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なぜバブルは生まれ、そしてはじけたのか? 〜池上彰のやさしい経済学
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160722-00010000-nikkeisty-bus_all
NIKKEI STYLE 7月22日(金)11時0分配信
■なぜバブルは生まれ、そしてはじけたのか?
〜1985年のプラザ合意によるドル高是正がバブルの始まりだった〜
◇ ◇ ◇
1989年12月29日、日経平均株価は3万8915円という高値をつけました。この日は後に“バブル絶頂の時”と言われることになります。今回はバブルがどのようにして起こり、どのようにして終焉したのかを検証していきます。
ニューヨーク、セントラルパークの東南に「プラザホテル」という五つ星の豪華なホテルがあります。1985年9月にこのホテルで行われた5カ国蔵相会議(5G)で、ドル高是正のための合意がされました。この「プラザ合意」が、日本のバブル経済のスタートでした。
この時、なぜドル高の是正が行われたのでしょうか。当時、日本の経済がどんどん発展し、アメリカへ日本製品が大量に輸出されていました。日本から安くて品質の良い商品がたくさん入ってくるので、アメリカの企業は太刀打ちできなくなっていきます。そのうち、アメリカ議会が「何とかしろ」と怒り出しました。
日本の製品がアメリカに大量に入ってこないようにするにはどうしたらいいのか。「円」の価値を上げればいいですよね。円高ドル安になれば、日本から輸入した製品をアメリカで売るとき値段が高くなるため、ものが売れにくくなります。一方、ドル安なのでアメリカは自国の製品を海外に安く輸出できます。いまアメリカには中国製品が大量に入ってきてアメリカの企業が困っているため、議会が中国に対して「人民元」を切り上げるよう圧力をかけていますが、かつてその日米版があったということです。
為替介入(イラスト・北村人)
このプラザ合意は、日本とアメリカだけの合意ではありませんでした。アメリカの経済が危機的な状況になると、その影響は世界中に及びます。そのためイギリス、西ドイツ、フランスといった先進国が集まって合意が行われたのです。たとえば西ドイツでは西ドイツマルクが高くなるように、対ドル相場を調整すると合意しました。
先進5カ国はドルが安くなるよう、一緒に為替介入を実施しました。為替介入とは、政府が意図的に外貨を売買し、外為市場に介入することです。このように各国が足並みをそろえて為替介入を行うことを協調介入といいます。各国の中央銀行は、保有するドルを大量に売り出しました。日本の場合だとドルを売って円に換えるので、円の需要が高まる。すると円の価値は上がりますね。逆にドルの値段は下がっていきました。
このようにして一挙に円高ドル安が進み、日本の輸出産業は大打撃を受けました。日本は不況に陥ったのです。
土地神話(イラスト・北村人)
■本業以外の財テクによって、企業は資産を増やしていった
〜土地神話を背景に銀行の融資と土地の売買が繰り返された〜
◇ ◇ ◇
不況に陥ったときの景気対策にはいろいろな方法がありますが、このとき日本では金利を引き下げるという方法がとられました。当時はまだ公定歩合を操作することで金融政策を行っていました。日本銀行は公定歩合を5回にわたって金利をどんどん引き下げ、プラザ合意のされた1985年に5%だった金利は、2年後の1987年には2.5%という戦後最低の数字になりました。
金利が低くなると、銀行からお金を借りやすくなります。そして企業がお金を借りて新しい工場を建てたり新事業へ投資をすることを促し、景気の回復をはかります。ところが、この時お金を借りて土地を買うことが大流行しました。企業は土地や株式などに投資をし、本業以外で資産を増やそうとしたのです。これは当時「財テク」と呼ばれました。財産を増やすテクニックです。
企業は利益が上がると、それを内部留保というかたちでとっておくのが一般的です。いまは事業がうまくいって儲かっている、でもやがて景気が悪くなったりものが売れなくなって経営が苦しくなるかもしれない、そのときに会社が潰れないようお金を会社の中にためておこうと企業は考えます。皆さんが将来に備えて貯金をするのと同じ発想です。
