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財政緊縮と金融緩和の組合せは無効だが、ヘリマネは必要なし(写真=PIXTA)
財政緊縮と金融緩和の組合せは無効だが、ヘリマネは必要なし
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160720-00000008-zuuonline-bus_all
ZUU online 7月20日(水)11時0分配信
デフレ完全脱却を目指す金融・財政政策の議論は、左から右へ極端に振れている。
左の議論は、財政政策は金利上昇と為替高をもたらすために効果がない。デフレは貨幣的現象であり、需給ギャップも金融緩和のみで解消できると、いたずらに金融緩和だけを拡大していった。
右の議論は、日銀がマーケットから資産を買い入れ、マネーを供給するという既存の金融政策で、市中にマネーが行き渡らないため効果に限界がある。需給ギャップを埋めるための需要を、直接的に拡大させる減税や支出拡大をともなう。財政政策の財源であり返済の必要が無い国債を、日銀が直接引き受けるという、ヘリコプターマネーである。
■企業貯蓄率がプラスという異常状態に目を向ける
なぜ、中道の現実的な政策の議論が置き去りにされるのだろうか?
日本経済の大きな問題は、マイナスであるべき企業貯蓄率が恒常的なプラスの異常な状態が継続していることだ。その結果、企業のデレバレッジや弱いリスクテイク力、そしてリストラが、総需要を破壊する力となり、内需低迷とデフレの長期化の原因になっている。
そして、恒常的なプラスとなっている企業貯蓄率に対して、マイナス(赤字)である財政収支が相殺している程度で、財政拡大が不十分となっている。それにより、企業貯蓄率と財政赤字の合計である国内のネットの資金需要(マイナスが強い、名目GDP比)が消滅してしまっていた。ネットの資金需要が存在しなければ、金融緩和によって間接的にマネタイズするものが存在しない。金融機関から企業を通してマネーが市中に循環・拡大するメカニズムが喪失し、金融政策のみで需給ギャップを解消することは困難である。
言い換えれば、循環的な景気回復や成長戦略などにより企業のデレバレッジが緩和(企業貯蓄率の低下)するとともに、財政政策が拡大すれば、ネットの資金需要(企業貯蓄率と財政収支の合計)が復活し、金融緩和の効果も復活するはずである。
■金融緩和の効果を限定的にしたことがアベノミクスを止めた
実際に、企業貯蓄率の低下とともに、震災復興とアベノミクスの経済対策で財政政策が緩和されたことにより、ネットの資金需要が復活したのが、アベノミクス1.0の基礎となった。その基礎の上に、大規模な金融緩和が行われ、復活をしたネットの資金需要を日銀が間接的にマネタイズする形が整い、アベノミクス1.0が完成した。
マネーの循環・拡大は、円の供給の増加を意味するため、円安の力も強くなった。株価上昇・円安・物価上昇、そして名目GDPが縮小から拡大に転じ、デフレ完全脱却へ向かうモメンタムが生まれた。円安、インフレ期待の上昇による実質金利の低下、株価上昇による期待ROEの上昇、そして名目GDPの拡大によるビジネス環境の改善が、企業を刺激し、企業貯蓄率は0%に向かって低下していった。
しかし、グローバルな景気・マーケットの不安定感を警戒した企業行動の慎重化(企業貯蓄率の短期的なリバウンド)と、消費税率引き上げと税収の大幅増加、そして歳出の抑制などにより財政が過度に緊縮気味となり、ネットの資金需要が消滅してしまい、アベノミクス1.0の基礎が瓦解してしまった。
こうなると、基礎が無い(マネタイズするものが存在しない)ため、金融緩和の効果は極めて限定的になってしまう。マネーの循環・拡大は滞り、株価下落・円高・物価停滞となり、デフレ完全脱却への向かうモメンタムも止まり、アベノミクス1.0は終焉してしまった。
■金融緩和ではなく、財政拡大からネットの資金需要をマネタイズ
アベノミクス1.0の基礎は復活したネットの資金需要で、基礎を活かすトリガーはそれをマネタイズする大規模な金融緩和だ。終焉は財政緊縮と企業行動の慎重化による、ネットの国内資金需要の消滅だと定義できる。
そして、金融政策の限界が意識されて、議論が左からヘリコプターマネーの右に一気に飛んでいってしまった。しかし、デフレ完全脱却のモメンタムを復活させるアベノミクス2.0に、そのような極端な議論は必要なく、中道の現実的な政策で十分だ。日銀の大規模な金融緩和は継続し、かなり巨額のネットの資金需要を間接的にマネタイズする用意ができていることが、アベノミクス2.0の基礎だ。
この基礎の上に、財政による大規模な景気対策とグローバルな景気・マーケットの安定化による企業活動の回復(企業貯蓄率の再低下)が合わさり、ネットの資金需要が復活すれば、アベノミクス2.0が完成する。
アベノミクス1.0と2.0も、ネットの資金需要を金融緩和によって間接的にマネタイズする形は同じであるが、その順番が逆である。1.0のトリガーは金融緩和、2.0のトリガーは財政拡大であろう。現在は、アベノミクス1.0が終焉し、財政拡大と企業活動の回復により2.0として復活をする端境期にあると考えられる。
■赤字国債を引き受けず、現行の金融緩和で十分
そして再び、マネーは循環・拡大を始め、株価上昇・円安・物価上昇、名目GDP成長率の加速という、デフレ完全脱却へ向かうモメンタムが復活することになるだろう。
企業活動の活性化が加速し、企業貯蓄率が正常なマイナスに戻り、過剰貯蓄が総需要を破壊しなくなる、日本経済の正常化へ向かっていくことになる。グローバルな景気・マーケットの不安定感、そして企業と消費者心理が萎縮してしまっている中では、財政を拡大し、ネットの資金需要を復活させ、金融緩和の効果を強くすることが急務である。
市場経済の失敗の是正、教育への投資、生産性の向上や少子化対策、長期的なインフラ整備、防災対策、地方創生、そして貧富の格差の是正と貧困の世代連鎖の防止を目的とした財政支出を増加させる必要があろう。
国民の現在の生活を困窮させる拙速な財政緊縮への使命感より、明るい未来と夢を感じる財政プロジェクトのアイディアを競う現実主義に財政政策の舵を切る必要がある。緊縮一辺倒のロジックが妨げとなり、必要な財政プロジェクトのアイディアは潰されてきてしまい、早急な積み上げは困難になってしまっているようだ。
その場合、ネットの資金需要が復活するのに十分な額だけ、赤字国債でファイナンスし、大規模な減税を実施する必要がある。その返済の必要の無い赤字国債を、日銀が直接的に引き受ける必要(ヘリコプターマネーの必要条件)は無く、現行の金融緩和の枠組みで十分だろう。
■フレキシブルな景気対策で、ヘリコプターマネーを飛ばさない
ネットの資金需要が縮小してしまわないために、経済状況をみながら財政はフレキシブルに、補正予算による景気対策を実施(毎年春には必ず)する必要がある。そのための財政プロジェクトの引き出しは、いつもフルにしておくべきだ。
ネットの資金需要が適度で、過度に膨張しなければ、赤字国債を発行したとしても金利上昇は金融緩和で抑制できる。名目GDPがしっかり拡大するため、政府債務のGDP比は低下していき、経済再生による財政再建という形を維持することができるだろう。
財政再建・金融緩和という既存の政策の組合せはもう無効であるが、ヘリコプターマネーに飛んでいく必要はなく、中道の現実的な政策で十分だ。
会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト
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