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日米同時上場を果たしたLINE・出澤剛社長(田村翔/アフロ)
LINE、衰退開始の兆候…実は圧倒的に「少ない」利用者、巨額累積赤字のしかかる
http://biz-journal.jp/2016/07/post_15963.html
2016.07.20 文=編集部 Business Journal
LINEは7月14日、15日に日米同時上場を果たした。東京市場の公開価格は仮条件(2900〜3300円)の上限である3300円に決まった。米ニューヨーク証券取引所(NYSE)には14日(日本時間14日夜)に米預託証券(ADR)で上場したが、42ドル(約4400円)で初値をつけ、その後、売り注文をこなして公募価格(32.84ドル)を27%上回る41.58ドルで初日の取引を終えた。この株価を基準とした時価総額は9200億円に達した。
7月15日の東京市場は4900円で初値を付け、5000円まで上昇した。NYSEに対して初値で11%の上ザヤとなった計算だ。この結果、初値を基準とした東京市場での時価総額は一時、1兆円を超えた。ただ、15日の終値は4345円で、公開価格を32%上回ったが初値より12%弱安くなった。時価総額は9100億円。日米でほぼ同じ“企業価値”となった。
今年のIT(情報技術)企業の新規株式公開(IPO)としては、日米とも最大規模となる。NYSEではアリババグループの上場以来の規模となった。
LINEの最高戦略・マーケティング責任者の舛田淳取締役はNYSEで、「投資家から非常に強い期待を頂いた。(NYSE上場はLINEが)世界を目指す重要な第一歩になる」と抱負を述べた。LINEは「ツイッターもアリババグループもNYSEに上場してグローバルなブランド価値を高めた。同じ土俵に上がる意味は大きい」と、米国上場の意義を強調する。
LINEの利用者が伸びているのは、日本や台湾やタイ(いずれもトップシェア)。インドネシアでは2位グループから首位をうかがう。国内では5000万人を超すユーザーを持ち、圧倒的な顧客基盤を誇るが、対話アプリの実質的な利用者数を示す「月に1回以上利用しているアクティブユーザー(MAU)」でみると、LINEは2016年3月末時点で2億1800万人。米調査会社、スタティスタによると世界で第7位だ。
世界ナンバー1は、フェイスブック。フェイスブックが14年に買収したワッツアップが10億人、フェイスブックメッセンジャーが9億人となっており、フェイスブックグループだけで19億人を擁する。中国テンセント(騰訊)が展開する微信(ウィーチャット)は、7億6000万人のユーザーを持つ。ワッツアップのMAUが年間で3割近く伸びているのに対し、LINEは6%程度だ。
■LINEの上場は異例づくめ
LINEのIPOは異例づくめだった。仮条件は6月28日、いったん2700〜3200円に決まったが、7月4日に2900〜3300円に引き上げられた。明らかに特別扱いである。新株の発行は17%にすぎず、東京証券取引所のルールである「35%以上」をクリアしていない。本来なら上場できないはずの“裏口上場”である。「セコイ上場」と揶揄された。
LINEは日米ほぼ同時上場という抜け穴を利用することによって、東証に特例を適用してもらったのだ。「他市場との重複上場時の特例」である。東証の外国株市場に、NYSEに上場している有力企業を引っ張ってくるための特例措置だ。そのため、LINEはどうしても日米同時上場、しかもNYSEに1日でも先に上場する必要があったわけだ。
LINEの親会社である韓国ネイバーは、買収からの防衛策として種類株の発行にこだわった。普通株の10倍の議決権を持つ種類株の発行を東証に要請したが、東証は株主の平等の立場からこれを認めなかった。LINEの上場が遅れた理由のひとつがこれだったといわれている。
LINEはすでに成長のピークを過ぎた企業との見方がある。15年12月期は、音楽ストリーミング事業で118億円に上る営業損失を計上したことから、最終損益は76億円の赤字だった。今年3月末時点で193億円の累積赤字を抱えている。16年12月期の業績予想は開示していない。
