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イギリス・ケンブリッジにあるARM本社の正面玄関(出所:Wikimedia Commons)
恐るべき孫正義、英ARM買収で「世界制覇」へ前進 ソフトバンクはIoT時代の寵児に
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47487
2016.7.29 湯之上 隆 JBpress
7月18日、海の日の月曜日、私は、ソファに転がって夜7時のHNKニュースをぼんやり眺めていた。すると、「ソフトバンクが英ARMを3.3兆円で買収」が報じられた。私は全身に電流が走ったように起き上がり、思わずソファに正座してニュースに見入ってしまった。
第一声は「何だってー!?」、第二声は「まさか!」であった。あまりのことに驚き、そんなことがありえるのかとにわかには信じられなかったのだ。
しばし呆然としたが、数十分もすると我を取り戻し、孫正義社長の壮大な野望がじわじわと理解できるようになった。そして、「10年前から買収を考えていた」という孫社長が恐ろしいとすら感じた。
■市場も世間も理解できていない
ところが、翌朝に日経新聞やネットの記事などを見て、市場も世間もこの買収をあまり評価していないことが分かった。特に、43%以上のプレミアを乗せて3.3兆円もの大枚をはたいたことに批判が集中している。
まず、ソフトバンクの株価は、1日で11%下落した。これが、市場がこの買収を良く見ていない何よりの証拠だ。
この株価下落について、SMBC日興証券シニアアナリストの菊池悟氏は、「ソフトバンクグループの既存事業とアーム・ホールディングスとの具体的な相乗効果が見えてこない。アーム株の買い付け価格は買収発表前の同社株価より4割も高く、ソフトバンクの株価が19日に下落したのは当然と言える」とコメントしている(日経新聞7月19日)。
また、あちこちで指摘されているのは、「ARMは2015年の売上高は1791億円、税引き後の利益は578億円と優良企業だが、この利益で3.3兆円を回収するには50年以上かかる」という批判である。つまり、孫社長の独断の無謀な買収であるとう批判が多かった。
国際技術ジャーナリストを名乗る津田健二氏に至っては、Yahoo!ニュースで「なぜソフトバンクはARMを買うのか。はっきり言って、ソフトバンクにとって成長していけるのか疑問が多い。」と疑問を呈し、「AIに力を入れる以上、独自の半導体プロセッサを欲しくなるのは当然である。しかし、ARMは半導体メーカーではない。ソフトバンクはARMの実情を本当に知っていたのだろうか」「ARMを買収して、半導体を作ってもらおうとするのか。残念ながら、AI用の半導体を作りたいのならARMは適切ではない」とまで酷評している。
しかし、私はこれらのコメントや批判にまったく賛同できない。市場も世間もこの買収の意味をまるで理解できていないと考える。津田氏の酷評についてはまったく的外れであり、津田氏こそARMの実情を分かっていないのではないかと思う。
本稿では、簡単にARMとはどんな会社かを説明した後、この買収に込めた孫社長の野望を論じたい。結論を先取りすれば、それは「世界制覇」ということである。私は、3.3兆円は実にお安い買い物であると思っている。
■ARMとはどんな会社か
スマホ等に使われるプロセッサなどの半導体は、「設計→プロセス開発→製造」の順でつくられる。設計は、「基本設計→論理設計→回路設計→レイアウト設計」とさらに細かく分かれている。
ARMは、このもっとも上流の基本設計のアーキテクチャ(設計思想)を「IP(Intellectual Property)」として提供する企業である。
例えば、アップル、サムスン電子、クアルコム、メデイアテックなどのスマホメーカーやファブレスは、ARMからIPをライセンス供与してもらい、このIPを基にスマホ用プロセッサを設計している。そしてこれらのプロセッサは、TSMCなどのファンドリー(生産工場)が製造する。
スマホは現在、年間で約15億台出荷されているが、そのうち、約90%がARMのIPを使っている。これに伴って、ARMには、次のような収入が入ってくる。
まず、アップルやクアルコムなどからライセンスフィーが収入として入ってくる。次に、ARMのIPを使用したプロセッサが搭載されたスマホが売れるごとに、スマホメーカーから「1個いくら」というようにIP使用料が入ってくる。
これは要するに、ARMのIPに対する税金のようなものと考えれば良いだろう。この税金は、10円程度であるらしい。すると、15億台スマホが売れて、そのうち90%がARMのIPを使っていれば、その税金は135億円と言うことになる。
「何だ、大したことないじゃないか」と思うかもしれない。しかし、ARMのIPが使われているのは、スマホだけではないのだ。
■2015年に145億のプロセッサにARMが!
