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南国リゾートの趣溢れる英領ヴァージン諸島。〔PHOTO〕gettyimages
【特別レポート】パナマ文書に出てきた男たちを追え!〜国税と大金持ちの終わらない戦い、その内実
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49261
2016年07月26日(火) 週刊現代 :現代ビジネス
富裕層の資産を運用し「カネ守り」とも称されるプライベートバンカー。ペーパーカンパニー作りから逃税策まで指南する男たちを追ったジャーナリスト・清武氏が、身近にも潜む彼らの実態に迫る。
■「中国の人たちだよ!」
築48年のその都営アパートは、東京都江東区深川のはずれにあった。
アパートの通路側に色褪せたピンクのタオルが干してあり、ひらひらと風に舞っていた。プラスチックのゴミ箱を通路に出している住人、アパートの玄関で世間話に興じる中年の女性たち、それに涼を求めてドアを開けっぱなしにしている老人世帯もあって、雑多な下町の風景を作っている。
アパートの前で、私はメガネを取り出し、その光景と、手にしたパナマ文書の資料を交互に見入っていた。
—何かの間違いじゃないのか?西インド諸島にペーパーカンパニーを置く株主が、こんな2DK、37m2の部屋に住んでいるなんて。
しかし、パナマ文書には、それを示す記載が確かにあるのだ。
イギリス領ヴァージン諸島(BVI)に、WEAL THY LAND ENTERPRISES LIMITED≠ニいう会社を置くShareholder(株主)が、この都営アパート3階に住んでいることになっている。それは、中米パナマの法律事務所、モサック・フォンセカが関与したタックスヘイブン(租税回避地)法人の一つだった。
「WEAL THYLAND」とは、「富める者の地」という意味だろうか。
タックスヘイブンに法人を持つ人物は、六本木ヒルズのようなタワーマンションに住んでいるに違いない—。そんな思い込みが私の中にはあって、「WEAL THYLAND」という社名はいかにも富者の会社らしいが、それとアパートの光景とには、あまりに落差がありすぎた。都営住宅について、東京都住宅供給公社はこんな説明をしている。
〈住宅に困っている収入の少ない方に対し低額な家賃でお貸しする住宅です〉
3階のその部屋のブザーを押し、何回かノックした時、横合いから小母さんが声をかけてきた。
「誰もいないよ。いるときは通路に洗濯物が干してあるから。このアパートと中国を行ったり来たりしている家族でね」
「あの、パナマ文書に……」。私が取材の意図を告げると、小母さんはそれを遮るように、「いや、パナマじゃなくて中国だよ」と言った。
「中国から帰化した人たちですよ。留守がちだから不用心でね、こんな人が多くなると困るんだよ」
「パナマ文書」は、タックスヘイブンでペーパーカンパニー作りを手伝ってきたモサック・フォンセカから漏洩した電子ファイルである。
この文書解析にあたった「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ、本部・ワシントン)は、モサック・フォンセカが設立に関与したり、管理している21万4000の法人と株主名、住所をインターネット上で公開し、匿名性の壁を破ってタックスヘイブン法人の所有者を明らかにした。
それによって、アイスランドのグンロイグソン首相(発覚後辞任)やキャメロン・英首相、習近平・中国国家主席の家族やプーチン・ロシア大統領の友人など、世界中の指導者や経営者、その周辺がひそかに利用していたことが裏付けられた。
膨大な量のこの文書は、他にもたくさんのことを教えてくれる。例えば、タックスヘイブンを活用しているのは権力者や大企業の経営者だけではないという事実である。
■「あなたもやりませんか?」
香港などでペーパーカンパニー設立を手伝ってきた元プライベートバンカーが言う。
「タックスヘイブンを利用するのはいまや珍しくも何ともないことですよ。プチ富裕層や事業家であってもペーパーカンパニーを設立してビジネスに生かそうとするのは、日本人がお茶漬けを食べるくらい当たり前のことです。
モサック・フォンセカでなくても、香港やシンガポールでも堂々と作れる。1000ドルほど出せば1ヵ月でできるんですよ。ペーパーカンパニーを設立する仕事自体もきれいなビジネスです」
