですが、どこが違うのでしょうか」
「馬鹿野郎!課長たちの目標を下げてどうする!」
○鷲沢社長:「他の課長たちは行きやすいお客様のところばかりまわっている。外にいる時間は長くても、接触しているお客様の数が少ないから予材がなかなか増えない。部下も同じだろう。そこを改善しないで、もっと社内にいるようにしたら、そもそも課長たち自身の目標予算を達成できないじゃないか」
●日高人事部長:「そこで相談があるのです、課長たちの目標を減らしたらどうでしょうか」
○鷲沢社長:「何だと」
●日高人事部長:「課長たちの負担を少し軽くする。そうすることで、部下とやり取りする時間を捻出する……」
○鷲沢社長:「馬鹿野郎! 課長たちの目標を下げてどうする! 君は全然わかっとらん」
●日高人事部長:「し、しかし……ではどうしたら」
○鷲沢社長:「目標は変えない。お客様訪問をもっとやってもらう」
●日高人事部長:「そうすると部下の予材管理がおろそかに……」
○鷲沢社長:「それなら予材管理を止めてもらう」
●日高人事部長:「ええっ!」
○鷲沢社長:「プレイングマネジャーが無理ならプレイヤーになってもらう」
●日高人事部長:「おかしいです、社長。若手の営業が育たないですよ」
○鷲沢社長:「課長たちに予材管理をさせない、と言っているだけだ」
●日高人事部長:「じゃあ、誰が面倒を見るのですか。多摩部長ですか」
○鷲沢社長:「多摩部長は私と一緒に重要な取引先に対するトップセールスをしなければならない」
●日高人事部長:「それなら誰が……」
○鷲沢社長:「AIだ。人工知能だよ。結構な投資になるが、課長たちがプレイヤーに徹すればすぐにペイするだろう」
●日高人事部長:「何を言い出すのですか、ちょっと待ってください。AIに予材管理ができますか。言い訳ばかりする部下たちは手ごわいですよ。人間のマネジャーじゃないと……」
○鷲沢社長:「予材管理は要するにPDCAサイクルを回すことだ。行動計画を決めたり、定期的に部下の行動結果を見て、やり切る習慣のない部下にそのことを指摘したり、過去のデータから訪問経路の改善案を提案したり……。AIのほうが生身の人間よりもはるかに賢くやってくれるだろう」
●日高人事部長:「無慈悲に部下を追及しかねませんよ。パワハラになりませんか」
○鷲沢社長:「どれぐらい執拗にやったらパワハラになるのか、これも過去のデータを参照すればわかる。AIは労務上の問題に関して人事部長の君より詳しくなるかもしれんぞ」
●日高人事部長:「ま、まさか……。といっても我々管理職は過去の経験から判断していますからね。あらゆる経験をデータとして貯め込めたら、それでやれてしまうかもしれません」
○鷲沢社長:「リーダーシップを発揮し、チームを鼓舞するのは人間のほうがいい。機械に褒められてもうれしくないからな。とはいえ、PDCAを回すことはAIでやれる。世の中のマネジャーの90%は将来いらなくなるのではないかな」
●日高人事部長:「人間がやったほうがよいマネジャーの仕事は10%程度ということですか」
○鷲沢社長:「もう一つある。AIを見張るマネジャーがいるな」
凡事徹底はコンピュータに向く
PDCAサイクルをうまくまわすために、ミドルマネジャーをもっと社内に滞在させようとする経営幹部がいます。部下との接触が増えれば増えるほど、サイクルをうまくまわせると錯覚しているからです。
だからといってAIを持ち出すとは極論だと思われたかもしれません。しかし、それほど未来の話ではないと私は見ています。
現在のAIはマネジャーの仕事の相当部分を任せられるレベルに来ているのではないでしょうか。多くの仕事で「臨機応変」よりも「凡事徹底」が求められるからです。凡事徹底はコンピュータに向いています。
繰り返しお客様を訪問し、信頼関係を築く仕事も凡事徹底が基本ですが、臨機応変の対応がしばしば求められますから人間でないとできません。
このコラムについて
横山信弘の絶対達成2分間バトル
営業目標を絶対達成する。当たり前の事です。私は「最低でも目標を達成する」と言っています。無論、そのためには営業目標に対する姿勢を変え、新たな行動をし、さらに上司がきちんとマネジメントしていかないといけません。本コラムで営業目標を絶対達成する勘所をお伝えしていきます。私は「顧客訪問を2分で終える“2ミニッツ営業”」を提唱しており、そこから題名を付けました。忙しい読者に向けて、2分間で読めるコラムを毎週公開していきます。毎回一つのテーマだけを取り上げ、営業担当者と上司と部下の対話を示し、その対話から読みとれる重要事を指摘します。http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/258310/072900055/
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