プロセッサの出荷個数の推移について、半導体売上高で世界1位のインテルとARMを比べてみよう(図1)。
図1 インテルとARMのプロセッサ売上個数 (出所:Michal Copeland「帝国の逆襲」、WIRED.jp VOL.6、45ページ等を参考に筆者作成)
インテルは、PC用プロセッサ約8割、サーバー用プロセッサ約9割とシェアを独占している。そのインテルのプロセッサの出荷個数は、2011年で高々3.3億個である。その後、PCがスマホに駆逐され始めたため、プロセッサ出荷個数はジリ貧で、2015年には3億個を切った。
一方、ARMのIPを使っているプロセッサは、2011年で何と79億個もある。これは、ARMのIPがスマホだけでなく、クルマ、ゲーム、デジタル家電など、非常に幅広く使われているからである。
そして、驚くことにその出荷数は鰻登りに増加しており、2015年には145億個を超えた。もし、その税金が1個10円とすると、1450億円がARMの収入として入ってくる計算になる。前述した通り、ARMの2015年の売上高は1791億円であったから、「1個10円の税金」はだいたい正しいと思われる。
ARMは、2011年時点で、「2020年には300億個を出荷する」と発表していた。その通りになれば、2020年にARMの売上高は3000億円を超える。
しかし、出荷個数は大幅に上方修正されると予測される。つまり、2020年にARMの売上高は、もっともっと大きくなっていると思われる。
■本格的なIoT時代の到来
孫社長も、ARMの買収は、「IoT時代へのパラダイムシフトを見据えてのことだ」と語っている。IoTは次第に普及する兆しを見せているが、シスコシステムズの予測によれば、2020年には500億個のデバイスがネットに繋がるという。また、米国が推進している「Trillion Sensors Universe」は、2020年に世界を1兆個のセンサで覆うことを目指している(図2)。
図2 IoTが普及する2020年の世界
ARMのプロセッサの最大の特徴は消費電力が低いことにある。そのため、500億個のネットデバイスや、1兆個のセンサに内蔵されるプロセッサには、ARMのIPが使われる可能性が極めて高い。
図3は、2015年に京都で開催された半導体の国際学会VLSIシンポジウムで、ARMが発表したIoTセンサ用のプロセッサである。プロセスノードは180nmだが、プロセッサとバッテリや太陽電池を内蔵したモジュールは8.75mm2しかなく、コインの厚さ程の大きさしかないことが分かる。そして、データの保持に必要な電力は僅か80nW、データを1回読み込むのに必要なエネルギーはたったの11.7pJである。このようなセンサが、2020年以降に毎年1兆個、世界にばら撒かれるのである。
2015年のVLSIシンポジウムでARMが発表したIoT用プロセッサ
2011年のARMの発表通り2020年にARMのIPが300億個のプロセッサに使用され、1兆個のセンサに搭載されるプロセッサのうち半分にARMのIPが使われたとする(この数は相当に過小評価している)。
その際、300億個のネットデバイスには「1個10円」、1兆個の半分のセンサに搭載されるプロセッサには「1個1円」(恐らくセンサは極めて安いはずだから)の税金が徴収されるとすると、ARMの収入は、8000億円になる。
そして、500億個のネットデバイスや1兆個のセンサは、年々、増加していく。コンピュータの性能が全人類の能力を超えるとされる2045年には、250兆個のセンサが世界を覆い尽くしているという予測もある。もし、この半分にARMのIPが使われているなら(これも相当低めに見積もっているが)、125兆円の税金がARM(つまりソフトバンク)に入ってくる計算になる。
ARMの年間の税金収入が年間1兆円を超えるのは時間の問題であり、買収価格3.3兆円などは、あっという間に回収できるだろう。
このような簡単な算出からも、ソフトバンクの株価下落やそれを支持するコメントや買収価格が高すぎる批判やARMの実情を分かっていないなどと言う批判は、まるで当っていないことがお分かりいただけるのではないか。
■孫社長の野望「世界制覇」
しかし孫社長の野望は、「3.3兆円を回収できるかどうか」などという小さなものではない。孫社長が言うように、かつてパソコンが登場し、インターネットが登場し、携帯やスマホが登場したときのように、IoTがパラダイムシフトを起こすのである。そのIoTの頭脳となるプロセッサのIPを供給するのがARMである。その時代に、「ネット社会の根源を握る圧倒的な世界一になる」(日経新聞7月20日)というのが、孫社長の目論見なのだ。
ARMは、IoT時代の寵児になるだろう。それはすなわち、ARMを買収したソフトバンクが時代の寵児となるということだ。
それはつまり、かつてマイクロソフトとインテルがウインテル連合でPC時代の覇者となり、グーグルが検索で覇者となり、アップルがスマホで覇者となったのと同じように、いやそれ以上のスケールで、孫社長が「世界制覇」を成し遂げるということである。
孫社長は、ARM買収の記者会見で、「囲碁で、碁石のすぐ隣に石を打つのは素人の戦い方である。プロは、遠く離れたところに打ち、それが50手目、100手目になって力を発揮する。私は7手先を読んで、手を打つことを心掛けている。なぜ、いまこの手を打つのか。ほとんどの人は分からないだろう。3年、5年、10年を経過すれば、ソフトバンクグループにARMがいる意味が分かる。ソフトバンクグループの中核中の中核になる企業がARMである」と語ったという(日経トレンディネット2016年7月25日)。この言葉が正しいことは、間違いなく5年後に立証されるであろう。
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