また当時は「土地神話」というものがありました。国土の狭い日本は土地が限られている。だから経済が上向けば土地の値段は必ず値上がりすると考えられていたのです。内部留保したお金は、銀行に預けているだけではたいして増えません。そこで土地を買っておけば値段はいずれ上がっていくから内部留保のお金が増え、会社は本業以外でも儲けることができると考えたわけです。当時、有名な経済評論家が「財テクをやらない経営者は経営者失格だ」などと言ったりしていました。ただ金をためておくなんて資金運用ができていないじゃないか、お粗末だ、そんな経営者は無能だという悪口まで言われるようになってしまい、何とかお金を増やそうと財テクに必死になってしまう経営者が多かったのです。そのため、安易に土地を大量に買う、ゴルフ場をつくるということが行われていきました。
そして景気対策として金利が引き下げられた時、本業で儲けた内部留保のお金だけでなく、銀行から低金利でお金を借り、その資金で土地を買うという企業が次々に出てきました。銀行からお金を借りて土地を買うとき、その土地は担保になります。お金を借りるときにお金が返せなくなったら差し出すもの、これが担保です。
当時は土地神話があったので、土地を担保にすれば銀行は喜んでお金を貸しました。企業は保有する土地や建物を担保にお金を借り、それで土地を買う。こんどはその土地を担保にまた銀行からお金を借りることができるから、そのお金でまた新しい土地を買う。その土地を担保にまたお金を借り土地を買う…、多くの企業がこのようなことを繰り返していったのです。
企業が銀行からお金を借りなくなる(イラスト・北村人)
■土地を担保に企業や地主に行きすぎた融資を行った銀行
〜経済の実態とは関係なく、どんどんお金のやり取りがされていった〜
◇ ◇ ◇
銀行が土地を担保に貸し出す金額は、土地の値段が下がった場合に備え土地の値段の7〜8掛けといわれています。たとえば企業が1億円の土地を買うため、銀行から8000万円借りたとします。のちにその1億円の土地が2億円に値上がりしたら、それを売ってこんどは2億円の土地を買うため、これを担保に1億6000万円を借りる、ということを繰り返していました。そのうち銀行では1億円の土地はすぐに値上がりするのだから、7掛け8掛けなどといわず1億2000万円貸してしまおうというように、土地さえあればお金をどんどん貸してしまいました。これが後に不良債権の山を築くことになります。
一方、市民にとっても浮かれるような話がありました。きっかけは1987年のNTT株の新規上場でした。NTT株が上場すると買い注文が殺到し、初日からどんどん値上がりしました。最初の売り出し価格は1株119万円でしたが、わずか2カ月で318万円まで値上がりました。この時売れば1株で約200万円儲かるわけです。そんなに儲かるならと、これまで株取引をやったことがない人たちまでが次々と株を買うようになりました。空前の株ブームに火がついたのです。みんなが株を買うとどうなるか。需要と供給の関係でいえば、多くの需要があるわけですから株の値段は上がりますよね。こうして株の値段はどんどん上がっていきました。
株価が上がっていくと、銀行は困ったことになります。企業が銀行からお金を借りなくなるのです。株や債券がどんどん売れるのであれば、誰もが知っているような大手企業では、株式や社債を発行して資金調達をしたほうが銀行で借りるよりずっと有利なのです。銀行は企業に融資をし、その金利で利益を得ていますから、借り手が減ってしまえば利益も減ります。このように、株価がどんどん上がることによって銀行はこれまでお金を貸していた大手企業、つまり優良な顧客を失ってしまいました。一方、土地や株の売買で大もうけした人のお金が貯金としてたくさん銀行に集まり、銀行にはお金が貯まっていきました。
そこで銀行は、銀行員に新規の融資先を開拓しろと大号令をかけます。銀行員たちは土地の所有者を調べ、土地を遊ばせていてはもったいないとしきりにマンション建設や融資の話をもちかけます。すると、これまでそんな気がなかった地主たちもついその気になります。こうして銀行が新しい貸出先を見つけだし土地を担保にお金を貸し出すということが行われました。
このように、泡が膨らむように経済がどんどん活性化し、景気がよくなってものの値段が上がる、給料も上がる。みんなが浮かれて世の中楽しいな、となっていく。それが経済の実態とはまるで関係のない夢、幻のようなものであることに後になって気付く、これがバブルなのです。
◇ ◇ ◇
池上彰(いけがみ・あきら)
ジャーナリスト。東京工業大学特命教授。1950年(昭25年)生まれ。73年にNHKに記者として入局。94年から11年間「週刊こどもニュース」担当。2005年に独立。主な著書に「池上彰のやさしい経済学」(日本経済新聞出版社)「いま、君たちに一番伝えたいこと」(同)「池上彰の18歳からの教養講座」(同)。新著「池上彰の君たちと考えるこれからのこと」(同)。長野県出身。
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