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18日、英半導体設計大手ARMホールディングスを約3.3兆円で買収すると発表したソフトバンク・孫正義社長(写真:ロイター/アフロ)
ソフトバンクが史上最高3.3兆円で買収した無名企業は、「トンデモナイ」企業だった
http://biz-journal.jp/2016/08/post_16133.html
2016.08.02 文=宮永博史/東京理科大学大学院MOT<技術経営>専攻教授 Business Journal
ソフトバンクグループが7月18日、3.3兆円という巨額の買収案件を発表した。買収するのは英国のARM(アーム)ホールディングスという会社だ。このニュースは直後に話題となったポケモンGOのニュースで霞んでしまった感はあるが、そもそもアームという会社の知名度の低さも関心を呼ばなかった理由かもしれない。
パソコンに搭載されているCPUで市場シェア80%と圧倒的なリーダーであるインテルの名前を知らない人はいないだろう。売上高ではインテルにははるかに及ばないが、スマートフォン(スマホ)向けCPUでインテルに相当するのがアームである。市場シェアは95%ともいわれている。
それなのにインテルと違いほとんど無名なのは、そのユニークなビジネスモデルにある。メディアは半導体設計会社と紹介しているが、アームは単なる設計会社ではない。実に興味深い会社なのである。
■サンリオのハローキティとの共通点
CPUを得意とする会社としてルネサスエレクトロニクス(以下、ルネサス)がある。自動車に搭載されるCPUでは市場シェア40%のリーダー企業だ。東日本大震災でルネサスの工場が被災した時に、自動車生産に大きな影響が出たことも話題となった。
インテルの顧客はPCメーカーであり、ルネサスの顧客が自動車メーカーであるように、普通は半導体メーカーの顧客は半導体を部品として使うセットメーカーだ。ところが、アームの顧客は半導体メーカーなのである。どういうことか。
これはサンリオが行っているハローキティのライセンスビジネスに似ている。サンリオはキティちゃんのぬいぐるみなど物販事業のほかに、アパレルメーカーなどにハローキティのデジタルデータを提供するライセンスビジネスにも力を入れている。ライセンスビジネスのよい点は、在庫のリスクを持たず、かつ販路を拡大できることだ。海外では特にライセンスビジネスの割合が高く、サンリオの利益率を高める原動力ともなっている。
アームもかつてはいわゆる半導体メーカーとして、CPUをセットメーカーへ供給していた。しかし、今や完全にビジネスモデルを転換し、セットメーカーではなく半導体メーカーにCPUの設計データを提供している。そして半導体メーカーはそこに周辺回路を加えて最終的な半導体として出荷している。
これは「バリューネット上のポジションチェンジ」という手法である。バリューネットというのは、自社製品を中心に、顧客、競合、補完的生産者、供給者という4種類のプレーヤーとのかかわり方を分析する手法である。ポジションチェンジとはバリューネット上で自社のポジションを変えることによって、新たな事業展開に踏み出すことをいう。アームもハローキティのライセンスビジネスも、自社を供給者のポジションに変えてしまった例だ。
■インテルも崩せないエコシステムの構築
スマートフォン向け半導体メーカーのほとんどが、アームのCPUを採用している。それにもかかわらず、製品名にアームの名前が出ることはないのは、同社のCPUが半導体メーカーの製品のなかに設計データとして潜り込んでいるからだ。
そもそもアームは、インテルのようにPC向けのCPUを開発していた会社だ。アップルのニュートンというモバイル機器に採用されたことがあるが、ニュートン自体成功しなかったために、アームのPC向けCPU事業も成功には至らなかった。
ところがセレンディピティともいうべき幸運が舞い込む。ちょうど市場が勃興しようとしていたデジタル携帯電話向けCPUに採用されたのである。アームの低消費電力というのが売りになったのである。
こうしてアームは、PC向けのCPUが高速化・高性能化に向かうなかで、その逆ともいえる低消費電力化に舵を切り、しかも自ら製造することも、あるいはファブレスとなることもせずに、CPUの設計データを提供するというビジネスモデルに特化したのである。実は設計データだけで低消費電力を実現するというのは専門家からすると非常識であったのだが、それについてはここでは触れない。
成功の鍵はここからだ。アームはデジタル携帯電話市場が成長するのに合わせて、エコシステムをがっちりつくり上げていったのである。エコシステムでは、バリューネットの「補完的生産者」との関係づくりが特に重要だ。アームの例でいえば、顧客が同社のCPUを自社の半導体に組み込むために使用するCAD(Computer-Aided Design)ベンダーが「補完的生産者」に相当する。アームはCADベンダーとの協力体制を強固なものにつくり上げていったのである。
アームのCPUで動くソフトウエアはやがて膨大な資産となり、他のCPUメーカーが参入する余地をなくしてしまったのである。さすがのインテルも気づいたときには時すでに遅く、スマホなどモバイル機器向けに「アトム」という低消費電力CPUを開発したが、もはやアームの敵ではない。
■今後の発展
それでもアームの売上高はわずか1550億円(2015年12月期)と、5兆円をはるかに超えるインテルに遠く及ばない。しかし、その影響力は大きく、今後さらに拡大するだろう。インテルが得意とするPCも、スマホやタブレットなどモバイル機器に置き換えられるとアームの存在は脅威となってくるだろう。アームはその低消費電力という強みをモバイル機器だけでなく、データセンターのサーバー領域にも参入しようとしている。データセンターでも消費電力の低減が緊急の課題なのだ。
そうした企業をソフトバンクは買収したわけであるが、同社のビジネスとの親和性を考えたとき、同社とアームの両者にとって、この買収が吉と出るか凶と出るかは神のみぞ知るところかもしれない。
(文=宮永博史/東京理科大学大学院MOT<技術経営>専攻教授)
【参考文献】
1.東京理科大学 技術経営専攻 ビジネスケース「英アーム・ホールディングス 組み込み型CPU事業」、宮永博史、2012年1月
2.東京理科大学 技術経営専攻 ビジネスケース「サンリオ ライセンス事業」、宮永博史、2012年8月
●宮永博史
東京理科大学大学院イノベーション研究科 技術経営(MOT)専攻 教授。東京大学工学部・MIT大学院修了。NTT、AT&T、SRI、デロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)を経て、2004年より現職。主な著書に『技術を武器にする経営』(共著)、『全員が一流をめざす経営』(共著)、『世界一わかりやすいマーケティングの教科書』、『顧客創造実践講座』、『幸運と不運には法則がある』、『理系の企画力』、『成功者の絶対法則 セレンディピティ』などがある。
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