珍しくも何ともない、というその言葉を裏付けるように、前述の都営アパート(低所得者向け)から歩いて約10分のところにも、「パナマ文書」に記載された株主がいる。住宅街のごく普通の中層マンションだ。
調べてみると、足立区の都民住宅(中堅所得者層向け)や練馬区のUR賃貸マンション(公団住宅)などにも、「パナマ文書」記載の株主が住居を置いている。いずれも、「モサック・フォンセカ」をエージェントに使って、BVIにペーパーカンパニーを設立していた。
拙著『プライベートバンカー』の取材をしていたとき、私自身が声をかけられたことがある。
「どうです、あなたも一つ、作ってみませんか?」
冗談交じりだったが、「海外に住んでいなくてもいいんです。東京にいても必要書類をキットで届けます」という言葉は強く印象に残った。まるで組み立て家具でも売るような軽い口調だった。
私はシンガポールや日本で多くの富裕層を取材したが、中にはペーパーカンパニーを三つも持っている不動産業者もいた。彼の趣味の一つは、堂々たる節税手法を駆使して、税務署の調査官を「そんな手があるのか」と唸らせることだという。
「まったく困ったもんだ」とパナマ文書の余波に頭を抱える資産家もいる。
「年寄りだからよくわからないんですよ。ヴァージン諸島なんて言われてもね。シンガポールのプライベートバンクに委託したら、(債券投資の)カネが自然に膨らんだだけだから。税務署(に目をつけられるの)も嫌だし、身内に知られるのも嫌だ。たかられるにきまっているからね」
彼らにとって、タックスヘイブンやペーパーカンパニーを利用することは特段、後ろめたいことではないのである。
ペーパーカンパニーを「vehicle」と乗り物に喩える表現もある。節税やビジネスに最適な乗り物というわけだ。シンガポールのプライベートバンカーはこう言っていた。
「もし、自分の名前を秘匿してペーパーカンパニーを作りたい場合は、Nomineeと呼ばれる名義人を借りることができます。設立業者が用意してくれますよ。日本で都営アパートや公団住宅を住居地にされている方がいるのは、そのノミニーを使っているのかもしれませんね」
■「黒い目の外国人」
タックスヘイブンがいかに日本で利用されているか。それを示す数字もある。パナマ文書の電子ファイルを国別で検索すると、日本国内で338ヵ所の住所(一部は重複、あるいは詳細な住所が不明)が現れる。タックスヘイブンにあるペーパーカンパニーの取締役や株主(一部は企業)の、日本における住居地である。
これを都道府県別に見ると、東京都に住所を置く者(企業を含む)がその半数の169を占める。前述の都営住宅や中層マンションの住人ももちろん含まれている。
続いて大阪府内が24、神奈川県22、愛知県が21、千葉県が20、埼玉県17、兵庫県が16。それ以外は一ケタだが、北海道、青森から鹿児島、沖縄にまで点在している。
総合すると、タックスヘイブンを活用している個人や企業は33都道府県にも広がっていた。言い換えれば、日本のたいていのところに、ペーパーカンパニーの持ち主や株主が存在しているのだ。
東京都内169ヵ所に住居を置くタックスヘイブン利用者(企業含む)をさらに細分化し、23区別に分けてみる。港区が53と突出しているのは、六本木や赤坂、青山、台場などにニューマネー長者や若い事業家が住み、タックスヘイブンを活用しているからだろう。次いで渋谷区が16、世田谷区の11、千代田区の9と続く。23区内では墨田区と葛飾区以外、すべてタックスヘイブン活用者が住んでいた。
この検索と分類はパナマ文書に記載された利用者のみに限られており、これ以前に内部告発者の手で流出した「オフショア・リークス」(2013年6月、ICIJのサイトでデータベースを公開)や、「ルクセンブルク・リークス」(2014年12月、同公開)と検索の範囲を広げれば、さらに日本人の利用が多いことが裏付けられるだろう。
こうしたタックスヘイブン利用者を、国税庁調査官たちは、「黒い目の外国人」と呼ぶ。BVIやケイマン諸島のペーパーカンパニーを活用するのは、「青い目」の外国人や大企業と考えられていたが、東京国税局調査部で管理している外国法人の中には、「黒い目」の日本人経営者のものが少なくないからだという。