金融情報専門紙の日経ヴェリタスは、「40億円程度の黒字に転換する可能性がある」と予想しているが、PER(株価収益率)予想は43〜49倍。フェイスブックの同32倍に比べて割高感がにじむ。主幹事証券は「公募株の応募倍率は25倍」と前景気を煽る情報を流し、7月14日付の株式専門紙上では「初値は2割高の4000円」と書いていた。結局、4900円の初値形成となったわけで、日米比較で日本のほうが明らかに高い。
業績を見ておこう。15年12月期の連結売上高は1206億円。広告収入が364億円で全売り上げの3割を占める。コンテンツ売り上げは492億円で、同4割。残りはスタンプなどコミュニケーション事業だ。
LINEは、コミュニケーション事業、ゲームや音楽などに課金するコンテンツ事業、メッセージのように個人に届くメッセンジャー広告事業の3つを収益の柱にしている。ゲームは今後2年間で2本以上のコンテンツを発売する計画だ。ゲーム自体は無料だが、プレーの回数を増やすためのアイテムなどが有料というスタイルで儲けている。
LINEの利用頻度は若年層ほど高く、毎日利用している人も多い。若者をターゲットに新たなサービスを相次いで生み出している点が評価されているが、広告の売り上げ比率は3割。フェイスブックが全売り上げの大半を広告で稼いでいるのと対照的だ。
LINEはブック期間中に仮条件価格が引き上げられるなど異例の展開が続いたが、市場関係者の評価は高くない案件だった。それだけに、注目されるのは初値形成後の株価だ。5000円を上回れるかどうかが、当面のポイントになろう。
アドウェイズ(東証マザーズ)や占いサービスのメディア工房(同)、ネットイヤーグループ(同)など、LINE関連銘柄として上場前に一時もてはやされた新興企業の株価が、総じて冴えない。LINE自体の株価が、上場達成で材料出尽くしになるのではないかとの見方が専門家の間で多いからである。
■経営課題は山積
LINEといえばスタンプだろう。同社が考案した、うさぎや熊のキャラクターのほか、サンリオのハローキティといった他社の人気キャラクターの画像を利用者が購入し、感情豊かな表現をするためのツールとして使っている。
バラ色の夢ばかりではない。米国市場の攻略は一筋縄ではいかないからだ。中国で人気の微信も、米国では存在感が薄い。「文化的な違いもあり、LINEのスタンプが大きなビジネスになるとは考えにくい」と厳しい指摘をする米国の専門家もいる。
シンプルなメッセージのやり取りが定着している米国で、LINEのスタンプが受け入れられる素地は小さいとみられている。
国内では頻繁に利用する若年層ユーザーが多いのがLINEの特徴だ。LINEが、次の成長の土台となるとみられている生活インフラとして定着するためには、若者以外の認知度を上げることが急務だ。生活インフラで利益を上げるには、時間がかかるとの見方が多い。
フェイスブックなどと比較すると広告が弱いのは事実。これは日本がほかの先進国に比べてデジタル広告の比率が低いことと無関係ではない。広告事業への新しい取り組みが求められている。
海外には強力なライバルが目白押しだ。日米同時上場を実現させたとはいえ、フェイスブックの背中はまだまだ遠い。メッセンジャーアプリは自国で生まれたアプリが強く、ここ数年で世界の勢力地図は固まったとの見方が大勢である。
■株価は割高
7月15日、新規上場したLINEの終値は初値比555円安の4345円だった。安値は4310円である。午前10時36分に4900円で初値を形成、その直後に5000円まで買われたが、その後は売りが優勢となった。19日は前日比355円安の3990円と、さらに下落した。
会社側は今期の業績予想を明らかにしていない。米系のジェフリーズ証券は今期の1株当たり利益を27.14円と予想している。初値ベースのPERは180倍だ。いちよし経済研究所の予想(1株利益53.5円)で算出しても91.5倍。
フェイスブックやツイッターのPERは30倍だから、LINEの株価は相対的に、かなり割高ということになる。
上場前の抽選に申し込みながら株式を取得できなかった投資家が初値買いに向かったため、公開価格と比較すると48.5%も高くなったが、市場ではもともと評価が高くなかった銘柄だ。今後の株価の推移に関心が集まる。
初値天井(7月15日につけた5000円)になる懸念もないわけではない。
(文=編集部)
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