「その経営者が、どこにでもいる八百屋のオヤジや不動産業者だったりするんです。『なんであなたのような人がケイマンに会社を持っているのか?』と追及すると、『ケイマンなどのタックスヘイブンでなら、事業法人を設立するのに、役員などを揃える必要も、登記のためのコストをかける必要もなく、代行業者の手で短期間に作れて、国内より楽だったから』と答えるんですよ。
そうして、BVIやケイマンに形式上の本社を置き、日本の事業拠点はその外国法人の支店の形にしているわけですね。税務上は日本で法人税を払っていれば問題はないですが、どこか釈然としないところがありますよ」
税務関係者はそう言うのだ。
■国税の意地
疑問の残る説明であっても、タックスヘイブンがからむと税務調査は手間がかかり、実態解明は難しくなる。さらに、その経営者や会社がシンガポールや香港、スイスなどのプライベートバンクに口座を開き、その口座の資金で海外不動産投資や証券投資を行っていると、税務調査は一段と困難になる。
ところが、オフショア・リークス、ルクセンブルク・リークス、そしてパナマ文書と、タックスヘイブン利用の実態が明らかになったことで、日本の富裕層と海外のプライベートバンクに騒ぎが広がっている。
富裕層の一部はプライベートバンカーのアドバイスを受け、何年間も海外で税逃れを続けており、ICIJのサイト上に自分や会社の名前が掲載されたことで国税当局に尻尾をつかまれるのでは、と恐れているのだ。
右の図は、シンガポールとBVIを利用して約10億円の証券運用を続けてきた富裕層Aさんの事例である。
Aさんは関東在住だが、10年前にシンガポールのプライベートバンカーの勧誘を受け、BVIにペーパーカンパニーを設立した。会社の役員には名義人を立てているから自分の名前は表には出ない。そのうえで、ペーパーカンパニー名義で約10億円の資金をプライベートバンクに預け、証券運用を続けている。運用益は毎年5000万円を下らないので、これまでに5億円以上の運用益を得てきたが、税務申告は一切してこなかった。
BVIは前述のようにタックスヘイブンの島だ。オフショア(租税優遇地)に分類されるシンガポールもキャピタルゲイン(債券や株式の売買益)課税はないが、こうした非課税のメリットを享受するには、日本に生活の拠点がない「非居住者」でなければならない。
関東に住んでいるAさんの場合は、すべて日本で申告し、約20%の税金を納付しなければならなかった。海外口座を経由して投資していようと、実際に日本居住者なのだから納税の義務があり、これまでの行為は税逃れの疑いが強い。
ICIJのサイト上に自分や会社の名前が掲載されたいま、これまで通りに納税を無視すれば、より悪質な脱税と判断され、強制調査を受ける可能性も出てくる。Aさんは2013年度の確定申告から始まった「国外財産調書制度」にも違反してきたのだ。
この制度は、海外に5000万円を超す資産を持つ国民に対し、海外資産の内訳明細書を税務署に提出することを義務付けたものだが、Aさんがプライベートバンクにあったペーパーカンパニー名義の資産を国外財産調書に記載すると、5億円の証券運用益の所得隠しが発覚してしまう。このため、国外財産調書の無申告は罰則があるのを知りながら、頬かむりしたままだったのである。
さて、パナマ文書騒ぎで自分の脱税も見つかるだろうと観念して自主申告するか、それとも別のタックスヘイブンの国へ資産をこっそり動かすのか、あるいはこのまま放置するのか—。Aさんとプライベートバンカーの悩みは深い。
来年からは富裕層の海外資産を把握するため、国家間の「自動的(税務)情報交換制度」がスタートする。海外への資産フライト≠続けてきた富裕層に対する包囲網がようやく形を見せ始める。
きよたけ・ひでとし/'75年読売新聞社入社。警視庁、国税庁などを担当。'04年より読売巨人軍球団代表。'11年同代表等を解任され、係争に。現在はノンフィクション作家として活動。著書に『しんがり 山一證券最後の12人』『奪われざるもの SONY「リストラ部屋」で見た夢』(講談社+α文庫)など
「週刊現代」2016年7月23日・30日合併号より
ノルマ100億円。顧客は「本物の金持ち」のみ。私たちは知らない。富裕層をタックスヘイブンの国に誘う「カネの傭兵たち」の正体を。バンカーが実名で明かす本格ノンフィクション!
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